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助けを求めたのは


前回投稿して、すぐにいいね!を押してくださった方がいて下さいまして……感激ですっ! ありがとうございます! 嬉しくって、嬉しくって、気がついたらこの話が書けていました。


 ジロジロと舐めるように私を上から下までうるさい視線で見つめる破落戸の男達。

 本能的な嫌悪感と恐怖で鳥肌が止まらない。



(怖い……)




「おいおいおい。聞いてたより上玉じゃねぇか?」


「うひょおっ、ほんとだぜ〜! すげぇ美人さんじゃねぇか!」


「いや待て。こんな美少女、普通じゃねぇよ。…………もしかして、貴族なんじゃねぇか?」


 そう言って、鬱陶しい視線を急に動きを止めて、私から距離をおいて落ち着いて見定めるような目つきで見てきた。




(見てくるな! 気持ち悪い!)




 けど、それもしばらくして、破落戸達の視線が落ち着いたことで、私も少し冷静になれた。


(この反応…………貴族に関わったらマズイって感じてるってこと? そうだよね……?

 それなら、このまま私が貴族だってわかってもらえたら、何事もなくここからかいほうしてもらえるんじゃないの?

 うん…………きっと、そう! そうに違いない! というか、そうであってほしい!)


 引きこもり姫なんて呼ばれていたって、わたしだってれっきとした貴族なのは事実だ。


 権力をかざすのは良い気がしない。使いたくない。だけど、それは私だけが被害に遭うときには我慢ができるって話なだけだ。人を巻き込むのは良くない。



(私の勝手な都合で助かるかもしれないのに、使いたくないからって、ジュリアンまで巻き添えにしてしまっていいのだろうか?)



 魔法で治したとはいえジュリアンは死にかけるくらい酷い目にあっている。





 それなのに、また嫌な思いをさせるの――――?





(自分のことばっかり考えてちゃだめだ。やりたくなくても、私が頑張ればジュリアンが助かるかもしれないなら、嫌なことでもやってみたほうが良い)





 逃げてちゃ駄目だ。


 ノブレスオブリージュ――――こんなときこそ、立ち向かうときだわ。





「そっ……そうです。わ、わたしは……貴族、です。だから、早く解放してください!」


 かなりどもってしまったが、言いたいことは言えた。


 私が貴族だってわかったのだから、解放してもらえるはずだ。


 その証拠に、破落戸の男達は「おいおい。マジかよ」とザワついていた。



(うんうん、いい感じ。頑張った甲斐がある。この調子で、私とジュリアンが助かれば、それで良いよね!)



 そう思うと、なんだかほっとした。



(貴族だって伝えたんだし、これで大丈夫のはず)



 さっきまで目を合わすのも戸惑っていたのに、破落戸達の目を見れるようになってきた。



(うん、いける。これで、助かる!!)



「あ、あははははははっ!!」


「う、うそだろ〜! なんであえて俺らが喜びそうなことを自分から言っちゃうのかな〜!」


「お貴族様を俺たち下々の民が蹂躙できるなんてさー。それって、サイッコーでしかねぇじゃねぇか! なぁーんで、そんな簡単なこともわかんねぇのかなぁ〜? まぁ、そこがヌケてて可愛いんだけど。ほんっと、見た目も良いけど、性格も俺のタイプだわ〜!」


「こりゃ、俺たちツイてるんじゃねぇか? こんな純粋培養のお嬢様をヤレるなんてなぁ! アハハハハッ!」



「「「ガハハハハッ! そりゃちげぇねぇ!」」」



 破落戸達はおかしくてたまらないというように、お腹を抱えて笑い出した。



(…………え、ええ。な、なに? どういうこと? …………私、失敗した? 貴族だってバラさない方が良かった、ってこと?)



