第13話 瓜二つ
客人をもてなす為に用意された一室に好晴は移動させられていた。ふかふかのソファにちょこんと一人で強ばったまま座っている。監視はなし。部屋の扉にも鍵が掛かっていないのだと緑のランプで判った。
「……開かないね」
出来心でケースを開いてしまおうかなと触ってみるが当然のように開かない。エラー音が鳴る度にビクッと驚きながら数回繰り返した後に興味は他へと移った。
何かしらの表彰状にトロフィーが並ぶ棚があり、その中には写真なども飾られている。それを一つずつじっくりと見れば、そこには見覚えのある容姿があった。
「わたし、にそっくり……お母さん?」
そこにはあらゆる国家で撮影された写真が並んでいる。その全てで中央に立たされていた少女は好晴と瓜二つ。だが、そんな記憶は好晴にはない。となれば答えは一つだ。
「笑わない、人だったのかな……」
その写真から読み取れる人物像は好晴とは似て非なるもの。
「どんな人、なのかな……ここにいるんだよね、お母さん」
棚のガラスに移った彼女の表情は少しだけ曇り模様。両手の人差し指でほっぺを押して笑顔を作った。
「なんか――なんか凄い音聞えた気がする……」
その状態のまま後ろを覗き込むように振り返る。
ケースをそのままに、こそこそと音を立てないように扉に触れて隙間から外の様子を伺った。
「どうかなさいまし――」
「――まあああああ!?」
同じように隙間から顔を出してきた人型モデルにビビリちらかし、ものすごい勢いで好晴は後退していく。扉がしっかりと開かれるとずらりと総勢十三機が廊下に並んでいた。
「どうかなさいましたか?」
「い、たんですね……」
「我々は護衛を任されておりますので」
「……あの、今の状況って把握してますか?」
「はい、現在はタワー上層より四名、玄関ホールより二名及びクラッキング済二機の侵入者がこちらの階に向かわれているようです」
「下はきっと、ソウさんとユティさんで……じゃあ、上からの人は――」
口を開けたまま以前に言われたことを思い出す。
確か近いうちに危険に晒されると言っていた。
「どうかなさいましたか?」
「――お母さんが危ない!」」
「失礼ですが、薙幸さまは既に亡くなられております」
「ち、違います! たぶん――たぶんそれはお婆ちゃんの名前で……!」
「お婆さまの名前は美幸さま、と記録されております」
「え……? ……じ、じゃあ――」
それ以上先祖の名を遡っても意味はないと好晴は気づいていた。自分の求めている答え、その名がどこにあるのかは賢くない彼女でも勘づけてしまう。
「わたしの、名前は……?」
気のせいかもしれない、本当にそうだったとしたら怖くなってしまうから。それでも聞かずにはいられないのが人の性なのだろう。
「――勿論、眞幸さまでございます」
「…………ポ――」
「どうかなさいましたか?」
「――ポンコツっ……!」
目尻に涙を溜めながら好晴は今日一番の大きな声でそう罵った。
「最新型でございます」
「くいっ……! なんで、なんでアッ――と、アレですっ!」
「アップロード」
「――それじゃないっ……!」
「上書き」
「――近いのっ……!」
「更新」
「――情報の更新してないんですかっ!? 世代が一つ遅れてます!」
「最新型でございます」
表情がないのが却って癪にさわってしまい、好晴は生まれて初めて誰かに指を差した。
「お母さんに会わせてください!」
「先程も言いましたが――」
「――そうじゃなくって! だから、その……会話の流れからなんとなく、読み取ってくださいっ! 最新型なんでしょ!?」
「……つまり、人格者さまと対話をしたい、ということでしょうか? それでしたら、時間の指定は一任されておりますので今すぐにでもお連れできます」
丁寧な作法で道案内をするという意思表示をされ、好晴はすぐにケースを取りに戻る。
「よくわかんないですけど、たぶんそうなので――お願いしますっ……!」
その時、侵入者の一人が現れた。
人型モデルに囲まれた好晴はそれらに庇われるように誘導される。銃を持たない彼らは銃を構える一人と睨み合っていた。
「ルートを変更しましょうか」
「ま、待って……!」
好晴は人混みをかき分けるように自ら危険に晒されようとする。人型モデルは強引ながらも引き留めようとするが、そのせいで彼女は大胆に転んでしまった。
「うっ……あ――ソウさん! この人は大丈夫な人ですっ! 絶対! だから――」
ソウを庇おうと起き上がった好晴は両手を目一杯広げてそう言った。
「我々への命令権は人格者のみが保有している為、それには了承し――」
すると何か通信が入ったようで、彼らは警戒を解いてその拳を収める。
「人格者さまより伝言です――歓迎する、と」
「……もう少し早くそうしてもらえれば良かったんだが」
「申し訳ありません。客人は不要とされておりましたので」
「急用なんだ、彼女の身に危険が迫っている」
「案内しましょう。詳しい事情はそちらで」
やはり機械の反乱が起きたとは考えにくい。
彼らの行動を受け、ソウは抱いていた疑念を払う。
ユティの切り開いた道を行く間、ソウは思考した。
人格者と呼ばれる人物は十中八九好晴の母親である望眞幸本人だろうと。そうでないとすれば、人格者とやらに説明を求めなければならない。望眞幸の保護を目的としているソウにとっては誰が本物であるかこそが重要な要素なのだから。




