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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第2章 雄飛の青少年期編
120/388

110 始まりは3年振りの対決から

 1回表。我らが山形県立向上冠中学高等学校中学野球部の攻撃。

 先頭打者として、まず俺がバッターボックスに入る。

 初っ端から正樹との勝負だ。

 3年振り2度目だな。


 このバッテリーの基本的な投球の組み立て方については、公式戦の記録をプロ野球個人成績同好会が分析したデータと【戦績】から大体把握してはいる。

 とは言え、今日の主役は俺自身ではない。

 まずは1番打者の第1打席らしく待球作戦と行こう。


 正樹が1度首を横に振る。

 それから1つ頷き、振りかぶった。

 投じられた球はおおよそ145km/hのカットボール。

 少し遠いな。そう判断して見送る。


「ボールッ!」


 アウトコース低めにストライクゾーンから鋭く曲がり、ボール1個分外れた。

 普段は割とストレートを多投し、イケイケでストライクを取りに来るバッテリーなので大分珍しい入り方だ。

 相手が俺ということで、正樹が警戒したのかもしれない。


「ボールツーッ!」


 2球目はインコースの更に内側へのストレート。

 踏み込めば当たりそうなコースだったが、最小限の動きで避けて見送る。

 3球目。似たようなコース。内のボールゾーンに速い球が来る。


「ストライクワンッ!」


 振る素振りも見せずに見送ったそれは小さく曲がり、ストライクゾーンに入ってきて2ボール1ストライク。

 いわゆるフロントドアとか呼ばれる類の変化とコース。

 球種は初球と同じカットボールだ。

 続けざまにテンポよく4球目が投じられる。


「ストライクツーッ!」


 今度は外角のボールゾーンから逆に入ってくるツーシーム。

 こちらはバックドアとか呼ばれる球だ。

 ……ここまで速い球が続いたな。


 5球目。案の定と言うべきか、敵バッテリーは緩急を使ってきた。

 緩い球。チェンジアップ。

 正樹はそれを、インコース低めギリギリにしっかりコントロールしてきた。

 見送ればストライクを取られる。

 見逃し三振になってしまうだろう。

 ここで今日の試合初めて振りに行く。


――キンッ!


「ファウルッ!」


 弱い打球が3塁側ベンチに転がっていく。

 カウントは2ボール2ストライクのまま。

 仕切り直して6球目。

 外角のストライクゾーンから逃げていくカットボール。

 ボール半個分外れるぐらいの変化。

 大分臭いところだ。

 ストライクと判定されてもおかしくない。

 踏み込んでファウルにする(カットする)


 7球目。インコースからボールゾーンに食い込むツーシーム。

 変化がやや大きい。

 ボールと判断して見逃す。

 これで3ボール2ストライク。

 フルカウントだ。


 8球目。インコース低めのチェンジアップを叩く。3塁線切れてファウル。

 9球目。インコース高めの真っ直ぐをカット。

 打球は真後ろに飛んでバックネットの壁にぶち当たる。


「ファウルッ!」


 粘る俺に正樹は眉をひそめ、それから諦めたように小さく息を吐いた。

 これ以上はつき合っていられないと思ったのだろう。

 10球目は外にボール2個分外したストレートが来た。

 まあ、手を伸ばせばカットできなくもないが……。


「ボールフォアッ!」


 この場は手を出さずにフォアボールを選ぶ。

 とりあえずノーアウト1塁だ。


 次のバッターはあーちゃん。

 打つ気を感じさせない立ち姿で、ぼんやりとバットを構えている。

 正樹達バッテリーは、今度は強気に攻めていく。


「ストライクツーッ!」


 ストレートがコーナーに2球続き、あーちゃんは簡単に追い込まれた。

 3球目。

 10球も俺に球数を使ったこともあってか、遊び球なしでカットボールがアウトコース低めへと投じられる。

【以心伝心】で彼女が打ち気になったのが分かったので、俺は2塁へと走った。


――カンッ!


 力のないボテボテのゴロが1、2塁間に向かって転がる。

 ピッチャーの正樹が駆けていって捕球。

 素早く振り返って2塁に投げる。

 ダブルプレー狙いのいいフィールディングだった。

 1塁走者が俺でなければアウトを2つ取ることができただろう。

 しかし、ステータスカンスト+スキルで強化された走力で盗塁気味に走っていた俺は、ボールが到達するより早く2塁に至っていた。


「セーフッ!」


 2塁ベースを踏みながら正樹からの送球を捕ったショートが、素早い動きで1塁にもボールを送るが――。


「セーフッ!」


 あーちゃんもまたアウトにはならず、オールセーフ。

 記録は野選。フィルダースチョイス。

 打者を1塁でアウトにできるのに、他の走者をアウトにしようとした結果、特にエラーもなく全員セーフになった時につく記録だな。

 これでノーアウト1塁2塁。チャンス拡大だ。


 打順はクリーンナップに入る。3番の美海ちゃん。

 正樹がセットポジションから1球目を投じる。

 前情報や【戦績】通りの組み立てに戻り、アウトコース低めに直球が行く。


――カキンッ!


 それを狙いすまし、美海ちゃんは積極的に振っていった。

 芯を食った打球は、コースに逆らわずライト方向へ。

 中々に鋭い当たり。

 もし抜けていれば長打になっただろう。

 しかし。

 ライナー性の当たりの行き先は、ライトのほぼ真正面だった。

 少し後ろに下がっただけで、危なげなくキャッチされてしまう。


「よし」


 その瞬間に俺は走り出した。

 ライトフライからのタッチアップで3塁に向かう。

 位置関係的にライトから3塁への送球は1塁や2塁に比べれば遠い。

 加えて、捕球体勢のせいでタイムラグがあった。

 おかげで、俺は余裕を持って3塁に到達することができた。


 1アウト1塁3塁。

 迎えるのは4番の磐城君。

 初回からいいシチュエーションで彼に回すことができたな。


「くそっ!」


 3塁からだとよく見える正樹の表情には、悔しさが滲んでいる。

 磐城君が活躍できるように御膳立てする。

 そんな俺の思惑通りに、試合開始早々ことが運んでしまった。

 俺の意図が読めているだけに、苛立ちもひとしおというところだろう。


「正樹、切り替えろ!」


 女房役の古谷健治君がタイムをかけてマウンドに向かい、正樹に檄を飛ばす。


「まだヒットは打たれてないからな!」

「ああ。分かってる」


 古谷君の言う通り、今のところ四球、野選、ライトフライとヒットはない。

 まあ、美海ちゃんの当たりはよかったが……。

 初回の立ち上がり。正樹的にも自分の感覚はそう悪くなかったのだろう。

 正樹は大きく息を吐き出すと、表情を引き締め直した。


 うん。落ち着いたみたいだな。

 中学生としては突出した能力を持つために、正樹はピンチに陥る経験が乏しい。

 今日の試合で存分に味わって欲しいところだ。

 まずは、その状況で初の新旧神童対決。

 俺が育てた2人の真剣勝負。3塁上から楽しませて貰うとしよう。

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