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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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268 特別強化合宿直前の自主トレとオフシーズンのダイジェスト

 正月休みも終わり、世間は浮ついた雰囲気を残しつつも日常に戻りつつある。

 特に社会人は仕事始めを迎えて数日経ち、もはや正月気分など遥か過去の様相。

 その何とも言えない虚しい感覚は俺も前世では何度も味わったものだが、今生の俺はプロ野球選手などという大それた存在になってしまった。

 前世の普通からはかけ離れてしまったこの日々こそが今の日常だ。


 そんな俺も含めたプロ野球選手は現在、そのほとんどが2月1日から始まる春季キャンプに備えて自主トレーニングに励んでいる。

 その中には合同自主トレという形で仲間と共に汗を流している選手もいる。

 球団主導の新人合同自主トレ然り。

 名の知られた選手がリーダーシップを発揮し、誰が呼び始めたのか○○塾のように銘打って後輩を集めて行う場合もある。

 去年、俺が参加した安藤塾なんかは正にそれだ。

 何ごともなければ今年もお邪魔しようかと漠然と考えていたのだが……。

 諸事情でこちらの都合が合わなくなったので見合わせる運びとなっていた。


「……来週からは日本代表の特別強化合宿かあ」


 理由は正に昇二が口にしたそれ。

 昨年。落山さんが記者会見で発表した日本代表特別強化合宿と特別強化試合。

 その参加者は次回WBWの暫定的な日本代表選手であり、村山マダーレッドサフフラワーズからは俺とあーちゃん、美海ちゃん、昇二、倉本さんが選ばれていた。

 その日程が安藤塾と被っていたのだ。

 更に言えば、春季キャンプの大半も俺達はこちらに参加することとなる。


「球団を代表して行くんだから、恥を晒したりするなよ?」


 地元のいつもの屋内野球練習場。

 別に野村塾化してる訳ではないが、自然と一緒になった自主トレーニング中。

 ふと呟かれた弟の昇二の言葉に対し、正樹がやや強い口調で言う。


 彼はこの場で唯一の選外となっている。

 日本シリーズで満塁ホームラン2本放つ大活躍を見せたものの、リハビリの関係でレギュラーシーズンには1試合も出場していなかったのだ。

 当然と言えば当然のことだろう。

 なので当面の間、俺達とは別行動となる。


「まあ、昇二は大丈夫だ。十分やれるさ」

「十分じゃ困る。圧倒して貰わないとな」


 言い方はキツいが、ステータス的に言えばそれはその通りではある。

 期待の裏返しという奴だろう。


「う、うん。頑張る」


 弟であるだけに昇二もそれは分かっているようだ。

 彼は当たり前のように受け止め、そう応じていた。


「それより正樹。1人選外だからって無駄に焦ったりするなよ? 一応、来週以降のことは新垣さんや大法さんにフォローを頼んであるからな」

「……子供か、俺は」


 何とも嫌そうな表情を浮かべて言う正樹に苦笑する。

 その傍らで昇二が軽く首を傾げながら口を開く。


「青木さんと柳原さんじゃないの?」

「あの2人は2月の理学療法士の試験に向けて追い込み中だからな。卒業自体はもう決まってるから、それが終わったらまたサポートしてくれるけど」


 そう昇二に答えてから正樹と向き直る。


「春季キャンプも俺達はほとんど不在になるけど、周りと仲良くな」

「だから俺は子供かよ」


 わざとらしく嘆息してから半目で見てくる正樹。

 まあ、彼は中学生から1人親元を離れて寮生活をしていたのだ。

 ジュニアユース、ユースと大人との関りも多かっただろう。

 むしろ幼馴染組の皆より余程世間慣れしているかもしれない。

 だが、普段から割と険がある態度だから少しばかり心配になってしまうのだ。

 昨シーズンは別メニューが基本で、ほとんどチームに帯同してなかったからな。

 余りチームメイトとのコミュニケーションも取れていないだろう。


「秀治郎、兄さんは人づき合いはそう悪くないよ」

「嘘」


 俺の代わりにあーちゃんが脊髄反射のように言う。

 そんな彼女の簡潔な否定に昇二は困ったように笑う。


「野球絡みで穿った目で見てくる人には厳しいのと、僕達には身内に対する甘えみたいなのが出てるから態度が悪いだけで」

「昇二。黙ってろ」

「ごめん、兄さん」


 ううむ。内弁慶的な奴か。

 振り返ってみれば、日本シリーズのヒーローインタビューもV&R野球盤での受け答えもちゃんとしてはいたしな。

 野球と関係ないところにいる正樹を見たのは数える程だし、更に他人と関わっているところとなると尚更のことだ。

 プライベートを知っている昇二の評価の方が正しいのは間違いないだろう。

 なら、まあ、そこは彼を信じよう。

 後は気が逸ってさえしなければ、何の問題もないはずだ。


「何はともあれ、正樹。とにかくWBWに間に合えばいいんだからな。言っちゃ何だけど、現在の立ち位置なんてどうだっていいんだ」


 むしろ秘密兵器としてギリギリまで隠しておきたいまである。

 そのことは何度となく伝えてある。


「耳にタコだ。今更焦ったりはしない」


 俺の念押しに、正樹は一層呆れたように応じる。

 さすがにちょっとしつこ過ぎたかもしれない。


「今シーズン。順当に大暴れして、WBWで見せ場を掻っ攫ってやる」

「ああ。それでいい」


 正樹はとにかく怪我をしないこと。

 今シーズンに関してはそれだけだ。

