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第16話 ユティラ

 ソウと好晴が去った後も、世界システム七号機の御前にてユティとスカルは睨み合っていた。先程までと違うのは転がっている破壊された人型モデルで溢れかえっていること。


 この二人を両者ともに敵として認定した人型モデルたちだったが、あえなく返り討ちにあってしまったよう。互いに無傷の状態。スカルは攻めに転じることはなく、ただ様子を伺っていた。


「あんた、なんでそんなに余裕そうな訳?」

「お前に俺は倒せないからさ」

「悪いけど、全てにおいてあんたは私に劣ってる」

「その割には俺の存在に気づけていなかったみたいだがな」


 より鋭い目つきになってユティが踏み込もうとした時だった。


『姉さん、まずいことになった』

「――詳しく言って」


『僕たちが来た第三人工島にニコラの遺子が現れた』

「っ――うそ、なんで……!?」

「ああ、そっちに気づくのも遅かったみたいだな」


 ユティが動揺する様を見て楽しげにニヤリと笑う。

 煽るようにしてそう言いながら余裕そうにして、ついには銃すらも下ろした。その舐め腐った態度と予期せぬ事態にユティは冷静さを欠こうとしている。


『島の古いセキュリティとテックヴォルト製の新型じゃ防衛も限界なんだ。何よりもソウさんたちの妨げになるかもしれない』

「――避難の状況は?」


『事前に準備は進めてたから警備機用の地下倉庫を避難所にしてる。守りは固めてるけど場所がバレたら僕だと対応は仕切れないと思う……つまり、いつもの二択になりそう』


 スエンはそこまで言うとユティに決断を委ねる。

 怒り、それが明確になるほど彼女は震え、槍を強く握りしめていた。


「ユティラモデル、ニムハルバの問題児。任務を放棄することが多々あり、その原因の全てがオリジナルによる身勝手な行動。その根幹にあるのは異常なまでの庇護欲だと云われている」


 スカルは片手を腰に付けたまま淡々と調べ上げた情報を口にしていった。


「――らしいな?」

「ッ……!」


 殺意に満ちた表情で円錐型に変化させた槍を力一杯に投げる。それがスカルの心臓の位置に命中、貫通は仕切らずにそのまま押し込んで壁に突き刺さった。


「うおっ……! いきなりじゃねぇか……!」


 突き刺さった槍のせいで身動きを封じられたスカルは抗議する。自分で槍を抜こうとすると反発するようにより深く壁にめり込んでいった。まるでユティの意志を反映しているかのように。


「言っただろ、お前に俺は倒せない。それより――これ、抜いてくれないか?」

「………………」

「ははっ、ユティラモデルは会話すらまともに熟せないのか?」


 ゆっくりと歩み寄ってくる彼女の瞳から光が消えたように見える。それは冷徹で蔑むような視線かはたして。


 スカルから手放された銃を拾って弾倉を抜けば残弾ゼロだと判る。それをほっぽり捨てた後、槍を掴みスカルの腹部辺りを一度蹴りつけた。


「で、ここからどうやって勝つつもり?」

「いや、勝つなんて一言も言ってないぞ」

「はあ……なんで死なないのよっ……!」


 少し槍を引き抜いた後に傘が開こうとするがスカルの体によって阻まれている。広がる穴から見えるのは銀。流れ出るのは透明な水だけ。到底人間とは言いがたい。そして機械でもないことが内側の状況から判断できる。


「俺は倒せないぞ! そして俺もお前を倒せないっ……! 無駄に時間を浪費してどうする!? 助けに行かなくていいのかよ! 大好きな子どもたちをよぉ……!」

「黙れクズっ……!」


 傘を差せたかと思えばそこからスカルが上手くすり抜けただけだった。破損した肉体はじわじわと修復されていく。骨も銀、肉体も銀。それを見たユティが言う。


「あんたも似たような企画みたいね――どうりでッ……!」


 それはもはや人を相手にやるような攻撃ではなかった。怒りにまかせて何度も形を奪うほどの一撃を繰り返す。その度にスカルがまるでじゃれついているかのような声で笑いながら受けていた。


「むかつく……!」

「諦めたらどうだ?」

「あんたこそよ、世界システム七号機は破壊できない!」


「望眞幸にでも言われたか? だが現実に起きてしまったんだよ、俺たちのいた未来でな!」


 歯止めの効かなくなったユティは叫ぶようにして訴えかける。


「計画が失敗に終われば戦争が始まるのよ!? それで、そうしたら沢山の罪のない人たちだって――いつの時代だって子どもは人類の宝でしょ? 傷つけて良いはずがないッ……!」


「――ならさっさと俺を殺して阻止したらどうだ? できないだろうけどよ。それに、こんな所でくだ巻いてたら島の人たちはどうなると思う? 相手はニコラの遺子、死ぬだろうな!」


「――お前が死ねっ……!」

「だから死なないんだって……!」


 我が儘を言う子どもの相手をするかのようにスカルは困った様子で頭を掻いた。


『――姉さん、早く決めないと』


 通信、スエンは優しい声色のままそう急かす。


「……なら、あんたが決めてよ」


 泣き出しそうな声。倒れ込んでいるスカルから一歩、また一歩と下がっていった。


『姉さんのやろうとしていることは、なんだって人として正しいことだった。だから僕はここまで着いてきてる、規則に反しようとも……僕は姉さんに従うよ。ずっとそうしてきたからね』


 ユティは実の弟の言葉により決意を新たにした。


「…………任務を放棄する」

「残念だよ、ユティ」


 彼女の決断を見届けて途端にスカルが言い出した。


「お前は目先の欲求に忠実すぎるんだ。お前の自己満足の為に未来で子どもたちは傷を負う。父親が戦場に駆り出され、戦争という政治手段に巻き込まれて犬死にしていくんだよ。お前のエゴのせいでな」


 片膝を立て上体を起こしたスカルは手の平を返すようにまた違ったことを述べ出す。もはやユティを煽り惑わすことを目的としているかのようだ。


「……そんなことにはならない」


 背中を向けているユティは振り返ることなくそう告げた。


「世界システムの防衛はどうした! 金脈を前にしても目の前の石ころを拾うのかよ!」


「私は必ず全てを拾い尽くす! 何処で何が起きようと、地獄の底だろうとも必ず私が駆けつけて、銃弾だろうがなんだろうが引き受けて、戦うなんて馬鹿らしく思うほどの力を示してやるわッ……!」


 槍の切っ先をスカルの心臓に向け、ユティは堂々と宣言する。


「だから首洗って待ってなさい。絶対にあんたを地獄へ叩き落としてやる」


 ユティは一方的に再会の約束を取り付けてその場を後にした。



※『第2話 五道外より』へ続く

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