第33話 ケジメ
二人が選んだ戦闘服の色はそれぞれ白と黒。
好晴が真っ白なヘルメットを膝に乗せて外の景色を堪能してから数分後、通信が入る。
『こちらの準備は整いました。会見用の部屋は最上階にあります。僕が管理システムを乗っ取るので案内に従ってください』
「了解した。……また世話になるな」
『気にしないでください。全ては僕と姉さんの為でもありますし……まあとにかく、好晴ちゃんの計画通りに、怪我人ゼロ厳守で一暴れしますよ』
「無理を言ったのは私ですけど、その……あまり無茶はしないでくださいね」
『心配はいりません、僕は機械の体ですから。それでも、その言葉はありがたく受け取っておきます。そちらもお気をつけて――』
通信が切れると共に外で警報が聞え始める。
この街で配備されている警備機の幾つかがクラッキングにより暴走を始めたようだ。
大使館内でもアナウンスで部屋を出ないようにと警告が来た。そして各部屋のロックが掛かり自由な出入りができなくなる。
だが、ソウたちの部屋だけは開かれた。
「行くぞ――」
「はいっ……!」
力強く返事をした好晴は、背中に刀を携えて先を行くソウに付き従う。
廊下を出てすぐに好晴は警戒を強めた。
「歪みなし、温度よし、音も変わりなし――異常なしですっ……!」
ヘルメットの扱い方を覚えていた好晴は組み込まれた技術を有効活用して索敵をしている。
結果は報告の通りに、スカルは見当たらない。
エレベーターに入れば最上階へ直行する。
「必ず現れるはずだ……」
それは間違いないはずだのだが、最上階に着いても姿を一向に見せない。正面には両開きの扉が三つある。二人がいるのはその手前の広い空間だ。
豪勢な絨毯に装飾、花瓶には鮮やかな花が。
一見劇場のような場所に思えてしまう。
「……あんたなら、きっと――」
この先で待っているのだろうと刀を抜いたソウは扉を蹴り破った。そこは扇型の一室。階段のように一段ずつ下がって固定された椅子がずらりと並んでいる。
一番奥の台座には黒い戦闘服を着た一人の男が立っていた。
「待ってたぜ、ソウ」
「わざわざここで待つなんてな」
「最後の舞台にしては中々良いんじゃねぇかって思ってよ」
「この場所はこれから使う予定なんだ。できれば場所を変えたい」
「別にここじゃなくても機材は奥の部屋にあるんだ。スエンにでも頼んで調整してもらえ」
「通してくれるのか?」
「一人だけなら通してやる――それで、どっちが残るんだ?」
わかりきったことを聞かれ、ソウは好晴を見た。
不安そうにする彼女に向かって一つ頷けば、同じように頷いて前へと出る。
真ん中の通路を進んでスカルの前へ行っても、彼は宣言通りに素通りさせた。
「二人とも殺すつもりだと思っていたが」
「正々堂々と決着つけるって時に、か弱い女の子が近くにいちゃあ本領発揮できないだろ?」
「……それがあんたのケジメか?」
「そうだ。どっちが勝っても恨みっこなし、負けた方が清く諦める」
「――あんたにも守るべきものがあるんじゃないのか?」
「……勿論あるさ。だが、お前も同じだろ? 互いに負ければ大切な人を失う……今の俺たちは対等だ、互いに誰かを不幸にしようとしている、正義であり悪でもある」
「勝つためならどんな手段でも取るべきだ」
「そうかもな。だが、それだとヒーローっぽくねぇだろ?」
こんな時に何を言っているんだとソウは正気を疑った。それでもスカルの表情を見れば方便ではないのだと彼の想いが伝わってくる。
だからこそ、この一騎打ちを選んだのだ。
「俺がヒーローを張るのはこれが最後だ――」
台座を持ち上げてその辺に放り投げる。
拳を握って自身を鼓舞すると開戦の合図として告げた。
「戦争か、滅亡かッ……! 俺たちの未来を決めようぜ――なあ、ヒーロー!」
その言葉を受けたソウは刀を強く握りしめて問う。
「俺たちの未来は本当にそれだけなのか?」
目の前の敵を打ち倒す。その覚悟を確かに決めたソウは叫んだ。
「そんなはずはない――てめぇらのクソみてぇな世界観を押しつけるんじゃねぇ、この戦争屋がッ……!」
彼の表情を見てやけに嬉しそうにニヤリと笑ったスカルが一直線に駆け上がってくる。それを迎え撃つ為にソウは自分で左の手の平を切りつけた。
「アーキタイプエンジン起動――固有世界観、構築開始ッ……!」
胸の位置を強く叩くと蒼い線が浮かび上がる。
並ぶ三本の縦線には稲妻が刻まれた。
