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誘拐された先で

全部の作品にいいね!、を押してくださっている方がいて、感激です! 嬉しすぎます! ありがとうございます!



 誘拐されるなんて、普通に生きていたら経験することなんてまずない経験だろう。


 そう。

 そんなレアな誘拐を今まさに経験しているのは、だーれーだー?



 ……はい、私です




 こんな経験したって、ぜんっぜん、嬉しくともなんともない。むしろ、経験したくなんてない。


 身体は縄で縛られてあちこち痛いし、身体の自由を奪われているのは単純に辛いのだ。


「さて、ここは一体どこなのかしら」


 埃くさい室内を見渡してみる。


 だけど、わかったことは少ない。


 だって、見えないのだ。なんにも見えない。見渡す限り真っ暗なのだ。


 そうやら、私は暗闇の中で囚われてしまっているようだ。


「不安になっても仕方がないわ。まずは、現状把握よ」


 縛られた手でも手探りで辺りを触っていく。


 ザラザラとした手触りで、どうやらロクに掃除のされていない場所であることがわかった。

 それでも、かろうじて室内ではあるみたいなのは、雨風を防げる点ではいい。

 だけど、逃げ出すには不利なのかも。


 この場合、どうなんだろうか。






 1つ大事なことは、着衣の乱れはないってこと。そして、身体の違和感も何もない。


 今のところ、誘拐されはしたけど、私の身体は汚されていない。




 それだけも気持ちが軽くなる。




(よかった。ひきもり姫だって言われてたって、やっぱりそういうことは好きな人とが良いもんね)










 さぁ、それでどうやってここから逃げ出そうか。


 一安心したところで、次第に頭が働いてくる。


 芋虫のようにクネクネと身体をくねらせてなんとか壁際まで移動してみた。


「うぅぅぅ。助けて。お願い」


 逃げているうちに誰かの叫び声が聞こえてきた。



(え…………私以外にも人がいるの?)



「いたい、いたいよぉ。お兄さまぁあ。…………お願い、お家に帰して。帰りたいの。う、うぅぅぅ……っ」


 泣いてる女の子の声はか細く、掠れている。きっと、家に帰りたくてずっと泣いていたんだろう。


 それに、かなり血の匂いがする。つまり、この女の子は深い傷を負っているのだろう。


「ねぇ、あなた怪我してるの?」


「っ! だれっ!?」

 

 心配して声をかけたら、余計に怯えさせてしまったようだ。


「え? あの、安心して。私はあなたの敵じゃないわ」


「嘘よ! こんなところに私を助けてくれる人がいるわけないもの!」


「えぇぇぇ…………でも私、ほんとにあなたを傷つけるつもりなんて全くないんだけど」


「そんなことを言って! また私を騙そうったって、そうはいかないのよ! こんなところに私をずっと閉じ込めて。こんなこと、私のお兄様が許さないんだからっ!」


「…………」


(おぉぉう。拒絶がすさまじい。これは、何を言おうと暖簾に腕押しかも)


 ……はあ。困ったな。傷つけるつもりなんてないのに。


 どうしたらわかってもらえるのだろうか。


 ここまでかたくなとは、予想外だ。酷い怪我もしているようだし、すぐにでも助けてあげたいんだけど。


 


 ――この女の子は一体ここで何を経験してきたのだろう?




「もういいでしょ! 良い加減にお家に帰して。いつまでもこんなところにいたくないのよ」


「……」


「身代金目当てなら、家に言えば簡単に手に入るわ。もう私がここにいる必要なんてないよ」


「…………」


「…………もう限界なの! こんなところでまたあんな目にあうのは、イヤなの。痛いのは、もう嫌!」



(そうは言っても今の私にできることなんて限られているし)



「お願い、私を解放して。逃がしてくれるなら、ここでのことも、あなたたちのことも黙ってるから。……………家に帰りたいの……っ!」


 助けたいけど、できない。



(もどかしいなぁ)



 そもそも、私だって帰りたくてもどうすればいいのかわからないのだ。


 出来ないことをできるだなんて、嘘はつきたくないし。



(うーーーーん。困った)



 でも、出来ることからやるしか、ないよね。


「ちょ…………っ!! 何をするのよっ!!」


「っ!! …………いたっ」


 怪我だけでも治してあげようと、クネクネと芋虫のように身体をくねらせて近づいて、女の子の体に触れて魔法を発動させた。



(驚かすつもりはなかったんだけど、こんなに酷い怪我じゃ、触れて魔法を発動させるしかなかったんだよ、ごめん)



 私の手を中心に、部屋がほんわりと優しい明かりに包まれる。

 魔法が発動したのだ。


「え…………うそ。傷が、治ってる……? 痛く、ない?」


「うふふ。だから、言ったでしょ? 私は敵じゃないわ」


「こんなの……ありえないわ」


 私の魔法で光り輝く中、驚いて目を見開いてポカンと口をあけた女の子の姿が見えた。


 酷い出血があったはずの場所に綺麗な皮膚ができていた。



(うん、良し。上手くいった)



