白夜団七当主
「う……えげつない話だ……」
リビングで麗音愛が、椿から聞いた話を
剣一に報告していると剣一は苦い顔をする。
あの屋敷には、椿の身代わりの娘がいた事。
そこで行なわれていたらしい、忌まわしい出来事。
「そういやあの絡繰門のじじいは罰姫は醜いと聞いていたとか言ってたな」
以前に椿を見て、狼狽した絡繰門鐘山。
『に、似ても似つかぬ妖魔のごときおぞましい醜い子供だと聞いていた……』
そう言っていた。
「椿とは違う子をずっと椿の身代わりに……
でも椿を恨むなんて筋違いもいいとこだ」
「そうだけどさ
自己否定はあるものの
他人を憎まない、歪んでない椿ちゃんがすごいんだよ
その子は椿ちゃんを憎むことで生きてこれたんだろう。
きっとその新しい自分になるためには、椿ちゃんを殺さなければいけないんだろうな」
結界の隙きを突かれた。
華織月の切腹術。
あれでは、椿の回復も自分を傷つけた呪いとして治りが遅く
死んでしまう。
ゾッとする。
「可哀想でも、椿を殺そうとするなら俺は殺さなければいけない」
また、放たれる殺気。
椿が涙を流せば、麗音愛の周りには滅する力が渦巻く。
それは麗音愛を誘う死の蠢き。
「気持ちは分かるが兄貴として
いいぞ!とも言えないのは、わかるだろう
しかし秋穂名家は本当にひどいな
あんまりに酷いから、本当にあいつらだけの所業なのかと思えてきたな」
「どういう意味?」
剣一の空になったカップに、麗音愛は珈琲を注ぐ。
「紅夜会に通じていたとかな」
「?? どういうことさ、それこそ意味がわからない
あいつらの忠誠心はすごいと思うよ」
「紅夜会も枝分かれで組織化しているはずだ。
下手すりゃ白夜よりでかい規模の闇組織だからな。
紅夜の子どものようなナイトとは違って
紅夜への忠誠もない甘い水すすりたいだけの奴らがきっといる。
それは白夜団も同じだ」
「お互いが裏切って情報交換、隠蔽を?? ……腐りきってる」
「妖魔より、怖いのは人間かもな」
剣一が、珈琲を一口飲み『あっち!』と舌を出す。
妖魔の凶暴性、人に対する脅威だが
剣一の言う通り、椿が生まれてから傷つけているのは全て人間だ。
「椿ちゃん大丈夫か?」
「椿のせいじゃないって言い続けて……少し元気になったかな」
「今週の会合、延期しなくていいのか?」
急遽、桃純家当主として認めるかを決める会合が決定した。
延期――とは言っても、全国の重要当主が集まる。
こちらの言い分での
変更は無理なこともわかっているのだが。
「椿もそれは望んでる、でも不安は不安だ」
「とりあえず、刀は出すなよ。ただ椿ちゃんを紹介するだけなんだから」
「椿に何か言ったりしたら
俺はわからないよ」
麗音愛もそろそろ我慢の限界だった。
しかし雪春の言葉を思い出す。
『いっそ、全員早く死んでくれたら手っ取り早いんだけどね』
それのために、自分を利用しようとしているのかもしれない。
そう感じもしていた。
「まぁ殺気放っておけよ。後ろでさ」
頷く麗音愛。なんなら呪怨を放って全員失神させてもいい。
「ところで当主は兄さんが継ぐんだよね?」
当主話で、麗音愛も少し気になっていた。
今まで働き続けている兄を差し置いて
晒首千ノ刀を継承しただけで当主になるなどと。
自分の強さは、刀のおかげ。
兄の強さは才能と努力の結晶だ。
そういう人間こそ、当主になるべきだと麗音愛は思ってる。
「ん?