海のように深く青い瞳が淡く不気味に輝いたかと思えば、次の瞬間には世界から色が奪われる。
「そういやそうだ――お前もニコラの遺子だったなッ……!」
スカルの空色の瞳もまた色を奪われた。
この世に残ったのは白と黒に肌の色。
「思考は無意味だ、俺とあんたじゃ見えてる世界が違うッ……!」
唯一無二で鮮やかに、血と炎の赤が色めきだす。
真っ赤な血液が付着して黒い刀身が途端に燃え上がった。間髪入れずに迫るスカルへと炎の刃を振るう。
「そんなに俺がでかく見えたか――!」
当然、空を切ったのには意味があった。
「っ……!?」
斬撃が炎となって具現化したように映れば初見のスカルは驚いて対応に遅れる。姿を一瞬消したかと思えば左右前方へと三人に増えて前進してきた。
正面の一人に炎がぶつかり爆発が起きる。
舞い上がった黒煙の中から無傷のスカルが現れて殴りかかってきた。それを刀身で受け止めてからいなし、後方へ引きながら切り払えばスカルが消え去る。
「脆いな、大したホログラムじゃない――それとも別の影響か?」
斬った感触は殆どなかった。つまり、斬ったから消え去ったのではないと考えられる。
以前に比べて遙かに頭が回っている。
これが覚悟の有無による差異なのか。
続いて狙いを定めたのは左右に分かれて挟み撃ちを仕掛けてくる二人。左方向へ残る血液を利用して炎撃を飛ばし、すぐに右のスカルとの距離を詰める。
先程は炎が弾けても耐えることができていたと、そのように視覚情報では判断できた。分身できるスカルであれば、それがブラフという可能性も考えられる。
まずはホログラムを崩す条件が炎ではないと仮定してソウは行動した。付着する血液が減り、炎が消えて乾ききった刃で斬りかかる。
雑とはいえ攻めに転じてれば受けざるを得ないと。
振るった刃は呆気なくスカルの手で掴み取られてしまうがそれで構わない。
透かさずソウは力を込める。手応えはなしだ。
「そうかッ――!」
結論を出したソウは切り傷ありの左手でスカルの顔を掴んだ。そうすれば当然抵抗されて引き剥がされもするだろう。それと同時にスカルの顔が燃え上がり、頭から崩れ去って空気に溶けるように消えた。
「少しのノイズで崩れるようだな!」
両腕が解放されるとすぐに刀を握り直して背後から迫る気配へと振り向きざまに斬り上げる。受け止められはした。だが持ち手が上となれば血は滴り落ちていく。
「ホログラムならな――じゃあ本物はどうだ?」
硬くはあるが確かに手応えがあり、ゆっくりとそのスカルの手に刃が通った。少しでも切れれば後は流れるがまま、抵抗を感じないほどに軽々と指を切り落とす。
「やるなっ……!」
余裕そうな声でスカルは称賛する。
それが皮肉だというのは当然のこと。
斬り上げた事で懐が無防備になったその一瞬の隙を突く。
「ぐっ……!?」
腹部へと撓るような蹴りが入り、ソウは吹き飛んだ。
「戦闘中に考え事をしすぎたな! お前の悪い所だぞ、ソウ!」
「っ……あんたこそ、戦闘中でも、もう少し頭を使った方が良い……っ!」
ゆっくりと立ち上がるソウの言葉を聞いてから、スカルは辺りの変化に目を向けた。
「……もしかして、俺の弱点バレてるか?」
「見ての通りだ……あんたが水をよく飲むのにも納得したよ」
あれだけの炎が室内で悪さをすれば、火事にならないわけがない。炎はじっくりと周辺へ燃え移ってスカルを囲んでいく。
逃げ場はない。だが、それはソウも同じ事だ。
「恵の雨の時間だ」
スカルがそう言ったのは室内で警報が鳴り始めたからだ。火災となればそれを鎮火しなければならない。
暫くのうるさい音の後、あまり聞きなじみのない警告が流れた。
『室内を密閉します。直ちに退去してください――』
それが意味するのはと、この建物の防災システムを理解したスカルが言った。
「俺は水の方が都合が良かったんだが、まあこっちでも早くに決着がつくからありかもな」
天井の方から噴き出すのは水ではなく二酸化炭素を利用した消化剤だ。
余裕そうなスカルは窒息もしないのだろうか。
「中途半端に機械だったのが仇になるとはな、ソウ……」
幕引きは呆気ないと残念そうなスカルだが、対してソウは焦る素振りすら見せない。考えてもその理由なんてわかるわけもないが、答えの方が先に現れる。
ほんの数秒前のこと。
ソウに対して通信が入っていた。
『援軍がそっちに向かっています。どうか巻き込まれないように――』
突然に壁が砕かれて光が差し込んだ。




