第一話
前々から、僕らの高校のある町は、
なにかが、おかしかった。
ずっとそうとは、思ってたんだ。
実際のところは、
「おかしい」なんてどころじゃ、なかった。
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特に僕が、
「この町はなにかがおかしい」と
思うようになった、
きっかけの出来事といえば・・・。
ある秋口のこと。
下校途中の、
田んぼの間を抜ける県道を、
自転車を転がしながら歩いていた時。
向こうからやってきた若い女の人が、
それも、
両腕にびっしりと切り傷があって、
既に乾いているとはいえ、
血が垂れた何筋かの痕が腕に残っている、
そんなノースリーブのワンピース姿の
若いきれいな、
そんな青白い肌の女の人が、
「すいません。サナトリウムはどこですか?」
と僕を呼び止め訊いてきた。
「え?サナトリウムって何ですか?」
突拍子もない質問だったとはいえ、
高校生だった僕、
スナオに、いちおう立ち止まって、
そう、マジメに聞き返した。
「こういう場所なのですが」
そう言って彼女は、
カバンからうすっぺらなパンフレットを取り出し、
その表紙を僕に示した。
その表紙に載っていた写真は、
青空の下の、ひろびろとした緑の芝生地。
周囲を森林に囲まれている中に、
赤い屋根の牛舎のような建物が数棟と、
古い風車が写っている。
(ああ、「牧場」のことか)
僕はそう思って、
その場所への行き方を、
彼女に懇切丁寧に教えてやった。
というのも。
その「牧場」というのは、
なんのことはない、
僕らが通っていた県立高校の
背後にそびえる小高い山を
登って行った先にある場所なのだ。
ただし「牧場」というのは、
あくまで僕ら10代の
男子高校生のアイダでの呼び名。
実際は、何の施設なのか、
さっぱりわからない。そんな場所。
けれども、僕は、
素直に教えた。
「ありがとう」
女性はか細い声でそう言うと、
僕が示したほうへ、
ふらふら、
ふらふらと、
歩いていった。