表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

357/409

287 朝の一幕

 翌朝。諸般の事情でいつもよりも睡眠時間が大分短くなってしまったものの、いくつかのスキルのおかげで目覚めはスッキリ。

 あーちゃんと共に身だしなみを整えてから、俺達は2人で部屋を出た。

 そして夜の内に朝食バイキング会場へと様変わりした大宴会場へと向かう。

 中に入ると、示し合わせた訳ではないが、美海ちゃんと倉本さんの姿があった。


「おはよう。2人共」

「みなみー、みっく。おは」

「おはよ、秀治郎君、茜……って、うん?」


 俺達に挨拶を返した美海ちゃんは、俺とあーちゃんを見て何故か首を傾げる。

 訝しげな彼女の様子に軽く疑問を抱く。

 だが、それに対して俺が何か反応するよりも早く。


「4人共、おはよう」


 俺達の後ろから大宴会場に入ってきた昇二に声をかけられた。

 村山マダーレッドサフフラワーズ組、勢揃いだ。

 とにもかくにも今は大事な栄養補給の時間。

 まずは各々バイキングを一巡りし、料理を持ってくる。

 それから俺達は6人がけのテーブルに座ることにした。

 となれば、あーちゃんは当然のように俺の隣に来ようとするが――。


「茜はこっち。秀治郎君はそっち」

「何故?」

「まあまあ、いいからいいから、っす」


 あーちゃんは先んじて料理をテーブルに置いた美海ちゃんと倉本さんに両脇から抱えられ、有無を言わせず俺と引き離されて逆側に連れていかれてしまった。

 結果、女性陣と男性陣がテーブルを挟んで分かれる形となる。

 真ん中の席に座らせられたあーちゃんは、両隣の美海ちゃんと倉本さんに交互に顔を向けながら何とも居心地の悪そうな表情を浮かべていた。

 よく分からない状況だ。

 しかし、とりあえず朝食を食べ始めようと俺は箸を手に取った。

 丁度そのタイミングで。


「……茜、何か妙にサッパリとしてるわよね? 秀治郎君も」


 美海ちゃんがあーちゃんの首筋1~2cmぐらいのところまで顔を近づけ、軽く匂いを嗅ぐようにしながら尋ねた。

 何だか蠱惑的な光景だが、意識的に顔を背けて沖縄風炊き込みご飯に集中する。

 一方、問われたあーちゃんはと言うと――。


「朝にシャワーを浴びただけ。いつもしてること」


 無駄に姿勢よく前を向いたまま、一見すると動じていない様子でそう答えた。

 匂いを嗅がれたこと自体は全く気にしていないようだ。


「いや、それは私だって毎朝してるけど……今日の2人は普段に比べて髪の感じも微妙に違うし、香りだって妙に強いじゃないの」

「ホテルが違うから。ここのシャンプーは香りが強かった。それだけ」

「茜っち。置いてあったシャンプーは前のホテルと同じものだったっすよ」


 探偵の如く矛盾を指摘してきた倉本さんを前にして、あーちゃんは困ってしまったように表情を微妙に変化させて口を閉ざした。

 そんな女性陣のやり取りを見て、いわゆる「女の勘」と呼ばれているものの正体が科学的に説明されていたことを思い出す。

 端的に言えば、女性の方が男性よりも生物として五感が鋭い、というものだ。

 例えば嗅覚についても優れているため、パートナーの匂いがいつもと違うことを取っかかりにして浮気を見抜くといったこともあると聞く。

 正にそうした「女の勘」を働かせ、2人は何かを察したのかもしれない。


 それだけに、あーちゃんは俺に助けを求めるような視線を向けてくるが……。

 フォローに入ろうとすれば確実に藪蛇になる。

 この勘は性別関係なく100%当たるだろう。


「秀治郎、何かあった?」

「…………いや、何も」


 まだよく分かっていない様子の昇二に問われるが、一先ずそう誤魔化しておく。

 あーちゃんは大切な伴侶。それは間違いない。

 しかしながら、この場は見捨てざるを得ない。

【以心伝心】で伝わることを前提に、心の中であーちゃんに謝罪しておく。

 対して彼女から恨みがましい気持ちが返ってくるが、どうしようもないことだ。

 夜にまた2人切りになったら謝り倒そう。


「仲がいいのは結構なことだけど、練習には支障が出ないようにしなさいよ?」

「んぅ……」


 揶揄気味の配慮に肯定とも否定ともつかない声を出すあーちゃん。

 とは言え、スキルのおかげで練習に支障は出るようなことはない。

 そこさえクリアされていれば、非難される謂れなど何1つとしてないだろう。

 別に初めてのことでもないしな。

 世に認められた夫婦なのだから、開き直って堂々としていたっていい。


 もっとも。

 かつては色々明け透けだったあーちゃんも、今や一定の節度は身につけている。

 そのため、さすがに公共の場でフルオープンにしたりはしない。

 美海ちゃん達もそれを分かった上で、彼女をからかって遊んでいるのだ。


「……ホント、茜も随分まともになったわよね」

「その発言は凄く失礼。強く抗議する」


 ここに関しては誰憚ることなく反論できると強めに返すあーちゃん。

 勿論、怒っているとかはない。

 単なるポーズに過ぎないことは【以心伝心】がなくても明らかだ。

 だから、美海ちゃんは微苦笑と共に「ごめんごめん」と軽い口調で謝っていた。


 何にしても。

