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護衛騎士と出会いました

 

 国王陛下と王妃様の仲直り作戦のあとも、私の王子妃教育は継続している。


 その間に、どんどん王妃様の私への好感度が高くなっていった。


「まぁまぁっ! ナウレリア、素晴らしいわぁあああっ!」


「王妃様、お褒めいただきありがとうございます。」


「んもうっ! そんな、()()()だなんて、つれないわぁ〜。わたくし達の中なのだから、ブリュンヒルデと呼んでちょうでほしいの。ちゅっ」




「………………はい、ブリュンヒルデ様」




 王妃様が私に投げキッスをされた。


 ウソだろ? いや、これは現実だ。眼を逸らしてはいけない。




(わぁおぉ〜っ。私、まさか姑になるかもしれない人に、投げキッスをいただく日がくるなんて思いませんでした!)




 うん、まさか私の脳内会議がユリテウス王子だけでなく、王妃様にも混乱させられる日がきちゃうなんてだよ。


(こんなの想定外だよ)




 国王陛下と仲直りした王妃様は、以前と考えられないくらい寛容な態度におなりになられたのだ。


 それは良い。


 でも、国王夫妻の仲を頑張って取り持ったことで、そのあとも予想以上に国王陛下と特に王妃様の好感度が爆上がりしてしまい、私の婚約阻止を拒んできているのだ。


 どうしてこうなった、と私は涙が出そうになるのをなけなしの気合で堪えた。


「ええ、そうよ。これからは、遠慮なくそう呼んでちょうだいね」


「ありがとうございます」


「ナウレリアに呼んでもらえるなんて、嬉しいわぁ。 家族になる仲なのだし、もっともっと親睦を深めましょうね!」


「…………そうですね」





 国王陛下との仲が日に日にお熱くなられる一方で、王妃様は元々のイキイキとした自分を取り戻せたそうでございます。


 その変化は、以前の王妃様を知っている周りが二度見、いえ、三度身、四度見をしても足りないくらいのものなのだが…………



 ――これが王妃様の本来のお姿らしい、のです!



 そして、あれから王妃様はあからさまに、とびっきり私を可愛がってくださっていている。


(ええ、ええっ! 嫌われるより、好かれているのは、ほんと、ほんっっっと、うれしいんですよ!

 でも、そうじゃない。私はユリテウス王子との婚約を阻止したいんです!)


 嬉しいのだが、引くぐらいの王妃様からの私への愛で、ユリテウス王子との婚約者の阻止が遠のいた私は、心の中で大声で涙を流した。


『もし、この結果も全てユリテウス王子の読み通りなのだとしたら…………?』、と一瞬考えがよぎったが、そんな恐ろしいことは考えたくなくて、頭をブンブンと左右に振って思考をどっかに飛ばしておいた。



(うん、これでバッチリだね!)



 そんなこんなで王妃様、もといブリュンヒルデ様と、それからもなんだかんだ私は仲が良くなっていった。



(だって、仕方がない。王子妃教育、楽しいんだもん)



 王子妃教育で幅広い勉強をこなしながら親睦を深めていると、楽しくて『あれ? もうそんな時期?』という感じになるのだ。


 そうして、あっという間に、すでに1ヶ月の保留期間が過ぎてしまっていたようなのだ。


 好きなことを楽しく勉強していると時間が過ぎるって早いよね。



(引きこもりの私だけど、人と関わらずに勉強することは前世からわりかし好きなのだ)



 しかも、王妃様は教え方が上手いのだ!


