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第5話 3月5日

 急につまみを回して音量をゼロにしたかのように音は消える。肉体ははたしてそこにあるのか。人に備わった感覚の多くが奪われたように思える。


 あるのは光と、それが光であると理解していた記憶だけ。目が覚めたかのように少しずつ意識が引き戻され、そしてその記憶だけが薄れていく。


 体感四五六七八(しごろくしちはち)秒、ゆっくりと光が途絶え始めた。


「……マイナス三分三秒のズレ、許容範囲ね」


 ユティの報告の後、日付が変わったことを全員が認識する。時間は確かに遡られた。


「はあ……それで、タイムパトロールは何処? もしかしてこの中にいたりするのかしら?」


「まだ遡ったばかりだ。本当に存在したとしても現れるには少し早い」


 ソウは軽口を叩きながらも背もたれに寄りかかり深く座る。


「なんだソウ、水でも飲むか?」


 返答を待つことなくスカルは水を投げてきた。

 それを手に取った後、ソウは一口飲んでからボストンバッグに手を掛ける。その中には黒を主としたコートなどの衣類が入っていた。


 当然だが戦闘服のままでは街に溶け込むことは到底不可能だろう。今回の任務はそれぞれ目的が違うこともあり複雑になってはいるが、括りで言えば潜入任務とされている。


 その為、このような着替えは必須となる。

 ヘルメットを足下に置いてから座っていた座席を折り畳んでスペースを作り、そこで四人は各々着替えを済ませていった。


 勿論、戦闘服の上に着る形で。

 最後に右手の裏、その手首辺りに備えられた柔らかい素材のパネルを開いて操作をした。


 映し出されるバーを左から右へと移動させると戦闘服の色が変化する。丁度真ん中辺りの限界値まで動かせば黒からそれぞれの肌の色へと合わせられた。


 仕上げに配色を固定すれば、これで戦闘服を身につけているとは誰にも気づかれないだろう。


「外の様子はどうだ?」


 スカルが空いたボストンバッグの中に水を詰め込みながら言った。


「今確認してます――……どうやら報告の通りに、工事で封鎖された路地なので人気ひとけはないですね」


 外の映像がモニターで共有される。

 一本道のその路地を前方から、切り替わって後方にも人が映っていないのを確認。念のためにともう一度繰り返した後、外へ出る前の準備へと入った。


「ねえソウ、あんたこれ使う?」

「勿論だ。そういう君は使わないのか?」


「生憎だけど銃の扱い方はサッパリなのよね」

「よし、ソウの方には俺の銃とかまとめて入れておいてくれ」


 あらかた自分の持ち物の確認を済ませ、スカルは自動小銃を軽く投げて渡してきた。何も言わずに受け取ったソウはバッグにそれを仕舞っていく。


 スカルは自分の身支度の最後に、中央の台座にあった装置を取り外してケースの中へ移動させた。


 それぞれが自分に必要な物資の確認を終えた頃、バッグを肩に掛けているのが二人だけだと分かる。


「何だ、姉弟きょうだい揃って手荷物なしか?」

「私たちに必要な物は特にないもの。全部あんたたちの予備としてここに置いてくわ」


 支給品は当然人数分が用意されている。

 置き去りにされそうになる水分を見てスカルが片手を前に出した。


「なら空いたバッグにあるだけ水を詰め込んどいてくれ」


「本当に水が好きなのね。スエン――」

「――まあ僕ですよね……」


 名前を呼ばれ、姉の威光に弟は従う。

 一言お礼を言ったスカルはバッグを受け取り、二つ目を肩に掛けた所で告げる。


「――よし、それじゃあ外に出るぞ!」


 再度、外の様子を前方後方と順に見てからスエンがパネルを操作した。それにより、街中その路地には円柱型の黒い異物が突如として地面から現れる。スエンのすぐ後ろで扉が開かれ外から光が差し込んだ。


 その場所は望眞幸のぞむまゆきらによって造られたオートヴィリバ第三人工島。外の世界と比べて文明レベルの低い風景の、外の世界とは隔絶された街。そこでは何事も起きず、緩やかな時間がただ流れる。


 何処にでもあるようで、この世では多く失われた旧時代的で陳腐な世界。そして明日にはこの場所は何者かの思惑によって陥落するのだ。


「やっぱり外に出るだけで気分ってものは変わるわね」


「例え人体に影響がないとはいえ、狭い場所は精神的にくるもんだ」


「僕は狭い場所の方が落ち着きますけどね」


 全員が外に出ると自動的に制御システムこと黒い缶詰が地面へと収まっていく。他三人が談笑しながら歩き出す中でソウだけは振り返った。背後の警戒、それはどんな状況だろうと怠ってはならないと教わっている。


 そしてソウは、ゆっくりと下がっていくアスファルトの上でへたり込む一人の少女に気がついた。


 栗色の髪を二つほどお団子に、そこから垂らされる短い尻尾は愛らしく。指定された制服に、指定された鞄と靴と紺色のコート。


 唯一の個性として許された桃色カーディガンのその少女は、口をぽかんと開けたままにただソウと視線を交えていた。まるで時が止まったかのように暫く二人は見つめ合う。


「…………困ったな」

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