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6/18

不可解な違和感と逃走?!

 

「…………カナリア。どうしたの?」


「ナウレリア! 私、あんなことをしたのに、来てくれてありがとう!」




(あれ? なんだろう…………何かはわからないけど、違和感を感じる)




 私は念のため、アーダルベルトと屋敷の護衛数人を伴って行ったのだが、カナリアの様子がどうもおかしい。


「こんなこと、今更謝っても遅いと思うけど、私、沢山ナウレリアに酷いことをして、ごめんなさいっ! だけど、違うのっ。私はナウレリアのことが大好きだし、今でも唯一の親友だって思ってるんだよ!」


「……?」


「ダミアンもね、本当にナウレリアのこと好きなの! わかってあげてね!」


「………………何を言っているの?」


 カナリアは、泣きながら今までの非礼を詫びていた。




(けど、…………あれ?)




 カナリアの拍子抜けするほど素直に謝罪する姿に驚きを隠せない。




(……カナリアって、こんなに素直に謝る子だったっけ?)




 疑問が湧いた。



「ごめんね。詳しく説明したいけど……時間がないの。きっと会えるのはこれが最期だと思うから、最期にナウレリアに会って謝りたかったし、本当のことも伝えたかったの! ごめんね、許してくれる?」


「え…………う、うん、わかった。いいよ」


(許すかなんてなかったのに、なぜか頷いてしまっていた。)


 なぜかそうしないといけない気がしたのだ。


「ありがとう! ナウレリア、やっぱりあなたは私のただ1人の大好きな親友だよ! 大好きっ!」


「? ……あ、ありがとう? 私もカナリアを唯一の親友だって思ってるわ。

 ――けど、待って。それって、どういうことなの……?」



 目の前のカナリアに対しては、なぜか嫌悪感がわかない。



「ごめんね、本当にもう時間がないの! 私、もう行くね!」


「?!」


「――ありがとう、カナリア!」


 カナリアは私に優しい笑顔を向けると、ぺこりと一度頭を深く下げて帰って行った。


 ――訳がわからない。


 私も含めて、警戒していたアーダルベルトや屋敷の護衛達も、予想と違い過ぎるカナリアの行動に呆気に取られていた。




(これはどういうことだろう?)




 困惑するが、今のカナリア対しては何故か嫌悪感が湧かなかった。


 甘いかもしれないが、ナウレリアはカナリアを許していた。

 もう少し、カナリアと話がしたい。


「カナリア、ちょっと待って! 聞きたいことが……っ」


「おいおいっ、姫さん、ちょいとお転婆がすぎるじゃねぇか」

「お嬢様、お待ちくださいっ!」


 急いでカナリアを追いかけようと駆け出した私に、アーダルベルトとアインホルン侯爵家の護衛達が制止の声をかけてきた。



(けど、どうしてもカナリアが気になるんだよ)




  ――この胸騒ぎは何なのだろう。思い過ごしなだけならいいんだけど……



「っ!! あ…………れ? どうして、いない、の?」


 その声を振り切ってカナリアを追いかけたが、角を曲がったところにはカナリアの姿はなかった。


(どう、して……?)


「なんだなんだぁ? 姫さんの()()とやらは、魔法使いなのかぁ?」


「いえ、カナリアは特に何も。魔法使いではなかったはずなんですけど……」


「って言ってもなぁ……こうも跡形もなく消えちまってるんじゃ、怪しいんだがなぁ」


 頭をポリポリと掻きながら首をひねるアーダルベルト。その横で私も訳がわからなくて首を傾げる。



(カナリアが徒歩で来たにせよ、馬車で来たにせよ、どんなに急いでもこの道をこんな短時間で通り過ぎることができる訳がない。)





 ――一体、どういうこと…………?





(様子の違うカナリアに聞きたいことがあっただけなんだけど)


 得体の知れない疑問がナウレリアの中に出てきた。


「……はぁ〜。これは、ユリテウスに伝えんといかん案件だろうが、俺が付いていながらこの無様は、なんと言われるやら……。あいつ、姫さんのことになると、ストッパーがすっ飛んでいくからなぁ。」


 アーダルベルトは、いつの間にかナウレリアのことを『姫さん』と呼んで、ボヤいていた。







 ―――








 アーダルベルトがナウレリアの護衛についてしばらくした頃、ナウレリアは良いことを思いついていた。


(そうだわ! わざわざ、ユリテウス王子の婚約を断らなくても良いのよ!)





