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婚約、成立ですか?!

 

「そ、そんな……っ! ――ユリテウス王子が私を見初めた?!」


「うん。私はナウレリア、君だけを愛してるよ。」


「〜〜っ! 私はなどがユリテウス王子の婚約者だなんて、め、滅相もございません! ユリテウス王子、お戯が過ぎます」


 純粋そうな顔で頷くユリテウス王子の返事を聞いて、ナウレリアは頭を抱えた。



(私がユリテウス王子の婚約者だなんて、ありえない! きっと、引きこもり姫を揶揄って遊んでるんだ)




 ――これはマズイ。




 社交の苦手な私が、こんな高貴な方の高度なお戯れに付き合いきれるわけがない。


「ん? 私は本当にナウレリアを愛してるんだけどねぇ」、というユリテウス王子の声は、混乱中のナウレリアの耳には届かない。


「とっ、とにかく! 今回のことは助けていただいてありがとうございました。」


「お礼なんていいよ。私は当然のことをしたまでだから」


「ですが! 私、体調がすぐれませんので、失礼させていただきます」


「え? そう、大丈夫?」 


「はい」


「ふーん、まぁ、いいや。けど、()()()()()()()()()()




(……今日のところは?!)




 なんだ、なんだ! その、不穏なキーワードは! 気になるんですが。怖いからむやみに突っ込まないけどっ!


「それじゃあ、さっきみたいなことがまた起こったら危険だし、送っていくよ?」


「っ! い、いいえ! ユリテウス王子のお手を借りずとも……」


「だめだめ。体調が悪いんでしょ? それにここがどこだかわかってるの?」


「ゔっ」


 わからない。迷子だし。


「でしょ〜? ほらほら、遠慮しない。ね?」


 いやらしくないさりげなさで、自然に私の腰に手を回すユリテウス王子。


「〜〜〜〜っ!!」



 ――私の顔は真っ赤になった。




 結局、迷子だった私は、『アインホルン侯爵のいる場所まで案内するよ』と、ユリテウス王子にエスコートされてしまった。


 お父様を探して、大急ぎでパーティ会場を後にしたが、最後に「逃げる君も可愛いけど、どんなに逃げても無駄だよ?」というユリテウス王子の囁きを聞いてしまった私は冷や汗をかいた。




(なぜこうなる! ダミアンとの婚約を阻止できたのは良かったけど!

 どうして雲の上のお方であるユリテウス王子の婚約者にまで飛躍してしまったんだ。)



 疲れ切って、その日の夜は気を失うようによく眠れました。





 ―――





 次の日、爽やかな日差しの中、優しいリリーの声で起きた私は、

「うぅ〜ん、昨日のあれはやっぱり夢だったのね!」と伸びをしながら、現実逃避をした。


 わかっていても、現実逃避がしたい時ってあるじゃない?


 そう、それ。それをしたのだ。




 ……なのに。




「ナウレリア! おめでとう! ユリテウス王子から手紙が届いたぞ〜!」


「すごいわ、ナウレリア! ユリテウス王子の婚約者に選ばれるなんてっ!」


 お父様とお母様が喜びを噛み締めたような満面の笑みで、私の部屋に飛び込んできたのだ。


 そう、ユリテウス王子の直筆の手紙を持って。

 なんとまぁ、ご丁寧なことに、朝一番に届くように手配してくれたようだ。



(………………うわー、まったく嬉しくない)



 しかも、王家の印まで押された正式なものだった。



 ――これじゃ、断れない。



(グッバイ、私の短かった現実逃避ちゃん。こんにちは、現実。

 あぁ、…………儚い夢だったなぁ)


 軽くショックを受けた私は遠い目で、お祝いの嵐のアインホルン侯爵家の中でただ1人、たそがれていたのだった。





 ―――






 翌日、手紙で指定を受けていた時間に再び王宮に行くことになった。


「可愛くて可憐なお嬢様をとびっきり可愛くするので、おまかせくださいっ!」


 朝から、と〜っても張り切っていたリリーによって、今日の私は我ながら可愛い仕上がりになっていると思う。


 髪は銀髪に編み込みを入れてリボンで整えられており、ドレスもリボンが添えられているが薄いピンク色でふんわりしたデザインのものだった。


「お待ちしておりました、アインホルン侯爵家のみなさま。どうぞ、こちらへ。」


 王宮での案内を受けて、とびきり大きな扉の中に入った。


「っ!」


 なんと入ると、威厳を兼ね備えたナランディア国王と、厳しくて冷たい視線の王妃様、そしてニコニコと蕩けそうな笑顔を私に向けてくるユリテウス王子が勢揃いしていたのだ。


(うわぁ……みなさま勢揃いされてらっしゃるぅう……)