 破落戸達の反応を見て、何か様子がおかしいと人付き合いが苦手な私でも感じた。



(マズイ。これはかなり良くない。)



 身体中から嫌な汗が吹き出してくる。



「アニキ。良かったっすね! これでアニキは、好みの美女を抱けるわ、大金は手に入るわで、良い事づくめっすね〜!」



「ああ、そうだな。さすがの俺でも、こんな美味い話は聞いたことがねぇ。あの乳臭えガキは俺様のタイプじゃなかったからな。依頼通り切り付けて痛めつけただけで、物足りなかったしな。

 …………だが、コイツはまさに俺のドストライクだ。しかも、ご丁寧にこの女を襲うのが依頼だなんてなぁ! ガハハハハッ! あの依頼人も良いことを頼んでくれたもんだなぁ。

 …………クククッ。都合が良すぎて笑えてくるな!」


「そうっすね〜! あのガキ、ちょーっとナイフで切り付けていくだけで、ロクな抵抗もできずに死にかけやがって。クククッ。いたぶりがいもなかったっすもんね〜。まぁ、家に帰して〜って泣いてる姿は見てて面白かったっすけど。」


「そういや、あのガキ、あんだけアニキに切り付けられたんじゃ、そろそろ息耐えちまってるんじゃねぇか?」


「ちげぇねぇ! あの依頼も随分割の良い依頼だったなあ!」



「「「アハハハハッ!!」」」



(…………死にかけ? それって、もしかしてジュリアンのこと? あんな小さな女の子を傷つけといて笑えるなんて、なんて酷い人たちなんだろう。

 ジュリアンをあんなにボロボロになるまで傷つけたなんて……)





 ――――許せない






「ああ。あの依頼も割の良い仕事だったな。

 あんな乳くせえガキ1人をなるべく血を出して、この部屋で殺すだけで、たんまりと大金がはいってくるんだもんなぁ!」



「「「アハハハッ!」」」



 ジュリアンが死んだと思って、愉快そうに大口を開けて笑い出す破落戸達に無性にイラついてきた。


「っあなたたち! そんなことをしていたら、今に痛い目にあうわよ! 世の中は因果応報なのよ! 酷いことを他人にしたら、いつか自分にも返ってくるわよ!」



「「「「…………」」」」



 私の言葉を聞いて一様に黙り込む様子をみて、「わかってくれたようね」と一安心した。



「「「「ガハハハハハハ〜ッ!!」」」」



 一斉におかしくてたまらないといった様子で笑い出す破落戸達。


(なに…………? どういうこと?)


「さっすが、純粋培養のお貴族様っ! なんだっけ? えーっと、因果応報、でしたけ〜? そんなもの関係ないんだよ! だから、あんたの前にここにいたガキも何にも抵抗できずに死んだし、これからアンタも死んでいくんだよ!」


「っ!」



(死ぬ……?)



 カナリアが私を殺すように依頼したってことなの?



(ここで殺されるってこと? ……どうして、カナリア?)



 そこまでカナリアに嫌われるようなことをした覚えはないのに。


「だーかーらーっ。あんたはこれから、俺らに順番に抱かれていく運命なんだよ!」


「いや待て。この女を抱くのは俺だけだ。俺以外は見学でもしてろ」


「あ、あにき……ひでぇ……」


「そんなぁ〜。こんな良い女、今後2度と巡りあえないっす! 1度だけ! アニキの後でいいっすから! ね?」


「そうですぜ。1度だけ」


「おこぼれで良いですからぁ!」



「駄目だ。この女は譲れねぇ! わかったな? こいつに手を出して良いのは俺だけだからな!」



「「「…………」」」



「返事は!?」



「「「はい…………」」」


 破落戸のリーダー格の男の圧のある言葉に、他の破落戸達は肩を落としながら返事をした。


 それで破落戸達の話は済んだのだろう。リーダー以外の破落戸達は後ろに下がり、リーダー格の破落戸の男が近づいてきた。


「なぁ、アンタ。俺を恨まないでくれよな。これも恨みを勝ったアンタが悪いんだ。俺らは依頼を受けただけだ。」


「近寄ってこないで」


 あんまりにもいやらしい目で近づいてくるリーダー格の破落戸に嫌悪感が湧く。


「へへへッ。逆効果、逆効果。そんな泣きそうな顔で睨まれても、俺をそそるだけだぜ。…………ああ。それとも、あえて俺をあおってるのか?」


「ッ!! 煽ってなんかいません!」


(相手がこれからどういう行為をしようとしているのかなんて大体想像がつく。)




 ――これでも、人生2回目ですから。




 でも、人生2回目とはいえ、嫌なものは嫌だ。


「きゃっ!」


「ああ、良い声で鳴くなぁ」


「触らないでください」


「だーかーらー。抵抗しても無駄だ。余計俺を煽るだけだ」


 頬を汚い手で撫でられて思わず声が漏れる。


「こんなことをして、ただで済むと思わないことですね。必ず、報いは受けることになりますよ!」


「へいへい。…………ああ、もうその口は黙らせちまおうかな」


 男の顔が近づいてくる。それは、まるで男女がキスをするみたいに顔がドンドン近づいてきて…………






(って!! これ、私キスされそうになってる?!) 