 前のクールビューティーの時の王妃様もわかりやすかった。


 だけど、今の王妃様は、前よりもさらに私に激甘になっていて、わからない所を伝えるより前に手取り足取り教えてくれるから、さらに勉強が進んで楽しくてたまらない。


 それに、なんと言ってもね。


 王妃様、めっっっちゃ!、褒めてくれるんだよ。


 ここ、かなり重要ポイントです。ポイント激高。


「すごいわぁ、ナウレリア! あなたなら、もっとできるわっ!」


 美しい王妃様にそんなキラキラした期待に胸を膨らませたような目で見つめられたら…………

『そりゃ、頑張るしかないよね!』、ってことで、めちゃめちゃ頑張りましたよね。やる気しか出ませんとも。


 そしたら、なんとオマケで副産物までついてきた。


 私の苦手な社交の技術が、王妃様お墨付きレベルにまで格段にレベルアップしていたのだ。




(いえーい。 またしても、予想外!)




 まぁ、言ってないけど、前世で勉強した分もあるから、それを生かして勉強を頑張っているので、私の学習してスピードは通常よりも速く進んでいる。


 というのも、私の前世の最後の方は、それなりに社交をこなしていたから、前世の今の時期よりは社交技術の素養もできていたのだ。





 ――前世で私が苦手な社交を鍛えたのには訳がある。それは、やっぱり元夫のダミアンが原因だ。





 私達はそれまで、人付き合いが苦手な私が社交以外の全ての仕事、社交好きで仕事をしたくないダミアンが社交、と役割を分担していた。


 まぁ、これはもはや私に比重がかかり過ぎの、私4で、ダミアン1くらいの割の合わない分担だったんだけど、白い婚姻とはいえ、夫婦2人で決めたことだから、やってきていたのだ。


 そんな中、なんと前世の夫のダミアンが、『女遊びができる王都の大きなパーティ以外では社交に出たくない!』と駄々を捏ね出したのだ。


 それはつまり、仕事も社交も2人分の仕事のほとんど全てが私になったということ。




(えええっ。これ……ダミアンは遊んでるだけなのでは……?)




 そんな複雑な思いも抱いたのだが、その時の私はフォーゲル侯爵夫人。


 フォーゲル侯爵夫人として、社交を疎かにしたままは放っておけなかった。



 しかも、納得がいかないのが、ダミアンが行きたがる社交って、年に一、二度あるかないかってくらい華やかで規模の大きいものばかりなんだよ。


 それなのに、ダミアンが『社交はやっている!』と大きい顔をするものだから、はらわたが煮え繰り返る思いだった。




(まぁ、忙しすぎるあまり、ダミアンに余計な体力は使えなかったけどね)




 けれど、社交はダミアンが行きたがるもの以外にもあるし、大切なものだ。


 だから、ダミアンが行きたがらない残されたほとんどの社交は、フォーゲル侯爵夫人だった私が行かざるを得なくなったのだ。


(もうね、『人付き合いが苦手』、だとか、そんなぬるいことは、家や領民のために言える状況じゃなかった)




 ――――ひたすら、頑張るしかなかった。




 そうして、追い込まれた状況で、前世の私は苦しく厳しい社交のトレーニングに取り組んだのだった。



(ただし、私の『人付き合いが苦手』って思いは、いまだにしぶとくご健在でございますけれどもね。

 …………我ながら、人付き合い苦手の生命力、高すぎだと思う。)





 ――人の気質ってなかなか変わらないものなんだね。






 ――――






 いつもの王妃様との王子妃教育が終わったとき、これまたいつもの流れでユリテウス王子にお茶に誘われていた。


(うん、流れが自然過ぎるよ、ユリテウス王子)


 断る隙がない。


「ナウレリア、君に紹介したい人がいるんだ」


「おほほ。

 それは、私とユリテウス王子の婚約が取りやめになるから、新しい婚約者を紹介して下さる、ということでしょうか?」


「ふふふ。そんなわけないでしょう? 面白い冗談だけど、どうしてそんな発想になるのだろう…………もう少し、私のナウレリアの愛が伝わるようにしないといけなかったのかな?」


「っ! ――い、いえっ! 充分です、今の感じで充分伝わっておりますわ、オホホホホ〜。」


 ちょっと希望を込めた願望を聞いただけなのに、薄暗い微笑みを浮かべるユリテウス王子は凍えるような雰囲気を出してきていた。



(怖いっ!!!)



