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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編
301/392

242 レギュラーシーズン終了後

 今季最後の試合を経て、私営ウエストリーグの順位もようやく全て確定した。

 結局、2試合を残していた1位の岡山ローズフェザンツが2連勝と最後に意地を見せてリーグ優勝を決めたものの、最終的に18もの借金を残す結果となった。

 リーグ優勝した球団としては史上ワーストの記録だ。

 まあ、そもそも借金持ちでリーグ優勝すること自体が日本プロ野球史上初の出来事なのだから、当然のことではあるけれども。

 同一リーグ全球団借金フィニッシュというのも含めて、正に負の記録尽くし。

 残念リーグと揶揄されていた私営ウエストリーグだったが、後年記録だけを振り返ると公営2リーグよりも目立つことになるのは間違いない。

 一方で私営ウエストリーグに所属する球団のファンの心中は察するに余りある。

 決して掘り起こさず、歴史の闇の彼方へと葬り去って欲しいに違いない。


 とは言え、今はレギュラーシーズン全日程終了直後。

 世間の目は一先ず過去よりも近い未来へと向いている。

 即ち、間もなく始まるプレーオフ。ドラフト会議。そして日本シリーズへと。

 その先には契約更改も待ち受けている。

 今季の総括を改めて行うにしても、少なくとも日本一が決まってからだろう。

 そして、それは球団と選手も同じことだ。

 プレーオフ進出が決まっていれば目前に控えたそれにフォーカスを当てるし、そうでない球団も来季に向けた戦力拡充に動き出さなければならない。


 そんな中で村山マダーレッドサフフラワーズは。

 前者であるべき立場にありながらも、その関係者のほとんどがプレーオフの先に待ち構えているイベントに意識を向けていた。

 何故かと言えば、単純な話。


「アドバンテージの1勝があって3戦先勝方式。しゅー君が2回投げれば勝ち確」

「秀治郎君が2回出張るまでもないわ。2戦目で私が投げて終わりにするもの」


 とにもかくにも、あーちゃんと美海ちゃんの言葉に尽きる。

 今の村山マダーレッドサフフラワーズにとって、リーグ優勝によって得られたプレーオフ決勝ステージでの1勝というアドバンテージは絶対的。

 スポーツに絶対はないとは言っても、これは残念ながら無限の試行回数があればサルでもシェイクスピアを書き上げられるというのと同レベルの非現実的な話だ。

 この戦力差を僅か4戦の中で覆せるのなら、わざわざ転生者など別の世界から呼び寄せるまでもなく、歴史のどこかでアメリカ代表に勝つことができただろう。


 いずれにしても。

 客観的に見て、プレーオフは労せず突破することができる。

 村山マダーレッドサフフラワーズはそれぐらいの認識でいた。

 そうなると、自然と1つ先のイベントが視界に入ってくる。


「そう言えば、秀治郎君。今年のドラフト会議ってどうするの?」


 実際、一部選手は美海ちゃんと同様に球団史上2度目のそっちを気にしていた。

 ある意味それこそが1年で最大の見せ場でもある球団編成部などは当然その比ではなく、プレーオフの動向になど目もくれず最後の調整に全神経を注いでいる。

 スカウト会議に参加して彼らの状況を確認したから分かる。


「方針は前に聞いてた通り?」

「勿論。変更はないよ」


 美海ちゃんの質問に頷きながら答える。

 ちなみに今は、山形県内の練習球場で軽く汗を流した後の小休憩中だ。

 今日は完全オフの日だが、体が鈍らないように皆で集まっている。

 とは言え、やはりプレーオフのことは皆も特に意識していない様子。

 まあ、無駄に意気込む必要はない。

 練習そのものに対する緊張感が失われていなければ別に問題はないだろう。


「もう少しでプロ志望届の提出期限だったわよね?」

「プレーオフ直前が締め切りだからな」


 ドラフト会議そのものは日本シリーズ直前。

 言い換えればプレーオフ直後のイベントだ。

