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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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316 向上冠中学高等学校の今と

 山形県立向上冠中学高等学校への表敬訪問で出迎えてくれたのは、今も野球部の監督を務めている虻川先生だった。

 元々は単なる顧問でしかないと自称していた彼だが、補助金詐欺騒動を経て自然と監督という立場になって以降は懸命にその職務を果たしてくれた。

 俺達世代という尋常ならざる外れ値に脳を破壊されてやしないかと心配したりもしたが、今は県内強豪校の地位を盤石なものにせんと着実に活動しているようだ。

 実際、美海ちゃん達が卒業した後も夏の甲子園に連続出場しており、今生における3月の全国大会、全国高等学校硬式野球選手権大会では優勝を成し遂げている。

 俺とあーちゃんは中退者ではあるものの、母校の躍進には嬉しいものがあった。


「お久し振りです、虻川先生」

「ああ。ドラフトの指名挨拶以来だな」


 虻川先生と最後に会ったのは彼の言う通り2年と少し前。

 当時のドラフト会議直後のことだ。

 美海ちゃんに昇二、そして倉本さんと1つの球団が同じ学校から3人もの選手を指名して大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。

 当時は評論家に好き勝手言われ、反論するような煽り動画を出したりもした。

 すなお先生の時と比べて単純に空いた時間が短いこともそうだが、そういった象徴的な出来事もあって虻川先生との再会は懐かしいといった感覚は全くなかった。


「元気そうで何よりだ」

「先生も。ところで、どうですか? 野球部の最近の調子は」


 実績だけを見て判断するなら調子がいいことは明らかではある。

 しかし、当事者の実感としてどうなのかを確認するために問いかける。

 対して虻川先生は、少し考えてから口を開いた。


「まずまず、といったところだな。甲子園優勝の実績のおかげもあって、以前は強豪校に行っていたような子もウチを志望してくれるようになったからな」


 そう答えてから「ただ」と前置きして彼は言葉を続ける。

 ここからまずまずという最終評価に至ったマイナス要素が来るのだろう。

 注意して耳を傾けると――。


「村山マダーレッドサフフラワーズがユースチームを創設したことで、夏の甲子園への道のりはかなり厳しくなったと言わざるを得ない。色々な意味で」

「あっ、あー……」


 恨みがましい声で言われ、俺は思わず曖昧な反応をして目を逸らしてしまった。

 確かに、同じ県に思いっ切り競合するチームを作ってしまった形となる。

 直接トーナメントで甲子園出場の壁として立ち塞がることもそうだが、将来プロ野球選手を目指す子供がどちらの環境を選ぶ傾向にあるかは明白だろう。

 勿論、甲子園優勝経験校という称号も相当魅力的なのは間違いないけれども。

 比較対象がプロ野球1部リーグ日本一2連覇の球団の下部組織となると、さすがにネームバリューが違い過ぎるからな。

 人材の確保が難しくなるのは確実だ。


「将来のウチの中核になりそうだったお前の義理の弟も、来年からはジュニアユースチームに移籍することになりそうだしな」

「それは……そう、なりますね。すみません」


 否定しようのない事実なので、ちょっと居心地の悪さを感じながらも肯定する。

 俺とあーちゃんの弟である鈴木暁は現在中学1年生。

 そうするのが当然とばかりにこの向上冠中学校に入学していた彼だが、実のところ今回の創設セレクションに参加していた。

 義理の兄として諸々コネではないアピールのため、会場では完全に他人の振りをして接触は最低限に留めておいたけれども。


 暁は【成長タイプ:スピード】ながらも時折俺達と一緒に練習しているおかげで順調に育っており、界隈では既に有望選手として知られつつある。

 俺やあーちゃんの弟という点も併せて注目されている側面もあるようだが、純粋に実力でプロ野球選手を目指すことができると俺は確信していた。

 まあ、俺の場合はステータスによる判断が主なところだが……。

 指導者として招聘した飯谷さんや新葉さんも太鼓判を押してくれており、おかげでスムーズに合格に持っていくことができた。

 少なくとも現時点では、そのことでやっかみを受けるようなことはないようだ。


 いずれにしても暁は来年度の4月から、正式に村山マダーレッドサフフラワーズのジュニアユースチームに所属できる状態にある。

 彼自身もそのつもりだ。

 ちなみに村山マダーレッドサフフラワーズは現時点では連携している学校もないため、中学生としての所属が変わったりすることはない。

 とは言え、さすがに2つの野球部をかけ持ちすることはできない。

 向上冠中学野球部は退部することになる予定だ。

 先々のことを考えると中々手痛い戦力ダウンになるだろう。

 虻川先生もまた監督という立場からそう考えている訳だ。


 彼が暁を指導した期間はそこまで長くない。

 去年の春に入学してから約10ヶ月のことだ。