 ――私が『失踪』しちゃえば良いんだ!





 これは名案、とばかりにナウレリアの気分は向上した。


 アインホルン侯爵家に住み込んで日がな護衛をしてくれているアーダルベルトさえ撒いてしまえば、思ったより簡単に失踪できそうだ。


 幸い、アーダルベルトの行動パターンは学習済みだ。


(ふふ、ふふふふっ! なんて素晴らしい考えなのだろう!)


 スラスラとナウレリアの頭の中で、失踪に向けての完璧な計画を立てることが出来ていく。

 あんなに悩んでいたのに、こんなに簡単なことだったなんて、とナウレリアは笑い出しそうだった。


 でも、それを見たリリーに、「お嬢様、ニヤついてどうしたのですか?」と、見当違いな心配をされてしまったけどね。







 多量の荷物が入っているにも関わらず、拡張魔法と軽量化の魔法のおかげで小さなカバンに荷物は収まっている。


 早速、準備しておいたその荷物を持って、日が登る明け方の時間と同時に、私はアインホルン侯爵を投げ出すことにした。


 アインホルン侯爵家の人間しか知らない、巡回ルートと警備体制を逆手に取って、秘密の抜け道を通って抜け出してきたのだ。




「ふぅ〜! 案外、あっさりとうまく成功したわ〜」


 町に多くの人が賑わう中、その人混みに紛れるような平民の町娘の格好でに変装をした私は爽快感に満ちていた。


「さて、これからどこに向おうかな」


 そういえば、アインホルン侯爵家を抜け出すことばかりを考えていたから、どこに行くのかは決めていなかった。







 ――なんにせよ、ナランディア王国の王都から離れる、ということは大前提だ。



 その上で、2つの選択肢がある。



 1つ目は、ナランディア王国の辺境伯領に行くこと。


 あそこは、私が住むナランディア王国の領土だけど、前世でも王族との関係があまり良くない領地だったはず。

 国内といえども、ユリテウス王子は手を出しにくい場所だろう。




 2つ目は、ナランディア王国の隣の国まで行ってしまうこと。

 これは、距離は遠いけど、ユリテウス王子から逃げたいのなら確実に逃げられるのだ。


 だけど、問題がある。


 なんといっても、辺境伯領よりも遠い分、行くのに時間がかかってしまうのだ。

 どんなに急いでも辺境伯領より早く着くことはできない。




(う〜ん。確実性が高いのは隣国まで行くことなんだけど、遠いからなぁ。向かってる途中で、わたしがいないことに気づいたアーダルベルトに捕まっちゃいそうなんだよね)


 悩ましい所だ。


(だけど、確実性を取って、向かうのは辺境伯領にしましょう!)





「えぇ〜っと。辺境伯領へ向かう馬車はどこだろう?」


 気合十分の私が町を歩いていると、顔色の良くない少年を見つけた。




(私より少し年上の少年が1人で何か困ってる? もしかして、迷子かな?)




 一刻も早く辺境伯領に行きたいが、何か困ってる様子の少年を無視はできない。


 良心には無視できない。



(しっ、仕方がないわね! 早く解決して、パパッと辺境伯領に向かえば良いのよ!)




「どうかしたの? 何か困ってますか?」


「っ! なんだお前は?」


 優しく声をかけたのに、厳しい目つきで睨みつけられた。


(おっと。これは、私不審者だと思われてるよね)


「あ、私、別に怪しい者とかじゃないの。ただ、あなたが困っているようだったから、何か手伝えたら、って思ったんだけど」


「…………く、すり」


「薬、ですか? それなら、薬屋さんに案内した方がいいですよね」


 問いかけると、コクン、と頷く少年。


(かわいい)





「あー……。薬屋さん、今日は定休日みたいですね」


「っ!」


 薬屋さんまで案内はできたんだけど、あいくにと定休日のようだった。それを伝えると、少年はしゅんと元気をなくしてしまった。


(これは、困った。私も出来たら早く辺境伯領に向かいたいところなんだけど、こんな姿を見せられてほっとけるわけがないよ)