 前世でもキスなんてしたことがないのに、キスの初めての相手がこんな好きでもない破落戸の男と?!


「…………へ? うそ……え、い、いやっ。いやぁあああああああああっ!!」


 キスされそうになっているとわかった途端、私の口からは今まで発したことがないような声で出て、叫んでいた。


 その時、「ナウレリア様!!」と名前を呼ばれた気がした。


 だけど、恐怖で目を開けられない。




(あれ? …………何も触れてこない?)




 いくら待っても私がキスされることはなくて、おそるおそる目を開けるとジュリアンが破落戸のリーダー格の男に噛み付いて引っ掻いていた。


 リーダー格の男の顔はジュリアンに引っ掻かれた痕がいくつもあり、血が滲み出ていた。


「ってぇなあ!! なんで、お前がまだ生きてやがるんだ! お前には用はないんだ! とっとと消え失せやがれ!」


「ナウレリア様、お逃げください! この男は私が責任を持ってナウレリア様に近づけませんわ!」


 男の顔を引っ掻きながら、ジュリアンが叫ぶ。


 だけど、見るからに大人の男と少女では体格の差がありすぎる。

 私の魔法でジュリアンの身体の傷は全て治療ができてるとはいえ、無謀としか言いようがない。


「ジュリアン、私のことは良いから逃げてっ!!」


 とにかくジュリアンに逃げて欲しくて叫んだ。


「いいえ! 命の恩人のナウレリア様に報いるために逃げるわけにはいきません!」


 ジュリアンの瞳は、私がどんなに言っても破落戸から私を守ると語っていた。


「いってぇなぁあ!! こぉんの、ガキィィィィィ!!」




 ゴォオオオオオオオオン。




 破落戸の男がジュリアンの身体を掴んで壁に力任せに叩きつけていた。


 大人の男の力で目一杯壁に叩きつけられたジュリアンはピックリとも動かず、叩きつけられたままになっていた。


 それを見て、咄嗟に身体が動いていた。





(ジュリアン……!!)





 ジュリアンの身体に覆いかぶさり、ありったけの魔法の治療を施す。


「な、なんだ。なんだ?!


「光ってる?」


「なんなんだ、この女!」


 私を中心に魔法の光が癒しの光を放つ。この力は、ジュリアンだけに向いている。


「うざってぇな。せっかく俺が可愛がってやるっていってんのに、死に損ないが邪魔するなんてなぁ……チッ」


 ジュリアンの攻撃で腕に歯型で血が出ており、顔からも引っ掻かれた傷から血をダラダラと流したリーダー格の男が異様な雰囲気を放ちながら、フラフラと近づいてくる。


「……コロス」


「あ、あにき?」


「…………コロシテヤル」


「アニキ……」


 異様な雰囲気で、倒れたジュリアンの方へナイフを手に持って、フラフラと近づいてくるリーダー格の男。






「シネシネシネ、死ねぇえええええええええええええええええええ!!」


 狂ったようナイフを向けながら走ってきた。






その狂気じみた姿を見て、思わず私は心の底からユリテウス王子に助けをもとめた。






(お願いっ! 助けて、ユリテウス王子!! 今すぐに助けに来てっ!!)






 だけど、そんな都合のいいことが起こるはずがない。わかってる。だから、できることをやるしかない。でも、願わずにはいられなかった。



 だから、せめてジュリアンだけでも助かってくれたらいいなと思い、私はジュリアンの上に覆いかぶさった。







 ドカァアアアアアアアアアアン!!







 ありえない轟音と地響き、砂埃が立ち込めた。



 そして。


「――やぁ。遅くなったね、ナウレリア」


 ありえないと思いながらも待ち望んでいた本人。


 ユリテウス王子が豪華な服と髪型を乱れさせた格好で、ドアを破壊し、私を見つめて立っていたのだった。





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