第1話
「ルヴィ君、ご飯出来たわよー」
「わかりました」
庭で剣を振っていたルヴィアーノは、剣を鞘に納めて、掛けられた声に対して返事をした。
ルヴィアーノは井戸水とタオルで、軽く身体を拭いてから家に入り、剣を2階の自室に置き、リビングに向かう。
リビングにあるテーブルには、パンとスープが4人分置かれていて、既に叔父のロノワと叔母のリタが椅子に座って待っていた。
「おはようございます。すみません、遅くなって。」
空いている席に座りつつ、ルヴィが申し訳なさそうに二人に挨拶をした。
「「おはよう」ルヴィ君。」
「私達もさっき席に着いたばかりだから、謝る必要はないわよ。」
「リタの言うとおり、ほんの少し前に座ったばかりだから、気にしなくて大丈夫だよ。」
「それにしても、毎日鍛錬するなんて、ルヴィは凄いな。」
「そんなこと無いですよ。」
「いやいや、俺達が冒険者してた頃なんて、そんな毎日なんてやってなかったよ。」
「そうなんですか?父さんは、毎日剣を振ってた記憶があるんですけど。」
朧げな小さい頃の記憶にある父の姿を思い出しながらルヴィアーノが言うと、ロノワは少し悲しそうな、でも懐かしむような表情をした。
「ああ、兄さんならやるだろうね。昔から毎日欠かさずやってたし……。まあ、俺の場合、兄さんと違って習慣付かなかったんだけどね。」
「そうね、この人の場合、冒険者時代も、今も変わらず、サボり癖あるからしょうがないね。私が言っても、時々仕事サボってるし…………。」
「ははは。…………まあ、そんなことだから、偉いんだよ。ルヴィは。」
そんな話をしていると、階段の方から、トタトタと駆け下りてくるような音がルヴィアーノの耳に聞こえてきた。
「おまたせ」
「おまたせ、じゃなくて、おはようでしょうが、バカ娘!何度言ったら分かるんだぃ!」
「バカ娘とは何よ。だったら、お母さんなんか、親バカでしょ!!だいたい、おまたせって言った後、言おうと思ってんだからね!」
(親バカは、ちょっと違うよな。)
とルヴィアーノが思っていると、口論している2人にロノワが声を掛ける。
「二人共、落ち着きなさい。」
「だって、お母さんが…………。」
「いいから、座りなさい。」
「……………」
ムスッとしながらも、ロノワの言葉に素直に従うリノ。
「リノ、お前の言いたい事も分からなくはないが、朝起きてきたら、まず家族に挨拶することが、我が家のルールだからな。言おうと思っていたとしても、それで喧嘩するのは良くないよ。」
「はーい」
「リタも、リノに合わせて直ぐ喧嘩腰になるのは駄目だ。それに、リノは忘れてたわけじゃなくて、言おうと思ってんだから、少しは譲歩しなさい。」
「…………わかってるわ。」
「まあいい、それはそうと、皆揃ったことだし、冷めないうちに飯を食うか。」
「それもそうね。それじゃ……………」
「「「「いただきます」」」」
この食前の"いただきます"と食後の"ごちそうさまでした"は過去にやってきた異世界人が拡めたんだと言われている。
曰く、料理した人や食材となった生き物への感謝の意が込められているらしい。他にも過去に渡来した異世界人から拡められたモノはあるが、また機会があれば語るとしよう。
ーー閑話休題ーー
「にしても、よくルヴィは毎日稽古なんて続けられるよねー。私なら途中で飽きちゃうよ。朝もそんな早く起きられないし。ギリギリまで寝ていたいって思わないの?」
「僕は、体を鍛えることが楽しいと感じますから。朝早く起きるのも昔からですし、それに意外と早く起きるのも気持ちが良いものですよ?」
「えー、体を鍛えるのなんか全然楽しくないし、朝早く起きるのが気持ちが良いんだとしても、それよりもやっぱり寝てたいかなー。」
「ルヴィ君、ご飯食べたあとはどうするの?」
「この後は、叔母さんに頼まれてる薬草を取りに迷いの森に行こうと思ってます。」
「あら、早速行ってくれるの?嬉しいけど、気を付けて行ってきてね。薬草採取する場所なら、浅いところだから大丈夫だと思うけど、たまに強い魔物もいるから。」
「そうですね。叔母さんの言うとおり、採取しに行く薬草は、森の浅い所に生えているので、そんなに心配する必要はないと思いますよ。」
「それでも何があるか分からんからな、油断せず気を付けるんだぞ。」
「わかりました。油断しないようにします。」