第34話 共闘
もの凄いスピードで現れたソレは一直線にスカルへと飛んでいき心臓の位置を貫く。突き刺さった途端に傘が開かれ、スカルの体を強引にこじ開けようとした。
「ぐっ……来やがったな――ユティ……っ!」
その名を呼んでも返事はない。
両手で傘を掴んで抑え込むが、引き抜こうにもジェットエンジンでも搭載しているかのような推進力で押してくる。
遂には押し込む力が何よりも勝ってスカルの体を突き抜けていった。
その隙を逃す手はない。
よろよろとしていたスカルを見てソウは走り出す。
刀に血液を塗りつけて修復を始める胸の穴へと突き刺した。
「くそっ――!? 余計なことを……!」
上手く引き抜くことができずにソウはスカルに投げ飛ばされてしまった。だが、今までになくスカルは痛みを感じているようにも思える。
スカルの胸に空いた穴からは水が流れ出ていた。
以前に燃えさかる血液が水に流される際に、濁った状態では血と同じように燃え続けていたのを確認している。
スカルの体内に流れる水を血で濁してしまえばと。
どうやらそれは正解だったらしい。
「血が体を巡るのは久しぶりだぜ、最悪な気分だ……!」
突き刺さったままの刀を抜いたスカルはそれを自分武器として利用するつもりだ。体勢を立て直したソウのそばには銀の槍が突き刺さっている。
「力を借りるぞ――」
それを握って引き抜けば想像していたよりもその槍が軽いことに気づかされた。
「第二ラウンドといこうじゃねぇかッ……!」
スカルの言葉を合図として二人は同時に距離を詰める。大振りのスカルに対して突きを選んだソウ。
槍を掴まれたがソウの意志とは関係なく槍は傘を開いて拘束を強引に解いていく。すぐに傘は閉じられ視界を確保させるが、その時にはスカルが刀を振り下げていた。
つばぜり合いが続く。どちらも引く気はない。
スカルは自身の体の特性を活かして守る気のない我流を貫く。その勢いは流石のもので、槍で受け止め弾こうとも刃がソウの肌を掠めていた。
血液が飛べば火の粉となり、辺りに付着して火の手が増える。スカルは相手に傷を負わせるほどに不利になるのだ。
この世の利はソウにある。
だが、未だに扱うその槍に振り回されていた。
「下手くそなダンスみたいだぜ!」
この槍は意志を持っているのではないかとソウは疑ってしまう。スカルの行動に合せて最善とは思えない大胆な動きを取らせてくるのだ。
一度攻撃を受け止めてからその反動を活かして槍を回転させろ。手で握るだけでなく体全身を使って振り舞わせ。槍の上半分で受け止めたなら傘を開くよう意識しろ。なんで今の一瞬で詰めなかったわけ?
「だったら君に判断を委ねるぞ……!」
自分で考え行動するのを放棄した瞬間に理解する。
この戦闘スタイルで優先されているのは直感だと。
それも常に先を見ているだけで実際に起きている現象には殆ど目を向けていない。
「そうか――」
ソウの戦闘スタイルは基本が受け身だった。
相手の情報を分析してから結論を出して適切な対処を下すというもの。それは対ニコラの遺子特殊戦闘部隊で培ったものである。
対してこれは先を予測して先手を打つ戦闘スタイルだ。相手がどう動くかを予測して常にこちらから択を押しつける。まさに今までソウが振り回されていたように。本来は相手を醜く踊らせる為の動きだと。
それに気づいてしまえば手玉に取るのは簡単だった。
「上達が早いじゃねぇか……!」
そこからは一方的な攻勢が続いた。
炎によって逃げ道が絞られてスカルは後退していく。わざと槍で貫かれることで血抜きでもしようかと前に出れば傘を開かれ押し込まれた。
スカルの動きが段々と鈍くなってきている。
あれだけあった分厚い筋肉も張りがなくなったように見えた。熱によって筋肉がたるみ体が溶け出したかのように横幅が広くなっていく。
皮膚が剥がれ落ちたりするのではなく、あくまでも脂肪のように重力に負け始めていた。
「諦めろ、あんたの負けだッ……!」
「ぐっ……クソッ……!」
遂にスカルは壁に空いた穴にまで追い詰められる。
その先には何もない。押し出されればそのまま高所から真っ逆さまだ。
物を握るほどの握力すら失ったのか、その手からは刀がこぼれ落ちる。崖っぷちに立たされたスカルの胸ぐらをソウは左手で掴んだ。
