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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章幕間

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262 契約更改の傍らのトレード

 シーズンオフに行われる諸々を引っ括めて指し示す用語であるストーブリーグ。

 今正に契約更改の真っ只中な訳だが、当然ながらそれが全てではない。

「諸々」の中には選手や首脳陣の去就も含まれてくる。

 故に、この時期を日本プロ野球界の別れの季節と捉えることもできるだろう。

 例えばFA、トレード、勇退、そして戦力外通告からの自由契約。

 中には前向きな別れもあるものの、数だけで言うなら後ろ向きな別れが大半だ。

 割合のほとんどを占めるのは、残念ながら最後の事例となる。

 これは毎年ドラフト会議で新人が入ってくる以上、仕方のないことだ。

 システム的な宿命としか言いようがない。


 自由契約となった上で他球団から声をかけられることもなかった者は、一縷の望みをかけて1部リーグ残留最後のチャンスである合同トライアウトに挑む。

 それでも尚、残念な結果に終わってしまったとしたら。

 その選手は基本、日本プロ野球1部リーグの表舞台から姿を消すことになる。

 一応、今生では私営2部リーグや3部リーグから声がかかる可能性が高いが、それを救いと捉えていいかは当人ならぬ身では分かり得ない話だ。


 公営の方だったらいざ知らず、私営のそこから1部リーグまで再び這い上がってきた選手なんて本当に数える程しか存在しないからな。

 勿論、少なくとも生活面では大きな助けになるのは間違いないけれども。

 そうは言っても人間の感情というものは複雑なもの。

 そうした状況を素直に受け入れることができるかは、また別の問題となる。

 満足してプロ野球界を去ることができる選手などそうはいないのだ。


 まあ、それはさて置き。

 そんな時期であるだけに、我らが村山マダーレッドサフフラワーズからも球団に別れを告げることになる選手が出てきていた。

 しかし、幸いなことにネガティブ一辺倒なものではない。

 ウチのそれは、まだ前向きなものと言うことができた。


「秀治郎、ありがとな。お前の提案のおかげで、俺達は日本一経験者という肩書きを持った上で今後しばらくの間はキャリアを続けていけそうだ」


 実際。改めて個別に別れを告げに来てくれた高梁さんの表情は晴れやかだった。

 日本一。即ち全24球団の頂点。

 その難易度は、球団数が多いだけに前世よりもシンプルに高い。

 それこそ創設から1度も日本一になったことのない球団がいくつもある。

 結果、その栄誉を最後まで得られずに引退していく選手がほとんどだ。

 そう考えると、その経験の有無は野球人生では相当大きなインパクトを持つ。

 だからこそ。

 日本一の栄誉を得た事実は、彼らにとっても明確な区切りとなったはずだ。

 正にそれを示すように。


「トレード先でも十分活躍することができたしな。やっぱり試合にフルで出場できるってのは格別だった。何だかんだ言って、俺もちゃんと野球人だったんだな」


 同じく球団を去ることになった長尾さんも、何とも清々しげな顔をしていた。

 トレードということで当初はやはり色々と複雑な気持ちもあっただろう。

 だが、今では随分と前向きに捉えてくれているのが見て取れる。


「お2人共、れっきとしたプロ野球選手ですよ」

「そうか?」

「そうですよ」

「そうか」


 高梁さんと長尾さんの2人は、クラブチーム時代からこの村山マダーレッドサフフラワーズに所属している比較的古参の選手だった。

 しかし、俺達のせいで出場機会が少なくなってしまっていた。

 その状態の解消も含めた様々な思惑の中で彼らは期間限定で他球団に移籍することとなり、今シーズンの大半をそこでプレイしてきた。

 今年の5月上旬から数えて約5ヶ月。

 彼らはそれぞれの移籍先でレギュラー争いにしっかりと勝利し、その上でそれに見合った数字を残してきてくれた。

 おかげで、期待していた通りに先方から完全移籍の打診があり……。

 この契約更改のさ中、金銭トレードで移籍することが決まったのだった。


 正に村山マダーレッドサフフラワーズブランド構築の第一歩と言えよう。

 そう思っていると――。


「秀治郎選手。俺達にもありがとうを伝えさせてくれ」


 今度は高梁さんとのレンタル・トレードによって北海道フレッシュウォリアーズから一時的に移籍してきた本野選手に頭を下げられた。


「選手として色々と世話になったことは勿論、外様の俺達まで日本シリーズに出場させてくれたこと、俺も本当に感謝している」


 隣には長尾さんとのレンタル・トレードによって千葉オケアノスガルズから一時的に移籍してきた茂田選手もいて、彼もまた本野選手に倣う。


 北海道フレッシュウォリアーズと千葉オケアノスガルズ。

 この2球団は残念ながらプレーオフに進出することができなかった。

 逆に村山マダーレッドサフフラワーズは日本シリーズまで戦い抜いた。

 そのため、契約通り高梁さんと長尾さんはチームに戻ってきた一方で、茂田選手と本野選手はこちらに所属したままという一種のタイムラグが生じた。

