第22話 スカル
堂々と監視カメラの前に立ったソウは狙いを定めて引き金を引いた。警報がなり始めると施設の周辺に並べてあった無骨なオブジェクトが動き始める。
デカイだけの四角い物体が起動するとそれは六脚の対人拘束用の小型警備機の群れだと判明した。
こうして正面から見るとその三つ指のアームの鋭利さに気づかされる。それに踏まえて射出の出力が高い事を考えれば建前もクソもない。
この小型機は立派な人間殺傷マシンだ。
「愛嬌はあるんだがな」
律儀に横並びになろうとする六脚共に目掛けてグレネードを一つ見舞い、さっさとその場から離れて開いたままの扉から管理施設へと侵入した。
ご丁寧なまでに進むべき道だけが開かれている。
施設内部にも警報が響き渡っていることから聴覚情報は当てにならない。足早に廊下を進んでいくと難なくコントロール室の前に辿り着いた。
壁に背をつけ覗き込めば、そこにはやはりスカルがいる。無防備な状態で背を見せる人間を撃ち殺すのは容易。やるなら今だろう。
「…………何故だ――?」
ソウは引き金を引くことができないでいた。
ためらいだ。スカルを撃ち殺すのかというためらいがまだ残っている。どう考えてもスカルが破壊工作と望眞幸暗殺の実行犯だ。それでもソウの中にあるたった一つの認識が頭の中でこびりついて離れない。
「いつからだ……?」
大きく深呼吸をしてら引き金を引こう。
そうして長く息を吸い、ゆっくりと腹の中の空気まで吐き尽くす。そしてスカルの手が止まった。
「っ――!?」
持続的な銃声が鳴り響き、ようやく敵の存在に気づいたスカルが振り返る。全弾命中。反射的に腕で防御姿勢を取っていたスカルが声を張り上げた。
「誰だてめぇ……!」
スカルは無傷だった。
弾丸は全て弾かれている。自動小銃に使用される弾丸は通常の企画のもの。頭が上手く回らないせいか未だに状況の理解が追いつかない。
それでもソウは苦い顔をしながらも手を動かした。
リロードはせず、ならばと拳銃を抜いて発砲。
高重力ホログラムであればと思ったが、スカルは容易く手で受け止めた。拳を開けばキューブが落とされる。
「驚いたか? まあ俺も驚かされたけどよ。お互い様ってことで」
「――頼む、死んでくれ……っ!」
言葉に耳を貸さずに手榴弾を投げた。長引かせたくはなかったのだ。殺さなければならない、何度もそう言い聞かせてほとんどやけくそのままに。
爆発の中で何かしらの機器がショートする音が聞えていた。何故そうなったのか、まさかその原因が自分にあったとなれば笑わずにはいられない。
直撃。だがスカルは倒れていない。
煙が薄れると顔が見え始め、その表情が笑顔であると錯覚した。
「熱いじゃねぇか……」
口元から水が流れ出ていた。顔の上半分は腕によって守られていたが、下半分は手榴弾の影響によって肉が剥がれている。
だが、その中に赤色はなかった。
全てが銀。剥がれた皮膚は吹き飛ばされることなく残っている。歯がむき出しになっていたのが笑顔と勘違いした理由だった。
「スカル……お前は、一体――」
皮膚が元の位置に戻ると、余裕そうにスカルは水を飲もうとする。キャップを外すよりも先に穴が開いて水が流れ出ているのに気づき、少量の水を口に含んでから睨んだ。
「あー、そうだ――」
そう言って取り出したのは通信用の端末。
銃を構えるソウにもその通信が届いた。
「白昼堂々ホワイトカラーの戦闘服を確認した――」
それはソウが既に知っている報告。
廊下の先で重い足音がしかと思えばすぐに銃弾が飛んできた。
「っ……邪魔だッ――!」
すぐに扉の後ろに隠れて状況を確認し、スカルの排除もこのままではままならないと判断を下す。最後の手榴弾を人型警備機に投げて爆発音を確認した後、反対側の廊下を突き進んで外を目指した。
廊下の角で鉢合わせた警備機を掴んで零距離射撃。
強引にクラッキングして他の警備機に押しつける。
走りながら自動小銃の弾倉を交換して外へと繋がる扉を蹴り破った。
「お出迎えどうも――」
警報が鳴り出してからこれだけ時間が立てば、当然に施設を包囲することができる。待ち構えていたのは六脚の小型警備機が数十機。バイクを停めてあるフェンスまでは走ってもすぐに追いつかれるだろう。
ここは警告に従って銃を捨てようと、両手を挙げてゆっくりと歩く。やはり旧型では力不足か。一機が手の届く範囲にまで来たのを見計らって拳銃を抜いた。
まずはその一機をクラッキングすると警告に従わなかったソウへ向かって弾幕が張られる。クラッキング済の小型機を遮蔽として利用し、拳銃の残弾を撃ち尽くした。
ソウが命じるまでもなく、やるべきことを理解したかのようにクラッキング済の機体が行動を開始する。
「そのまま仲間割れしていてくれよ」
残った三機の小型機。その上に乗って移動開始すれば二機が射線を予測してソウの身を守る。フェンスに辿り着いてソウが離れれば、その三機が通せんぼを始めた。
「好晴、今から戻る――すぐに動けるようにしていてくれ」
『うぇ――!? あっ――ソウす――えっ――!?』
ちゃんとした返事はないが、可愛らしい反応をしたのであろうその声が途切れながら聞えていた。それだけで何も変わりないのだと安堵できる。通信を切ったソウはバイクを走らせながら次の行動を思い浮かべた。
「マンションでの襲撃、あれはスエンと接触してスカルを狙ったということだろう。だが……」
それを口にすることで不安を抱いてしまうのは、何かに気づき掛けていたからだ。行く末に辿り着く解を忘れるには、例えこの道を引き返しても時間が足りないだろう。
文字通りに、もう後に引き返すことは叶わない。




