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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編
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240 対話は思考の整理

「っと、君達、大丈夫か?」


 あーちゃんの質問に回答しようとしたところで、落山さんはふと何かに気づいたように言葉をとめてスタッフがいる方に顔を向けながら声をかけた。

 視線を辿ると、その先にいたのは諏訪北さんと仁科さん。

 2人は何やらモジモジしている。

 そんな彼女達の姿と対談前の出来事が紐づいてピンと来た。


「あー、えっと、すみません。あの子達、今回の落山さんとの対談に凄く緊張して待合室でお茶をがぶ飲みしていたもので……」


 俺の言葉に諏訪北さんと仁科さんが揃って恥ずかしそうに縮こまる。

 心なしか顔も赤い。

 一応配慮して言葉尻を濁したつもりではあるが、足りなかったかもしれない。

 とは言え、今は身内しかいない動画撮影ではなくコラボの現場。

 逆に伝わらない方がマズいので、分かりやすくすべきではあるだろう。


「じゃあ、ここらで一旦休憩しようか」


 対して落山さんはしっかり意を汲んでくれて、対談は小休止となった。

 諏訪北さんと仁科さんはペコペコ頭を下げながら、そそくさと部屋を出ていく。

 落山さんはそれを微笑ましげに見送っていた。

 気を悪くした様子はない。

 丁度いい。この間に別の用事を済ませておこうか。


「あの、落山さん。少しよろしいですか?」

「ん? ああ、構わないよ。何かな?」

「実は村山マダーレッドサフフラワーズではこれからジュニアユースチームとユースチームを設立するのですが、指導者として誰かご紹介いただけないかと……」

「成程」


 落山さんは腕を組み、しばらく考え込む。

 それから1つ頷いて再び口を開いた。


「それなら何人か候補がいるよ」

「ホントですか?」

「ああ。指導者ということであれば、少し前に引退した飯谷哲平君と新葉篤識君がいいと思う。彼らは俺から見ても思考が柔軟でクレバーな選手だったからね」

「飯谷さんと新葉さん……ありがたいです」

「ん。わたしでも聞いたことのある選手」


 現役時代をテレビ越しに見た限りでは、俺の印象も落山さんと同じだ。


 まず飯谷さん。

 彼はWBWには出場していないこともあって若干地味な部類に入ってしまう選手だが、盗塁王になったこともある走攻守に優れた選手だった。

 特筆すべきは守備力の高さで、選手毎、1球毎にポジショニングを大胆に変えていて、それが的外れに終わるようなことはまずなかった。

 派手なダイビングキャッチのファインプレイのようなものはほとんどなかったものの、守備範囲が非常に広く、いとも容易く捕球しているようにも見える。

 理想的な守備職人という感じだった。


 次に新葉さん。こちらもWBWには出ていない。

 飯谷さんと同じく三拍子揃っている中で特に守備が評価されている選手だが、両者共に長打力はトップ層に比べると劣ると言わざるを得なかった。

 フィジカル重視な風潮から、体格で勝る外国人に真正面から対抗する。

 そのためにWBWの選考も長打力優先なところがあり……。

 当時4年に1度だった開催タイミングと打撃のキャリアハイがズレてしまったせいもあり、2人共WBWに出場する機会を得られなかった。


 ちなみに世間的には、新葉さんは奇抜な選手と見なされることが多い。

 パフォーマンスや盤外での言動の方が目立っていたからだ。

 更にここぞという場面で奇策を用いることもあり、それが特番などで何度も取り上げられたせいで世間の印象はエキセントリックなものに寄っている感じだ。

 まあ、根拠あっての奇策であることは間違いなくて、それもまた思考の柔軟性とクレバーさが見て取れるエピソードでもあるんだけどな。

 その部分ばかり繰り返し話題にされると、奇抜さが本体みたいな評価になってしまうのも無理もないことだろう。


「確か飯谷さんは現在地方のテレビ局で解説員をなされていて、新葉さんは色々と手広く活動されていたかと思いますが」

「よく知っているね。ただ、まあ、どちらも指導者として野球に携わりたい気持ちは強いようだから、オファーすれば恐らく余程のことがない限りは受けてくれると思うよ。長期間続けてくれるかは……分からないけどね」


