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悪役令嬢はダイエットして従者となる - 外伝 -  作者: ぽぽろ
ウォルフ先生のお見合い大作戦
3/4

「んで、おめーらは、俺とあの酒場のねーちゃんをくっつけようとした訳か?」



 つい昨日もこんな風に怒られたばっかだというのに、アリーとガイ、そして私の3人は仲良く膝を合わせて正座をさせられていた。

 村はずれにある丸太小屋の中で、ランプの光がゆらゆらと揺れる中、ウォルフ先生の怒声が響く。


 事の発端は、私たち3人がもう一度リンさんと話をするべく、またあの酒場に行った時の事。

 今度はマントを羽織り、目立って仕方のないアリーの金髪と私の銀髪を隠したうえで、オープンの準備をしていたリンさんに声をかけたのだ。


 一緒にお店のテーブルを用意していた他のお姉さんに「あとはやっとくから、話しておいで」と言われたリンさんは、私たちを連れて店から少し離れた路上で立ち話をしてくれていたんだけど……。


 タイミング悪く、そこにウォルフ先生が通り掛かっちゃったんだよね。

 ていうか、ウォルフ先生って最近、剣術の指導をジルに任せて、自分は町にちょくちょく一杯飲みに来ているらしい。

 一昨日も会ったばかりだから、一日おきといった具合だろうか。


 幸いな事に、ウォルフ先生はマントを羽織った私たちの存在に気づくことなく、ちらっとリンさんを見ただけで、そのまま酒場の中に入っていった。

 ここで鉢合わせするのはよくないと思った私たちは、すぐにその場から立ち去ろうとしたんだけど……

 なんと、リンさんが席に座ったウォルフ先生のほうへ一直線に近づいて、予想外言葉を放ったのだ。



「いいわよ! あたし、あんたの恋人役になってあげる。で、あたしはどうすればいいの?」



 なんて、威勢よく言うもんだから、私たち3人は泡を食ってまった。

 ここで、ウォルフ先生が「なんの話だ?」なんて言ったら、私たちの嘘がバレてしまう。

 とっさに二人のもとへ駆け寄り、私はウォルフ先生とリンさんの間に入った。


 「えーと、そのー、えーと」と私は恥ずかしいほどうろたえ、なんとか良い案が出ないか時間稼ぎをしていた。

 ぞろぞろと、アリーとガイもリンさんとウォルフ先生のところへ駆け寄ってくる。

 そんな、しどろもどろになっている私や、にっこり笑顔を浮かべているアリー、あきれ顔のガイの登場で、ウォルフ先生が何かを察したらしく、



「ルーン、あとで村はずれに来いよ。エマニエルじいさんから、外泊許可もらってからな」



 とすごまれ、私は無論こくりと黙ってうなずいた。

 その後、酒場を追い出された私たち3人は、とりあえず屋敷に戻り、エマニエル伯父様に事情を説明し外泊の許可をもらった。

 アリーとガイを応接間に残し、私はエマニエル伯父様と2人で少しだけ話したんだけど……。



「なかなかいい案だと思うよ。僕もその計画には大賛成。ウォルフだって健全な男性なんだし、女性がいたほうがいいだろう。

 あっ、そうだ! その結婚させられる相手をエルーナにしないかい?

 で、結婚させたがっているのは、この僕、シェルトネーゼ家領主代理ってことにすれば、信ぴょう性も上がるんじゃないかな?」



 まさかのエマニエル伯父様からの援護射撃。

 私たちが去った後、ウォルフ先生とリンさんとの間でどう話がついたのか分からない今、エマニエル伯父様が動くとなんかややこしくなりそう。

 

 どうしよう、どうしようと頭を抱えながら、私たち3人はとぼとぼと村はずれに行き、ウォルフ先生の帰りを待った。

 んで、ウォルフ先生が村はずれに帰ってきて、私たちの丸太小屋に入るやいなや、開口一番怒鳴り散らしたわけだ。



「いきなり、アイツに好きでもない相手と結婚させられるんだろ? って言われて、はぁ? ってなったわ!

 とりあえず、一回食事行くことで話はついたが、とんでもねーことしてくれたな、おまえらっ!」


「主にやらかしてんのは、ルーンだけどな。今回の事は」



 ふてくされながら私を睨むガイ。

 この裏切者っ! と思い、私もにらみ返す。

 そして私とガイの間に挟まれたアリーは、にっこり「まあまあ」とガイと私をなだめている。



「ったく、余計な事しやがって……、まあ、今回は許してやるけどよ……」



 ウォルフ先生が少し顔を赤らめたのを私は見逃さなかった。

 これは、もしや……まんざらでもないのでは?



「ちなみに、ウォルフ先生的にはリンさんはアリなんですか? それともナシなんですか?」



 私が前のめり気味に聞くと、ウォルフ先生は露骨に癒そうな顔をした。



「アリとかナシとか言うなっ! それに、アイツが俺の事好きってわけじゃないだろ?