 一連のやり取りはあーちゃんが常識的になったからこその弄りとも言える。

 美海ちゃん達にしても、開き直って赤裸々に語られても困るだけだしな。

 彼女達は長いつき合いから現時点での境界線を見極め、必要以上にはプライベートに踏み込むことなく、絶妙なところを突いている訳だ。

 いずれにしても、あーちゃんから返ってくるリアクションがある程度予想できているからこそのじゃれ合いに過ぎない。


「全く、みなみーとみっくには困ったもの」


 ちなみに、彼女は言葉の通り単に困っているだけだ。

 やましいところは何もないと、羞恥心は1欠片も伝わってきていない。

 そこが彼女らしいと言えば彼女らしいところでもある。


 ただ、助けを求められて助けなかったのは事実だ。

 なので、後々あーちゃんに責められることに変わりはないだろう。

 その覚悟だけはしておかなければならない。


「秀治郎。今日は長めの全体ミーティングがあるんだっけ?」


 といったところで1つかけ合いが終わったと見てか、昇二が話題を変える。

 ちょっと顔が赤いのは、最後の辺りで何の話か分かってきたからだろう。

 彼も大概ピュアだ。

 今となっては引く手数多だろうが、だからこそと言うべきか相手がいない。


 まあ、それは今はいいとして。


「イタリア代表チームとの特別強化試合に向けた情報整理の予定だな」


 俺はこれ幸いとそれに乗り、頷きながら補足を入れた。


 WBW本番ではないものの、それこそ本戦で当たるかもしれない相手だ。

 この試合の中で、可能な限り生の情報を収集したいところではある。

 そのためには相手にも、ある程度は本気になって貰わなければならない。

 つまるところ、均衡した試合に持っていく必要がある。


 しかし、敵は俺と同じ転生者を擁したチームだ。

 俺達初招集組にとっては、これまでの敵と一線を画す強敵となるだろう。

 アメリカ代表と対峙したことのある選手にとっても、舐めてかかればその時以来の絶望を味わうことになる可能性だってある。

 大敗しないように、事前に最低限の情報を頭に入れておくことは重要だ。


 とは言いながらも。

 今回初めてルカ選手の【比翼連理】を知ったことからも分かるように、俺は特別強化試合のために情報収集をするといったことはしていない。

 ステータスもカンストし、スキルも網羅した【成長タイプ:マニュアル】はそう変わることはないと思っていたことも1つの理由ではあるが……。

 最たるものは、日本代表のスコアラーが収集した情報のレベルに近づけた状態で1度強敵との試合に臨んでみようという考えがあったからだ。

 とは言え、視界に入った瞬間に癖で無意識的にステータスを確認してしまい、これに関しては既に半端なことになってしまっているけれども。

 そういう失敗が許されるのも、今だからこそだろう。


「陸玖ちゃん先輩達には改めて頼まなかったの?」

「頼んではいるけど、終わってからデータを貰って比較する形だな」


 あーちゃんを弄るのは終わりにしたらしい美海ちゃんからの問いに答える。

 インターンシップ部隊の方が情報の量や精度において大幅に優れているようであれば、落山監督にデータを渡して共有することも考えている。

 そうして相互的な協力体制を作ることができれば尚いい。

 落山監督であれば、その辺りはフレキシブルな対応をしてくれるはずだ。


「元々世界のヤバい選手ってことで名前を挙げられてたけど、昨日秀治郎君の様子がおかしかったところを見ると相当危険な相手なのよね?」

「ああ。それは間違いない」

「もしかして、それでビビッちゃって茜に慰めて貰ったとか?」

「そうかもな」


 今度は俺をからかうように尋ねてきた美海ちゃんに、否定せず淡々と答える。

 すると、彼女は肩透かしを食らったような表情を浮かべた。

 それから倉本さんと顔を見合わせる。


「マジっすか」


 俺のそうした反応で2人共、今回はガチでヤバい相手だと認識したようだ。

 倉本さんのその一言の後、彼女達は笑顔を消して口を噤む。


「世間は女性選手主体ということで若干舐めてる部分もある。そんな状況で大負けしようものなら何を言われるか分かったもんじゃないぞ」


 実態は世界有数の強豪であるにもかかわらず、だ。

 認識が改まるまでには時間がかかる可能性が高い。


「何でそんなとこ選んだのよ、落山監督……」

「さあな」


 詳しい内情は分からない。

 単純に誘いに乗ってくれた数少ない国がたまたまそこだっただけかもしれない。

 あるいは、緊張感のない試合は意味がないと意図的に選んだ可能性もある。

 しかし、いずれにしても。


「WBW本番じゃないとは言え、負けられない試合なのは間違いないぞ」

「……そうだね。気を引き締めて行かないと」

「茜も、分かってる?」

「当然。叩き潰す」

「や、やる気っすね。茜っち」


 強い口調で答えたあーちゃんに、少し困惑したように言う倉本さん。

 誤解は解いたはずだが、ルカ選手に対する害敵認定は続いていたようだ。


 ともあれ。

 イタリア代表との特別強化試合に向けて、まずは全体ミーティングからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