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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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317 公私の出陣式

 古来、重要な戦いの前には味方の士気を高めるために出陣式が行われる。

 WBWの本選においてもまた然り。

 日本代表として公式の出陣式は既にスケジュールに組み込まれており、それは最終強化合宿の終盤に実施されることになっている。

 具体的には、インペリアルエッグドーム東京で2日にわたって開催される予定の国内選抜チームとの壮行試合1日目の前日だ。

 この出陣式。そして壮行試合を経て。

 俺達はWBW本選の戦いの場であるアメリカへと出立することになる訳だ。


 まあ、それはそれとして。

 首脳陣や選手達はまた別に各々、個人的に公使問わず出陣式を行っていた。

 落山監督辺りは地元で後援会と共に神社で必勝祈願をしたらしい。

 ニュースでも大きく取り上げられていた。

 俺達の表敬訪問もまたその一環と言っていい。

 今日に至っては球場を使用して大規模なイベントも開催している。


 これは村山マダーレッドサフフラワーズの運営会社が主催してのものだ。

 しかし、当然ながら球団としてのイベントとは大きく意味合いが異なる。

 あくまでもWBW日本代表に招集された山形県出身選手のためのイベントだ。

 なので、地元選手である磐城君や大松君も参加メンバーに組み込まれていた。

 つまるところ、日本代表の主力選手がほぼ勢揃いの状態。

 それもあって山形県以外からの客も相当数いたようだ。


「もし山形きらきらスタジアムでやってたら暴動が起きてたかもしれないわね」

「そうだなあ」


 イベントが終わって撤収作業も大まかに完了した後の、人気の少ない球場の中。

 その観客席のバックネット側最上段に設けられた、ラグジュアリーボックスシートと銘打たれた10名で利用できるシートが並ぶエリアにて。

 最先端の人工芝によって美しく整備された最新式のグラウンドを見下ろしながら呟いた美海ちゃんに同意する。


「新球場初めてのイベントが大盛況でよかった」


 続けて横から球場の管理者のような発言をしたのはあーちゃん。

 彼女の言う通り、ここは()本拠地たる山形きらきらスタジアムではない。

 村山マダーレッドサフフラワーズ私営1部リーグ昇格に合わせて始動した建設計画の通り、1年以上の年月を経てようやく完成した新たな本拠地球場だ。

 その名はレッドスピネルドーム村山。

 収容人数は山形きらきらスタジアムの37000人から倍の74000人。

 今生における国内最大級のドーム球場だ。

 にもかかわらず――。


「東京ならいざ知らず、山形でこれが普通に満員になるんだものね」

「どれだけウチらが期待されてるかって話っすよ。皆に」


 新球場のこけら落としも兼ねたこのイベントのチケットはものの数分で完売してしまい、スタンドは観客で埋め尽くされた。

 俺達が姿を現した時に沸き起こった歓声の圧は、それこそ日本シリーズの最終戦でも感じたことがないぐらいのものだった。

 何せ、この場に集まってくれた全員が味方な訳だからな。

 倉本さんの言う通り、観客は、日本国民は俺達が今回のWBWで優勝という悲願を果たしてくれることを期待してくれている。

 そうハッキリ分かるぐらい熱い気持ちが俺にさえ伝わってきた。

 勿論、ネットを見渡せば厳しいという論調も多いが……。

 少なくとも、わざわざ山形県まで足を運んでくれたファンは信じているようだ。

 悪く言えば盲目に。よく言えば純粋に。


「……これは、裏切れないわよね」


 具体的な人物のイメージの方が、と俺達はこれまで表敬訪問を行ってきた。

 だが、単純な数の力も中々に侮れないものがあると思わされた。

 何せイベントで何か話をする度に、この球場に集結した74000人のファンの期待のこもった視線が自分に集中していたからな。

 試合中のように鳴りものもない上に声出しをしている訳でもないから入場時以外は割と静かで、そんな中でのことだけに何と言うか異様な空間でもあった。

 ある意味74000人に包囲されている状態でもあるあの光景は、何はともあれ記憶から消え去るようなことはないだろう。

 それが実際に応援として試合の時に力になってくれるかはともかくとして、今日の出来事も必要があれば必要な時に記憶の扉が開かれるに違いない。


「期待が大き過ぎてー、私だったらプレッシャーだよー」

「アタシもさすがにこの規模は……」

「琴羅、ガッチガチに緊張してたもんね」

「む、それを言うなら琉子もだったよ!」

「と言うより、村山マダーレッドサフフラワーズのスタッフも皆さん、いつになく緊張していました。自然体だったのは、主役である秀治郎君達だけです」


 正にその緊張から解放されて少しハイになった様子で口々に言ったのは、今日のイベントに主催者側で参加していたお馴染みの4人組。

 中学校で出会ってから今日に至るまで陰に日向にサポートしてくれた彼女達だったが、全員揃っているのを直接見るのは割と久し振りのことだ。