 一回助けられたからって、義理で恋人になってもらうなんて、なんかかっこ悪いだろうが……」



 不満げに言うウォルフ先生のその言葉で私は確信した。

 ウォルフ先生はリンさんの事をほんのり好きになっているのだと。

 恋人役ではなく、本当は恋人になって自分を好きになってもらいたいと思っているのだと。


 私はその夜ウォルフ先生にこってり絞られた後、一人部屋を用意されたのではあるが、アリーの部屋にお邪魔し、もちろんガイも一緒に連れて、第二回作成会議を開いていた。

 ぎっしりと本が詰め込まれた本棚に、机の上には何やら色々書かれている紙が山積みになっているアリーの部屋。


 なんとなく、エマニエル伯父様の部屋に似ているな、なんて思いながら、ベッドに座るアリーと椅子に座るガイを交互に見つめ、私は熱く語った。



「ウォルフ先生の気持ちはなんとなく分かったから、今度はリンさんの気持ちを確かめたいと思うのだよ」


「思うのだよ……て、お前なあ、何か案はあんのかよ?

 つーか、お前、こういう事に突っ込むなんて女みてーだな」



 女みてーだなとガイに言われギクリとする私。

 やっぱり、何歳になってもこういうトキメキを感じる事って好きなんだよね。

 特に、前世今生合わせてそういうのには縁がなかったし。


 女だとバレるのではないかとそわそわする私に、今度はアリーが私に問うてきた。



「でも、エマニエル様の提案で、一度屋敷に2人を連れてきてって言われてるんだよね? ルーン」


「う……うん、そうそう。だから、2人が食事に行く日に招待したいんだよね。

 その時に上手くリンさんの気持ちをきけたらいいんだけどさ……」



 そんなにうまくいくもんかな? なんて思ってたんだけど。

 数日後、あっさりと私の期待していた状況を迎えてしまうのであった。



〇 〇 〇



「で、エルーナとの婚約を破棄して、こちらのリンお嬢さんと結婚したい、ってことだね?

 ウォルフ」


「まあ、まあ……、そうなるな」



 いかにも歯切れの悪いウォルフ先生の返答。

 応接間の扉の隙間からのぞいたその姿は、ひどく憔悴した雰囲気をまとっていた。


 反対に今日もポニーテールで結んでいているリンさんはというと、シャキッと背筋を伸ばして、エマニエル伯父様に相対していた。

 私のいる場所からは、ソファーに座りこちらを向いているエマニエル伯父様の表情しか分からない。


 ちなみに、私以外にもアリーとガイも一緒に扉の隙間から応接間を覗き見ている。

 アリーが上、私が真ん中、ガイが一番下だ。



「じゃあ、ここに正式に署名してくれるかな?

 なんていっても、公爵家の令嬢との婚約破棄だから、色々と面倒でね。

 ウォルフは血筋は良いから平民でもシェルトネーゼ家の婿になれたんだけど、平民の君から我が家の令嬢をフったとなれば、それは家名を汚しかねないからね」



 エマニエル伯父様は手に持っていた紙をローテーブルの上に置いた。

 偽の婚約破棄の書類なんだろうけど、真実を知らないリンさんにとって、本物か偽物の区別なんぞつくまい。


 この茶番が終わった後、ウォルフ先生とリンさんは一緒に食事へ行くらしいのだが、行く場所はシェルトネーゼ家が経営している宿屋に隣接している高級料理屋さんだ。

 宿屋に宿泊しているお客をターゲットにした食事処なんだけど、それ以外の人も利用できる。


 結構評判がいいから、きっとリンさんも喜んでくれることだろう。



「君……、リンさんと言ったかな?

 どういう経緯でウォルフと知り合ったの?」


 ウォルフ先生が書類にペンを走らせている間、エマニエル伯父様はリンさんのほうを向き、にこりと笑いながら話しかけた。



「えっ!? あ、あの……その……」



 自分に話がふられると思っていなかったのか、シャキッとした姿勢が崩れ、リンさんの顔がうつむき始める。



「ごめんごめん、野暮な質問だったかな?」


「いっ、いえ。そんなことありません。

 その……、お客に絡まれているところを、助けてもらったんです。

 前々からしつこくて……、でも私だって、一応護身術ぐらい習っていました。

 勝てるって思ってたんですけど、やっぱ男の人にはかなわなくて……」



 表情はこちらから見えないけど、か細い声からは悔し気な感情がにじみ出ていた。

 ウォルフ先生に助けてもらった時、余計なお世話とウォルフ先生を殴ったとはきいていたけど。


 恐らくリンさんは、自分の身は自分で守れる自信があったのだろう。

 でも、太刀打ちできなかったことで、自分の弱さを認められず、苛立ってしまったのではないだろうか。



「なるほどね……、で、助けたウォルフはリンさんに惚れてしまったってわけかな?」


「は? 俺はそんな単純なヤツじゃねーよっ!

 助けたお礼に付き合えって、やってることが襲ってきたヤツと一緒じゃねーか」


「じゃあ、ウォルフはリンさんの事は好きじゃないの?」


「あっ……、いや、それはだな……」



 さっきまでの威勢の良さがなくなり、尻ずぼみになっていくウォルフ先生。



「あ、あたし、ちょっと席を外しますねっ!」



 そう言うと、急にリンさんはソファーから立ち上がり、そのまま私たちがいる扉のほうへずんずんと向かってきた。



 げっ……、ここに隠れていることはバレちゃうっ!

 早く逃げなきゃっ!


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