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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編
302/392

243 2度目のドラフト会議の傍らで

『まずは本日行われたドラフト会議の様子をダイジェストでお送りいたします』


 アナウンサーのその言葉を合図にホテル備えつけの大型テレビの映像が切り替わり、ドラフト会議のハイライトが次々に映し出されていく。

 当日のゴールデンタイムに毎年放送されている特別番組の1つだ。

 ハイライトの最初は時系列通りに支配下選手指名の場面から。

 各球団の未来を(比較的)高確率で担うことになる選手達の名前と守備位置、そして出身校が1巡目から順に畳みかけるように読み上げられていく。

 あの特有の()は編集で細かくカットされていて、余韻も何もない。

 そういうのを求めるならノーカット版を視聴してくれと言わんばかりだ。


「……それにしても、今年は何か普通だったっすね」

「去年がおかしかっただけよ」


 ちょっと詰まらなそうな顔で言う倉本さんに、美海ちゃんが呆れ気味に言う。

 実際、今年は22球団競合だとか女性選手の指名といったこともなく、全体的に控え目な印象を受けるドラフト会議だった。

 競合した選手はいたものの、精々何人かが2~3球団の指名を受けた程度。

 勿論、それでも十分凄いことではあるのだが……。

 この世界の日本プロ野球史に深く刻まれたであろう去年のドラフト会議と比べてしまうと、地味に感じてしまうのも仕方のないことだった。


「いや、今年も1球団、明らかにおかしいからね」


 そんな2人の会話に、思わずといった様子で昇二が突っ込みを入れる。

 普通なのも、地味なのも。

 全て村山マダーレッドサフフラワーズを除いての話だ。

 その異常な指名の仕方は専門家を混乱させ、2年連続で世間の話題をさらっていることもまた事実ではあった。

 もっとも、今年のイカれ具合は去年とは全く別ベクトルのものだけれども。


『私営リーグのほとんどは支配下登録選手の人数の関係で育成選手指名はなし。村山マダーレッドサフフラワーズもまた、ここで指名を終えた訳ですが……』

『今年も非常識な指名を繰り返して、会場を異様な雰囲気にしていきましたね』

『こう言っては何ですが、指名した選手は尽く東北の無名選手でした。その意図が一体如何なるものか、明らかにして欲しいところです』

『個人的にも去年に輪をかけて常人には理解できないドラフト指名でしたが、今シーズンは1年を通して台風の目と化していた村山マダーレッドサフフラワーズの選択ですからね。何か壮大な計画が隠されていそうな気もしてしまいます』