 それでもこうして惜しんでくれる程度には、暁はその実力を示していたらしい。

 目立ったやっかみがないのもそのおかげだろう。

 暁なら上のステージに行っても不思議ではないと思われているのだ。

 兄として誇らしい。


「まあ。激戦区になるってことはそのまま山形県の地方大会の価値が上がるってことでもあるから何も悪いことばかりじゃないがな」

「強豪校同士の試合には、自然とスカウトも集まりますからね」


 村山マダーレッドサフフラワーズユースは当然、夏の甲子園での優勝を目指す。

 達成することができれば、県内の甲子園優勝チームが2つに増える。

 界隈における山形県の注目度が一層高くなるのは必然だ。

 両雄がぶつかるとなれば、各球団のスカウトが総出で来てもおかしくはない。


 たとえプロを目指す訳ではなくとも、例えば受験や就職にも有利に働くだろう。

 そういう世界だ。

 現時点でも地方大会で一定の実績があればアピールポイントになる訳だが、村山マダーレッドサフフラワーズユース相手に活躍すれば尚更だ。


「ですが、そのためには向上冠全体のレベルアップも不可欠ですよ」


 村山マダーレッドサフフラワーズの対抗馬になれるようなチームが存在していなければ、虻川先生の言う地方大会の価値向上も果たせなくなってしまう。

 ジュニアユース、ユースチームを創設したからと言って、今後の野球界において向上冠中学高等学校野球部など不要ということには決してならない。

 むしろ孤独な絶対強者を生み出さないためにも、切磋琢磨できるライバルとして一層成長して貰わなければならないのだ。


「ああ。いずれは追う立場になってしまう可能性が高いが、今は一先ず追われる立場として。お前達に学んだやり方で生徒達を導いていこうと思うよ」

「安易に踏襲するだけじゃ駄目ですよ?」

「分かっているさ。日々考え抜いて発展させていく。そこまで含めての学びだ」


 若干冗談っぽく忠告した俺とは対照的に、虻川先生は真剣な口調で応じる。

 そんな彼の様子に俺も姿勢を正して頷く。

 以前感じた通り、彼ならばこれから先もこの野球部の指導を任せられる。

 この世界の仕様を踏まえた指導方法という根幹を維持しながらも、転生者の【マニュアル操作】に依存しないやり方を模索していって欲しいものだ。


「野村、野球部の奴らにも会っていってくれ。いい刺激になる」

「はい。勿論です」


 授業の一環として行われた交流会を終えて放課後。

 改めて俺達は野球部に顔を出した。

 一般生徒は俺やあーちゃん、それと小学校同様昇二に人気が集中していたが、こちらでは少しばかり趣が違っていた。


 中学校の野球部では磐城君。

 高校の野球部では大松君と倉本さんの話を聞きたがる生徒も多かった。

 共通するのは、小学校では目立った活躍がないところか。

 母校の後輩であるだけに、そういった経緯についても把握しているようだ。

 恐らく俺の答えよりも当人の感覚的な部分を知りたいのだろう。


「今ちょっと伸び悩んでいて……何かアドバイスが貰えませんか?」

「そうだね。よく言われていることだけど、成長曲線というものは真っ直ぐじゃない。ある瞬間に急激に伸びる傾向がある。我慢の時期に諦めないことが大事だよ」

「後は何より切っかけを見逃さないこと。チャンスを掴み損ねないことサ」

「頼るべき人に迷わず頼ることも重要っす。ウチらは秀治郎君が切っかけだったのは確かっすけど、差し伸べてくれた手を掴むと決めたのはウチら自身っすから」


 確かに倉本さんは相当前のめりだったな。

 大松君には最初の誘いを断られたけど。

 まあ、チャンスを掴み損ねていないという点ではそうか。

 にしても、磐城君は相変わらず真面目だな。


 ただ、諦めないということは呪いにもなり得るのが厄介なところだ。

 ステータスを判断基準の1つとして持つ俺としては尚のことそう思う。

 とは言え、諦めなければ夢が叶うなんて夢物語は磐城君自身も信じていない。

 ただ、諦めた時点で夢を叶える資格を失うのを知っているだけだ。


「何だか、半ば諦めていた頃のことを思い出したよ」

「人生丸ごと変わった場所っすからね。ウチもっす」


 だからか、表敬訪問を終えた後の呟きは印象的だった。

 大松君も黙ってはいたが、表情を見るに同じことを考えてそうだ。


 しかし、彼らの胸の内には燻るものがあった。

 俺の手を取ったのは、だからこそだ。

 常に問われているのは人生を棒に振ってでも夢を追う覚悟があるか。

 それ以外にはない。


「小学校でも思ったっすけど、初心に立ち返ることができた気がするっす」


 いずれにしても。

 当初の目的である応援してくれる人のイメージ形成とはまた違った形ながら、これもまた表敬訪問の1つの成果と言っていいだろう。


「見返してやるべき奴らの顔を、くっきりハッキリ思い出したっす」


 倉本さんはまた明後日の方向に行ってしまっているけれども。

 とりあえず、得るものがあったことを喜ぶべきか。


「アメリカの野球エリートにも、負けてたまるかっす!」


 暗い原動力も、最終的にプラスに昇華できれば決して悪じゃないからな。

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