第20話 グッドラック
東の空が真っ赤に染まると地響きが鳴りだした。
それは時間遡行装置の制御システム内であっても体感できるほどの大きさだ。
入り口から見て右側、ユティの座席の方でお着替え中の好晴は靴下を脱ごうと片足立ちをしていた為にバランスを崩してしまう。
「とっとっとわーっ……!? な、なんですかっ!?」
「詳しいことは分からない。だが、急いだ方が――」
「わーっ! ちょっとまだっ――まだ着替えてるのでっ!」
着替えの進み具合を確認しようと視線を移せば、下着姿で靴下半脱ぎの好晴が蹲るようにしてお腹まわりを隠していた。
軽く片手を上げて反省の意を示した後、ソウは作業に戻る。彼の視線の動向を伺った好晴は真剣な眼差しで作業に取りかかるソウを見て着替えを再開した。
「あの……下着って、どうした方が?」
「下着の着用はあまり推奨できない。君の場合、肌は大切にしたいだろう」
「あーなるほど、確かにそれは良くないですね……」
着々と時間遡行の準備が進んでいき、ソウはケースから装置を取り出した。中央の台座に装置を置こうとすれば、視界の端でずっと好晴が視線を向けてくる。
体幹がよろしくないのはご愛敬。
更には恥じらいから彼の様子を伺わなければ気が気ではない様子。よろよろと危なっかしいまま、ようやく戦闘服の袖に手を通して着用が完了した。
「おっ――!? ……フィットした……むぅ」
着用と共に空気が抜かれてボディラインがくっきりとする。着慣れない好晴はうずうずしていた。そこで右の手首辺りのパネルに気がついて弄くると戦闘服が肌の色と一致する。
声にならない声で驚いた好晴は目玉が飛び出るんじゃないかというほどの表情をした。今度は好晴を見ないように気をつけながら、指二本でスワイプするようにと仕草で教える。
「っ――えと……あれ、色が……?」
必死に何度も操作するが色の変化は一度しか起きない。それも最初と同じ黒ではなく白へと変わっていた。
「ソウさん! あの、色が……! 戻らない……!」
「ああ、それなら――」
その程度でも大事のように助けを求めてくる好晴を見て、ソウは既視感を覚えた。
「……白い、装備」
そうかと、息を吸うようにして納得した後に好晴をなだめる。
「いや、色はそのままで構わない」
「良いんですか? あっ――そっか、その方がわたしだってわかりやすいですもんねっ! え、でも二人だったら別に意味なくないですか?」
好晴の手を取ってパネルを操作し、色を固定する。
そしてソウも同じようにパネルを操作すると戦闘服が黒から白へと変色した。それに伴い、それぞれの戦闘服に対応しているヘルメットの色が変わる。
「これから行うことを説明する」
「はいっ……!」
好晴の着替えが余りにも遅かったので、代わりにヘルメットを被せてあげたソウは座席の位置を戻し、好晴を介護しながら続けた。
「真ん中にあるのは時間遡行装置、過去へと戻る為のタイムマシンだ」
「タイムマシン……!? ソウさん、未来人っ……!?」」
「君が望眞幸の血縁者である以上、情報の開示は問題ないと判断した。それに、何が起こるのか分からない状態で恐怖させ、精神に支障をきたす結果になるのは保護を目的とした俺からすれば喜ばしくない。例えそれが望眞幸本人ではなかったとしてもだ」
テンションの差に気がついた好晴は口を閉じ、真剣に語るソウの言葉を聞いて頷いた。
「起動と共に視界が真っ白になる。そして五感を失ったような錯覚に陥るが、それは時間が巻き戻っている証拠だ。次第に感覚が戻っていき、光が消えれば、そこはもう過去の世界になる」
「それが……タイムトラベル?」
「心配はいらない、俺は既に一度経験している。失敗はないさ」
優しい声色で諭すように言われると、好晴は不思議と安心感を覚えていた。彼の言うことならば本当にそうなのだろうと、心から思えるほどに。
「準備は良いか?」
「グッドラック……!」
若干鼻息荒くグッドポーズする好晴を確認し、同じように親指を立てたソウはパネルの操作を始める。
「起動する――」
ソウは最後にヘルメットを着用し、もう一言だけ呟いて装置を起動した。
「……幸運を――」