 いきなり私のHPは急激にガクーンと下がった。




(しかたがない)


 煌びやかな圧を全身にビシバシと感じるが、それでもナウレリアは戦々恐々としながら部屋に入った。


「お呼び出しを受け、このアダルブレヒト・アインホルン、妻のコンスタンツェと娘のナウレリアを連れて参上いたしました。」


 代表してお父様がアインホルン侯爵として挨拶をしたので、お母様と私は頭を下げる。


「ふむ、よく参った。其方らをここに呼んだのは、手紙でも伝えたが、ここにいる我が息子、ユリテウスと其方の娘ナウレリアの婚約を結びたいと思ってのことだ。

 ――――いかがであろうか?」


「はい、それはもう、私どもとしましては光栄なお話です。」


(光栄です、って、そんな〜っ!

 いや、確かに場の雰囲気に呑まれて断れてない私が悪いんだけど。

 でも、このままじゃ、ユリテウス王子の婚約者になっちゃうよ〜っ!)


「ふむ、そうかそうか。それは良いな!

 ―――それでは、ユリテウスとナウレリアの婚約を、()()()()結ぼうではないか」



 え? 今すぐ?!



「――お待ちになって下さい!」




 突然、凍えそうなほど冷たい声のコンスタンツェ王妃様が静止の声を出した。


「? なぜ止めるのですか、母上!」


「ユリテウス、あなた本当にナウレリアと相思相愛なのですか?」


「もちろんです。 私はナウレリアを愛しています!」


「ナウレリアから愛している、と言われたことは?」


「っ………………それは、まだですが」


「そう。では、ナウレリア、あなたはどうなのですか? ――ユリテウスを愛していますか?」




 突然、キッ!、とした王妃様の鋭い視線が私に向いた。




(怖っ!!)



「っ!! …………」


 それに加えて、ユリテウス王子や王様、私の両親も私を見つめていた。


(いきなり私?! こんな空間で、なんで言えば不敬にならないの?

 でも、一つだけわかるのは、『(王族の)ユリテウス様を愛していません!』なんて、はっきりと伝えることが宜しくないことは確かだよね)


「申し訳ございません。私がユリテウス王子に『愛してる』と伝えたことはございませんが、ナランディア王国の国民として敬愛の念は抱いております。」


「…………やっぱりね。そうだと思ったのよ。」


「っ、なぬ?! なんだと、ユリテウス! 相思相愛だと言っていたのに、話が違うではないか!」



 王妃は懸念していたことが当たっていたとばかりに頷いているし、なぜか王様も驚いている。


 ユリテウス王子。

 あなた、私と昨日私と会ったばかりなのに、私達が愛し合ってる、だなんて出鱈目を伝えていたのね。


 引きこもりの私に王子様だなんて釣り合えない。



(けど、まぁいい。

 これで『婚約者なんて話は、無かったことにしてほしい』ということを、不敬にならないようにかなり忖度したが、王妃様のお陰ではあるがオブラートにして伝えることができたはずだ。)



「ユリテウスはわたくしの息子ですけれど、あなたのことを伝えてきた時の様子からして、どうも怪しいと思っていましたの。もしかしたら、息子が独りよがりになって、あなたに婚約を押し付けているんじゃないかと。」


「っ! ですが、私はナウレリアを愛しています!」


「それはわかっているわ。けれど、今はそういう話をしているのではないのです。

 ――――その様子では、ユリテウス、あなたは()()()()()ナウレリアにまだ伝えていないのですね?」


「………………はい。変な男がナウレリアに近寄っていたのを見て、とっさに奪われたくないと思って焦って失念していました。」


(あれ? どうしてだろう? ユリテウス王子が、王妃様に叱られて、耳を垂らしてしょんぼりしている大型犬みたいに見える。)


 これは……かわいい、かも。


「それでは説明が必要ね。アインホルン侯爵、そしてアインホルン侯爵夫人、少しの間、ナウレリアとお話がしたいので外してもらえるかしら?」


「っ!! 娘だけ、ですか?! それはなぜですか?」


「ふむ、アインホルン侯爵、ナランディア王国の()()()()だ、と言えば伝わるか?」


「っ!! ()()()()、ですか…………

 畏まりました。ナウレリア、私達はそばで控えているから、無理はしないように。」




(王族案件? 初耳だ。)




 王様の言葉を聞くと、お父様は驚いた顔をした後に何も言わずにあっさりとお母様を連れて引き下がった。




(どういうこと?)