 うぅぅ。ちょっとしたユーモアくらいに捉えてくれたらいいのに、そんな寒々しいオーラを放たなくてもいいじゃない。



 ――それにさ。ちょっとおかしくないかな?



 どうして王子妃教育の後、毎日ユリテウス王子に会って愛を伝えられるのが当たり前、みたいな雰囲気が王宮内でできているんだろう?


 しかも、私の両親や国王陛下や王妃様ですら疑問を抱いていないようなのだ。むしろ、私とユリテウス王子が2人で仲良くしていると、逆に喜ばれてしまう始末だ。




 ――婚約を阻止したい私にとって不都合な環境が出来つつある。




(これは、少しずつ私の逃げ道を()()()塞がれていってる気がするんだけど、気のせいなのかな……?)


「うん、私のナウレリアへの愛が伝わっているならいいんだ。」


「はっ、はい! それはもうっ」




(婚約の阻止は諦める気はないけど、ユリテウス王子の愛は理解してますとも!)




「…………なんだか、ちゃんと伝わってない気もするけど、今はいいや。

 父上から、1ヶ月の保留期間が経ったことでナウレリアが私の()()()()()()となるように王命が下されたでしょ?」


「はい」


「もうすぐ婚約披露宴が行われるように取り計らってもらっているんだけど、婚約者の君の守りを高めたいと思うんだ」


「?」


「あぁ、そういえば優しいナウレリアにはまだ伝えていなかったね。」


「何かあるのですか?」


「うーん、はっきりあるとは限らないんだけど、リスクは高いかな。」


 私は首を傾げた。




(なんだろう? 私が知らないこと?)




「不敬罪で罰を受けていたダミアン・フォーゲル侯爵子息とカナリア・ミュル男爵令嬢の2人にはそれぞれ相応の罰金と自宅での謹慎処分を言い渡していたんだ。だけど、それがもう終わって、2人が自由の身になったというわけなんだ。」


「それは……」


 前世の私を殺した人達が自由になったと聞いて、顔が強張っていく。


 今までは色々あったけど、ユリテウス王子に追い払ってもらった後は、ユリテウス王子の婚約者ということで王子妃教育や、国王陛下と王妃様の仲を取り持ったりしていて、いい意味で慌ただしかったので考えずにいられた。




(けど、あの2人が自由になったなんて…………怖い)




 ユリテウス王子は怯える私を気遣うように隣に寄り添ってくれている。




(普段は強引な所も多いけど、こういう所がユリテウス王子は優しいと思う)


 うん、普通にいい王子様だ。まぁ、婚約者とかは嫌だけどね。


「大丈夫。私のナウレリアには指一本触れさせやしないから」


「ありがとう、ございます」


「いいんだ。ナウレリアのためになれるなら、私はどんなことでもやれるからね」


 私の髪を安心させるように撫でながら、ユリテウス王子は優しく笑いかけてくれた。



(ダミアンにも感じたことのない安心感を感じる。これは一体なんなのだろう……?)



