ラブソングにはまだ遠い
中高一貫校の私立星花女子学園に勤めるバンドマン・鷺ノ宮は、自身の受け持つ軽音楽部の夏休み期間の練習時にたまたま聞こえてきた『カノン』をきっかけにある一人の女子生徒と出会う。どこか不安定で大人になりきれない彼女は、自分とは違ったピアノを演奏をする少女、日内地 美波に出会い、やがて惹かれていく────
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どうして私じゃダメなんですか、という声が、小さく聞こえた。彼女が奏でる自由なピアノの音楽とは正反対の、今にも千切れてしまいそうな酷く弱弱しい声だ。小さく震えた華奢な肩が、彼女が胸に付ける校章が、自分とは立場が違うことを明確に表しているような気がしていた。
適当な慰めならいくらでも口にできる自信があった。人たらしのフロントマンなら、きっといつもの通りの口八丁手八丁で、高校生の女の子一人なんて、いくらでも丸め込んでしまえる自信があったから。それでもそれをしなかったのは、ひとえに彼女を適当に扱いたくなかったからだった。
君が子供だからだ、と呟いた自分の声が酷く弱弱しく聞こえた。目の前の彼女は酷く傷ついた顔をしているのに、それをどうすることもできない。泣かれたって、縋られたって、大人の自分にはどうすることもできない。そんなことが、酷く残酷にも思えた。
「────君が好きだよ、日内地さん」
────これはラブソングには程遠いと、あたしは小さく呟いた。
***
[Cast.]
鷺ノ宮 京/桜ノ夜月
日内地 美波/はと子様
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どうして私じゃダメなんですか、という声が、小さく聞こえた。彼女が奏でる自由なピアノの音楽とは正反対の、今にも千切れてしまいそうな酷く弱弱しい声だ。小さく震えた華奢な肩が、彼女が胸に付ける校章が、自分とは立場が違うことを明確に表しているような気がしていた。
適当な慰めならいくらでも口にできる自信があった。人たらしのフロントマンなら、きっといつもの通りの口八丁手八丁で、高校生の女の子一人なんて、いくらでも丸め込んでしまえる自信があったから。それでもそれをしなかったのは、ひとえに彼女を適当に扱いたくなかったからだった。
君が子供だからだ、と呟いた自分の声が酷く弱弱しく聞こえた。目の前の彼女は酷く傷ついた顔をしているのに、それをどうすることもできない。泣かれたって、縋られたって、大人の自分にはどうすることもできない。そんなことが、酷く残酷にも思えた。
「────君が好きだよ、日内地さん」
────これはラブソングには程遠いと、あたしは小さく呟いた。
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[Cast.]
鷺ノ宮 京/桜ノ夜月
日内地 美波/はと子様