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浮気現場を目撃してしまいました


ゆるめの設定ですが、完結を目指してはじめます。

よろしくお願いします。

 

「え…………うそ、でしょ……っ!?」


 目の前に広がる光景を見て、ナウレリアは強い衝撃を受けた。


 真夜中の夜間、目が覚めてしまったナウレリアはどうしても眠れないので身体を動かそうかと思い歩いていたのだ。

 だが、普段使っている屋敷を歩いてもまだ眠くならなかった。


「それならば」と、ほとんど誰も立ち寄らないが廊下で繋がっている別館の方へと足を伸ばしたのだ。


 それは何となく立ち寄ろうと思っただけで、特に何かをしようも思っていたわけではなかった。


『疲れてきたら自然と眠くなって眠れるかな?』と、思っただけだったのに……




 ――それがまさか、『自分の夫と、唯一の親友』の見てはいけない場面を目撃することになる、なんて思っても見なかった。




 2人が情を交わしている部屋の扉はちゃんと閉まっていなくて、隙間ができていた。


「っ、ダミアン、ダミアンっ…………ダミアぁぁぁぁあんっ!」


「はぁはぁっ……! カナリアっ」


 そこから、ナウレリアの()()のカナリアの悩ましげな艶を含んだ声と、聞き覚えのある夫ダミアンの声が聞こえてきたのだった。



 ――最悪すぎる



 ―――




 別館に入ってすぐから、カナリアの聞いたことのない声は反響していた。


だから、ナウレリアは、『屋敷の警備はしっかりしているはずなのに、何の音だろう?』と、ナウレリアは疑問と少しの好奇心が湧いて、引き寄せられるようにして、この部屋の前に来てしまったのだ。


「っ! うそでしょ?! ダミアンと…………カナリア……?!」


 ナウレリアの夫ダミアンと、信頼していた唯一の親友カナリアの浮気現場を目撃したナウレリアは、急に地獄に落とされたように気持ちになった。


 叫びそうになる声を両手で押さえて、2人にバレないように必死に心を落ち着かさせようとした。


(……どうして? うそ、でしょ?)


 ただただショックすぎて、その後どうやって、自分の部屋に戻ったのかはわからない。


 気がついたら、自室のベットの上で呆然と涙を流していた。


「そっか…………私、裏切られてたのね」


 元々、この結婚はダミアンがナウレリアに一目惚れをしたから、ということで請われて整ったものだった。


 人付き合いが苦手なナウレリアは、友達も親友のカナリアくらいしかいないので、他の男性との付き合いもなかった。

 

 でも、お互い侯爵家同士、家格も釣り合っていたから、両家の同意もあったのだ。


 そこに、ダミアンからの積極的なアプローチもあるのなら、とナウレリアが了承したのが結婚の経緯なのだ。


「ハハハッ…………私を好きだってあんなに言っていたのに、浮気するなんて、ね」


 でも、結婚してからもナウレリアはダミアンに苦手意識があって打ち解けられなかった。

 結婚後もダミアンは一方的すぎてナウレリアに合わせようとしなかったし、派手な交友関係を続けてよく遊びに行っていたからだ。


 必然的に、ダミアンがやるべき仕事もナウレリアがすることになるのだが、2人分の仕事をしてナウレリアはいつもクタクタになってしまっていた。


 困ってしまい、ダミアンに苦言は呈するのだが、「社交も仕事のうちだ」と取り合ってもらえていなかったので、2人の関わる時間はほとんどなかったのだ。


「もしかして、これって今夜だけじゃないのかしら?」


 半ば諦めにも似た気持ちで日々を過ごしていたので、毎日仕事で疲れ切って倒れるように眠っていた。


「うん、きっとそう。あの2人の様子はそんな今夜が初めてって感じじゃなかったわ」


 警備の者もいるからと安心していたが、夫であるダミアンがわざと警備を緩くしていたのなら、あり得る話だ。


(今まで家のためだと思って我慢してきたけど、もう限界だ)




 この国では、浮気は穢らわしい行為として許されていない。




 しかも、ダミアンはナウレリアが住んでいる屋敷の別館でカナリアとことを及んでいたのだ。


(2人とも最低だ)


 特にナウレリアを傷付けたのは、カナリアだった。


『私たちずっと親友よ!』


 ナウレリアが結婚するとき、カナリアはそう言ってくれていた。


(まさか、親友のはずのあなたにこんな裏切りをされるなんてね……っ)


 考えれば考えるほど、沸々と怒りが湧いてきた。


 そもそも、いつも通りダミアンの仕事もして疲れているナウレリアが眠れないのは、明日の仕事が心配だったからだ。


 フォーゲル侯爵家のことを考えると、明日の仕事の失敗は許されない。


「ダミアンのために、フォーゲル侯爵家のために、って頑張ってきたけど、もう限界だわ!」


 ナウレリアは、その場で決断した。


(よし、ダミアンと離婚しよう!、と)


