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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第2章 雄飛の青少年期編
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062 勧誘前の情報整理

 小学生の時より何だか退屈に感じる授業を経て昼休み。

 今日も今日とて、あーちゃんの手作り弁当を一緒に食べる。

 ご飯ものはチャーハン。おかずには豚の角煮。ニラ玉。ミニトマト。

 冷凍食品はない。

 毎日だと負担にならないか心配するぐらい手間がかかっている。

 ただ、あーちゃん自身本当に楽しんでやっていることは【以心伝心】で伝わってくるので、とめるようなことはしない。

 こちらからも感謝が伝わるように「ありがとう」と強く思って平らげるのみだ。


「ごちそうさま」

「おそまつさまでした」

「はあ、全くもう……」


 美海ちゃんの呆れまでがワンセット。

 そこへ昇二がコソコソと自分の席から脱出してくる。

 俺達が食べ終わる頃には、大体他のクラスメイトも食べ終わる。

 4人の女子は、今日も1ヶ所で集まって話をしているようだ。


「今年は春先なのにアステリオスは全然ダメだねー」

「調子がいいと標的にされるから、わざとじゃないかな」

「死んだふりという奴ですか? 普通に実力では?」

「そーそー、好意的にー、解釈し過ぎだよー。あるいはー、希望的観測ー?」


 内容は開幕して少し経ったペナントレースの話。

 まずはプロ野球公営1部の話題から。

 彼女が球団のファンかは分からないが、山形県には公営私営問わず1部リーグのチームはないので隣の県の宮城オーラムアステリオスは話題になり易い。


「それよりダックスの方が危ないかと」

「だねー。アマチュアに降格しちゃいそう」

「FAで主力選手が出てっちゃったし、当然っしょ」

「私営だからねー。上位のリーグと銭闘(せんとう)しても負けるよー」


 ダックスの正式名称は山形マンダリンダックス。

 山形県に本拠地を置く私営3部のプロ野球チームだ。

 私営2部のチームによる札束ビンタで4番とエースが出ていってしまった。

 現在チーム連敗記録更新中で、春先なのに降格を危惧されている。

 まあ、FAは選手の権利なので、選手が責められる謂れはない。

 チームに彼らを引き留められるだけの魅力がなかっただけのことだ。


 と、球団側を責めるのも、この世界では少し可哀想か。

 リーグのカテゴリーが違えば、待遇に天と地程の差が出るからな。

 上のリーグから誘われれば、選手はそうそう抗えないだろう。

 割り切れないファンが前世より遥かに少ない程度には仕方がないことだ。


 ……にしても。

 女子中学生でも話題の中心がそれな辺り、ここが野球に狂った世界であることを改めて実感させられるな。

 まあ、それはともかくとして。

 昇二が近くに来たので、美海ちゃんにも説明したことを簡潔に伝える。


「――って感じかな。とりあえず」

「磐城巧君と大松勝次君、かあ」

「けど、どう切り出すの? 同じクラスって言っても、まだ話したことないわよ?」

「俺も話したことはないけど……2人が自己紹介で言ってたこと、覚えてるか?」


 質問に質問で返すと、美海ちゃんは「えーっと?」と考え込んだ。

 どうやら忘れてしまっているようだ。


「わたしは全く覚えてない」


 当然の顔で断言し、思い出そうともしないあーちゃんは通常営業だな。

 米粒程も興味がなかったのだろう。


「確か、磐城巧君はスポーツドクターになりたいって言ってなかった?」


 自信なさげに答えたのは昇二。

 彼はちゃんと自己紹介を聞いていたようだ。


「その通り。で、それには大学の医学部に行って医師免許を取る必要がある。物凄く勉強しないといけない。俺達の中学受験の比じゃないぐらいにな」


 こればっかりは、前世が単なる底辺労働者では転生者でも厳しい。

 今から医者を目指せと言われたら、そっち方面で使えるチートを要求したい。

 それが無理なら、四六時中勉強漬けにならざるを得ない。


「だから磐城君は、勉強してても怒られないような余り活動的じゃない部活で、尚且つ内申点が稼げる。そんなとこを求めてるはずだ」


 ただ。正直なところ、俺にはそれが彼の本当の夢とは思えなかった。

 と言うのも、6年生まで小学校クラブ活動チームに所属していたからだ。

【生得スキル】2つ持ち故の低い初期ステータスだったにもかかわらず、だ。

【戦績】を見て分かった。

 それは正樹や昇二のように、余程の執着心がないと不可能な話だ。

 野球をやりたい気持ちがどこかにあるんじゃないかと思う。


「けど、その辺はあっちのメリットでしょ? こっちのメリットがないと話しかける理由にならないし、不審に思われるんじゃない?」


 美海ちゃんの疑問はもっともだ。

 いいことばかりを提示して勧誘してくる人間は怪しさしかない。

 宗教団体や詐欺組織か何かかと警戒してしまう。


「そこは、まあ、人数合わせのため、とでも言っとけばいいさ。あながち嘘って訳でもないからな」


 どちらかと言うと、活動的じゃないって部分の方が嘘だ。

 今は正しいかもしれないが、いずれは嘘になる。嘘にする。


「……まあ、いいわ。もう1人も似たような感じ?」

「あっちは……あっちは、うーん」

「何よ」


 俺の煮え切らない反応に首を傾げる美海ちゃん。

 珍しいものを見た、と言いたげな反応だ。

 野球の正道から完全に外れた邪道を歩んでいるだけに、説得力を生み出すために可能な限り迷いは見せないようにしてきたつもりだからな。

 少なくとも美海ちゃんや昇二の前では。


 けど、今回は微妙な感じにならざるを得ない。

 と言うのも――。


「自己紹介では彼女を作りたいとか言ってたよ」


 昇二が言った通りのことを、大松勝次君は自己紹介で口にしてたからだ。

 大真面目に。


「……ああ、そう言えば、そんなこと言って先生に注意されてたのがいたわね」


 思い出したらしく、呆れた声を出す美海ちゃん。

 さすがにこっちは印象に残っていたようだ。悪い意味で。


「まあ、説得するとしたら、モテると言えば野球って方向かな」

「ウチの野球部の状況で?」


 それを言ったらおしまいなんだよなあ。

 まあ、俺も説得力があるとは全く思っていないけどさ。


 とは言え、計画通りにことが運べば異性が群がってくるレベルの社会的なステータスは間違いなく得られる。

 この世界では、プロ野球選手の人気はイケメン俳優スターの比ではない。

 彼の目標は簡単に叶うだろう。

 説得材料としては使えない部分の話だけども。


「まあ、当たって砕けろだ。まず声をかけないと始まらないからな」

「それはそうだけどね」


 こういうのは勢いも大事。

 さあ、突撃だ。

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