 しかし、アマチュア選手がドラフト指名候補となるためには、事前にプロ志望届を然るべき野球連盟に提出しておく必要がある。

 その締め切りはドラフト会議の2週間前と定められており、それがプレーオフ開始の直前辺り。つまるところ、丁度今の時期となる。

 もっとも、ドラフト指名濃厚な選手ともなればプロへの意欲も高く、普通は締め切りギリギリにプロ志望届を出すようなことはしない。

 プロ志望届が出ていればスカウトが選手と直接面談できるようにもなるので、今時期には球団としてもドラフト方針は大体固まっていて然るべきというところ。

 勿論、大学生辺りは秋のリーグ戦もあってギリギリのところで評価が変動してしまうこともあるかもしれないが……。


「リストアップしてた子達って、全員プロ志望届を出してくれたんすか?」


 そんなところを心配して戦々恐々としていたのは、それこそ村山マダーレッドサフフラワーズぐらいのものだろう。


「秀治郎、中々信用してくれないって言ってたよね?」

「ああ――」


 昇二の問いかけに、そんな状況に至っていた経緯を頭の中で整理し直す。


 正直なところ。

 現状の村山マダーレッドサフフラワーズには即戦力すら全く必要がない。

 145勝17敗というゲーム染みた結果を叩き出しているのだから当然だろう。

 極論、誰も指名しなくても来シーズンのリーグ優勝は堅い。

 制度上、ドラフト会議で指名する義務もないので、放棄したっていいぐらいだ。

 出場選手登録の上限が29人から増える訳でもないからな。


 とは言え、支配下登録選手は70人が上限。

 レギュラーシーズンはともかく、プレーオフや日本シリーズでは8月末までに支配下登録されている選手から40人、出場資格者名簿に組み込むことができる。

 さすがに70人は多過ぎるが、とりあえず40人ぐらいはいてもいい。

 怪我や不調時の入れ替えもある。

 私営リーグの球団はそんな感じで選手を囲っているのが現状だ。


 そういった諸々を鑑みて。

 俺は数年先に活躍できればいいレベルの完全素材型の選手を指名する方針で、村山マダーレッドサフフラワーズ球団編成部と合意を得ていた。

 つまるところ現時点での実力など二の次三の次。

 契約上は支配下登録選手だが、ほとんど育成選手のような立ち位置だ。

 いや、それすらも相当下駄を履かせた評価だろう。


「現時点では実力も実績もない選手ばっかだからな……」


 それこそ地方大会の1回戦負け、2回戦負けの選手も含んでいるぐらいだ。

 俺達が指名しなければ、競技としての野球からは引退せざるを得ないレベル。

 編成部が撮影してきてくれた動画をレギュラーシーズン中も暇さえあれば確認してリストアップしたのは、そういった選手がほとんどだった。

 さすがに数が多過ぎて、東北地区の選手に限定せざるを得なかったけれども。

【マニュアル操作】の力でステータスを見て【生得スキル】を持ちながら、その才能が完全に埋もれてしまっている子を優先的に探した。

 後は素行を調査して貰い、調査書を送って貰った訳だが……。


「自分がプロ野球選手として1部リーグの球団に指名されるとはとても思えないよね。正直、僕だって最初は信じ切れなかったし」


 実績も実力もない自覚がある選手だけに、悪戯や詐欺と思われるのがほとんど。

 規定でプロ志望届を出すまでは直接具体的なことを伝えることもできず、スカウトが練習の視察に出向いても冷やかしとしか思われていなかったようだ。


「けど、最後には全員提出してくれたよ」

「そうなんだ。じゃあ、一安心だね」


 まあ、それまでに結構な擦った揉んだがあったと聞いているけれども。


 何せ、プロ志望届の提出者は普通に世間に公表されるのだ。

 彼らの立場でプロ志望届を出して万が一にも指名されなかったら、恥なんて生温いものじゃなく、それこそ生き地獄にもなりかねないからな。

 この野球に狂った世界では、野球に砂をかけるような真似は許されない。

 勘違い野郎として一生ネットのオモチャにされてもおかしくない。

 と言うか、もう名前が野球連盟のホームページで公表されているはずだから、既にどこかで燃え始めている可能性もある。

