第4話 遡行
格納庫へと繋がる扉の前で四人は横並びになっている。最後にユティが長い髪を束ねた後、スエンからヘルメットを受け取って被った。素性の秘匿、これらが完了すると扉は開かれる。
「豪勢なお見送りはなしなの?」
「その役目は彼らじゃないからな」
「私たちの為に何人の兵士が死ぬのかしらね」
「任務を無事に終えれば誰も死ななくて済むさ」
「……失敗できないわね」
「ああ、その通りだ」
輸送機へと向かう途中、多くの技術者と整備士たちが忙しなく行き来し、多くの兵士たちが黙々と準備を進めていた。
どんどんと一人で先へ進むスカルには小走りで遅れないようにとスエンが続く。ソウとユティがやり取りしていると流れに刃向かうように進むグループがやけに目に入った。
その一番の理由としては小柄な女性がこちらを見て小さく手を振っていたからだ。
「なに、誰かの知り合い?」
「俺のファンじゃねぇかな?」
「いや、お互いに顔見えてないですよね……」
入れ替わりで四人は輸送機の前へ。
兵士たちが乗り込んでいった機体と同じ形状、だが内部は作りが大きく異なっていた。
一つの黒い円柱型の装置か何かが乗せられていてアームでがっしりと固定されている。誰かが座るようなスペースはなく、輸送機の下が開閉可能になっているようだ。
「棺桶の中にどでかい缶詰があるとはね」
「違うぜ、男のロマンの中にでっかいロマンが詰まってるんだ」
「これが装置の制御システムか」
「そして僕たちの搭乗機ですね」
四人の到着を待っていたかのように、その黒い缶詰の側面が開かれた。中央には時間遡行装置を固定する台座があり、その四方を囲むようにして座席が四つ。
人数分のボストンバッグに自動小銃や拳銃、使用用途が様々な装備が添えられ、他には食料やら水分が、それと予備の戦闘服も揃えられている。外見に比べて缶詰の中身は狭くあった。
「あ、僕は事前にドアに一番近い座席を指定してたので先に入ってください」
「座席なんて指定できるのか? なら俺はきっと一番奥だな」
「狭いんだからはしゃがないでくれ。それとあんたはこっちだ」
「ええっ!? この中で一番年上なのは俺だろぉ?」
「残念、どうやら連邦は誰が一番かを理解してたみたいね」
「すまない、君はこっちのようだ」
「……まあ、そういうこともあるわよね」
「姉さんの場合、評価が下がる心当たりばっかだし……自業自得かな」
「スエン、あんた今なんつった……?」
「ははっ――それで、連邦様が何だって?」
「気楽なのは良いが喧嘩はよしてくれよ」
西方にスカル、東方にユティ、ソウはスエンと向かい合い全員が席に着く。そして缶詰の中は密閉された。真っ暗闇から赤いライトで照らされて、それから皆が腕時計を確認していく。
外では微かに輸送機のエンジンの音がしていた。
それを感じられるほどに、先程までの喧噪が嘘かのように静まりかえっている。その変化に釣られたのか、四人も同じく口を噤んでいた。
「時間の確認よ。十秒、九――」
沈黙を破ったのはユティ。彼女のカウントダウンにより全員の時計に狂いがない事を確認。
「よし――任務開始だな。装置の起動時刻までは一時間だ」
「制御システムに異常なし、エネルギーの漏れもなし」
「輸送機の状態も良好……このまま何事も無ければ良いんですが」
◇◆◆◆◇
真剣な眼差しをモニターへ向けるスエンは全ての機器の状態を逐一確認していた。
「――二秒ズレたわ」
「輸送機の損傷はなし、ルートが少しズレたみたいですね」
任務開始から数十分。その少しの変化から外の状況を把握する。現在地は事実上領有権が曖昧となった海の上、オートヴィリバ人工島群への最短ルートだ。
望眞幸の失踪後、既にその海域の多くは S.I.N.共和国によって監視下に置かれていた。
連邦と共和国の軍事力は同程度、トップツーがぶつかり合えばどうなるのかは誰でも分かる。この任務は戦争と平行して行われると四人には伝えられていた。
「宣戦布告なしでの攻撃なんて、大義名分が無ければとんでもないことよね」
「向こうもまた同じように大義名分で動いている。奪還か防衛か、どちらにせよそれは勝者が決めることだろう」
「この状況、同盟国には同情するわ」
それから何度かズレの確認を繰り返していると大きな振動を感じた。
「――さあ時間だ、始めるぞ」
近くに置かれていた水を一本軽く飲み干したスカルはそう言って時間遡行装置を取り出す。
「何よあんた、水とか飲んで緊張してるの?」
「バカ言え、俺は冷たい水が大好物なんだよ」
そう言いながら装置の両端を握り強く捻ると青白い光が内部を照らした。中央の台座にそれを固定したのを確認してスエンが起動準備に取りかかる。
「水が好物って珍しいにも程がありますね」
「水は緊張を和らげる効果があるらしいな」
「だから緊張してないっての。ほら、お前ら気を引き締めろ! 時間旅行の始まりだ!」
制御システムは正常に動作を始め、騒々しい稼働音と共に輝きが増していく。
「起動準備完了です。エネルギーを流しますので、装置にはくれぐれも触れないようにお願いします」
中央に注がれるエネルギーは青白い冷気のように視覚化し装置を中心にして渦を巻き始めた。
例えるならば一つの銀河だ。その渦は段々と拡大していく。人体への影響はなし。それぞれが視界に映るバイタリティーを確認。親指を立てて異常が無いことを伝達しあった。
「現在は三月八日、起動時刻は十五時三十三分と六秒に――遡行後は三月五日の同時刻前後と予想されます、時計を――」
スエンの言葉の後、ソウたち三人が時計を見る。
「……起動だ――!」
スカルの号令の後、すぐに視界が真っ白に染まった。