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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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306/409

247 対磐城君2打席目

 3回の表。村山マダーレッドサフフラワーズの攻撃。

 9番バッターの木村さんからの打順だったが、彼は既に三振に倒れて1アウト。

 2回の表に3者凡退した3人と同じように、3段階のカーブに翻弄された形だ。

 そして打順は1番に戻り、あーちゃんが右のバッターボックスに立つ。

 第1打席は小さな迷いからキャッチャーファウルフライという結果に終わった。

 今度は絶対に同じ轍を踏まないとばかりに表情を引き締めている。

 まあ、家族と精々幼馴染組ぐらいしか気づけない程度の変化ではあるけども。


 そんな気合い満タンな彼女に対し、磐城君はテンポよく投球を開始した。

 初球はシュート。

 ボールゾーンから鋭く大きく曲がってアウトコース低めギリギリに入ってきた。

 名誉挽回とばかりに再びカーブを狙っているあーちゃんは振りに行かない。

 この様子だと、追い込まれるまで他の球種に手を出すことはないだろう。


「ストライクワンッ!」


 キャッチャーからの返球に続き、すぐさま送られてきたサインに磐城君が頷く。

 そのまま、ほとんど間を置かずに2球目が投じられた。

 その投球モーションの途中で、あーちゃんは何故か小さく首を傾げた。

 恐らく【生得スキル】【直感】が何かしらの反応を示したのだろうが……。


「ストライクツーッ!」


 カウントにはまだ余裕があったこともあり、あーちゃんは2球目も見送る。

 1球目の時とは違い、よくよく見極めようとするような頭の動きが見て取れた。

 球種は初球と同じくシュート。それは間違いなかった。

 しかし、磐城君の持ち球であるところのシュートとしては変化が半端だった。

 勿論、ツーシームとかよりは余程大きく曲がっているし、キレもあるけれども。

 普段のシュートを10、ツーシームを1とすると6~7ぐらいの変化量だ。

 どうやら、あーちゃんは直前にそれを【直感】して訝しんでいたようだ。

 彼のステータスとこれまでの実績から言って、単純な投げミスのはずがない。

 となれば、意図してそうしていると考えるのが妥当だろう。


「カーブだけじゃなく、シュートの変化量も制御してきたか」


 そう確信した俺は、ネクストバッターズサークルの中で笑みを深めた。

 素直と言えば素直。

 単純と言えば単純。

 客観的に見ると微々たるものとしか思われないかもしれない。

 それでも俺達にぶつけるために、こうして新しい武器を用意して臨んでくれた。

 そのことが実に喜ばしい。


 こちらから特別に指示を出したりせずとも、当たり前にそうすることができる。

 そういったことが今後は何よりも重要になってくる。

 レジェンド擁する現行のアメリカ代表は遥か遠いところにいる。

 そんな彼らを真っ向から打ち破ってWBWを制覇するには、絶え間なく自分自身をアップデートしていくことが必要不可欠だ。

 とは言え……。


 ――カンッ!