 球団編成部は最大限そのフォローも行う心積もりでいる。


 勿論、彼らも。と言うよりも、今生の世界観の中で育ってきた彼らだからこそ。

 全て承知の上で、特権階級たる1部リーグのプロ野球選手という立場と一時の非難とを天秤にかけてプロ志望届を出す決断をしているのは確かだ。

 それでも、こちらにも今後の野球界のためにも誰の目も届いていないところから逸材を発掘してこなければと彼らに選択肢を与えた責任がある。

 だから、実際にドラフト会議で指名した後もまだ炎上しているようであれば、俺も可能な限り矢面に立って鎮火に努めるつもりだ。


 とは言え、今は。入団交渉権の獲得を待つしかない。

 その前に俺が口を出すと、また余計な拗れ方をしかねないからな。

 隠れた原石と認識され、他球団にかっさらわれでもしたら誰も得しないし。


「何にせよ、入団はもう決まったも同然か」

「言っちゃ悪いっすけど、そこで競合することはあり得ないっすからね」

「でも、僕達もプロ野球選手として先輩になるのか。大丈夫かなあ」


 どことなく不安そうな顔で言う昇二。

 来年になれば否が応でも後輩と向き合わなければならない訳だが、あくまで高卒の新人であって今は大卒や社会人の選手を取る気はない。

 年上の後輩というややこしい存在はいないので、そこは安心して欲しい。


「ま。そうやって新人が加わって、構想から外れた選手は引退するか自由契約やトレードで出ていって、毎年毎年顔触れが入れ替わっていくのがこの世界だからな」


 現状では、年上の後輩もそうだが、村山マダーレッドサフフラワーズは戦力外でクビになるような選手も当面は出ない予定だ。

 しかし、数年もすればそうせざるを得なくなる時が来るだろう。

 そういった部分から生じる人間関係の複雑さもまたプロという特殊空間。

 いずれは慣れていかなければならない。


「顔触れと言えば、高梁さんと長尾さんも帰ってくるのよね」

「ああ。次の全体練習から復帰する予定だな」


 レンタル・トレードで他球団に移籍していた2人のことだ。

 移籍先の北海道フレッシュウォリアーズと千葉オケアノスガルズは残念ながらプレーオフ進出を逃してしまったため、レンタル期間は終了。

 プレーオフ開始前に村山マダーレッドサフフラワーズに戻ってくる。

 逆にレンタル・トレードで移籍してきた本野さんと茂田さんは、村山マダーレッドサフフラワーズがプレーオフを勝ち残っている限りレンタル期間のままだ。


 今生ではレンタル・トレードの特別規定としてレンタル先で支配下登録されていれば、いずれにしてもプレーオフの出場資格を得られることになっている。

 そして出場資格者名簿の上限が40人。

 なので、彼らは4人共プレーオフに出場することができる訳だ。

 余裕があれば、全員に日本シリーズに出場をして貰いたいとも考えている。


「高梁さんと長尾さん、来シーズンはどうするんすかね。アッチの球団で早々にレギュラー定着して活躍してたみたいっすけど」

「まあ、多分。今回のレンタル先に移籍することになるんじゃないか?」


 出場機会が得られる分、それは彼らにとっても悪い選択肢ではないからな。

 本野さんと茂田さんも元の球団に戻る可能性が高い。

 と言うより、レンタル・トレードの期限が切れたら2人の所属はそちらだ。

 高梁さんと長尾さんの移籍は、別の選手か金銭でのトレードとなるだろう。

 4人共、村山マダーレッドサフフラワーズブランドの第1号ということになる。

 とりあえず日本一経験者という箔をつけた上で、他球団で更に目を引くような活躍してブランド力を高める一助になって欲しい。


「けど、それも日本シリーズが終わってからだな」


 プレーオフ前でそれは捕らぬ狸の皮算用だ。

 しかし、それがフラグになるようなことは結局なく……。

 村山マダーレッドサフフラワーズは、プレーオフ決勝ステージをサクッと2連勝して日本シリーズへと駒を進めたのだった。

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