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3.次期領主の初仕事

階段のすぐ側に棚を見つけた。

階段の影で隠れていたのね。


棚の正面に立つ。


元々は真っ白だったであろう本を手に取った。

ぱらっとページをめくる。



「…あの!頼み事を聞いてもらえませんか。」


私は本から顔を上げた。


こげ茶色の髪の毛の男の子が立っている。

デニムの服が煤で汚れていた。

年齢はちょうど私と同じくらいだろう。

雰囲気がどこか大人びている。


「王立学園に入学したいんです。

僕には妹がいます。

僕たち2人は孤児院にいます。

孤児院にいれるのは15歳までという決まりがあります。

でも、妹がまだ14歳だから僕も特別にいさせてもらっています。

ずっとこのままではいられません。

だから…」


男の子はその手をぐっと握った。


「入学受験料の5000デールくれませんか。


ここで文字が読めるようになるくらい、勉強しました。

きっと受かってみせます。」


1点の曇りもない瞳。

必死に精一杯過ごしてきたのね。

どうしてそう思ったのだろう。

私はこの子のことも世間も何も知らないのに。


「いいわよ。」

この男の子に金貨1枚と5000デールを渡した。


「ありがとうございます!」

安堵の表情が浮かんだ。


お金の計算はできないのね。

それでいい。

優しいこの子は金貨を返そうとするかもしれない。


「ねえ、お名前はなんて言うの?」


「レオンと言います。」


「覚えておくわ。」


少しだけ耳が赤く染まっている。

「あの、」


「ああ、こちらにいらっしゃいましたか。

もうすぐ入学試験受け付け開始の時間です。」

シュイラーさんが私を呼びに来た。


「分かったわ。

ごめんね、なんて言おうとしたの?」


「…いいえ、大丈夫です!」


本当にそうかしら。

でも、ここで話してもらえるまで待ってはいられない。


「…じゃあ、王立学園でまた会いましょう!」


「はい!」



大きな背もたれの椅子に座る。

1時間ほど待った。


「採点が終わり、合格者が分かりました。

合格者一覧表の巻物にサインを書いてください。」


『合格者一覧表

下記の者に王立学園への入学を許可する。

合格者は合格証明書を受け取るように。

リリー・ティシアン』


1番下の開いているスペースにサインした。


「次は、合格証明書に判子をお願いします。」


どさっと合格証明書が置かれた。

これも仕事の1つなのよね。

1枚1枚判子を押していく。

これで最後だわ。


あ!

レオンと書いてある。

合格したのね、おめでとう!

ぎゅっと判子の持ち手を握って、押した。


「終わりました。」


「ありがとうございます。

外の掲示板に張り出してもらいたい。」


「「はい。」」


巻物と合格証明書を図書館の人たちに渡していた。



「では、お見送りをさせていただきます。」


「ありがとう。

今日はとても大切な経験をさせてもらったわ。」


「こちらこそありがとうございました。

リリー様の初めてのお仕事に携われて光栄です。」


「リリーお嬢様、よかったですね。」

ベラも微笑んでいる。


ドアの先から覗く日は少し弱くなっていた。

時間が経つのは早いわ。



掲示板の前に多くの子たちがいる。


「あ!合格したんだ!」

「自分の名前はどこだろう…。」

色々な声が聞こえる。


その中で、一際笑顔を輝いている男の子、レオンが見えた。


「リリーお嬢様、馬車に顔をぶつけてしまいますよ。

そんなによそ見をして歩いていたら。」


「そうよね。

ごめんね。」


「え、金髪!」

子供たちの内の1人が声を上げた。


「王家の証だろ?

王家の方はここには来ないよ。」


私の金髪は、プリンセスであるお母様譲りだ。


「もしかしたら公爵令嬢のリリー様じゃない?」


「ええ、そうよ。」


「リリーお嬢様が答えてくれた!」

女の子たちが手を取り合って騒いでいる。


「リリーお嬢様、騒ぎになる前に逃げましょう!」

ベラが手を掴んで、私を馬車に入れた。


馬車の窓から手を振った。

レオンが目を丸くしているのが見えた。

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