 少し含みを持たせるように言う落山さん。

 こちらとしても5年、10年と続けて欲しい訳ではない。

 その辺りも彼は見抜いているようだ。


 俺の構想としては彼らに山大総合野球研究会の誰かをサポートとしてつけ、最終的には彼らに下部組織の監督・コーチを移行していく形を考えている。

 その頃には飯谷さんと新葉さんには村山マダーレッドサフフラワーズの首脳陣のポストを打診してもいいし、他のオファーがあればそれを受けて貰ってもいい。

 とにかく今は目先のこと。いわゆる1期生をタレント揃いにするために、訴求力を可能な限り高めておきたかった。

 創設期を恙なく乗り切ることができれば、後は如何様にもできるはずだ。


「勿論、最終的に交渉が成立するかは君達次第だ」

「はい。それは分かっています」

「…………あの、落山さんは指導者をなされないんですか?」


 と、自分の提案を捨て切れなかったのか、あーちゃんが問いかける。


「ああ……いや、これまでもオファーはあったんだけどね。全て断っていたんだ」

「なら」


 そのあーちゃんの言葉を、落山さんが軽く手を上げてとめる。


「実は新しくオファーがあってね。内々の話だけど、それを受けるつもりなんだ」

「それって、もしかして――」

「撮影をとめてしまい、申し訳ありませんでした……」

「もうー、大丈夫ですー」


 丁度質問を遮るように、諏訪北さんと仁科さんがお手洗いから戻ってきた。


「撮影を再開しようか」

「……はい」


 改めて尋ねる空気でもなくなってしまったため、あーちゃんは渋々頷いた。

 そのまま動画撮影に戻る。

 中断前の話題は「最近のピッチャーが進歩しているかどうかについて」だ。

 俺も頭を切り替えよう。


「君の旦那さんや磐城選手、大松選手は別格として、それを除いても急激に進歩していると思うよ。明らかに平均球速は速くなっているからね」


 前の撮影部分から繋がるように答える落山さん。

 この100年の間、日本人の体格は年々大きくなっていっている。

 野球選手という括りで見ると、その傾向は一層強くなる。

 今生では特にフィジカル面を重要視しているからだ。

 なので、投手の平均球速は自ずと早くなる。

 たとえメカニック的な部分の研究が不足していても、だ。


「このままピッチャーの進化が進めば、ちょっとしたボタンのかけ違いで打者十傑から3割打者がほぼいなくなるといったこともあり得るんじゃないかと思うよ」


 前世で諸に投高打低だった年を思い出し、ちょっとドキッとする。

 勿論、ボールの反発力のような環境要因によっても大きく左右される部分であるだけに、一概に数字だけを見て言えることではないだろう。

 しかし、このままでは少しずつ置いてかれるんじゃないかという懸念はあった。

 バッティングは、ピッチングよりも開拓の余地が少ない気がするからだ。


「野球が野球である以上、どこまで行ってもバッティングは受け身ですからね」


 ピッチングはそれこそ平均球速もそうだし、入れ替わり立ち代わり新しい変化球がトレンドに上がったりとスペック的な進化が素人目にも分かる形で起きている。

 一方でバッティングは、要素に分解できる部分が比較的少ないということもあるだろうが、進化というよりも調整に終始しているような印象があった。

 100を101にするよりも、100を対戦環境に合わせてバランスよく割り振りし直すことを優先していると言うべきか。

 勿論、バッターだって体格は大きくなってはいるが、その上積み分以上にピッチングの進化への対応に配分せざるを得なくなっているようにも感じるのだ。

 それが続けば、いずれ大きく水をあけられることになるのではないかと思う。

 勿論、俺の知らないところでパラダイムシフトが起きている可能性もあるし、これから起こる可能性もあるけれども。


「スイングスピードを維持したまま、引きつけて正確にコンタクトする。それでも全てに対応することは徐々に難しくなっていくでしょう」

「そうなると、どうなる?」


 試すように問う落山さんに、少し考える素振りを見せてから口を開く。


「配球を読む。ヤマを張る。必然的にこれらの重要性が高まると思います」

「うん」


 俺の答えに彼は満足そうに頷いた。


「勿論、だからって苦手な球や難しい球を狙っても仕方がないけどね。自分の得意な球、得意なコースと照らし合わせて最も確率が高いところで打つのが重要だ」


 当然ながら、ヤマを張ると言っても行き当たりばったりではいけない。

 膨大なデータを基に確率の高いものを選ばなければならない。

 突き詰めれば、データを最重要視する方向に進んでいくことになるのだろう。

 それ自体は別に構わない。

 根拠のないプレイに終始するよりは、その方が余程いいのは確かだ。


「ただ、どうせヤマを張るならコンタクト重視のバッティングより一発を狙った方がいい。開き直ってそうなっていく可能性もあります」


 結論の出し方は大分異なるが、いわゆるフライボール革命の方向だ。

 前世でそれが広まった要因の1つとしては、打球がどの方向に飛びやすいかを集計したデータを基に選手毎に極端なシフトを取るようになったことが挙げられる。

 その結果、内野ゴロが抜けにくくなり、外野にフライを飛ばした方がヒットの確率が高いという結論に至った。

 更には強い打球を上げられれば、そのままホームランになる可能性だってある。

 得点確率もその方が高い。

 ある種、脳筋打線にお墨つきを与えるような考え方だ。


 フライボール革命そのものには打ち方も大きく関わってくるが、詳細は省く。

 今生で重要なのは極端なシフトの方だ。

 ピッチングに加え、守備も牙を剥いてくるのがバッティングの辛いところだな。

 前世ではさすがに行き過ぎているとルールの改正で禁止される運びとなったものの、WBWで勝つことが至上の目的であるこの世界では恐らくそれはない。

 パワーはアメリカが有利なのだから、わざわざ不利になることはしないはずだ。

 戦術として外野に飛ばすことが重要になってくるだろう。


「特に現アメリカ代表のバッターはその傾向が顕著です」


 まあ、彼らは配球だのヤマだの関係なく容易にホームランを打つことができる選手達なので、また少し話が違ってくるが。

 緻密で高度な技術を土台にしながら更にフィジカルでも圧倒する。

 WBWで見たアメリカ代表の印象はそれだ。

 勿論、追い詰められたらまた別の顔を覗かせるかもしれないが……。

 まずはそこまで行かなければ話にならない。


「そんな中で日本がどうやって戦っていくか。それを模索することが重要だね」

「はい。野球は頭のスポーツでもありますから。とにかく考えていかないと」


 そういったところを動画の結論として撮影は終わった。


「今日は対談できてよかった」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 落山さんと会話していく中で、色々と考えが整理できた部分もある。

 本当にありがたい。

 得がたい機会だった。


「また会おう」

「え? あ、はい!」


 和やかな雰囲気の中、落山さん達と別れて滞在先のホテルに戻る。

 それから数日後。

 落山さんの日本代表監督就任が発表されたのだった。

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