 結果、4人共日本シリーズに出場することができ、うまく全員に村山マダーレッドサフフラワーズ初代日本一メンバーという箔をつけることができたのだった。


「秋季キャンプにも参加させてくれたこともな」


 つけ加えるように本野選手が言う。


 日本シリーズが終わった今となっては。

 契約上、茂田選手と本野選手は既に元の球団の所属選手ということになる。

 繰り返しになるが、今回のこれはあくまでもレンタル・トレード。

 完全移籍ではない以上は、彼らの最終的な保有権はウチにはない。

 大きく立ち位置が変わった今となっては再びトレードの弾となる可能性も低い。

 秋季キャンプにせよ、本来ならば元の球団のものに参加すべきだろう。


 ただ、秋季キャンプの日程は時期的にプレーオフと大部分が重なっている。

 となれば今シーズンの日本一を争った2球団、村山マダーレッドサフフラワーズと東京プレスギガンテスのそれが24球団中最も短くなるのは必然的なこと。

 所属選手にとっても同様で、大幅に遅れてのスタートとなる。

 元の球団の秋季キャンプに参加すべきとは言っても、中途半端な時期から慌ただしく戻っていったところで相手側も厳しいものがあるだろう。

 そもそも参加選手として名前が挙がっていない訳だしな。

 以上の理由もあり、関係各所で調整した上で彼らを村山マダーレッドサフフラワーズの秋季キャンプに参加させていたのだった。

 今日はその最終日だ。


「もし村山マダーレッドサフフラワーズに移籍することもなく、野手へのコンバートもせずにいたとしたら……そんな風に考えると心底ゾッとするよ」


 言いながら、身震いするような素振りを見せる本野選手。

 そんな彼の言葉を重く受けとめたように深く頷きながら、茂田選手も口を開く。


「たとえ千葉オケアノスガルズが日本シリーズまで勝ち上がったとしても、前のままの俺だったら出場機会が巡ってくることなんてまずなかっただろうからな」

「自分で言うのも何だけど、村山マダーレッドサフフラワーズに来るまでの俺達はうだつの上がらない1.5部リーグ選手みたいなものだった訳だしな」


 それは紛うことない事実だ。

 とは言え、率直に「うん」と頷くのは憚れる。


「ですが、今のお2人だったら主力として試合に出ることができるはずです」

「……そうだな。そうありたい。いや、そうしてみせる」


 自分に言い聞かせるように同意を示し、茂田選手は決意を新たにする。

 実際、野手としての指標は1部リーグのレギュラー選手と遜色ないものだった。

 練習を余程サボったり、怪我や病気になったりしなければ当面は安泰だろう。


「まずは交流戦。可能なら日本シリーズでやり合いましょう」

「いや、交流戦はいいとして、日本シリーズはな……」

「今シーズンの兵庫ブルーヴォルテックスと宮城オーラムアステリオスの強さを見た限りじゃ、さすがに厳しそうだ」


 まあ、それもその通りではある。


 高梁さんと本野選手が加わる北海道フレッシュウォリアーズ。

 長尾さんと茂田選手が加わる千葉オケアノスガルズ。

 どちらも公営パーマネントリーグの所属球団だ。

 つまるところ、本野さんが挙げた2球団と競い合うことになる。

 今シーズンリーグ優勝した兵庫ブルーヴォルテックスには磐城君がいるし、2位の宮城オーラムアステリオスにも山崎一裕選手がいる。

 この2球団を押しのけて日本シリーズに出場するのは至難の業だろう。

 それでも――。


「まあ、やるだけやってみよう」

「……そうだな」

「1度限りの野球人生だしな」

「懸命にやれば、今回みたいに何かが変わるかもしれない」


 前向きに新たな門出を迎えることができたおかげか、全員意欲的だ。

 その調子で磐城君や山崎選手を脅かして欲しいものだ。


「……さて。俺達はもう行くとするよ」

「本当に、優勝パレードもファン感謝祭も出ないんですか?」


 4人を代表するように切り出した高梁さんに問う。

 11月末にはそれらが予定されているのだが……。


「ああ、折角ではあるけどな。移籍先の球団に早く馴染めるように、古巣に後ろ髪を引かれないように。あちらのファン感謝祭に参加する。そう決めた」


 改めてキッパリと告げる高梁さん。

 既に聞かされていたことだが、考えは変わらないようだ。

 他の3人も同様。

 いずれも高梁さんと同様の覚悟を抱いているのだろう。

 であれば、これ以上口を出すのは野暮というものか。


「分かりました。新天地での活躍を、心から祈っています」

「秀治郎も、日本代表選手として派手に暴れる姿を見せてくれ」

「はい。勿論です」

「じゃあな。次会う時は敵同士だ」

「容赦はしませんよ」

「当然だろう?」


 最後に軽い口調で笑い合ってから、去っていく彼らの背中を見送る。

 思えば、これがプロ野球選手としては初めての仲間との別れだな。

 少し切なくも思うが、今後こんな風に円満に行くことは極めて稀なことだろう。

 それでも、この村山マダーレッドサフフラワーズに所属したからには。

 可能な限り、互いにとって有益な形になるようにしたい。

 そう思いながら、俺もまた練習球場を後にしたのだった。

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