 通年で働きさえすれば、落山さんではなくても間違いなく日本代表に選んで貰えるはずだからな。何故なら――。


「右で故障したから左で再起。そして4人目の完全二刀流。まるで漫画よね」

「ああ。バッターとしての復帰だけでも相当話題になってたからな」


 あのバッティングだけでも既に「今回の選考に加えてもよかったのでは?」と一部野球ファンの間で言われている程だ。

 数字を積み上げさえすれば、誰もが認めてくれるだろう。


「……ふん。あれぐらいで騒ぎ過ぎだ」


 正樹は澄ました顔で言っているが、彼自身あの日本シリーズでの活躍で長期のリハビリで溜まった鬱憤が相当晴れたのは間違いないはずだ。

 しかし、まあ、そこは指摘すまい。


「にしても、忙しかったわね。このオフシーズン」

「いつの間にか年を越して、いつの間にか強化合宿直前っすよ」

「……秋季キャンプ。契約更改。ファン感謝祭と優勝パレード」


 しみじみと言った2人に続き、あーちゃんが指を折って数えるようにしながら日本シリーズ以後にあったイベントを並べ立てていく。

 昇格初年度で日本一になったこともあって確かに忙しないオフシーズンだった。


「優勝パレードはホントに賑やかだったわよね」

「山形駅の目抜き通りにあんなに人が集まるなんて、ビックリしたっす」

「県民のほとんどが来たって聞く」

「観客数100万人だったらしいっすからね」

「県の人口くらいよね……」


 まあ、他県からも来ていただろうから数の上での話だろうけどな。

 パレードのルートも異例の長さだったみたいだし。


「そしてCM撮影。テレビ撮影。CM撮影。テレビ撮影。テレビ撮影」

「2人は特にそうだったわよね」

「楽しかったけど、アレの投票最下位は不服」

「それは仕方ないでしょ……」

「コーディネート対決はみなみんの勝ち。コスプレ対決はウチの勝ちっす!」


 前者はともかくとして、後者についてはあーちゃんも普通だった。

 だが、やはりと言うべきか。

 俺とセットみたいな感じのチョイスになっていたこともあって、視聴者の投票先がこちらに偏ってしまったらしい。

 なので、どちらもあーちゃんが最下位という結果に終わってしまっていた。

 勝者は倉本さんが言った通り。

 コーディネート対決は普通にファッションセンスのよかった美海ちゃん。

 コスプレ対決はワールドワイドかつ誰の目にも分かりやすかった倉本さん。

 順当な結果だったと思う。


 ちなみに、勝者はその時に着た衣服、衣装をプレゼントされている。

 敗者となったあーちゃんには罰ゲームがあった。

 コーディネート対決の方は彼女が選んだ服を自腹で購入した上、着用者が各々サインを書いて全て視聴者プレゼント送り。

 コスプレ対決の罰ゲームは倉本さんチョイスのコスプレ衣装を着せられるという内容に決まり、後日番組内の同コーナーでその様子が放送された。

 特に要請されてはないが、俺も同じテーマでコスプレして並んで撮影している。

 それなりに視聴率もよかったらしい。


「V&R野球盤も、勝ててよかったわね」

「秀治郎君は演出家なんすから」

「いやあ……」


 あくまでも機械が相手だから超集中状態なら打てるってだけだ。

 Max250km/hモードだとモーター音が余りにも違い過ぎるからな。

 遮音シートで対策されてあるとは言え、射出口は解放されている。

 超集中状態まで行けば、そこから覗くローラーの回転速度でも分かってしまう。

 今のところは癖が明らかな投手と戦っているようなものだ。

 その辺りメーカーに改良の依頼を出してあるものの、現状はそれでも他人が使ってコースを突かれれば【離見の見】なしに打つのは容易いことではない。

 最終的な俺の実力はそれも含めてのものであるにせよ、まだまだ練習が必要だと改めて思わされた。

 ……いや、まあ、ステータス上あり得るとは言っても、人体を顧みない投球をしてくるとはさすがに信じたくないところではあるが。


「って言うか、日本一なのに働き過ぎじゃない? 私達」

「慰安旅行みたいなご褒美でもあればいいんすけどね」

「……そうだな」


 ハワイへの優勝旅行なんかは前世では定番だったんだけどな。

 まあ、大リーグではハワイに限らずそんなものはなかったそうだけど。

 それこそ野球狂神が大リーグ贔屓だから、その影響を受けているのか。

 あるいは、プロ野球選手の海外渡航は親善試合やWBWでもなければ好ましくないという風潮でもあって慣習化しなかったのか。

 今生では影も形も存在していなかった。

 精々、個々で温泉旅行に行ったりして英気を養うぐらいのものだった。

 俺達は広報活動で忙しく、自発的に行く余裕はなかった。

 シーズン中は遠慮していた両親に草津への旅行をプレゼントして、ゆっくりと過ごして貰ったりはしたけれども。


「まあ、今年のオフシーズン……は翌年3月にWBW本戦が控えているからアレだけど、来年のオフシーズンには皆で慰安旅行にでも行ってみるか」

「ん」「いいわね」「大賛成っす!」

「……全く、呑気な奴らだな」


 そんな俺達の様子を見て、正樹がやれやれと首を振った。


「張り詰め過ぎても仕方ないだろ」

「だとしても、海外の代表に舐められたりするんじゃないぞ。秀治郎」

「ああ。分かってるよ」

「ふん」


 鼻を鳴らす正樹。

 来年の話はあくまでも来年の話。

 それこそWBW本戦が終わってからでもいい。

 まずは目の前に迫る特別強化合宿に臨もう。

 そうして翌週。

 俺達は特別強化合宿と強化試合が行われる沖縄県の本島へと向かったのだった。

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