「っへ……俺たち、終わりみたいだな……!」
それは人類が滅亡するという意味か。
それとも二人の関係についてか。
どちらの意味とも取れるその言葉に対して、ソウは返答する。
「終わらせないさ。未来は俺自身で決める。だからさ――」
その声には怒りも喜びもなかった。
別れの間際にソウが見せたその表情をスカルは目に焼き付けた。
「その時になったら、きっとまた会おうぜ――なあ、ヒーロー」
それは別れを惜しむ哀愁に満ちた表情。
いつの日にか見た少年の顔だった。
手が離されてそのままスカルは落下していく。
手放されたその左手はまるで何かを掴み損ねたように、暫くその場で持て余された。
急に力が抜けると倒れそうになる。
それに合せて世界には色が戻り、適用されていた固有世界観が消えたことで血液が付着した部分の炎も治まった。
「っ……?」
このまま倒れてしまうのだろうかと思えば、後ろで誰かとぶつかった。ぎゅっと抱きしめるように支えるその人物。右手を伸ばしてソウが持っていた槍を握るとその槍は途端に形を変えて細い手の薬指に指輪となってはめ込まれた。
「遅くなって悪かったわね」
そのまま右側から肩を貸してきた人物はソウを椅子にまで運んで座らせる。テックヴォルト製の指定された白と青の制服に身を包む銀髪の少女へ向けてソウは言った。
「いや、最高のタイミングだった。感謝するよ、ユティ」
「あらそう? ならいいけど。怪我の具合は――大丈夫とは言えそうにもないわね」
「好晴は――」
「――大丈夫、スエンに任せてあるわ。あんたはここで休んでなさい」
火の手はホログラムによって隔離されていた。これ以上は燃え移ることもないだろう。好晴のいる部屋にまで被害はいっていないようで、安心したソウは大きく息を吐いた。
少しの間だけソウの顔色を見て心配はいらないと判断し、ユティは自分で空けた大きな穴へと向かう。
そこから下の様子を眺めてから言った。
「スカルが死なないってのは理解しているわよね?」
「ああ、実際に戦うことで実感したよ。あいつはどうやっても殺せない」
「このまま放っておけば元に戻って起き上がるでしょうね。どうするつもり?」
「どうもこうもない、あいつは俺に負けた。清く諦めてくれるさ」
「信じてるわけ?」
「……どうだろうな」
「そ――ならあいつの処遇については任せてもらっても良いかしら?」
ユティは問答無用で行動に移すことはせずに同意を求めてくる。彼女は私的な強い感情をスカルに対して抱いているのだろうとすぐに分かった。
少し考えたソウは応える。
「君に任せる。だが、どうするつもりだ?」
「あいつは死なない。だから普通の人間なら死んだ方がマシって思うような罰を与える」
「……具体的にはなんだ?」
「生き埋めよ。丁度ここから見えるあの辺りは山を崩して整えるらしいわ。テキトーに埋めても一、二ヶ月で美味しい空気にありつけるでしょうね。で、異論は?」
「問答無用だろ?」
「勿論よ。これでも八つ当たりは最小限にして提案してるんだから」
そう言いながらユティは手を銃に見立てソウへと狙い定める。何かを受信して確認すればそれは彼女の連絡先だった。
「私個人の連絡先、あんたには渡しておくわ」
「急だな。どうしてだ?」
「仕事用のは帰ったらどうせ破棄されるし、今回私たちは任務に失敗してる。良くても生産中止で仕事も貰えなくなるだろうから、そしたら大脱走して傭兵をするつもりなの」
「そうか……何かあれば連絡するよ」
「そうしてちょうだい。顧客を掴むにはまず身近な人からってね」
これで話は済んだのか、ユティは背中を見せて飛び降りる為の準備に入る。大きな穴の前に立って一歩踏み出そうとしたその時だ。何かを思い出したのか、わざとらしく声を出してユティは振り返った。
「あ、そうだ――」
「……?」
何も言わずにソウは言葉を待つ。
ユティは何かを考えているような素振りを見せつつ、間を置いてからソウの目を見た。
「……あんたの槍捌き、案外悪くなかったわ」
長考の割には短い一言。
結局伝えたかったのはそれだけか。
軽く手を振り、ユティは華麗に飛び込んで去って行った。