「えっと、どんな薬がほしかったんですか?」


「?」


「あ、私も薬については知識があるんです。だから、役に立てると思うんです。」


 そう、アインホルン侯爵家は薬の元となる薬剤を多く取り扱ってる領土だ。


 一応、侯爵令嬢の私も自領の特産品くらいは理解している。


「…………薬品名はわからない」


「え」


「でも、症状は伝えられる。ナランディア王国の王都にある薬屋なら、良い薬があるかもしれない、と思ってたんだ」


「その症状、具体的に聞いても良いですか?」


「……なんでだ?」


「これでも私、薬の知識に自信があるんです!」


 私が胸を張って答えると、少年は胡散臭そうにしながらもポツリポツリと答え出した。


 その少年の話では、母親が病気なのだという。先月から、身体が動かしにくいと言っていただけだったのに、ここのところ急に身体の先から石になり始めたのだという。


 近くの医師には診てもらったが、『こんな症例は初めてで、手の施しようがない』と匙を投げられてしまったらしい。




(あれ? これって……『オジータ病』なんじゃないの?)

 



 前世の記憶がある私には分かる。それは、前世でオジータ病だといわれていた症状とピッタリ合致していた。


 前世では、オジータ病が流行した随分と後に、その原因が特定されていた。

 でも、今の時点ではまだ不明の未知の病気なのだった。




(うーん。けど、私、オジータ病の治療薬を知ってるんだよねぇ)




 これは、前世で、なぜかナランディア王国だけオジータ病の流行が防げていたことから判明したことだった。


 それで、アインホルン侯爵家の特産品のオジータ草をお茶にして飲むなり、食べるなりすれば、簡単に治る病気だとわかったのだ。




 ナランディア王国の国民は、日常的にアインホルン侯爵家のオジータ草をよく摂取している。

 だから、ナランディア王国ではオジータ病の流行を抑えられたのだ。


「あ、あー、あのっ。わかりました」


「何がだ?」


「その病気は『オジータ病』っていうんです」


「っ!」


「治療薬は、『オジータ草を摂取すること』、です」


「ほ、本当なのか?!」


「はい。ちなみにオジータ草は薬屋以外でも買えるんです。私の知ってる喫茶店でも販売してると思うので、買いに行きましょう?」


「ああ、行く……っ!」


 アインホルン侯爵家は、幅広く商売をしている。薬屋も営んでいるが、喫茶店も開いているのだ。


 薬屋と違って、喫茶店の方は今日はやっている日だ。


 ナウレリアは、少年とともにアインホルン侯爵家の喫茶店に向かった。


「こ、これは、お嬢様…………っ?!」


 店員さんからは平伏される勢いで頭を下げられたが、それは困る。


 今の私は、逃走中の身なんだから、目立つような行動は避けてほしいのだ。


「…………誰かとお間違いではないでしょうか?」


「いえっ、あなた様を間違えるなど……っ!」


「いいえ、間違いです! 私はただの町娘で、今日はとびっきりのオジータ草を買いにきたんです!」


 良いから黙れ!、と睨みつけておく。


「へ?」


「おほほ、――わかりましたか?」


「っ!! わっ、わかりました!」


(どうやら、何も言わなくても私の意図は伝わったらしい)


 一安心だ。



 こんなところで色々とバレては困るので、さりげなく笑顔で威圧してしまったけだ、喫茶店では最高級品のオジータ草を大量に手に入れることができた。



(うん。結果オーライだよね!)



 しかも、お金を支払おうとしたら、なんとこれは『プレゼント』、なのだという。


 気前が良すぎる。


(う〜ん、こんなに品質の良いオジータ草をプレゼントしてくれるなんて、良いのだろうか?)


「良いのです! お嬢さ……いえ、あなた様のためならば……っ!!」と、なんだか情熱を持って言われてしまっては、断れない。


(不思議な人だ。世の中、お金を求めないような優しい人もいるのか)


 お礼を言うと、逆に泣いて喜ばれた。


(ちょっと怖かった)



 まぁ、それは良い。

 目的のオジータ草は手に入れたしね。


 私達は喫茶店を出た。


「ありがとう。ここまで来たが、君がいなければ、『オジータ草』は手に入れられなかっただろう」


「いえいえ、そんなことはないと思います。ただの偶然ですよ?」


「いいや、そんなことはない。俺はあらゆる手を使ってこの病気を調べたがわからなかった。それなのに、君はあっという間に病名も、治療薬も突き止めた。これは、素晴らしい快挙だ」


