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14コメ バローズ・ラングウッド

俺は恵まれていた。

騎士の家系に生まれ、小さい頃から何不自由無い生活を送ってきた。


「ボローズ!」

「いや、バローズね!」

「そだ。えへへ。」

「アリィ。今日はいいものをあげるよ。」

「なにぃ?」

「はい!ザフの実!」

「わぁ!ありがとダローズ!」

アリィは家も近く、小さい頃はよく遊んでいた。

森で木の実を採っては一緒に食べ、野原を駆け回り、川で泳いだ。


「バローズ。またエオウィルさんの娘さんと遊んでたのか。」

「アリィは……一緒に色々してくれるんだ。いいよね?」

「あなたは特別な存在。身分が高いのよ。しっかり弁えるの。いいわね?」

「身分が低いとどんな病気を持ってるか分からん。あまり近づくな。」

『騎士族』でありながら『魔法族』。両親からは大抵の人間は自分より『下』だと教わった。

この考えが、俺を歪ませた。


「バローズゥ!」

「な、なんだよエオウィル。気軽に名前を呼ぶな。穢らわしい。」

「えぇ?寂しいこというなよぉバローズぅ。」

「触るな!病気がうつる。」

「病気?あたしが?何の……?」

「知らねぇけど。身分の低い奴らは何か病気を持ってるって。パパとママが。」

いつからか、そう言って遇らうだけの関係になってしまった。

思えば、すごく痛々しい奴だった。愛想を尽かされても文句は言えないくらい、酷いことを浴びせてきた。


でも、彼女は俺を見放さなかった。


『ザーッ』


「や。」

「なんだよ。濡れたら風邪引くぞ。」

「そうだね。」

「こんな無様な姿。笑えるだろ。」

「笑えないよ。バローズは、頑張ってるから。」

「俺が、頑張ってる?……お前に何が解るんだ!誰がどう見ても。俺は強い。強い……ハズなんだ。」

「よしよし。」

「触んな!」

「変わんないなぁ。バローズは。」

やめろ…やめてくれ……。これ以上惨めにさせないでくれ。

挫折。

ボロボロに負けて、人生初めての挫折。

何でも上手くいってきた人生が、初めてへし折られた。そんな俺を、優しく包み込んでくれたアリィ。


「痛っ。」

「ちょっと我慢してねぇ。強いんでしょ?」

「……。」

「よし。」

「は?ちょ、何だよこれ。」

「いつもイキり倒してるから、罰を与える!はは。かわいーっ!」

意味がわかんねぇ。俺に?罰?

傷だらけの体は包帯だらけになり、色とりどりのリボンが巻かれていた。

そして目を見て、彼女は言った。


「バローズは頑張ってる。けど、弱いよ。痛みを知らないから。笑われたり蔑まれたり。そういうことも知らないと、本当に強く成れないよ。」


……うぜぇ。本当うぜぇ。


俺が、笑われる?

俺が、蔑まれる?

冗談はよせ。


「痛みを知って何になる?」

「人間、だよ。」


その時は本当に意味が分からなかった。

はは、当時の俺を殴ってやりたい。

弓矢で射抜いて、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。


「今のバローズは悪い大人に乗せられて。自分を失ってる。もっと人間らしくなってよ。昔みたいに、また木の実食べたりしよ。」


人間らしく、か。

アリィは、見えなくなった俺の人生を照らしてくれた。


――


「バローズ!気でも狂ったか。」

「いや。俺は今までに無く正気さ。」

騎士族の祭典『鉄の鎧』。全世界から数万人が参加し、頂点を決める。

俺も漏れなく挑んでいて、なんとか上位1%に食らいついていた。だが、『上』の奴らは尋常じゃなく強かった。純粋な騎士としての強さだけではなく、当然のように八百長やドーピングなどの違法行為がまかり通っていた。

そうでもしなければ勝ち進めない。みんな、化け物。


俺はもっと人間らしく。

せめて、俺だけでも……!


「リボンなんかつけて。女かよ!」

「あぁ、そうかもな。」

アリィに諭されたあの日から、俺は試合の時にはリボンを巻いた。


嘲り笑うヤツ、騎士の品格を問いただすヤツ、蔑むヤツ。凡ゆる避難を受けた。それでも、必死に戦った。

俺が俺らしくあるために。

虹色のリボンを風に靡かせ『人間らしく』戦ってきた。


――


「お疲れ様。」

「あぁ…順位は、去年より下がったが。満足できる試合だった。」

「そ。よかったじゃん。」

「……ありがとう。アリィ。」

「何言ってんの!頑張ったのはバローズだよ。」

初めて、感謝を伝えた。その感覚はこそばゆくて、愛おしくて。色々と溢れそうだった。


「アリィ!ちょっといいか!」

「はい!じゃ、またね。」

「おう。」

酒場でのアリィは忙しい。

この続きは、また今度にしよう。



……ん?

本?いや、アルバムか。何のアルバ…

お?アリィか!?アリィが踊り子をやってる時の姿だ。

んん。誰かの忘れ物か。

マスターに届けるか。


『いやいや、持って帰っちまえよ。』


謎の声がけしかける。

誰だ……!


『俺はお前。お前自身だよ。』


は?


『いやぁエッチじゃんか。こりゃあ夜も捗るってもんだぜ。』


やめ。やめろ!!そんな目でアリィを見てなんかいない。クソっ。消え失せろ!


『せっかく人間らしくなったんだぞ?俺はお前の抑え込んでた人間の部分だ。』


俺の、人間の部分?なんだそれ。バカ言うな。

こんなもん……!


――


持って帰ってきてしまった。


『そうだ。それでこそ俺だ。』


どうしようもできなかった。

後ろめたさ。衝動。欲望。自制心。

全ての感情がせめぎ合い、果ての姿が今この瞬間の俺だ。


『どうする?どれでスる?』


そんなことはしねぇ!し……ねぇ!!


『おうおう。強がるなよ。ほら、その胸を強調してる写真とか。ソソるじゃねぇか。』


はぁ…!くっ……大会でも感じないプレッシャーに尋常じゃない動悸と汗。

頭が、おかしくなりそうだ。


『へぇ。案外強いんだな。じゃあ、写真1枚1枚に想いを綴るくらいはいいだろ?』


は?やめ、ろ!!そんなこともしたくない…!

俺は、アリィと共に人生を歩んでいきたい。想いは、直接伝えたいんだ。


『じゃあその練習といこうじゃねぇか。』


――


結局アルバムは酒場の元あった位置に戻した。コレがきっかけで『人探し』が始まるなんて……思いもしなかった。


写真裏の文章は全て俺が書いた。

開かなかったページを除いて。

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