 新戦術を1巡目は隠しておくなど最大限効果的に使おうとしていたのは分かる。

 だが、この場はタイミングと相手が悪かった。

 あーちゃんは1打席目の迷いを反省し、最優先課題としてとにかく迷わず振り抜くことを強く意識して2回目の打席に立っていた。

 彼女はシュートの存在に囚われていなかった。

 だからノーボール2ストライクからの3球目。

 狙っていたカーブ(大)が来たため、彼女はそれを普通に打ち返した。

 一旦タイミングを外そうとしていたのか僅かにボール球ではあったが、うまくすくい上げた打球はライトの前に落ちる。

 結果的に綺麗な流し打ちのヒットとなっていた。

 1塁に到達したあーちゃんは、カーブを打ち直して満足したように胸を張る。

 そんな彼女の姿に微苦笑しながら、俺は左のバッターボックスに入った。


「さて」


 1アウトランナー1塁という場面だ。

 未だに1-0というスコアのままだし、盗塁するのも悪くない状況ではある。

 村山マダーレッドサフフラワーズはこの試合、まだ得点圏にランナーがいる状況で打席が回ってきたことがないからな。

 あーちゃんはレギュラーシーズンでの盗塁成功率が高い。

 それもあって、彼女は概ね自分の判断で盗塁することを許可されてたりもする。

 いわゆるグリーンライトという奴だ。


 ただ、牽制やクイックモーションといったスキルも万全で球速も球界トップクラスに速い磐城君相手に盗塁を仕かけるのは大分リスキーだ。

 やるとしてもチェンジアップやカーブの時に留めるべきだろう。

 といった考えと共にあーちゃんに視線を向けると、小さな頷きが返ってくる。

 どうやら【以心伝心】でコンセンサスが取れたようだ。


 そうしている間に磐城君が投球モーションに入る。

 1球目は内角への直球。

 コースは高くもなく低くもなく。

 しかし、ストライクゾーンからボール2個分内側の厳しいところ。

 それを冷静に、大きく仰け反ったりはせずに見送る。


「ボール」


 キャッチャーからの返球。サイン交換。

 頷いた磐城君は2球目の前に素早く1塁を牽制。

 対して、あーちゃんは【直感】で先んじて動き出して普通に足から帰塁した。

 勿論、リードはしっかり大きく取った上での話。

 だからこそ、兵庫ブルーヴォルテックスバッテリーも盗塁を警戒している。

 恐らく追い込むまでは速い球を中心に組み立ててくるだろう。

 緩い球でなければ彼女は走るつもりがないが、わざわざ杞憂を解く必要もない。

 バットを構え直して2球目を待つ。

 磐城君が投げる。

 今度はシュートだ。

 1球目と似た軌道から入ってくるフロントドア。

 高さはやや甘い。だが、これも見送る。


「ストライクワンッ!」


 今度はあーちゃんに投げたものよりも更に変化が小さかった。

 むしろ変化が大きいツーシームと見なした方がいいぐらいだ。

 どうやらシュートも最低3段階の制御を行っているらしい。

 ……そろそろ振っていくか。

 狙うは磐城君の新しい武器であるカーブかシュートのどちらかだ。

 そう思ったが、また牽制を挟む。

 更にその直後の3球目は外角低めへのカットボールだった。

 よく見知った球を打っても今後のためにはなるまいと構えから力を抜く。


「ストライクツーッ!」


 バックドアを軽く見送って1ボール2ストライク。

 追い込まれてからの4球目。

 ここでカーブが来た。

 回転数と回転軸から判断する限り、中……。

 いや、大……でもない!?

 丁度、その中間ぐらいだ!

 小中大ではない4段階目のカーブ。

 どうやら、これも今の今まで隠していたらしい。

 コースはストライクゾーンに入るか入らないか、際どいところ。

 超集中状態の引き延ばされた時間の中、自然と口角が上がっていくのを感じる。

 情報にない球に挑んでこそ、より多くの経験値が貯まろうというものだ。

 ファウルで逃げることは難しくない。

 それでも己自身の明日の糧とするため、俺は長打を狙って打ちに行った。


 ――カキンッ!!


 ボールの中心をバットの真芯で叩く。


「ちっ」


 打球の行方を見て、思わず舌打ちする。

 ほんの僅か。数mm程度カーブの変化量を読み違えてしまった。

 バレルゾーンに乗せることができず、打球角度がほとんど出ていない。

 低い弾道のライナーにショートが飛びつく。

 しかし、打球速度が凄まじく速く、その手が届くことはなかった。


 ――バコンッ!!


 やや流し打ち気味の鋭い打球は約2秒でセンターフェンス直撃。

 あーちゃんは4球目の球種がカーブだと【直感】した段階で盗塁を企図し、磐城君が投球モーションに入ってすぐに走っていた。

 ただ、跳ね返ってきた球が余りにも速過ぎた。

 ほとんどすぐにセンターから2塁にボールが返ってきてしまう。

 ヒットエンドランを決めた上に打球が外野を抜いたにもかかわらず、彼女は本塁に帰ってくることもできずに3塁ストップ。

 俺は俺で1塁どまりだった。

 また観客をどよめかせるような打球にはなったものの、記録はシングルヒット。

 どうあれ、塁打数はたったの1に過ぎない。

 ……この打席はほとんど磐城君の勝ちのようなものだな。


 ともあれ。

 村山マダーレッドサフフラワーズは3回表にしてようやく、この試合初めて得点圏にランナーがいる状況を作り出した。

 ここは後続に任せるとしよう。

 とは思うが、折角のランナー1塁3塁の状況。

 初球から盗塁を仕かけてランナー2塁3塁の状況を作っておく。

 キャッチャーはあーちゃんのホームスチールを警戒して送球すらしなかった。

 簡単に2塁を陥れて1アウトランナー2塁3塁。

 ノーボール1ストライクのカウントから。


 ──カンッ!


 3番打者の昇二は若干振り遅れ気味ながら、きっちりと外野に打球を上げた。

 犠牲フライには十分な飛距離。

 レフトはもはや1点は仕方がないと判断したようだ。

 とにかく俺がタッチアップで進塁しないように3塁へと直接送球した。

 これでは走れない。

 2アウトランナー2塁。しかし、一先ずこれで2-0となった。

 更にチャンスが続く。


『4番、セカンド、倉本未来』


 ここで年間最多安打記録を作った彼女が打席に入る。

 ワンヒットで生還できるはず。

 そう思ったが、兵庫ブルーヴォルテックスベンチから指示が出て申告敬遠。

 2アウトランナー1塁2塁となった。

 とりあえず更に1つ塁が埋まったが……。

 5番の崎山さんが今度は3段階シュートに惑わされてショートフライ。

 スリーアウトチェンジ。

 結局のところ村山マダーレッドサフフラワーズは、僅か1点追加したのみで3回表の攻撃を終えてしまったのだった。


 ……こうなると、状況次第では次の俺の打席も勝負を避けられてしまうかもな。

 正直、残念な気持ちがないとは言えない。

 だが、これも勝つために足掻こうとしている証でもある。

 日本シリーズという負けられない短期決戦の舞台だ。否定はすまい。


 続く3回裏の兵庫ブルーヴォルテックスの攻撃は8番打者から。

 初回ヒットを打った佐藤壱郎選手も含めて3人連続でアウトとなり、3者凡退。

 4回表の村山マダーレッドサフフラワーズもまた、同じように3人で終わる。

 そうして4回裏。

 兵庫ブルーヴォルテックスの攻撃は2番打者から。

 今度は確実に4番打者である磐城君に回る打順だ。

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