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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第1章 雌伏の幼少期編
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043 無数の屍を踏み越えるが如く

 正直なところ、やり過ぎたと思った。


 正樹に徹底的にやり込められた形となった楯岡フレッシュスターズ。

 試合後の彼らは、まるで絶望に打ちひしがれたかのような様相だった。

 間違いなく、アメリカ代表と当たって惨敗するよりもダメージが大きいだろう。

 クラブ活動チーム相手に地方大会3回戦で4回コールド完全試合を食らうのは。

 下手したらトラウマになり、野球から遠ざかってしまう者も出てきかねない。


 それと似たような状況を、俺はこれからも作り続けていく訳だ。


 勿論、そんなことは最初から分かっていた話ではある。

 打倒アメリカの道を突き進もうというのなら。

 けれど、今回の勝利を経て、その予測は一気に現実味を帯びてしまった。

 実際に、完膚なきまでに打ちのめされた者達の姿を目の当たりにしたことで。

 だからなのかもしれない。

 小さくない罪悪感が胸の奥に生まれてしまったのは。


 ……試合開始当初は俺もノリノリだったのにな。

 終わってみればコレだ。

 我ながら、全く勝手なものだと思う。

 野球狂神のことを言えやしないな。


「しゅー君、大丈夫?」


 そんな心の内の僅かな迷いをあーちゃんに見透かされてしまった。

 彼女には心配をかけたくはなかったが……。

 ここで誤魔化しにかかれる程、俺は前世でも強い人間ではなかった。

 何より【以心伝心】で彼女には嘘をつけない。


「うん。この前の試合でさ――」


 頭の中を整理しながら、内心の葛藤を打ち明ける。

 あーちゃんは最後まで静かに耳を傾け、それから口を開いた。


「そうなったら仕方がない。そんな人達、どっちみちアメリカには敵わない」

「え?」


 バッサリと切って捨てた彼女に少し驚く。

 しかし、続く言葉で理解できた。


「まだ動けるのに動かない人には構ってられない。構う必要もない」

「…………うん。そうだね」


 原因不明の奇病。身動きすらままならない。

 その頃の記憶が残っているかは定かじゃない。

 けど、あーちゃんの深い部分には刻み込まれているのかもしれない。

 自分の力では抗うことができないものへの絶望感が。

 それを思えば、圧倒的な実力差に跳ね返されて心が折れるなんてのは、ある意味では贅沢な感情とも言えるのかもしれない。

 昔の彼女と似た境遇の人にとっては、それすらも手が届かないものなのだから。


 前世でろくに挑戦というものをしてこなかった俺には、尚更耳が痛い。

 失意に沈む程、何かに人生を賭けて努力したこともなかったしな。

 でも……まあ、そうだな。


「どの道、日本一、世界一を目指すってのはそういうことだよな」

「ん」


 野球に限ったことじゃなく、どの分野でも。

 成功できるのは一握り。

 その背後には、心をへし折られた者達の無数の屍が積み重なっている。

 それでも尚、もっと先に進もうと望むというのなら、同じ目標を掲げた者達を薙ぎ倒し、それらを踏み越えていかなければならない。

 夢を実現するには、そうした苛烈な冷徹さも時には必要だ。


 ……なんて思考を巡らすのも、俺が根本的に凡人だからだろう。

 平凡な器に、身に余る能力を注ぎ込まれただけ。

 本物の天才はそもそも転がる屍に頓着しない。

 往々にして、何故皆が心を折られて立ちどまるのかも理解できない。

 首を傾げるぐらいはあるかもしれないが、囚われることなく己の道を突き進む。

 夢破れた者達に心を砕いてしまうのは、似た凡庸さを持つ証拠とも言える。

 だから。凡人の精神性のまま上を目指すなら、初志貫徹を心に深く刻み込み、不動の心を持つよう己に言い聞かせ続ける必要がある。

 誰かの夢を粉々に打ち砕いていく覚悟を持つ必要がある。


「しゅー君」


 いつの間にか固く握っていた拳。

 それを解くようにしながら、あーちゃんが手を握ってくる。


「わたしはしゅー君の味方。ずっと。何があっても」


 たとえ挫かれて膝を折った者達に深く恨まれることになろうとも。

 たとえ他の誰かに非難されることがあったとしても。

 どこまでも一緒だ、と。

 そう告げるように彼女は寄り添ってくる。

 温かい。


 ……うん。

 なら、やっていけそうだ。


 振動をとめた原子が熱を失うように、不動の心は冷たいもの。

 1人ならそれに凍えてどこかで立ちどまっていたかもしれない。

 けど、この温もりがあれば、進み続けることができるだろう。

 物語の魔王の如く、数多くの夢を無慈悲に打ち砕いていこうとも。


「ありがとう、あーちゃん」

「ん」


 短い返事ながら、声は弾んで嬉しそう。

 そのまま彼女は俺の腕に抱き着いてご満悦。


「……あのねぇ。私の机の前でいちゃつかないで貰える?」


 と、横から美海ちゃんが文句を言う。

 時と場所は昼休みの教室だったので仕方がない。


「ほら、また清原君が変な目で見てるじゃない」


 続けて少し声を潜めながら、気味悪げに清原孝則を視線で示す美海ちゃん。

 チラリと見ると、何だか顔を上気させて息を荒くしている彼の姿。

 慌てて目を逸らす。

 美海ちゃんの反応は酷い、と言えない怖さがある。

 公式戦で俺達に負けてから、あの調子だ。

 何か、より一層極まってしまっている気がする。


 心をへし折ってああなると考えると、折角固めた覚悟がちょっと揺らぐな。

 いや、まあ、あれは特殊な事例だ。

 そう思っておく。


「それと、さっきの話。100人の夢を打ち砕いたなら、1000人に夢を見せられる人間になればいいのよ!」


 美海ちゃんはドヤ顔でいいこと言ってやった感を醸し出す。

 やや怪しい理屈だが、勢いとその真っ直ぐさに自然と笑みが浮かんだ。

 素直な美海ちゃんの鼓舞にも救われるな。


「そうだな。……うん。じゃあ、まずはサクッと大会制覇だ!」


 迷いを心の奥に押しやり、再び勝利に意識を集中する。

 とは言っても、超小学生級の正樹を擁する俺達をとめるのはまず不可能。

 俺達は県内チームを薙ぎ倒していき、全国大会へと駒を進めたのだった。

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