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第14話 望眞幸

 ユティの邪魔をするのは数えれば十機ほどの人型モデルだけだった。途中から明らかに手薄になり、監視カメラに内蔵されていた機銃すらも動かなくなっている。


 その答えは渡り廊下を越えた先、世界システム七号機のある大部屋への扉が自動で開かれることで気づかされた。


「ようやく客人として認められたのかしら」


 そう言いつつも周囲への警戒を怠らずに前へ。

 唯一黒で統一された大部屋を明るく照らし出すのは中央に鎮座する全長三十メートルほどの装置。


 宇宙を想起させる不完全な淀みの中には巨大な瞳が一つ。それを中心として七色の光の束が渦巻いていた。


 その手前、一人ぽつんと装置を見上げる小柄な人物。少女と呼ぶにふさわしい風貌の人物が振り返ると、ユティは足を止めて吃驚する。


「スキ、ちゃん……? いや、そんなはず――」

「――は、ないに決まっているだろう」


 これ程までに白衣が不格好とは思ったことがなかった。その原因は彼女の幼さの抜けていない容姿にある。何処をとっても恵好晴という名の少女そのものだった。


 それでも好晴と違う点にすぐ気づくことができる。

 彼女と目を合わせた瞬間に理解してしまう。


「要件はなんだい?」


 耳に残るその声、心の奥底まで見透かしているような眼、愛らしい見た目に反したその口調。


 よぎるその名と背後で存在感を放つ世界システム七号機が相まった訳ではない。ユティはただ目の前の存在に圧倒されていた。


「……望、眞幸――」

「帰ってくれるか?」

「え――いやっ、その、私はあなたを助けに……!」


「何故だい?」

「それは――世界システム七号機が破壊されて、あなたが失踪するからで……!」

「今からかい?」


「ええ、恐らくは、直に……」

「ならキミは未来人だね。握手しようじゃないか、記念に」


 白衣のポケットより小さい手を差し出され、ユティは一向に歩み寄ってこない望眞幸に代わって近くまで寄る。そして意味もわからないまま熱い握手を交わされた。


「アメ、良ければどうだい」

「え? ああ、どうも……でも私、体が機械なので」

「ああ、そうなの? 最期だし、世界エネルギーの味とか聞きたかったんだけど」


 気がついた頃には既に握らされていたそのアメ玉。

 口ぶりからして丁度今生成されたのだろうか。返却されたアメ玉をポケットに仕舞い、望眞幸は促す。


「それで、キミは未来から来たのかい?」

「ええ、今から三日ほど先から」


「その確証は? タイムマシンは実在したのか? 私はその理論を知らないけれど」

「えっ……それは――」


 予想だにしなかった疑問、盲点と言うべきか。

 それを突きつけられてユティは言葉に詰まった。


「じゃあ、タイムマシンがあったと仮定して、その未来ではどのように破壊されたんだい?」


「それは、世界システムの防衛機能を無力化して破壊する電磁パルスだと報告を」


「うん、結論から言えばそれは不可能だ」

「ですが確かに――!」


「――破壊は不可能だ。計画完遂と本稼働を同一に考えているようならそれは違う。世界エネルギーは今も生成され続け、同時に防衛機能をそのエネルギーによって構築している」


 自分の持っていた情報、信じ切っていた全てが彼女によって否定され、感覚を失うような錯覚に襲われる。


 視野は狭くなり、彼女の言葉しか耳に入らなくなっていく。この場での彼女の支配力は計り知れないものだ。


「そんな顔をするな。キミに朗報をやろう――それはタイムマシンが実在する理由だよ」

「っ……それは、一体?」


「オートヴィリバ人工島群の中に存在する全ての人間は実験の為に用意された被検体だ。平穏に暮らしているように見えるが、あれらは全て私によって造られた人格を軸として極限まで悪性を削ぎ落としされた個体なんだよ。つまりは?」


 そこまで説明すると、そこから導き出される解答を突然に求めてくる。誘導されるがままにユティは望まれた答えを口に出した。


「テロは、起こらない……」

「そう、そしてここは障壁で護られている。それを破壊するには内部工作をする必要があった」


「どうしてそれがタイムマシンの存在を?」

「原因が未来にあったのさ。それ以外には考えられない。未来で障壁が破壊されたのであれば侵入できるだろう? そこから過去へと戻って、役目を与えられた誰かが工作すれば障壁は破壊可能になる」


「そんなことが――」

「――可能なんだよ、それが世界システムというものさ。そして君が良く知る起きてしまった未来のストーリーこそが世界観の上書きによって構築されている。固有世界観と名付けた概念だ。そしてそれを可能にしてしまったのは、何を隠そうこの私自身」


 そう言ってユティの回りをゆっくりと反時計回りで歩きながら、望眞幸は語り出す。


「結局のところ私は奴らの言うとおりに、所詮はたかが小娘、でしかなかったというわけだ。このオートヴィリバ人工島群を作る段階でその計画は企てられていたんだろう」


 望眞幸は思いを巡らすように俯く。

 浮かんだのは数々の人間が彼女に見せた共通の表情。


「私は多くの人間から恨みを買っていた。前代テックヴォルトが自殺したのも私が原因だった。それに私の計画は平等の強制によるディストピアだとして計画初期の仲間からも批判的な声があったからな。そうして近い将来で、歴史に名を刻むこともないままに、奴らの綴った歴史から望眞幸は消えていく」


 軽く一周して元いた場所まで戻ってくると、もう一度ユティを見つめた。その表情は何かを悟っているかのようにユティの目には映る。


「それなら――危険であると理解して頂けたのであれば、今すぐここを離れるべきです! 装置は必ず私が死守します、私のチームにあなたの保護を任された人もいて、彼は直に――」


 その時、発砲音が耳に入った。

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