第23話 スエンフス
二度目の二人乗りでも気が気でない様子だった好晴は目的地の一階ホールに入った後も不安を口にしていた。
「あの……この格好のままでいいんですかね? 怪しくないはずないですもんね……?」
「それはもちろんだ。だが、今は怪しんでもらった方が都合が良い。きっと早くに警備が駆けつけるはずだからな」
一番左のエレベーターに乗って決まった手順で階を指定していく。どう考えても怪しい二人組だが、ソウの指示で一度ヘルメットを外すと認証が通った。
二人目の恵好晴が帰宅した、という記録に関して誰かが疑問を抱くのも時間の問題だろう。
ヘルメットを被るのを手伝ってもらい、今度は交代でソウが顔を晒した。扉が開いた先ではリビングで勉強会を終えてから暫く後のスエンがいる。
来客に気づいて立ち上がり、やってきた人物を見て一瞬驚いたような表情を見せた。そこから取り乱すこともなく、顎に手を当て思考を済ませたスエンが手を伸ばす。
「ソウさん、右手を――」
言われた通りに手を差し出せば、背中から肩を通り右手を渡る小さきものがいた。大きさは拳銃の弾丸と同じぐらいの銀色の蜘蛛。胴体が角張っていて実に機械的なデザインだ。
それに気づいた好晴は顔を近づけて同行を追いかける。それがスエンの手に渡り、手中に収められると溶けるように姿を消した。
「わあ……!」
「もしかして、好晴ちゃんですか? どうして彼女が……」
そう疑問を呈しつつも目を瞑ったスエンは暫くして小さく数回頷いた。
「……状況を把握しました。未来を知るあなたから、僕に何か助言はありますか?」
銀蜘蛛から情報を受け取ったのか、スエンは物分かり良くそう求めてきた。
「直にスカルが戻ってくる。ここで迎え撃ちたい。恐らくは殺すことはできないだろうが、もう少しあいつを知る必要がある」
「拳銃の残弾は?」
「すまないが撃ち尽くした」
空となった拳銃を渡せば、すぐにスエンが弾の補充を始める。手中より生み出される銀蜘蛛が次々に弾倉へと行進していた。
「周辺の警備機のクラッキングを頼めるか? できる限りで集めて欲しい。それと、タワーへとすぐに迎えるように移動手段を用意しておいてくれ」
「このマンション周辺の警備機ならクラッキングが完了していますから、いつでも呼び出せますよ。タワーへの移動手段ですが……屋上に出たらタワーへ向かって一度発砲してください。それで迎えのヘリでも捕まえてきます」
「……君の評判はあまりにも過小評価が過ぎる」
「僕の仕事は地味であまり知られていないのと、姉と足してプラマイゼロですから。それに成績が良いと怖い先輩がいるので……」
最後の一言を呟く際のスエンは本当に恐れているようだった。
「それよりも、他にはありますか?」
「……俺と通信はしないように頼む。どちらの俺にも繋がってしまうからな」
「それは――確かに、その方が良いかもしれませんね」
「それとだが、ユティがタワーに着く頃にこの第三人工島へ共和国が攻めてくる。ニコラの遺子の投入によって大火災は免れない」
「っ――! すみません、それだともう会話してる余裕はなさそうです」
拳銃をソウの手に握らせた後、スエンは集中したいのかソファへと戻っていく。
「そうだ! あの、こっちのソウさんに頼まれていた件、実はまだ見つかってなくて」
「……これでどうだ?」
ソウが耳元に指を添えてからスエンに向かって腕を振ると一枚の写真が送信された。それを受け取ったスエンは口を開けたまま目だけを動かし床を見る。
怪訝そうな顔を見せた後に言葉を詰まらせ、言うまいか悩んだ末に声を絞り出した。
「あの……その、言いにくいんですが……これだと――」
「無理に言う必要はない。それに今はまだ、パラドックスを起こすタイミングじゃないだけだ」
落ち着きなく手を動かして、ソウの言葉を頼りに考えることを取りやめた。
「余裕があれば武器のメンテナンスをしてテーブルに並べておいてくれ」
「善処します……!」
拳銃を収め、もうじき現れる標的を待つために屋上へと上がっていく。好晴もその後を追っていくと、その先では既に六脚の警備機が起動して階段の横で待機していた。
流石に二人を敵として認識はしていない様子。
階段を上がりきってすぐ静かに悲鳴を上げた好晴は、その丸めのボディを撫でながら通り過ぎていった。
ヘリが到着するまでは反対側の階段に好晴を待機させ、ソウは指示通りにタワーの方角へと引き金を引く。
それから数分で浮遊する円盤型の警備機が飛んできてヘリポート周辺で停止した。風を渡ってきた緊急車両の警報が耳にまで届き、予定の時刻がきたと煙幕のピンに指を通す。
スエンは階段を上がっていき、入れ替わりで扉を押さえたソウが室内に煙幕を投げ込んだ。
「次はどうしますか?」
「ドローンと共に窓を割って侵入する。俺の足場で一機、窓を突き破るように四機だ。その音が聞えたらそこの小型のアームでスカルを狙ってくれ。……殺しきれずとも、何かヒントは掴めるはずだ」
「分かりました。ヘリはもうじき到着します。好晴ちゃんは先に乗せておくので、ソウさんが戻ってきたらすぐに飛べるようにしておきます」
これからの行動手順を確認し終わり、ソウはヘルメットを装着し直す。
「準備できました!」
屋上から何もない外側へとつま先を出して足を揃えた。
「状況は常に最悪だと想定して行動するべきである――」
そう吐き捨てた後に一歩踏み出す。
「全く、耳の痛い話だ」




