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第18話 疑似世界システム

 貫通した弾丸を追うようにして火の粉が舞っているのが見える。脳天を撃ち抜かれた女はそのまま前に倒れ込んだ。


 女はその身に流れる血液が枯れ果てるまで燃え続けていく。この現象を見たのは二度目、ソウはこの固有世界観の造詣がより深くなっていた。


「内側から燃え上がる現象、その引き金は息絶えること。そして流血は、その血液の所有者が命ある限り、触れてさえいれば炎には変換されない……」


 この島で起きている火災の大きさは命を落とした人々の数に比例している。ソウは状況の悲惨さを改めて理解した。そしてこのままでは未来で戦争が起きてしまう。


 現象の仕組みを充分に理解したソウは女が扱っていた刀型の武装を手に取った。柄の底に漢字の一と刻まれている黒い刀身を持つ得物。それはこの固有世界観の影響下においては最も適した武器であることは間違いない。


 ナイフを失っている今、これを拾わない選択肢はなかった。女の亡骸から鞘が転がる。留めていた物が燃え尽きたのだろうか。


「無駄にはしない」


 それを手に取って刀を収めたソウは急ぎ足で好晴のいる路地の先へと向かった。炎の音、それと走る自分の足音だけが聞える。悲鳴というものは既に二人が島に戻ってきた頃には一つもなかった。


 おおよそ百メートル。律儀にそれを守っていた好晴は暗い影その隅っこで縮こまるようにして座っている。


「あっ――ソウさんっ……! さっき凄い音がそっちで鳴って――って刀!? 刀初めて見た……血! ソウさん親指! 血がっ……! 絆創膏! 絆創膏わたし持ってますから! 高いやつ!」


 飼い主の気配に気づいた愛犬のように、ソウを見かけた途端に立ち上がってたちまち駆け寄った。


 その直前までの不安を忘れ去り忙しなく二転三転と話題を変えていく。手荷物を選んで持っていくような時間はなかったはずだが、好晴は何故か絆創膏だけは衣服のポケットに忍ばせていたらしい。


 それ自体がかさぶた代わりになるものを強引に貼られてしまう。


「これで大丈夫です!」

「……ありがとう」


 とは言ったが親指一本を封じられたようなものだった。握るにしても絆創膏が邪魔になり違和感が残る。

 それでも彼女の優しさを無下にはできないと思い、ソウは感謝の言葉を口にした。


「じゃあ行きましょうか! ……何処へ?」

「島の西側へ向かう。君と俺たちが出会った場所だ」

「あー! でも、お母さんの所って?」


 率直な疑問に対しての返答はなし。

 どう伝えるべきか、ソウはまだ悩んでいる。


「ソウさん?」

「その説明は安全な場所に着いてからだ。さあ、行こう」


 先導を始めると好晴も歩を合せて追いかける。


「敵は習性上、一定の間隔を取って行動しているはずだ。遭遇した一人と火災の状況からヒントを得れば陣形は割り出せる」

「…………?」


 口をへの字にして好晴は眉間にしわを寄せる。

 聞いているように見えて、ほとんど途中から聞き流しているようだ。


「つまり、ここからは俺のそばから離れないように」

「……!」


 理解したのを表情だけで伝えてきて、好晴は何度も小刻みに頷いた。目的地へ向かうほどに騒音が大きくなる。テックヴォルトの機械たちが応戦している音だ。


 道中に転がっている死体は全て燃え尽きている為、好晴の視線を縛る必要もない。破壊されて転がる機械たちの数からして、島の地下に倉庫があったのだろうか。


 この島で起きている出来事、それを目の当たりにして好晴は辺りを何度も見渡す。その度にソウが振り返って、それに気づいた好晴は小走りしていた。


「どうして、こんなことになっちゃったんですか?」

「……難しい問題だな」


「ソウさんは、お母さんを助けに来たんですよね?」

「ああ、彼女の保護を任されている」


「お母さんは、何か悪いことしたりとか……?」

「……難しい問題だ」

「じゃあ、じゃあ――むぐっ!?」


 突然口を押さえられた好晴はそのまま押し倒されそうになる。道を曲がろうと先を確認すれば、そこには長いケーブルがたゆたっていた。


「静かに――次に俺が何かを言うまでお喋りはなしで頼む」


 ソウの足の上に置かれた好晴はゆっくりと頷いて素直に従う。乗用車の影に隠れ、ソウは様子を伺った。


 道の先の十字路に現れたのは例えるなら電球、それに近い形の巨大な物体。二メートルはあるか、ガラス球が上の状態で浮遊している。


 ガラスの中、その中心には薄桃色の球体が浮かんでいた。中身は水で満たされているのか、また別の法則によって浮いているのかは定かではない。


 空白を黒で埋め尽くされて、その中で小さな光の粒が幾つも輝いている。それはどの角度から見ても変化しない星空のようで奇妙な現象だった。


 下部の口金からは三本のケーブルが伸びている。

 あれはニコラの遺子の女と結合していた物で間違いない。報告では九人と三機が島へと侵入しているようだった。


 電球を一機とすればあれを中心とした範囲に三人はいるはず。浮遊する電球が直進していくのを待ってから好晴に立ち上がるように促した。


「敵はあの補給機を追うように動くはずだ。このままいけばまた遭遇する」

「あの線とか切っちゃうのはどうです? えいって」


「それはできた試しがない。共和国の技術によって考案された補給機は別名で疑似世界システムとも云われている。長距離移動を現代技術に任せる代わりに一つの都市での戦闘行動を想定された企画で、決められた手順以外での破壊は困難だ」


「……つまるところ?」


 ソウの所属している部隊ではこのようなやり取りをするのが当たり前だった。彼にとっての日常はそれだけだった。だからうっかり普段の調子で喋ってしまう。


 隣にいる好晴はそれを一応は理解しようと頑張ってはいるのだが、遂に諦めて結論だけを求めてきた。


 恵好晴は賢くないとスエンから報告を受けている。

 その理由は彼女が望眞幸ではなくその娘であったからか。それを思い出したソウは心の内で反省して答えた。


「一度戻って別の道から進もう」

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