「それで、ナウレリアの護衛騎士についてもらうのは彼なんだ。」


 ユリテウス王子から紹介されたのは、アーダルベルト・ヴォルフだった。


 前世の私は、王都のパーティに参加していないので会ったことはないんだけど、彼は有名だったので知っているだ。




 ――そう、アーダルベルト・ヴォルフは、未来のナランディア王国の騎士団長を務める人物だからだ。




「はじめまして、ナウレリア様。俺はアーダルベルト・ヴォルフ。よろしく頼むぜ。」


「ナウレリア・アインホルンです。よろしくお願いします。」


「ハハハッ。ユリテウスが一目惚れしたっていうからどんな女かと思っていたが、こりゃいいな!」


「アーダルベルト、お前の仕事は護衛だ。どんなにナウレリアが可愛くても、ナウレリアは私のだから手は出さないでくれよ。」


「あははっ。はいはい、わかってるって」


 白い歯をニカッと見せながら明るく笑うアーダルベルトは、さっぱりしていて好印象な青年だった。


 ユリテウス王子からの説明では、これからアーダルベルトが私の身辺を守る護衛騎士になってくれるそうだ。


 でも、今まではユリテウス王子の友人兼側近として、そばで身を守っていた人なのに、そんな大切な人を私に譲ってしまって大丈夫なのか、と疑問に思った。


 でも、ユリテウス王子からは「何よりもナウレリアが大切だからね」と、愛おしい人を見るような顔で見つめられてしまい、何も言えなくなった。


 たぶん今、私の顔は赤くなっていると思う。



(そんな風に優しいことを言われると、婚約を断りづらくなるから困ってしまう)



 ユリテウス王子にはアーダルベルトが抜けても、元々の護衛達が付いているらしいから警備面では安全性なのだそうだ。


 それよりも、まだ正式に婚約者として披露されてない私には大掛かりな護衛を付けるのも難しいから、それならばと1人で百人力のアーダルベルトを私につける方が良いと判断したらしい。


「アーダルベルトには、これから婚約披露宴までずっとナウレリアについてもらうからね。まぁ、あくまで、()()()()、としてだけどね。」


「あー、はいはい。そんな強調して釘を刺さなくても、わかってるって」


 今日から婚約披露宴までは、アーダルベルトはアインホルン侯爵家にも、泊まり込みで私を護衛してくれるそうだ。


 事前に国王陛下や私の両親には許可はもらっていて、準備は万端にしている、と伝えてもらった。





(ユリテウス王子のこういう根回しとか段取りをする所がちゃっかりとしていて、すごく頼りになる)




 だけど、――――敵に回すと怖そうだよね。






 ―――







 ユリテウス王子にお礼をして、私はアーダルベルトと共にアインホルン侯爵家に帰った。


 やはりアーダルベルトが泊まり込みで私の護衛騎士に就く話は届いていたようで、私の部屋のすぐ近くの部屋にアーダルベルト用の部屋が整えられていた。


「本来なら、護衛の関係上ナウレリア様の横の部屋を頼みたかったんだが、ユリテウスのやつがダメだって言うからなぁ」


「婚約者でもない方がお嬢様の部屋の隣は、わたくしも反対ですわ!」


「ハハハッ。いや、俺は護衛をするだけで、何もやましいことはする気はないんだが…………まぁ、隣ではないが近い部屋だし、いいか。」


 アーダルベルトの呟きに、素早くリリーが反応して対応していた。


(うーん、私としては前世の夫のダミアンとも部屋は隣同士だったけど、白い婚姻だったしで、護衛がしやすいのならそれはそれで、気にしないんだけどなぁ)


 だけど、今ここでそんなことを言ったら変なことになりそうなので、口をつぐんだ。


 アーダルベルトに屋敷内の案内をして、私達が落ち着いた頃、リリーから、「カナリア様が門の所でお嬢様をお呼びしているようです」と伝えられた。





(え………………なんで、カナリアが?)





 ユリテウス王子が警戒していたが、まさかこんなに早くカナリアが接触してくるとは思っていなかった。




(会うのは怖い。だけど、なんの用事で来たのかも気になる)




 考え込む私を見て、「追い返してきましょうか?」、とリリーが声をかけてくれる。




(可能ならば、前世で私を殺したリリーに会うのは避けたい。でも、これから貴族として社交をしていくのなら、このままずっとカナリアを避けることなんて不可能だ)






 ――逃げずに向き合わないといけない。






 そのとき、「俺がいるから安心しろ」と、アーダルベルトが心強い言葉をかけてくれた。


 そうだ、今の私は1人じゃない。

 リリーもアーダルベルトも、アインホルン侯爵家のみんなもいる。




「――会いに行くわ」


 私はカナリアに会いに行くことにした。






 でも、謹慎処分が解けた途端に、私を訪ねてくるカナリアの行動に何らかの意図を感じずにはいられなくて、私は何か不気味なものを感じていた。






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