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働かざるもの王べからず  作者: ひおむし
2/5

世の中のしくみとは


 シルヴィア・レギーナの父であるレギーナ公爵は、国王陛下の従兄弟であり、幼馴染である。その血筋と優秀さから宰相の地位に就くように国王から望まれていたが、王族の直系だけがすべての職務の長を務めるのはよろしくなかろう、と辞退した。

 だがそれは結果として悪手だった。我こそはと就任した宰相とその側近たちが揃いも揃って身分だけの無能揃いだったため、結局はその尻拭いに追われる羽目になったのだ。

 国王にとっても誤算だったが、下手に身分は高い者たちなので、それを諌めるのも実力と信頼がある従兄弟にしか頼めなかった。おかげで本来城での役職を持っていないはずのレギーナ公爵は城での職務に忙殺されたのだ。

 レギーナ公爵夫妻は政略結婚だが幸運な事に大変夫婦仲が良く、また子煩悩であった。子供達も両親を大変慕っているため、シルヴィアは父が日に日に目元のクマを飼い慣らしていくのが心配でならなかった。

 せめて食事だけでも、とシェフと考案した手軽で美味しく栄養満点の10秒ランチを3秒で食べ切って

『美味しかったよ、ありがとう』

 と笑った父を見て、シルヴィアは世の中の仕組みを深く理解した。



 上の者が無能だと、下が苦労する。



2.


「……ですから私、国王陛下から殿下との婚約を打診された時に、交換条件としてお願いしましたの。王太子の決定は継承権を持つ者達を査定して、その中からふさわしい者をお選びいただく議会承認制にしてほしいと」

「…………」

「それでも、本来ならアーロン殿下が王太子になる可能性が一番高かったのですよ? 何せ国王陛下夫妻の唯一のお子であらせられるのですから」

 なんだかんだでアーロンが継ぐのが一番周囲が荒れずにすむと思われていたのだ。そもそも能力的な問題だけならそれをサポートするためにシルヴィアが婚約者に選ばれたのだから。

「ですからこれは私も周囲も誤算でしたの。……まさか、殿下がここまで仕事というものの意味を理解されていないなんて」

「し、仕事って」

「無能だなんて」

「無能って」

「使えないなんて」

「心のハンケチーフ、仕事しろっ」

「能力もないくせにやる気も努力も誠実さもない怠惰な愚か者だなんて」

「今、止めるところだったよなっ」

 もはや半泣きになりつつあるアーロンと、その後ろで硬直している側近達をシルヴィアは視線でなぞった。

「アーロン殿下、並びに生徒会役員の皆様。最後に生徒会の執務を行ったのはいつですか」

 静かな口調に、アーロン達は一瞬、言葉に詰まった。

「……色々と忙しかったのだ」

「でしょうね。流行りのカフェ、王城、劇場に個室レストラン、果ては避暑地にまで時間を惜しむように皆様方は随分と派手に豪遊なさっておいででしたもの」

 自分達の輝きに満ちた日々を軽々しい行いのように言われ、アーロン達は白かった頬を紅潮させた。

「私はっ。籠の鳥みたいに縛られているアーロン達が可哀想だったからっ。もっと外の世界を教えてあげたかったのっ」

「っ、そうだっ、お前のように頭でっかちなだけでは王は務まらない。世間知らずにならないため、これは必要な勉強だったのだっ」

「シルヴィア嬢、世の中というものは書類を見ているだけでわかるものではないのですよ?」

「実際に人の営みと向き合ってこそ王ってものだろうっ」

「愛も情もない者に国主が務まるとお思いかっ」



「……それで?」



 側近達も含めて己の行動を正当化しようと張り上げた声は、喉元に剣を突きつけるような冷たい声に遮られた。

「仮にそれらが必要な勉強だったとしても、放り出した仕事が消えてなくなるわけではありません。そちらは一体どうするつもりだったのですか」

 シルヴィアは言った。

 その静かな口調に、アーロンは気まずそうに視線をそらした。

「……それはその、誰かがやるだろう」

「誰か、ですか」

「っ、ああそうだ、私にばかり頼らず自主性を身につけさせるために」

 言い募ろうとしたアーロンの声を、空気を裂くような音が遮った。一拍遅れて、シルヴィアが勢いよく扇を畳んだ音だと気がついた。


「ではご紹介いたしましょう。その哀れな『誰か』を」

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