 その場で、ささっ、と離婚の手続きを済ませると、フォーゲル侯爵家を出ることにした。





 ―――





「ふぅ〜、良い朝〜!」


 次の日の朝、ナウレリアは宿屋で目が覚めた。


 日頃、2人分の仕事をしているせいか、効率よく動くことに慣れているナウレリアは、昨日の夜中にフォーゲル侯爵を出て、この宿屋に泊まることにした。




 本来なら、ナウレリアも侯爵令嬢。




 離婚して実家のアインホルン侯爵家に帰るとしても、侍女を連れて、馬車に乗って帰るのが普通だ。


 だが、今のナウレリアには侍女がいなかった。


「ナウレリア! お前の侍女は小賢しいっ!」


 ダミアンの機嫌が悪くなる、という理由で、実家から連れてきていた侍女リリーを解雇されてしまっていたのだ。


「リリー、元気にしてるかしら。不自由はしないようにお父様に手紙は出したのだけど、あれから何も音沙汰がないわ」


(まぁ、そりゃそうだろう。いきなりクビにされたら、いくらリリーだって、ナウレリアのことを嫌いになっただろう)


 思わずナウレリアはため息が漏れた。


「あら? そういえば、身体が軽いわ。どうしてかしら?」


 普段のナウレリアは仕事漬けで、体調が悪いことが多い。


 それでも社交をしているから、と言ってダミアンが手伝ってくれないので無理をしていたが、今日は調子がいいようだ。


「あんなことがあって、()()()()()()()()()()()()()()を昨日は飲めなかったのにおかしいわねぇ……もしかして、環境の変化のせいかしら?」


 今のナウレリアは、ダミアンに言っても「仕事をサボるな!」と仕事漬けは変えられず、医者にも診てもらえずにいた。


 そんな時、カナリアから「疲れてるなら、いい薬があるの!」と、寝る前に必ず飲むようにと言われて飲んでいたのだ。


(そういえば、あの薬を飲むようになってから体調が優れない気がするようになったような?)


「けど、まさか…………ね? 浮気はしてたけど、まさか薬を盛るなんて恐ろしいことは…………」


 ――――していないよね?


 恐ろしいことに気がついてから、鳥肌が止まらない。背筋がゾクゾクとする。





 ――――私はカナリアに騙されていたのかもしれない。





 そのとき、コンコンコン!、とノックが鳴った。


(おかしいな。こんな朝早くから、なんだろう?)


 そう思って訝しんでいると、突然かけてあったドアの鍵が向こう側から開けられた。


(え、開けられた!? なんで?)


 思わず身構えた私の前に、現れたのはダミアンとカナリアの2人だった。


「ナウレリアっ! どうしてなのっ! いきなり、仕事もほったらかして、ダミアンを捨てるなんて酷いわっ!」


 泣きながら入ってきたカナリアが私に抱きついてきた。


「ダミアン、カナリア…………どうして、ここが? 鍵はどうやって……?」

「宿屋に金を握らせたに決まっているだろう! 仕事をサボろうとするなんて、お前はほんとに出来損ないだな! 俺に迎えに来させるなんて、手間かけさせやがって。――――早く帰るぞ!」


 頭が真っ白になる。


(カナリアと浮気してて私を愛してなんないないのに、ダミアンはどうして私を迎えにくるの?

 それに、仕事をサボるって言うけど、本来はダミアンの仕事だってわかってるの?)


 だめだ、このカオスな空間に吐き気がする。


 でも、一つだけ言えるのは、私はダミアンのいるフォーゲル侯爵家から離れたいということだ。


「いいえ、私はフォーゲル侯爵家には帰りません。ダミアン、離婚しましょう。私はアインホルン侯爵に帰ります。」


 浮気をしたのはダミアンだ。


 この国でその事実を伝えれば、私の離婚はすんなり通るだろう。

 そして、私の父も納得するだろうし、フォーゲル侯爵家からは慰謝料もついてくるだろう。


 私は困らない。むしろ、困るのはダミアンとカナリアだ。


「は、はぁああああああああっ!? 離婚っ!? するわけないだろ、そんなこと!」

「どうしちゃったの、ナウレリアっ! 仕事がしたくないからって、ダミアンに迷惑かけて気をひこうとするのは、やっぱり良くないと思うな?」


(どんなにダミアンが叫んでいても無駄。私はフォーゲル侯爵家には帰らない)


 それに、どうしてダミアンはカナリアとこんな朝から一緒にいるんだろう?


 つまりは、……そういうことだよね? 


 2人は朝まで一緒だったんだよね。


「どう言われようが、離婚はしますし、アインホルン侯爵家に私は帰ります。」

「そんなのっ、許さないぞっ! わがまま言うな!」

「そうよ! ナウレリア、侯爵令嬢だからって、あんまりにもわがままだとだめだよっ? ダミアンに迷惑かけないでっ!」


 そう言って、意味不明なことを言って泣くカナリアを慰めるダミアン。


(涙目のカナリアを肩に抱きながら言われても、帰ろうなんて気になるわけないじゃない)


 それでも、2人はまだ騒いでいたけど、私は無視して帰る準備をする。


(良かった。昨日は宿屋に着いて、そのままの格好で寝たから、靴を履いて、鞄を持ったら帰れそうだ)


 靴を履き終わって、私は2人の横を通り過ぎて歩いて行く。


「「ナウレリアっ!!」」


 2人の言いがかりというか、叫び声は聞こえるけど、無視する。


(相手にしてられない)


 そう思っていたとき。






 ――ドンっっっつつつ!!!!!