「ん。この人は見る目ある?」

「と言うよりも、迂闊なことが言えなくなってるんじゃないか?」


 一旦スタジオに戻って画面にアップで映し出されたアナウンサーと解説員の表情をよく見ると、どことなく苦いものが滲み出てしまっている。

 今回のドラフト会議で村山マダーレッドサフフラワーズが指名した選手は漏れなく実力も実績も不足していて、誰がどう見ても不可解極まりない。

 去年の5位6位はどちらもそこそこあったが、それとは比較にならないレベルだ。

 それだけに、本当ならこれ幸いとばかりに批判したかったに違いない。

 しかし、それが的外れになった時を思うと二の足を踏んでしまうという感じだ。

 実際、去年村山マダーレッドサフフラワーズを散々貶してくれた有識者達が、今シーズンの結果を突きつけられて大恥をかいているからな。

 そうなる気持ちも分かる。


 プロ志望届提出者一覧に入り込んだ謎の無名選手の存在がもっと周知され、激しく炎上していればまた少し違ったかもしれない。

 だが、幸いなことに燃え広がる前にドラフト会議を迎えることができた。

 そのまま恙なく指名するに至ったおかげで、懸念していたようなネガティブな反応はネットの海でも今のところは少ない感じだ。

 特別番組の解説員と同じように、今の村山マダーレッドサフフラワーズのすることなら何か意味があると様子を見てくれているのかもしれない。

 中には、ある種のハンディキャップとして捉えている人もいたりしたが……。

 何にしても俺達は結果を出すだけだ。


「もっと本音で語ってくれりゃいいのにな」


 と、微妙な空気に包まれているスタジオの様子をいつものようにホテルの一室に集まって眺めていた俺達の中から、何とも皮肉っぽい声が発せられた。

 だが、それは「いつものように」にはこれまで含まれていなかった者の言葉だ。


「そうすりゃ下手な喜劇よりも笑えることになるだろうによ」

「兄さん。その笑うって嗤うじゃない?」

「ふん」


 困ったように問いかけた昇二に対して軽く鼻を鳴らしたのは、その兄の正樹。

 肩腱板修復と2度目の靱帯再建の手術を受け、これまでリハビリに専念していた彼もプレーオフには帯同していた。

 公営リーグならばあり得ない話だが、現状の村山マダーレッドサフフラワーズは選手の人数が支配下登録選手の上限である70人を大幅に下回っている。

 そのため、リハビリ中だった正樹もずっと支配下登録選手だ。

 プレーオフの出場資格者名簿に入る条件である「8月末までに支配下登録されていること」を満たし、尚且つ所属選手が上限の40人未満。

 なので、正樹も当然そこに入ってくる。

 勿論、投手としては来シーズン途中の復帰を想定しているが……。

 実は打者としてなら出場しても問題ないと医者のお墨つきも貰った状態だった。


 ただ、俺にとって彼は正にギリギリまで隠しておきたい隠し玉。

 なので、今シーズンは試合に出すつもりはなかった。

 だが、さすがにリハビリの鬱憤がかなり溜まっているという指摘もされていた。

 そこで首脳陣で相談の上、ここまで復帰に向けて懸命に頑張ってきた一種の御褒美として日本シリーズのどこかで打席に立たせようと連れてきたのだった。


「嗤った奴を嘲笑ってやるのが、今の俺のモチベーションだからな」


 正樹はそう言いながら悪役のように口の端を吊り上げる。

 これは周りを見返そうという倉本さんに近いメンタリティだ。

 いや、出会った順番からすると逆か。

 正樹も昇二も、小学校の頃からこの暗い原動力に突き動かされてきた訳だしな。

 俺の立場では彼らに倉本さんが近いと言った方がいいかもしれない。

 類は友を呼ぶと言うべきか。

 誰かと競い合う誰もが持ち得るモチベーションと言うべきか。

 いずれにしても、成長の一助になってくれるのであれば何の問題もないだろう。


「秀治郎、磐城巧と大松勝次とは必ず対戦させてくれ」

「ああ、勿論。クジ引きのおかげで両方共機会があるからな」


 日本シリーズの開催は明後日から。

 村山マダーレッドサフフラワーズはビジターゲームからのスタートで、明日敵地球場にて前日練習を行うことになっている。

 その関係で選手達は全員、前々日入りしてホテルに泊まっているのだった。


「ハードと言えばハードな組み合わせではあるけど、これでよかったのかもね」

「あの2人がいる球団どちらとも当たって圧倒した上で日本一になることができたら、誰も文句を言えない完全勝利になるっすからね」

「そうだな」


 倉本さんの発言に同意して頷く。


 プレーオフは大きな波乱もなく各リーグの優勝球団がそのまま勝ち抜けた。

 唯一私営ウエストリーグは最終戦までもつれ込んだが、まあ、そこに関してはレギュラーシーズンを見てもそうなるだろうと誰もが予想していた。

 完全に1勝のアドバンテージが活きた形だ。

 これがなければどうなっていたかは分からない。

 とは言え、どんな形であっても日本シリーズ進出は日本シリーズ進出。

 その喜びもプレッシャーも彼ら自身のものだ。


 ともあれ、こうして日本シリーズに出場する4球団が出揃った。

 公営セレスティアルリーグからは東京プレスギガンテス。

 公営パーマネントリーグからは兵庫ブルーヴォルテックス。

 私営イーストリーグからは村山マダーレッドサフフラワーズ。

 私営ウエストリーグからは岡山ローズフェザンツ。


 会話の中にもあった通り、日本シリーズの組み合わせはクジ引きで決まる。

 そしてプレーオフ終了直後に行われたそれの結果。

 日本シリーズ準決勝ステージは、兵庫ブルーヴォルテックス対村山マダーレッドサフフラワーズと東京プレスギガンテス対岡山ローズフェザンツに決まっていた。

 だから、うまく勝ち進めば磐城君とも大松君とも対戦の機会がある。

 アチラの首脳陣の判断次第では、彼らと投げ合える可能性もある。

 たとえズレてしまっても、少なくともバッターとして勝負できることは確実だ。


「……楽しみだな」

「ああ。大松勝次のジャイロボールもどきの抜けスラと磐城巧の3段階カーブ。全て俺が打ち砕いてやる」

「その意気だ」


 闘志を燃やす正樹に思わず笑みを深める。

 彼という存在は間違いなく磐城君や大松君に更なる刺激を与え、また新たな切磋琢磨の切っかけになってくれるに違いない。

 そう改めて確信しながら、俺自身も日本シリーズに向けて気持ちを引き締める。

 そして、その翌々日。

 まず兵庫ブルーヴォルテックスとの準決勝ステージが始まったのだった。

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正樹期待してるぜ
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