「…………」




(まぁ、そりゃ、前世の知識がありますからねぇ……)



 経験値が違うんだよ。つい、遠い目になってしまう。


「何か君に礼がしたい。何がほしい?」


「ふぇ? いえいえ、そんな! こんなのたまたまですから! お気になさらないでください。」


「だが……っ!」


「そんなことよりも、お母さんに薬を届けてあげた方が良いのではないですか?」


「っ!! そ、そうだな! わかった、今回はここで失礼する」



(良かった。別にお礼なんて望んでないんだよ。私の心の安寧のためにやってるだけだし。)



「はい。オジータ草の飲み方や食べ方のレシピはその袋の中に入ってますので、お母さんの好みにあわせてあげてくださいね」


「ああ、ありがとう! 君には世話になった。最後に君の名前を聞いてもいいか?」


「ナ…………ナ、ナリィ、です」


(まずい。つい、癖でナウレリアと言ってしまうところだった)



 今は町娘の設定だし、本名を名乗るのは宜しくないよね。


 ふふ。私、冴えてる!


「そうか。俺は、ボニファティウスと言う」


「……ボニファティウス様」


(あれ? ――なんだか、聞き覚えがある名前のような……?)


 うーん……だめだ、思い出せん。諦めよう。


「いや、君には気軽にボニファティウスと呼んでほしい」


「え、じゃあ、…………ボニファティウス?」


「ああ、そうだ」


 浮かびそうになった考えは、愛想の悪かったボニファティウスがはにかむような笑顔を見せてくれたことで、吹っ飛んだ。


(っ!!)


 無表情がメインだったから気づかなかったけど、ボニファティウスってかなりのイケメンだと思う。

 あの、ユリテウス王子と並べるくらいのイケメンかも知れない。


「ナナリィ、ありがとう! 落ち着いたら、また君に会いにくるからな!」


「えっ」


「またな!」



 颯爽とボニファティウスは人混みの中に紛れた行ってしまった。



(また会いに来る、って言われても、困るなぁ。これから王都を出て辺境伯領に向かうから、ここに来られても、会えることはないと思うんだけど…………


 ――伝えられなかった




(けど、まぁ助けられたし、いいや。ボニファティウスのことも一件落着したし、予定より時間も経っちゃってるから、急いで辺境伯領に向かわないとね!)




「よ〜しっ! では、行きますかっ!」




 私は空に向かって、大きくおぶしを突き出して元気よく気合いを入れた。






「へぇ〜、ナウレリア。君はそんな姿で()()()行くつもりなのかな?」






「っ!!」


(聞き覚えのある、今聞きたくない声ナンバーワン!)


「怒らないから、こっちを向いてごらんよ?」


「〜〜〜〜っ!!」


(や、やっぱり〜〜ッ! こ、この声は……)


 後ろからくるりと向きを変えられると、黒い笑みを浮かべたユリテウス王子が目の前で微笑んでいた。



 ――ユリテウス王子〜っ!!



「ねぇ、答えて? こんな所で何をしているのかな?」


「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 ――バレた。


(ヒィイイイイイイイイイイイイっ! もっ、申し訳、ございませんでしたぁああああっ!)


 瞬息で、謝罪の姿勢をとった。


 だって、怖かったんだもん。きゅるん。


 一瞬の躊躇いもなく、私はユリテウス王子に謝罪をしたのだった。


「……ふぅん? まぁ、反省してるようだし、もういいよ。」


「(ぱぁあああっ!)」


「けど、タダでは許さないよ?」


「っ!! (しょぼん……)」


(そ、そんなぁ〜っ!)


「ふふっ。ナウレリア、君は可愛いね」


「?」


(何がだろうか?)


 私はユリテウス王子のお説教で涙目になりながらも首を傾げた。


「うん、そういうところだよ」


「??」


「わかってないなら、君はそのままでいいんだ」


「わ、かりました?(コテン)」


 思わず首をかしげた。


 よくわからないが、ユリテウス王子の機嫌が向上してくれたのなら助かる。




 ……怒ったユリテウスほど恐ろしいものはないからね。




「ナウレリア、君の家に婚約式用のドレスを届けておいたよ」


「っ!」


(え…………いらねぇ!)


