第6話 女子高生は見た
「ん、どうかしたの? 何か忘れ――あっ……」
一人が立ち止まる度に次の一人が少女に気づき、四つの視線が集中すると少女がようやく動き出した。
慌ただしく鞄を取って立ち上がり、身を守るようにそれを抱きしめながら少女は後ずさる。
「あのっ! 記憶消しますからっ! み、見逃してくださいっ……!」
「……スエン、あんたちゃんと外の状況確認したわよね?」
「いやいや! 姉さんたちだって確認したでしょ!? 僕のせいじゃない! 瞬間移動とか! ステルス迷彩とかっ……!」
「あの嬢ちゃんがそんなもん持ってるようには思えないがな……」
「……一つだけ、可能性がある」
ソウが指を一本立ててそれを顔の横まで上げる。
「どちらの映像でも死角にいたんだ。映像が切り替わる瞬間にカメラを跨げば可能だろう」
そしてそのたった一つの可能性を伝えた。
「確率的にはありえないことだけど、それ以外にはありえないわね」
「それで、どうするんだ。目撃者は一人……始末するのは容易だが」
少女に聞えるか聞えないか、スカルが最後の一言を口走ると少女は腰を抜かした。声は押し殺してはいるが頬には既に大粒の涙が伝っている。
「ちょっとあんた、諸々救いに来た私たちが一人の女の子いたぶってどうするってのよ」
少しの苛立ちを見せたユティがスカルを軽く蹴った後に少女の元へと歩み寄る。
「ごめんなさいね、大丈夫よ。痛くしたりはしないから」
「ほ、ほんとですか……?」
「ええ……話は変わるけど、あなたのお家って何人ぐらいで暮らしてるのかしら?」
「え、どうして……? わたし一人、ですけど……」
「そうなの? じゃあ、それならだけど、少しあなたのお家にお邪魔させてもらっても良い? 数日だけ止めてくれたら、今日あったことはお互いに記憶から消しましょ、ね?」
「そ、それなら……はいぃ……」
そう約束を交わしたユティは慰めるように頭を撫でる。少女が涙を拭っているその隙に振り返ったユティは自慢げな表情で親指を立てていた。
一般市民が一人ほど巻き込まれた形ではあるが、これで無事に活動拠点の確保は完了したことになる。
「嬢ちゃんは完全に騙されているけどよ……本当に良いのか?」
「やってることは完全に脅迫ですよね。にも関わらず自分が優しく話が通じる人間だと印象づけてるあたり、弟ながら恐ろしく思います……」
「他人事だったお前の気苦労がなんとなく分かった気がするぜ」
「どうも……」
男二人がユティの恐ろしさを実感する中、ソウはしれっと少女に近づいて鞄を持って手を取るなどしていた。
「あの……えっと、その……」
「ちょっと、何間近で見つめてんのよ」
脇腹を小突かれたソウは少女から距離を取る。
「いや、すまない……気にしないでくれ」
そう言ってその場を離れるソウを見て、ニヤニヤしながらからかうようにスカルが言った。
「なんだ、一目惚れでもしたのか?」
「そうかもしれないな」
「へえ、あんな感じが好みなのか」
「スエン、頼みたいことがある」
相変わらず特定の人間だけを軽くあしらうソウは耳打つように頼み込む。
「十年ほど前に出回った望眞幸の素性に関しての文献を知っているか?」
「ええまあ、掻い摘まんだ程度ですけど……」
「その中で当時はフェイクだとして流された写真が一切残らず消えているのを確認したんだ」
「……つまり、それを僕に探してほしいと?」
「――頼めるか?」
「ええ、僕の役目をある程度片付けてからになりますけど、やってみます」
立ち上がった少女に近づき衣服に付着した汚れを叩いてあげたユティは優しく微笑んだ。
「私はユティよ。さっきの人の名前はソウ、あの細いのが私の弟のスエン。一度に覚えるのも大変でしょうし、アレは覚えなくていいわ」
「――スカルだ! さっきのは冗談だって!」
両手を挙げてから合掌をし、手と頭を何度か下げて立ったままの土下座モドキで誠意を見せる。
「あんな感じであいつは基本陽気なやつなの。さっきのは任務の都合上しょうがない反応だったわ。反省しているみたいだし、どうか許してあげてちょうだい」
そう諭しながらもいつの間にかに少女の手を取りそっと握ったユティは尋ねる。
「それじゃ、次はあなたの名前を教えてもらえる?」
見知らぬ優しいお姉さんに掌握され、怪しいとも思わずにコロッと信用しきってしまうそんな少女は名乗った。
「わたしは、恵好晴です……! えっと、お家! 案内しますねっ!」