第15話 裏切り
単発の音だった。その音を銃声だと聞き分けることができたのはソウと人型モデルのアンドロイドたちだけ。ソウたち前方集団は一斉に駆け出して渡り廊下を一気に抜ける。
「あ――待ってくださいっ……!」
遅れて走り出す好晴に会わせ後方集団も続いていった。
「……これが、世界システム――」
その手前で起きた惨劇が見えなくなるほどに、それは海のように計り知れぬ恐ろしさと星空のように底知れぬ美しさを兼ね備えている。
我に返り、まず一人銀の髪の女が傘を差しているのが目に入った。その足下には血だまり。その上に血で染まったばかりの白衣を着た誰かが倒れている。
そこから目測十数メートル左には白い髪の大男が銃を構えていた。銃口は確かに銀髪の女へと向いている。二名は互いに睨み合っていたが、現れた集団を前にして同時に視線を動かした。
「ユティ――スカル……?」
「ソウ! スエンとソイツが黒だ! こいつらの言った任務はダミー、本当の任務は暗殺と破壊工作だ!」
スカルは今まで見たことがないほどに怒りに任せて叫んでいた。その言葉の後にソウは視線だけでユティへと真偽の程を求める。俯く彼女の表情には幾つもの感情が混ざって見えた。
罪をなすりつけられたことへの憤怒、まんまと騙された者たちへの優越、約束を守れなかったことへの後悔、信じてもらえなかったことへの自嘲。どれにしてもユティは笑っているように映ってしまう。読み取った表情の数こそが彼女を疑ってしまった証拠だ。
「誰が、倒れてるんですか……?」
覗き込もうとする好晴のことを咄嗟に止めて、ソウは弁明の余地を与える。
「……本当なのか?」
「――ソウ……!」
スカルの言葉は響かない。誰も信じ切れない状況であれば当然だ。ユティがようやくソウと向き合うように顔を上げ、口を開く。
「……信じて、なんて言わないわよ。誰も信じる必要なんてなかったんだから、私たちには」
声は震えていた。感情を読むことは出来ない。
「ねえ、ソウ――あんたの任務って、何?」
「――ソウ! 絆されるな……! 望眞幸はまだ救える、俺たちにはその手段がある!」
「っ…………俺の、任務は――」
そこまで言ったところで血だまりが目に入り、言葉を失ってしまう。
「誰を信じるかじゃないでしょ? やるべきことをやればいいだけ、私はずっとそうしてきた――……その為なら、邪魔をする奴は誰であろうと殺してやる」
ソウはもう、失ったその言葉を探そうとはしなかった。スカルの言うとおりに、任務はまだ失敗してはいないのだから。ユティの言うとおりに、成すべきことを成せばいいのだから。
「好晴、ここを離れるぞ――」
彼女の手を取ったソウは駆け出して通った道を遡るように歩を進める。
「ど、何処に行くんですかっ……!?」
「君の母親の元だ」
「え!? そこにいるんじゃ――……どゆこと?」
話についてこれていない好晴はただ引っ張られるがままに足を動かした。人型モデルの数機が二人の後を追うが止めようとはしない。
「何か足になるものはないか?」
「足ですか……?」
「第三人工島方面で緊急事態が発生しており、その対応の為に車両の殆どが出張っています。ですので、用意できるのは無防備になる自動二輪車だけかと」
「あーバイク……」
「二人乗りはできるか?」
「問題ありません」
「充分だ。それと緊急事態についての詳細な情報を頼む」
エレベーターに乗り込んで要求を増やす。
前の対応とは打って変わり、その全てに彼らは応えた。
「タワーを囲む人工島は五つ、各方角と同様の位置には外壁を生成する施設があります。その西方、第三人工島のある方角、西側を管理する装置が何者かによって停止されておりました」
「観光施設、その臨海か?」
「はい。操作盤も破壊されており、修繕には時間を要します。だからといって障壁はすぐに消え去るわけではありません。特定の条件下以外での話ですが」
「なら図ったかのように外から攻撃を受けたか?」
「はい。それによって開いた穴よりレッドカラーがよく目立つ飛行艦隊を確認しております」
「共和国か――偽装の可能性もあるが」
玄関ホールに戻り、外へ出れば既にバイクが用意されていた。
「敵はニコラの遺子を九名と補給機を三機投入しております。固有世界観は多くの色を奪い、残される暖色は色濃いほどに熱を持つようです」
「充分すぎる情報だ」
ソウがバイクにまたがった後、導かれるがままに後ろに乗ってしまった好晴はまだ困惑している様子だ。
出立を前に、手向けの言葉として人型モデルは告げる。
「くれぐれも、好晴さまのことをお頼み申し上げます」
「……それは君の言葉か?」
「いえ、人格者さまより承った伝言をお伝えしたまででございます」