「さて、ユリテウス。まずはナウレリアに伝えなかったことを謝罪しなさい。」


「はい。すまなかった、ナウレリア。君を愛するあまり、気遣いが足りなかったようだ。」



 王妃様に促されて、ユリテウス王子は素直に謝罪していた。

 おごらずにちゃんと謝れるところは尊敬できる。




「いえ、そんな……」




 だけど。王族である王子に頭を下げられても、婚約者だなんて、嫌だ。

 私は、曖昧な返事しかできなかった。


(王族に謝られて、どう返せば社交としては正しいのだろう? 人付き合いをしてこなさすぎて何が良いのかわからない。それよりも、()()()()、とやらが無性に気になるんだけど)


「ふむ、これは愚息が失礼をした。ユリテウスが説明していないというのならば、私から説明しようか。

 ――我がナランディア王国の王族には、秘密があるのだ。」


「秘密、ですか?」


「そうだ。我らは()()()()なのだ。」


「〜〜っ!!」




(龍、ですとぉ〜?!!)




 ――それは架空の、伝説上の存在ではないのだろうか?




「驚くのも無理はない。この話は、ナランディア国内でも王族のみに秘匿されている極秘事項だからな。」


「あ、あの。ですがお父様は知っているようでしたが?」


「はははっ。そうだな、ナウレリアからはそう見えただろうな。

 だが、アインホルン侯爵も、王族案件と言われれば、『国の根幹に関わる話であり、王族のみに晒される重要事項』だとは理解しているだろうが、さすがにこのことまでは知らないだろう。

 まぁ、其方がユリテウスの妃になれば、契約を交わした上で必要ならば伝えるかもしれないがな。」


「っ!」


 朗らかに王様は話してくれているけど。




(私、アインホルン侯爵のお父様でも知らないような、こんなとんでもなくシークレットなお話を聞いちゃって、『ユリテウス王子の婚約者にはなれませーんっ!』なんて言えるの?!!)




「それでだな」


 王様がまだ話を続けようと話し出した。




(えぇっ! まだ何か王族案件があるの?!!)




「我らナランディア王族の龍の子孫は、(つがい)を求めるのだ。」


「つがい?」


「そうだ。龍はただ1人の番を見つけると、番なしではいられなくなるのだ。力が高まり、どんなことより番を優先させるし、番いを守ろうとする。」


「…………」


(まって、待って! この(つがい)話、を私にするって、なんだか不穏だよ。しかも、この状況で龍の子孫だとかいうユリテウス王子に婚約を求められてるのって、もしかして私がその番…………?)




「つまりな、ユリテウスの番はナウレリア・アインホルン、其方だな!」




(ガーーーーーーーーンッ! 当たってたーーーーーーーーっ!!)



 嘘でしょーーー! こんな状況で、唯一の番の私って婚約を断れるものなの?!


「………………あの、つかぬことをお聞きしますが、もし私が婚約をお断りした場合は?」


「ふむ、それはユリテウスに問題が生じるな!」


「っ!!」


(ええぇ〜〜っ、無理っ! そんなの、断れない!! 断りにくすぎだよっ!!)





「ナウレリア、僕は君を本当に愛しているんだ。誰よりも君を大切にする。だから、僕との婚約を受けてくれないか?」





 ユリテウス王子が壇上から降りてきて、私の前で跪いていた。


(うわ〜……人付き合いが苦手の引きこもりとはいえ、こんなイケメンの王子様に跪いていただいているのは、乙女として憧れるシチュエーションだねぇ…………なのに、なんでだろう? ま っ た く !、ときめけない〜〜〜〜っ!!)


 しまいには、脂汗すらダラダラとたれてきた。


「お待ちなさい、ユリテウス。1ヶ月、保留期間をナウレリアに与えなさい。」


「なぜです、母上?!」というユリテウス王子の悲鳴にも似た声が聞こえていたが、「それもそうだな。ナウレリアにも考えるときがいるか」と王様は許可していた。


 ユリテウス王子は、「今回は母上に邪魔されたけど、僕はナウレリアを諦めないし、逃がさないからね」という不穏な言葉を呟いたが、その声はナウレリアにまで届いていなかった。


 だから、そんな不穏な空気をユリテウス王子が醸し出しているなんて知らない私は、『とりあえず今すぐ婚約者にならずに済んだ』、と一安心していたのだ。


弾む足取りでその場を離れようとしていた私だが、帰り際に冷たい目をした王妃様から、「よく考えなさいね」と厳しい口調で伝えられたのだった。



(……あれれ? なんだか、私、王妃様に敵視されてませんか?)



 ――これは、ユリテウス王子のお母様である王妃様から、遠回しに『婚約者を辞退しろ』と言われているのでしょうか?


 もしユリテウス王子との婚約が解消になったとしても、私、王妃様に嫌われたままじゃ、ナランディア王国で暮らしにくくなるのでは……?




 せっかく一安心していたのに、またしても不吉な予感に、私は寒気がしてぶるりと身体を震わせたのだった。






HP(Hit Point:体力)です。



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