「…………あなたは、一体何……?」


 信じられないものを見る目で女の子に見つめられる。


「私はナウレリア=アインホルン。そんなに大したものじゃないわ」


「ナウレリアさま……」


「私もあなたと変わらないのよ。気がついたら、誘拐されてここにいたの。ここから逃げる方法もわからないしね」


「あわわわっ! も、申し遅れました。わたくしは、ジュリアン。ジュリアン・クラインですわ」


 魔法の光が収まったあと、薄暗い室内に目がだんだん慣れてきた。


 話をしていくうちにさっきまで牙を剥いて威嚇してきていたジュリアンとも打ち解けてきた。


 その間に、魔法でジュリアンの身体を綺麗にしたり、水を出してジュリアンの喉を潤したりした。


 怪我が酷かったジュリアンは縄で縛られていなかったので、元気になったジュリアンに私の縄をほどいてもらった。


「ありがとう、ジュリアン」


「い、いえっ! ナウレリア様のお役にたてるなんて、光栄ですわ!」


「そんなに畏まらないで。私はただ自分にできることをしただけなのだから、ほんとに大したことはしていないのよ」


(ただ目の前で傷ついた人がいたから助けただけなんだ。そんなに感謝されるようなことはしてない。)


「まぁ! そんな風にお優しいなんて。ナウレリア様は、素敵ですわ!」


「だから、そんなことはないと思うのだけど……」


「驕らないところも良いですわぁ!」


(これは、だめだ。何を言ってもジュリアンが私への賛辞を止められそうにない)


 私がふぅ、とため息をついているあいだも、ジュリアンは私への賛辞を続けていた。







 ――グゥううう!


 ジュリアンのお腹がなった。おそらく、ここにきてからロクな食事を与えられていなかったのだろう。


(――――そういえば、私もおなかがすいてきた。魔法で収納してあるマドレーヌでも食べたいな)


「ジュリアン、あなたも良ければどう?」


「え、えぇっ?! こ、これ、どこから?!」


「それは…………まぁ、それも秘密よ! けど、安心して。危険なものじゃないから。でも、嫌なら無理に食べなくでも良いのよ」


「そんなっ! ありえません! ナウレリア様が渡してくださるものが危険だなんて思うわけがないですから! 喜んで食べます! 食べますともっ!!」


 魔法のとこらへんは誤魔化してマドレーヌを渡すと、ジュリアンはものすごい勢いでマドレーヌに齧り付いて食べた。


 うん、ほんとにね。誰にも渡さない、とばかりの勢いだった。


(…………あれぇ。なんだかわからないけど、お残しは許しません的な、変なプレッシャーをかけちゃったのかな?)


 けれど、異常な食いつきでもちゃんとマドレーヌを食べてくれたことに安心した。

 胡桃が入った物やアーモンドが入った物もあるから、栄養は満点だ。



 そうやって、私の魔法で出した水やマドレーヌを食べて、私たちが誘拐されたとは思えないほど和んでいると、部屋のそとが騒がしくなってきた。




(…………なんだろう?)




 不安で心臓がイヤなくらい早くなる。




(嫌な予感がする)




 さっきまで笑顔だったジュリアンも怯えた表情で私にぎゅう、と抱きついてきている。


 ジュリアンだけでも守らないと。さっきまでの酷い怪我をしたジュリアンを思い出す。


 この子にもう酷い目にあってほしくない。


 1人だけ隠れられそうな物陰にイヤイヤ、離れたくないとぐずるジュリアンを説得して隠した。


(少なくともこれでジュリアンが見つかる確率が減ったはずだ)







 足音が近いくる。

 ドクドクドク、と早まる鼓動とともに、キィィィィィと、金属が不快な音を立てて開いた。



 開いた扉から急に大量の光が入ってきて眩しい。まともに目をあけていられない。


「……あらぁ? 起きてたの、ナウレリア。あなたって、案外しぶといのね」


 聞き覚える声。聞き覚えがありすぎる。


 でも、ありえない。ありえないでほしいと、往生際が悪くても思ってしまう。


「でも都合がいいわ。だって、意識のない女を襲わせても、あなたの記憶に残らないもの。やるなら、ちゃぁんと、あなたの記憶に残った方がいいわよね!ふふっ……………それがどんなに最悪な記憶でもねっ!」






 だって、その声は、カナリアの声だったから――――





 なんだか今から楽しいことがあるみたいに、カナリアが目を輝かせて笑っていた。


(だけど、カナリアが話している内容は最低だ。信じたくない)


 でも、まさか。だって、私たち唯一の親友なんじゃなかったの?


「…………カナリア…………」


 ねぇ、どうして?


 私の声は掠れていた。目の前にいるカナリアを呆然と見つめることしかできなかった。


「ナウレリアにプレゼントを用意したの! とぉっておきのをねっ!」


 その間も、なんで私を誘拐したの?とか、私たち親友なんじゃなかったの?とか、たくさん疑問は湧いてくる。


 けど、衝撃が強すぎて何も言葉にできなかった。何一つ言葉にできなかった。


「うふふ。どんな反応をしてくれるか楽しみだわ! じゃあね、ナウレリア」


 自分がしていることが正しいことなのだと、一切疑いのない目をしたカナリアがいた。


 不幸こそ美味の味というかのように、私の不幸を願っている顔をしているカナリアを見て、得体の知れない恐怖を感じた。


(……怖い)


 立ち去るカナリアと入れ替わるように、ナイフを持った柄の悪い破落戸の男達が入ってきたのだった。




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