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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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313 国家間の絶望的なまでの格差

 そもそも俺達がこの世界に転生することになったのは、野球狂神が自らぶち壊してしまった国家間の戦力バランスをどうにか是正するためだった。

 野球狂いにして大リーグ贔屓。その果てに己の世界を野球で覇権を争うようにデザインして創り出した、人知を超えた存在。

 彼(?)は自らの創造物たる世界の仕様を理解していたにもかかわらず、趣味に走ってレジェンド選手の魂を集めた挙句にアメリカにぶち込んだ。

 それまでは極端なアメリカ一強ながらも少なくとも野球狂神的には問題ない判定だったところ、この時ばかりは彼自身もさすがにやらかしたと青くなったようだ。

 そこで慌てて終わりゆく世界の余りものの中から拾ってきたのが俺達転生者だ。


 ……改めて、いくら人格神にしたって人間味が溢れ過ぎているよな。

 人間の都合を全く考えない身勝手極まりないその振る舞いは、まさしく視座の違う神という感じではあるけれども。


 ともあれ、あれから20年以上の月日が流れた。

 野球狂神の選択が間違っていなかったのかどうかが分かるのは正にこれからだ。

 まあ、世界の全てを俯瞰して見ているであろう彼が新たに何か干渉してきた気配はなさそうだから、とりあえず順調に来ていると信じたいところではあるが……。

 世界のバランスがよくなったかという点で言えば、俺としては甚だ疑問だった。


 例えば前世のいわゆるガチャゲーでも、ぶっ壊れキャラを出してしまった運営が別の新しいキャラを投入して帳尻合わせをしようとすることが往々にしてある。

 しかし、それがうまく行ったところを見た記憶は俺にはない。

 まあ、安易にナーフすると返金騒動に発展してしまうから、結局は違法建築のようにひたすら継ぎ足ししていく他ない訳だけど。

 それで帳尻が合う可能性は限りなく低い。

 この世界に関しても似たようなものだ。

 むしろ、より混沌とした状況になっている感があるのが正直なところだった。

 それを俺は、やはり身近だからか日本国内においてより強く実感していた。


「消えた私営イーストリーグの灯、か」


 かねてから照準を合わせていたWBW本番に向けて日々を積み重ね、早10月。

 優勝決定時点では全勝だった村山マダーレッドサフフラワーズはその後、数度の負けを経験しながらもシーズンを通して1位を譲らず全日程を消化。

 2位以下の順位は最後の最後までもつれていたため、私営イーストリーグ全体で考えると最後の1、2ヶ月も見どころが全くないという訳ではなかったが……。

 人々の関心を集めるトピックとしてはさすがに弱過ぎるのは否めなかった。

 昨シーズンだけならともかく2年連続ともなってくると、野球に対する世界の強制力があって尚、さすがに興行的にヤバい雰囲気が漂いつつあった。


 これもまた野球狂神がもたらした歪みの1つと言うことができるだろう。


「……でも、こればかりは仕方ない」


 ネットで目にした文言を口にした俺に、あーちゃんが淡々とした口調で言う。

 実際のところ、現状ではどうしようもないことではある。

 転生者というイレギュラーの関与の有無、あるいは干渉の度合いによって、どうしてもチーム間に絶望的なまでの格差ができてしまうのだから。

 ある種の神の恩寵。

 当然と言えば当然のことだ。

 しかし、だからと言って控え目に行動すればいいという話でもない。

 アメリカを打倒するには派手に動かざるを得ない。

 とにもかくにも、野球で覇権を争う世界にした野球狂神が悪い。

 文句はそれこそ神に言うしかない。


「WBWで優勝すれば、意識を逸らすことができる、かも?」

「それはそうかもだけど、それ目的でWBWの優勝を目指す奴はいないだろうな」


 あーちゃんの冗談ともつかない言葉に苦笑しながらそう返す。


 彼女の考えそのものには一理あると思う。

 この日本国内の歪みを正すのに必要なのは、結局は全体の底上げ以外にない。

 とは言え、それには長期的な育成が必要不可欠だ。

 数年単位の計画となる。

 そんなにも長い時間、人々は待っていられないだろう。

 世界の強制力で抑え込めるのかもしれないが、それを頼みにしていてはいずれ人類そのものが(精神的に)破綻する結果になるような気がしてならない。

 前世の常識に引きずられた杞憂でしかないかもしれないが……。

 それが行く行くは自分が今生きているこの世界を再び失うような事態にも繋がりかねないんじゃないか。そんな不安な気持ちが頭の片隅にある。


 俺は今生は、あーちゃん達と共に人生を全うするつもりでいる。

