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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第2章 雄飛の青少年期編
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099 直談判

 磐城君の両親に直談判する。

 そう言っても、相手は医療法人の経営者。

 しかも、聞くところによると山形県でも割と大きなスポーツ病院らしい。

 磐城整形外科スポーツクリニック。

 磐城君の父親はそこの理事長で、母親は理事なのだそうだ。

 いくら息子の友人とは言え、1度も家に遊びに行ったこともない人間がアポなしで会うのはそう簡単な話ではないだろう。

 今のような状況で磐城君からお願いして貰うのも中々に難易度が高い。

 そんなこんなで、俺は明彦氏を頼った。

 もとい、彼の父親(あーちゃんの祖父)経営の食品加工会社の伝手を利用した。

 何でも病院食や病院食堂関連で取引があり、磐城君の父親と面識があるそうだ。


「彼、そんなにいい選手なのかい?」


 目的地、磐城整形外科病院へと向かう車の中で明彦氏が尋ねてくる。

 俺がここまでするのが不思議なようだ。

 しかし、俺の中では当然なすべき対応と言ったところ。

 磐城君にはそうするだけの価値がある。


「国の宝にもなり得るレベルです」

「…………秀治郎がそこまで言うのなら、間違いなさそうだな」


 普通の感覚では大袈裟にしか聞こえないような言葉。

 だが、明彦氏はそのまま受けとめてくれた様子だった。


 彼とはそれこそ10年以上のつき合いがある。

 更には、微力ながらクラブチームの状況を改善させた実績。

 そういったものの積み重ねのおかげで信用してくれている訳だ。


 まあ、実際。

 俺が口にしたことは決して嘘ではないし、過言でもない。

 もっとも、宝が1つしかないとも言ってはいないけれども。

 いずれにせよ、磐城君がWBWの貴重な戦力になるのは間違いない話だ。


「もしクラブチームに勧誘することができれば、それこそ私営1部昇格までの道のりを大幅に短縮できますよ」

「……そうか。だったら、彼には是非とも野球を続けて貰わないとな」

「ええ。本当に」


 そんな風に話していると、やがて磐城整形外科スポーツクリニックに到着する。

 駐車場にとめた車から降り、エントランスで受付をして理事長室へと向かう。

 そして先頭を切って室内に入った明彦氏の後に俺達も続いた。

 当然と言うべきか、あーちゃんもついてきている。

 ずっと隣にいた。黙ったままだけれども。

 まあ、今日は状況が状況だけに無言を貫きそうだけどな。


「磐城理事長、お久し振りです」

「鈴木専務。今日はどうされました?」


 挨拶はそこそこに、早速要件を尋ねてくる磐城君の父親。

 ネームプレートを見るに、フルネームは磐城大吾と言うらしい。

 事前に人となりを聞いた限りでは、かなり合理的な人物とのことだった。

 今のやり取りだけだと、単にせっかちな人という印象だけれども。


「ええ。今日はご子息の磐城巧君のことでお願いがありまして」


 その辺り明彦氏も分かっているからか、世間話もせず本題を切り出す。


「お願い、ですか?」


 対する大吾氏は、さすがに想定外の用件だったらしく怪訝な表情を浮かべた。

 普通に仕事関係の話だと思っていたのだろう。

 そうやって大吾氏が戸惑う間に。


「はい。どうか巧君に野球を続けさせてあげて下さい」


 明彦氏がド直球で要求を口にする。


「…………何故、貴方がそんなことを?」

「彼に野球をやめさせることは、野球界にとって大きな損失となり得るからです」

「何を、馬鹿な」


 一層のこと不審そうに明彦氏を見る大吾氏。

 これが普通の反応というものだろう。


「……あの子は小学校の時、クラブ活動チームでさえ補欠でした。成長らしい成長もなかった。あのタイプの子は、統計的に野球で頭角を現す目はありません」


 スポーツドクターであるだけに、経験的に【成長タイプ】というものが存在することを薄っすらと理解しているのだろう。

 同時に【成長タイプ:マニュアル】の末路もまた。


「だからこそ別の道を歩むべきだと野球をやめさせたのです」

「地方大会とは言え、公式戦の決勝戦に登板したのにですか?」

「球数制限で登板できなかったエースの代役に過ぎなかったと聞いています。しかも、あの子が打ち込まれて敗退してしまったとも」


 誰から聞いたかは分からないが、どうやら上辺だけの情報しか知らないようだ。


 恐らく大吾氏は磐城君が山形県立向上冠中学高等学校に入学した時点で、後は医者への道を粛々と歩むものだと疑っていなかったのだろう。

 まさか自分の息子がそれに反し、あの学校の体裁も怪しいような野球部に入るなどという非合理的極まりないことをするはずもない、と。

 故に、この状況に及んでも彼が実力をつけたという考えは頭の中にないのだ。

 入ってきた情報も自分の認知に基づいたものだけを認識している。


「巧君は、地方大会決勝戦以外でもレギュラーとして出場していたそうですよ?」

「出場していたとしても所詮数合わせ。活躍できなければ意味がないでしょう」


 やはり明彦氏が伝聞形式で伝えても響かない。

 活躍したと告げても、世辞か何かとしか思わないだろう。

 必要なのは主観的な賛辞ではなく、客観的な事実だ。


「活躍したかどうかも含め、磐城君の価値を説明させて下さい」


 横から俺が口を挟むと、そこで初めて大吾氏は顔をこちらに向けた。

 場違いな子供として、認識の外に置いていたようだ。

 一々言及する意味もないと判断されていたのだろう。

 とりあえず、こちらも特にそこには触れず話を進めることにする。


「まずは、この資料を御覧下さい」


 そして俺は、クリアファイルに挟んで持ってきた紙を大吾氏の前に差し出した。

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