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第10話 錯綜

 ソウはそれ以上語ることも言及することもないまま、開かれようとする扉の先に意識を集中させる。


 開かれた先には数十体の人型警備機と一人の人物がいた。サングラスをした金髪の女性はスーツに身を包む、シークレットサービスの類いだろうか。早速とその女性は問いかける。


「……あなたは?」

「この人は――家庭教師の人ですっ!」


 小首を傾げる女性は疑いの目をソウへと向ける。

 その間にも警備機がエレベーターの前で整列して指示を待ち、外では幾つものドローンが立ち入り禁止区域の指定に取りかかっていた。


「眞幸さまはあなたをタワーへ招くと仰りました。これは本来あり得ない事態だとも――そちらのあなたも自宅までは護衛を付けますので、その後は外出はしないようにお願いします」


 淡々と決定事項を伝えると女性は好晴を手招きする。着いていこうとする前に好晴は装置の入ったケースを返そうとソウに視線を送った。手の平を見せてその必要はないことを伝えるとソウは囁く。


「彼女の指示に従うんだ、車で会おう」


 そう言って好晴の背中を押して先に行くよう促した。入れ替わりで一機の警備機が歩み寄ってくる。明らかにソウのことを見ているのでそれが護衛の役割を任されたのだろう。


 無言の訴えに答えて先導を始め、集うバリケード代わりの車を通り抜ける。辺りを見渡しても好晴は身長的に見当たらない。だがあの女性が歩くマーカーとなっていた。


 他の警備用車両とは異なる高級車に乗り込んだのを確かめながら、ソウは警備機を路地へと誘い込む。

 誘導した直後に踵を返すと間髪入れずに発砲した。


 放たれる弾丸は従来の形を高重力場指定生成ホログラムで形成している。その為、弾倉に入っている物体は金属の六面体だけ。現象としてはユティの扱う槍と同じ、ニムハルバの技術だ。


 その弾丸が警備機の胸の位置に着弾、黒い層が消滅して貫通はせずに弾丸は機体の中心に留まる。クラッキングが完了したことを告げるように警備機のランプが青く光りだした。


「あの高級車の前へ、進路を塞いでくれ」


 何事もなかったかのように道を戻るとソウの命令に従い警備機が走り出す。発進したばかりの高級車の前に飛び出るとブレーキを踏む音がした。


「ちょっ――なんだ!? 何をしている! 退け! ……どきなさいってば! どけっ……!」


 一切従わない警備機に怒りを露わにした女性が堪らず車から降りて詰め寄る。透かさず車両に近づいたソウはドアが閉じきる前に掴んで運転席に座った。ハンドルの横辺りに向かって発砲してクラッキング、ソウはすぐに車を発進させる。


 罵る女性を通り過ぎる間際、窓から手を出していたソウに向けて警備機が自動小銃を差し出した。

 受け取った銃を助手席に放り投げてバックミラー越しに好晴を見る。


 ソウと視線が合ったことに対して目を見開いて驚くと、それを逸らす為に体ごと後ろを向いて好晴が尋ねてきた。


「えと、あの人に事情を話して協力するのかと……」


 途中まで走って追いかけていた女性は諦めて膝に手をつく。その様子を見ながら好晴は小さく手を振った。


「任務の都合上、信頼できる人間は限りなく少ない。それにスエンが不審な行動を取ったばかりだ」

「それじゃあ、これからは……?」


「ユティとの合流を予定していたが、彼女はスエンと同じ企業の兵士だ。――……信用は、仕切れない。敵ではないことを祈るばかりだ」


 悩んだ末に答えを出すと、その頃には大橋が見え始める。道は随分と荒れていた。破壊された警備機に数々の車両。申し訳程度に通り道は確保しているようだ。


 封鎖された橋も強引に開かれ、その手前には若干破損した車の上に座る女が一人。退屈そうに足を組んで待ちぼうけていると迫る車両の運転手を見て背筋を伸ばした。


「遅い! 誰も連絡してこないし、スエンも出ないし――!」


 そこまで言いかけると車は目の前を通過していく。


「……は? ……なによそれ」


 置いてかれた事実に若干の哀愁が声に漏れていた。

 目を細めてむっとしたような表情をするとユティが動く。


 進むべき道とは逆方向に槍の切っ先を向けると、まるで傘をひっくり返したような形状へ変化した。


 噴流を生み出してその推進力を利用する移動手段。

 まるで箒に乗って空を行く魔女のように、橋の上にまで一気に上昇して車を追う。


 何かが車の屋根に落ちたような音を聞いて好晴は上を見た。


「……? いま上に何か……」

「……見逃してはくれなかったみたいだな」

『――まず理由から聞かせてもらえる?』


 車の屋根に陣取るユティから通信が入った。

 空飛ぶ箒の形状から再び細長い槍に戻すと運転席のすぐ横の窓からチラリと見せつけてくる。


 いつでもお前を殺せるぞと。


「スエンが不審な行動を取った。その後に現れた白装備への対応をスカルが請け負っている」


『だからあんたは同じニムハルバの私を疑った、って訳ね』

「君はどうなんだ?」


『私ならとっくにあんたを殺せてるわよ』

「……信用してもいいんだな?」


『無理にしなくていい。少なくとも私とあんたの目的は違うんだし、利害一致程度に考えればそれで良いわ』


 ユティもまた同じようにソウのことを信じきってはいない様子だった。


「スエンに限って裏切るなんて考えられないけど、ずっと連絡つかないし……ああ、もう!」


 橋の三分の一をすぎるとスキャンが入る。

 緑の光を通過すると車内でアナウンスが入ってすんなりと通行許可が下りた。好晴の存在は万が一許可が下りなかった場合の保険、言い換えれば人質となる。


 それなりの速度が出ている車、不用心にもシートベルトを着用しない好晴。これだけの条件が揃えば自分の身に危険が及ぶこともないだろうとソウは判断していた。


 だが、外では警報が鳴り響いている。


「登録情報、 S.W.O.R.D.(ソード)連邦所属機、滞在許可及び通行許可が下りていません。直ちに停止してセキュリティの誘導に従ってください――」


「え!? な、なんですか!? なんだか穏やかじゃないんですけどっ!?」

「……ユティか」


 車の上に乗るユティが個別で車両認定されたらしく、セキュリティの全てが起動。車輪型の警備機が次々と出撃し、あっという間に車を囲んで最後通告を始める。


 車輪の中央に円形のメインカメラ。

 一つ目車輪の妖怪のような警備機は四つの銃口をユティに向けていた。それだけではなく複数の円盤型警備機も包囲を始めている。


『もう私が乗ってる暇はないわよ! 全部片付けるからあんたはドライブに集中して足場になりなさい!』


 その通信を最後に、握りしめた槍を旗のように立てる。


「穿ち、砕き、差し挟む――」


 目を瞑って念じるようにそう告げると彼女を中心にして黒い靄が渦巻いた。段々と形が定まっていくとそれらは彼女の握る槍と同じ形状となって何十本にもなる。


 唯一違う点はそれら全てが高重力場指定生成ホログラムで出来ているということ。


「今度は何ですかっ!?」

「これはユティラの証明と云われている現象、彼女の特権だから心配はいらない」


 開かれたユティのその瞳は夜空で不気味に佇む赤い満月のようだった。


「ここで撃墜数を荒稼ぎして営業成績の肥やしにしてあげるわッ……!」

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