「ふふふ。もちろん、着てくれるよね?」


 ヤダァ、何この人。笑ってるのに、笑顔の圧が半端ないんですけど。


「…………」


(いやだ、着たくない。だってさ、ユリテウス王子からのプレゼントを着るなんてことをしたら、私も婚約を望んでるみたいじゃないか!)


 とんだ誤解をうむよ!


「い、いやで……」


「…………()()()(ボソッ)」


「っ!!(ヒィイッ!)」



 黙り込む私の耳元で、ユリテウス王子が甘く低い声で囁いた。



(やめろ! そんな腰に響く甘い声で脅してくんな!)



 よくわかんないけど、今の私の顔は真っ赤になった。


 それは、この前の国王陛下と王妃様の一件で、ユリテウス王子に要求されていた対価だった。


(あのときのご褒美なら、断れない)


「はぁ。わ……わかりました」


「うん、そうだよね! ナウレリアならそう言ってくれると思ったよ〜」


「はぁ……そうですか」


(はぁあああっ。なんで、こうなったんだ?!)


 王都さえ出られずに、あっけなく私はユリテウス王子に捕まって、アインホルン侯爵家に戻ることになったのでした。




 家では、私の不在を心配したリリーや両親が黒い笑顔で待っていましたよ、ごめんなさい。




 ――こうして、私の失踪騒動は、1日もかからずに終了したのであった。






 ―――






 ナウレリアがアインホルン侯爵家で心配していた両親に抱きしめられているとき、ユリテウス王子はアーダルベルトを呼んだ。


「アーダルベルト。ダミアン・フォーゲルの様子がきな臭い」


「なんだよ、いきなり」


「王宮の護衛から報告が入った。ナウレリアに面会希望を散々出していたダミアンだが、とうとう今朝ナウレリアを訪ねて王宮まで押しかけてきたらしいんだ」


 ダミアンの面会は、心配したユリテウスによってことごとく阻止されていた。


 手紙で『ナウレリアに面会を希望するならば要件は?』と聞いても、ダミアンからは要領を得ない、『ナウレリアに会いたい』という返事ばかりだったからだ。


 だが、いつもならば手紙だけでダミアンを遠ざけられていたのだが、どうやらダミアンの限界もここまでのようだ。


 ダミアンは、手紙で面会希望を出してもナウレリアに会えないとわかり、強硬手段に出てきたようだ。


「おい、マジかよ。この前はカナリア・ミュル男爵令嬢で、今度はダミアン・フォーゲル侯爵令息のご登場かよ」


「ああ。ナウレリアの失踪騒動は困ったものだが、今日は王宮に来なくて良かったかもしれない。私としても、ナウレリアとダミアンの鉢合わせは避けたいからね」


「へぇえ〜。ってことは、姫さん、とっさに危険を回避したってことか」


「…………()()()、だと?」


 アーダルベルトの言葉に、ユリテウス王子が引っかかったように顔を顰めた。


「ん? ユリテウスの嫁になるんだから、『姫さん』だろ?」


「あ、ああ、そういうこと。うん。まぁ、そうだよね。(ぽっ)」


 ほんのりと顔を赤らめるユリテウス王子を見て、アーダルベルトが「ハハハッ、照れるなよな〜」と肩を叩いた。


「っ、コホン! まぁ、とにかくっ。ダミアン・フォーゲルとカナリア・ミュルには警戒を続けてくれ」


「ああ」


「それと、――――今回、私の大切なナウレリアを逃して危険に晒した君は、()()()()だからね」


「っ! ああ、わかってる。すまなかった。これは、俺の失態だな」


 がくりと肩を落とすアーダルベルト。


 でもそのアーダルベルトの瞳には怒りなどはなく、穏やかな瞳だった。


 アーダルベルトは、両親に抱きしめられるナウレリアの姿をホッとしたように見つめていて、ただナウレリアが無事でよかったと安堵する護衛騎士の瞳をしていた。






 そんなアーダルベルトの様子を見ながら、ユリテウスは自由になった途端ナウレリアを訪ねてきたカナリア・ミュルや、王宮に押しかけてきたダミアン・フォーゲルのことを思い、2人の行動に不穏な気配を感じていたのだった。





当分は物語を進める予定なので、かく予定はないのですが、閑話でいつか『ナウレリアの失踪を見つけたアーダルベルトやユリテウス王子のお話』、『失踪中のナウレリアが訪れた喫茶店の店員さんのお話』などがかけたら良いなぁ、と思います。


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