 昨年のファン感謝祭以来かもしれない。


 泉南さんと佳藤さんは今も球団公式チアリーディングチーム、サフフラワーガールズの一員として選手は勿論ファンのことも元気づけてくれている。

 これはスキルに裏打ちされた部分もあり、俺も全く否定のしようがない。

 社会貢献活動の中で、訪問先の人の病気が治ったとかはさすがに眉唾だが。


 諏訪北さんと仁科さんの2人は大学に通いながらインターンシップやアルバイトに来てくれて、今日もスタッフとして手伝ってくれた。

 個人的な用事で手が足りない時にもよく助けてくれて、本当に感謝している。

 広報動画的な部分でも4人共、変わらずサポートしてくれているからな。

 後方支援的な意味で、彼女達もまたかけがえのない仲間だ。


「ボクってここにいていいのかな……」

「大丈夫大丈夫」

「シュシュ達も村山マダーレッドサフフラワーズの仲間だもん!」

「仁愛先輩と轟先輩は仕事中ですが……」


 陸玖ちゃん先輩を始めとしたインターンシップ部隊もいる。

 正式に球団スタッフとなった2人については事務所で残務に追われているだろう。

 正社員の悲哀と言うか、まあ、こればかりは仕方のないものとして。


 俺達はいくつかのラグジュアリーボックスシートを、パーティションを取り払って広く使う形で内々に私的な出陣式を行っていた。

 もっとも、そこまで仰々しかったり形式ばったりしたものではない。

 軽食をつまみながら身内で集まって雑談をしているだけだ。


「改めて、あの時君を信じてよかった。ありがとう」

「いえ、結局は巧君の頑張りあってのことですよ」

「2人共、そういうのはいいから」


 磐城君の父親の大吾氏もいる。傍らには母親も。

 俺とのやり取りに、磐城君は勘弁して欲しそうにしている。

 授業参観に来た子供のようだ。

 他にも家族の姿がある。

 珍しいところで言えば美海ちゃんや瀬川兄弟、大松君の両親も。

 倉本さんは現在軋轢があるらしく家族の姿はない。

 彼女にとっては家族もまた見返す対象であるらしい。


「それにしても、まさか美海がなあ。子供の頃、日本一のプロ野球選手のお嫁さんになるとか言ってた子がよお」

「も、もう、やめてよ! こんなとこで!」


 美海ちゃんはチラチラこちらを見ながら父親に文句を言っている。

 母親はそんな彼女を見て「あらあら」と訳知り顔だ。


「正樹、昇二。どれだけファンの期待を背負っていたって、無理は禁物だぞ」

「危ないと思ったら踏みとどまるのも勇気よ」

「俺はやるべきことをやるだけだ」

「兄さんはいつもこれなんだから。でも、お父さんもお母さんも過保護過ぎだよ」


 呆れたように嘆息する昇二。

 その反応を見る限り、彼らの両親は大怪我を繰り返す正樹の姿を目の当たりにして常に不安を胸に抱いているようだ。

 しかし、正樹にとってはブレーキ役がいた方がバランスを取れるだろう。


「勝次は誰狙いなんだ? 言ってみろよ、ほら」

「あ、いや、それは、もう……」


 大松君は彼をよりチャラくした感じの父親に絡まれてタジタジだ。

 演技をしているだけでは本物には勝てない、というところだろうか。

 尚、父親は調子に乗り過ぎて母親に殴られていた。

 大松家のパワーバランスが見て取れる。


「……賑やかね」

「本当に。改めて数えてみると、こんなにも仲間が増えていたのですね」


 しみじみと呟いたのはお義母さんと母さん。

 お義父さんもイベントの後処理の関係で今この場にはいないが、父さんの方は椅子に腰かけながら眩しいものを見ているかのようにその光景を眺めている。

 そんな表情を浮かべている理由は、正に母さんが口にした通りだろう。


「最初の1人はわたし」


 と、あーちゃんが胸を張って自慢するように言う。

 勿論、俺のすぐ隣で。


「……こういうのは、普通家族は除外じゃないか?」

「今は妻。でも、最初は仲間」

「そう、だな。うん」


 実際、仲間集めは彼女から始まったようなものだ。

 それは偶然の出会いに過ぎなかった。

 しかし、彼女の境遇を考えると自ずと運命的なものを見出そうとしてしまう。

 そもそも、振り返った時にできてる道こそ運命だと言われることもあるからな。

 起点と言ってもいい彼女は、運命の相手と呼んでも差し支えはないだろう。


 にしても、振り返ってみると我がことながら奇妙な人生を歩んできたものだ。

 1度死んだ転生者だからこそ無茶苦茶なことができるというのもあるけどな。

 それだけに、そんな破天荒な道につき合わせてるあーちゃんには罪悪感が――。


「しゅー君、また悪い癖」

「おっと……うん。いつもありがとう。あーちゃん」

「ん。妻として当然」


 両親もお義母さんも温かい目で俺達夫婦のやり取りを見守っている。


「まだまだ道半ば。前進あるのみ」


 打倒アメリカは勿論のこと。

 親孝行だって全く足りていない。

 だから、あーちゃんと、仲間達と共に最後まで突っ走っていくとしよう。

 そんなことを強く思いながら私的な出陣式を終え……。

 最終強化合宿と公的な方の出陣式、壮行試合も経て俺達は遂に、決戦の地であるアメリカへと出発したのだった。

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