「っ?!」


 今まで感じたことのない衝撃が走って、背中から何かが私の胸を貫いていた。私は背中からナイフで刺されたようだ。


 熱いような、痛いような、感覚が身体を駆け巡る。


「……ナウレリア、あなた馬鹿? アインホルン侯爵家になんて帰すわけないでしょっ!」


 後ろからヒソヒソと耳元に囁かれたその声は、聞きなれたカナリアの者だ。


 囁き終わると同時にカナリアは、後ろから刺していたナイフを戸惑いなく引き抜いた。痛みと同時に、大量の私の生暖かい血が溢れてくる。


「ゔぐっ!!!!」


 思わず声が漏れた。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……――ッ!!)


 全身で痛みを感じて、身体が床に崩れる。


「アインホルン侯爵家に帰っても無駄。あなたの侍女は殺しちゃったからもういないのよ? あ、えーっと、名前はなんだっけ…………そう、確か、リリーだったっけ。

 私とダミアンの秘密に気がついて、あなたを守るためにアインホルン侯爵家に伝える、っていうから、…………ねぇ? しかたがないでしょ? ふふっ」

「っ!!!!」


 なんでもないことのように、カナリアは私の耳元で囁いた。


(うそっ……! リリーは私のために殺されてたの? そんな……リリー)


 私のせいで殺されたなんて、リリーに謝罪の気持ちでいっぱいだ。


「あら、痛みで話せない? それにね、貴族として致命的な妊娠もできなくなったあなたをアインホルン侯爵は喜んで迎え入れるかしら?」

「?」

「あら? まだ気づいてないの? ははっ、ばっかねぇ! ほんっと、ばかっ!

 ナウレリア、あなたもう妊娠出来ない身体になってるのよ? 私が渡してた薬、覚えてる? あれは疲労回復なんて効果はないの! 徐々にあなたの身体を蝕んでいくものなのよ! あははっ! だから、もうあなたを受け入れてくれるところなんて、ダミアンの所以外なかったのにね?」


「!!!!」


 私が表情の変化を楽しむように、カナリアの顔色を伺いながら話してくる。


 悪趣味な女だ。でも、私は昨日までこの女の本性に気づかなくて、ずっと親友だと思って信頼していた。


(こんな女を信じてた自分は馬鹿だ)


 私にだって、言いたいことは沢山ある。でも、カナリアが刺した場所が悪すぎたようだ。


 どくどくと、血が止まらないのだ。ありえない痛さで大量の生暖かい私の血が流れすぎた。


 ――身体に力が入らない。


「カナリア? 何をやっている?」

「ううっ、ダミアン聞いてちょうだい! ナウレリアがひどいのぉ! 私たちのこと、アインホルン侯爵家にバラすって言うの!」


 今までの一連の動作は、カナリアの背後にいたダミアンにはろくに見えなかったようだ。

 ヒソヒソと耳元で話されていた会話も届いていないみたいだ。



(……最低だ)



「っ!! なっ、なんだとぉ! ナウレリア、お前はなんて酷いやつなんだ!」

「私、ナウレリアを説得しようとしたんだけど、わかってもらえなくて。ナウレリアがこんなことに…………っ!

 ダミアン……ごめんなさい。私が力足らずだったの!」

「いや、良い。理解のないナウレリアが悪いんだ。これは事故だ。カナリアが悪いんじゃないから、自分を責めるな」

「ダミアン…………っ! ありがとう!」


 ――出鱈目を伝えるカナリア。


(今まさに私を刺したのに、良く言うわ)


 カナリアったら、言うことを聞こうとしない私がすべて悪かったことにしたいようだ。そして、ダミアンも自分の妻が死にかけてるのに、浮気相手のカナリアを、気にかけてばかりだ。


(なんなんだ、これは。)



 ――とんだ茶番だわ


 私は薄れゆく記憶の中で、ダミアンとカナリアに対する怒りで溢れた。


 だが、死にそうになって瀕死の私の目の前でもイチャイチャと浮気を繰り返す2人には、ある意味で呆れて言葉もない。



(こんなことになるなんて。後悔しかないわ)



 もしも、後悔するとしたら、昨日はこんな宿屋に止まらずにアインホルン侯爵家になんとしてでもむかえば良かった。


 そして、そもそも、ダミアンとの婚約なんてどんなに請われても引き受けなければよかった。


(あーあ。もしも、やり直せるのなら、次は違う人生を歩みたかったな…………)


 薄れゆく意識の中で、私はそんなことを思った。




 ―――




 …………だから、なのだろうか?


 目覚めたら、時間が戻っていたようだった。


「――――え、まだダミアンと出会っていないときなの?!」





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