13コメ ラセタの大岩
『タッタッタ』
「はぁ...はぁ...はぁ...。」
息を切らして疾走する青年。彼の名は『バローズ・ラングウッド』。
久々登場、『騎士族』かつ『魔法族』のチート級戦士...なのだが。
『グゥアアア』
その後ろを猛追する魔物の影。竜頭獣『サウリア』である。
『くっ...俺としたことが。』
絶体絶命。本来は山奥に生息するサウリアであるが、最近は人里での目撃例が増え遂にはラセタの森にまで現れるようになってしまった。
一度追いかけ始めると仕留めるまで止まらない。厄介な魔物である。
「ラングウッドォ!!!」
助かった。
味方が『馬のような生き物』に跨り、バローズに手を伸ばす。
「ありがとうザーク。助かったよ。」
「なんの!ハァ!」
『ザーク』と呼ばれた人物は手綱を引き、勢よく駆ける。ぐんぐんとサウリアを引き離す。
「奴はどうする?」
「このままキルポイントまでおびき出す。そしたら、ハチの巣にしてやるァ!」
「おう。」
『グゥアアア!!』
猪突猛進。森の中を走りぬけるサウリア。
すると、突如人影が現れた。
「わぁあ!」
『グゥアアア!』
「ひぃ!なんじゃ...なんじゃあ!?」
思いがけず出くわした魔物に腰を抜かす老人。この森の外れに住む住人だろうか。
ラセタの森はいわゆる『ザコ』しか現れない。だからレベル1装備でもあれば切り抜けられる...のだが。
これは想定外すぎる。
「待て!人だ!!」
「あぁ!?」
バローズ達も一時停止。老人の救出に向かう。
「キルポイントまでは?」
「まだ先だ。」
「仕方ねぇ。ヤるしかねぇか。」
そう言ってザークの腰にあった剣を引き抜く。
「おい待て!お前、剣術は...!」
「言ってる場合か!そいつ、3人乗れるか?」
「わからん!」
「最悪、俺はいい。爺さんとお前だけでも逃げろ!」
魔物へ駆け出すバローズ。本来ならこういうシーンはかっこよく剣戟を決めるのだろうが...腰は引け、剣を持つ手は震えヘナヘナな全く頼りのない雰囲気であった。
バローズは『弓矢しかできない』のである。まぁ、十分と言えば十分なのだけど。
「無茶しやがって...!」
ザークは増援を引き入れるべく森の中を再び駆ける。
えっと...結局この『馬のような生き物』ってなんて名前なの?
「ここは...?」
「ラセタの森。」
「らせ...た?」
「ホント、なんも知らないのね。」
もう日も暮れ、あまり人が来るような明るさでもない森に入るエリオとミク。
「怖い?」
「はい…。」
「へぇ。」
「エリオさんは、怖く無いんですか?お化けとか出てくるかも。」
「私ら魔法族はね。ラセタにいる雑魚くらいだったら向こうから寄って来ないの。それが分かるから、大手を振って歩けるのよ。」
へぇ…まだまだ魔法族については知らないことばかりである。
「着いたわ。」
巨岩の前にたどり着いた2人。
「大きな、岩?」
「そ。ラセタの大岩よ。何でも、かつて存在した巨人族が運んで来たとか言い伝えがある。」
「エリオさん、詳しいんですね。」
「……昔から住んでるんだし。当たり前でしょ。」
そう言って岩の前に立ち、片手を伸ばす。
「……。」
『ガタガタガタ』
大きな岩が小刻みに震える。少し浮遊しているようにも見える。
「わ…!すごい!」
「うっ…!はぁ…はぁ…。」
「大丈夫、ですか?」
「浮遊魔法よ。初級の初級。なんなら教わらなくても使える。あんたもやってみなさい。」
「えっ…。」
やってみろと言われても。
分からないものは分からない。
「いいから。前に立って。石ころを持ち上げるようなイメージをして。」
「石ころ…?」
促されるままに手を伸ばし『これは石ころだ』と思い込む。
最初は半信半疑だったがミクの中に何かが芽生えはじめた。
『出来るかも。』
そう思えた、刹那。
『ガタガタガタ』
岩が小刻みに揺れ始めた。
「......。」
「あっ!」
『ドォーン』
岩が着地する。周囲は揺れ、砂煙が辺りを覆う。
「げほっげほっ...はぁ。ふぅ。」
「まだできるでしょ。集中力が足りないわ。」
「...はい。」
今度は目を瞑り、もっと集中力を高める。
すると、今度は音も無く巨岩が浮き上がった。
「...やっぱり、ね。」
「わ、わ。私、が?」
「そうよ。」
「これ、どうすればいいですか?!」
「しらないわよ。その辺にぶん投げとけば?」
「えぇー!?えいっ!」
おぃ、まじかよ!巨岩が本当に石ころのように飛んでってるし。えぇ…。
『ドカァン!!!』
周辺の木々をなぎ倒し、轟音とともに転がり静止した。
『ドサッ』
その場で崩れ落ち立膝を突くミク。
息を切らし、自らの震える手のひらを見つめる。
「悔しいけど、私よりあんたの方が強い。わかった?」
「何の、差なんですか?」
「さぁね。生まれ持ったものじゃない?」
生まれ持ったもの。魔法器の有無はもとより、人によって魔力の多少もある。
エリオは、ここに連れ出して確かめたかった。ミクの『力』を。
「もう十分。帰りましょ。」
「エリオさん。」
「なによ?」
「何かが、近づいて来ます。」
少しずつ感覚を取り戻すミク。
その感覚が、いち早く危機を察知する。
「逃げましょう!」