 それが前世でできなかった親孝行にも繋がるだろうから。

 だからこそ、不安の種は可能な限り取り除いておきたい。

 そういったところまで考えていくと――。


「打倒アメリカ、そしてWBW優勝を実現すべき理由が更に増えるな」


 人々が王座陥落に熱狂している間に大リーグの門戸を開かせる。

 そうして、ある意味国内トッププロリーグの上の領域を作り出す。

 対処療法としてはこれが急務だ。

 こうした日本国内の状況は世界の縮図でもある。


 アメリカ一強を通り越して無敵としか言いようがない状況を是正するために野球狂神は世界に転生者を導入し、一部の国の戦力を無理矢理に押し上げた。

 その一方でそれ以外の国は何も変わっていない。

 いや、一応は陰謀論が陰謀論じゃなかったみたいな話が明らかになって以来、打倒アメリカの機運が高まって各国様々な戦力強化の手を打ってはいたけれども。

 どこも似たり寄ったりのどんぐりの背比べだ。

 唯一、ロシアだけは転生者に依らず驚異的な戦力を有しているが……。

 あそこは明らかに毛色が違うので例外として扱うべきだろう。

 人権無視は別の意味でマズい。


 それはそれとして。

 突出した強豪国は増えたものの、バランス偏りが解消された訳ではない。

 100を超える国がもはや表彰台を目指すことすら絶望的となった。

 この状況もまた、先に述べた理由で非常によろしくない。

 俺のような転生者以外でも、薄々違和感を抱いてきているぐらいだからな。


「それにしても、WBWアジア地区予選、何か可哀想だったわね……」

「相手の愕然とした顔がちょっと脳にこびりついてるっす」


 9月に行われたそれを経て、美海ちゃんと倉本さんもまた収まりの悪さのような感覚に襲われているようだった。


「圧勝のスイープ。正直、拍子抜けだった」


 あーちゃんの言う通り、我らが日本はWBW地区予選を軽々と突破した。

 他の国には転生者がいない……かどうかは分からないものの、少なくともトッププロまで台頭してきていないことは一目瞭然だった。

 だから自惚れでも何でもなく、客観的に見てこうなるだろうとは思っていた。

 とは言え、覇権争いの一環であるだけに容赦なく、徹底的に叩きのめした。

 当然、試合は目も当てられないぐらいの悲惨な結果となり……。

 それを受けて明らかに意気消沈してしまった相手国の選手達の姿は余りにも気の毒過ぎて、自分でやっておきながら衝撃的だった。

 それこそ良心の呵責に苛まれるレベルだった。


「実はイタリアやメキシコが特別だった?」

「まあ、秀治郎君が警戒してた選手を擁する国っすからね」

「逆に言えば、それ以外は……うん……」


 多分、アメリカだけに門戸を開かせるのではなく、アジアにおいては日本もまた外国人選手を受け入れて切磋琢磨していく必要もあるのかもしれない。

 もっとも、どちらにしても長い目で見ていかなければならない訳で……。

 直近はやはり、アメリカを引きずりおろして意識を逸らす以外にないのだろう。


「しかし、こうなるとアジアの覇者は当面日本になるな」

「兄さん、油断しちゃダメだよ」

「そうだぞ、正樹」


 兄を窘める昇二に同調して言っておく。

 実際、他に転生者がいない保証はないからな。

 隣国では大学に20歳の監督が誕生したとかしないとか。そんな噂もある。

 映像までは出回ってきていないのでステータスを見ることはできていないが、あるいは育成に特化した【生得スキル】を得た転生者かもしれない。

 自分で野球をプレイすることは最初から全く考えず、今生をある種の育成シミュレーションのようなものとして割り切っていればあり得ることだ。

 ただ、その形だと自分の地位を手っ取り早く向上させるのは難しい。

 トッププロ、ひいては自国への影響力を持つには相当時間がかかることになる。

 それだけに早々に脅威にはならないと思うが……。

 油断していいことにはならない。


 けど、まあ、これもあくまでも1つの国の中での話だからな。

 形になったところでまた新たなバランスブレイカーが増えるだけだ。

 1国に1人転生者がいる訳でもなし、このままでは上位を一部の国で絶対的な形で独占して下剋上の余地は欠片もないような状態になる。

 そうなれば世界に淀みはひたすら溜まっていくことになるだろう。

 打倒アメリカの先のことまで考えるとすれば、海外移籍とはまた異なるグローバルな枠組みを作ることも視野に入れていかなければならないのかもしれない。


 とは言え、まずは何にしても目先のこと。

 経緯はどうあれ、出場資格を得たWBW本選に集中しなければならない。

 そして前哨戦的に国内で唯一真剣勝負ができる舞台である日本シリーズ。

 1つずつ段階を踏んで、当初の目標であるWBW優勝を目指して。

 残り少ない時間もまた、刻一刻と過ぎ去っていく。

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