んー……でもお前も威厳あったほうが
いいんじゃないのか? 俺も別にこだわってないぞ」
「そういう目立つの柄じゃないよ俺
何かあったら兄さん経由でさ、指示してくれたらいい」
わざわざ本音は話さない。
「まぁおいおいだな
会合には父さんも来るって、暇あったらみんなで飯でも食おう」
そこで話は終わりそうになったが、
麗音愛は気になっていた事を口に出す。
「というかさ、どうして
こんな事態に母さんは気付かなかったわけ?
団長なのに
放置なんてありえない……」
「書類での確認はしてたらしいけど……
わからないだろ
偽装されてるんだし元気に健やかに育ってると思うよ
年賀状やらも来てたっていうしさ
それも天海紗妃が書いたものなのかな」
「会いにいったりはしなかったのかな」
「忙しかったとさ
すごく後悔してるよ母さんも」
「……責める気はないよ……」
そう言って麗音愛は、その話を終えた。
椿はいつだって前を向こうとしている
麗音愛もそれを支えたいのに、いつもまた過去に引きずられる。
怨念のように。
学校での椿はいつも通り笑っていた。
佐伯ヶ原のアトリエにて
麗音愛と椿は別々に分かれて座っている。
違う絵なのか
大きなカンバスを2つ並べて
時にはスケッチブックを持ち
佐伯ヶ原は何かに取り憑かれたように新学期から絵を描いている。
「椿……お前、なんかあったな」
それは、質問ではない、確定のように言う。
ギクリとして、椿はアハハと笑うが
ポコンとチョコスナックの箱で頭を叩かれる。
「ちょっと休憩だ、無理するなよ」
受け取った椿は照れくさそうに、チョコを食べ始める。
「サラ、大丈夫なんですか――」
「……佐伯ヶ原にも来てもらおうかな」
白夜団の内部にも今は味方が欲しい。
憂いに満ちた麗音愛に頼られて佐伯ヶ原は、目にハートを浮かべる。
そして、会合当日。
前回も来た、白夜団本部ビル。
スーツ姿の
麗音愛、椿、剣一、佐伯ヶ原。
直美と雄剣、剣五郎は会合室にて先に待つということだった。
着けば、控室に呼ばれ
そこには色とりどりのドレスや着物が用意されていた。
なんと絡繰門鐘山からだという。
だが、椿は拒否した。
「え?着替えないの?」
椿に似合いそうなドレスを選ぼうとした剣一が驚く。
「はい、別に飾り立てる必要はありませんから」
「そっかぁ……まぁ、そうだね」
「そうだよ兄さん、やつらの低俗さがわかる」
「お前も辛辣になったねぇ」
そうして椿は
パンツスーツのまま、髪だけは佐伯ヶ原に頼んで
少しでも大人に見えるように編み込みにしてもらった。
化粧をせずとも
あの油絵の篝によく似て、美しい。
でもあの生家に帰った時のように、唇は固く結ばれ
表情は固くビスクドールのようだ。
控室に、雪春が入ってきた。
「さぁ
椿さん、無能老人達がお待ちかねだ」
緊張していた椿が、酷い言葉にふふっと笑う。
「玲央君は思う存分
殺気を放ってておいてくれ」
言われなくとも、と思うが『はい』と言う。
「今日はどうしても僕は動ける立場ではなくてね」
屋敷全焼の件でなにかあったのか。
麗音愛も椿も緊張はしていた。
椿がクルッと向いて拳を突き出してくる
それに優しく応えた。
コツンと親友合図。
『うん!頑張る!』と言うように椿は頷いた。
そして前回と同じ
広い会合室。
ズラリ!と並ぶかと思いきや
5人の高齢男性、皆和服を着て椅子に
どっかりと座り込んでいる。
まるでオーディションのようだ。
白夜団団長の咲楽紫千直美に促され
視線を一身に受ける場所にあるパイプ椅子に椿は座る。
麗音愛達も壁側に並べられたパイプ椅子に座った。
絡繰門
恩心
朔
加正寺
滑渡
咲楽紫千
そして
桃純
白夜団七当主が集まった会合が始まる。
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短編で七夕のお話を昨日アップいたしました。
宜しければそちらもお読みくださいませ
初のレビューが書かれた記念のお話になりました。
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