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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第2章 制服の笑み花の涙

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元気にさせたい

 

 色々な事があった椿の生家への旅行。

 卒倒していた佐伯ヶ原もやっと目を覚ました。

 容赦なく呪怨を見せてしまったことを

 麗音愛(れおんぬ)が謝罪し、絵のモデルを頼まれ仕方なく約束してしまった。


 剣一は母の直美と徹夜での作業になり、

 麗音愛達は他の団員に家まで送り届けられた。


 家に着くと、父と祖父が心配して出迎えてくれた。

 父の雄剣は白夜団の強化のため全国を飛び回り

 明橙夜明集(めいとうやめいしゅう)を所有してはいるものの退団した一族に、団への復帰や武器の回収などを仕切っているのだった。

 突然の息子達を襲った事件を聞いて、取り急ぎ帰ってきたようだ。


 いつも元気な椿が、うつむいて

 それでもご迷惑をかけてと頭を下げるのを、慌ててその場の咲楽紫千(さらしせん)家男全員で止めた。


 全国ニュースになってしまった名家の屋敷全焼。

 消えた大富豪に火事という話題だけではなく、

 あの妖魔が襲撃をした時の映像をマスコミが撮影していたことがわかり、 そちらの制止にも今は大変なようだ。

 また古い幹部連中は、椿と咲楽紫千家の行動を非難したが、 帰省の提案とその場の指揮は絡繰門雪春(からくもんゆきはる)がしたことだと報告があると だんまりを決め込んだ。


 非難は剣一も聞いていたが弟に話すのはやめておこうと決め

 散々働かせられ2日後に、やっと帰宅した。


 椿は

 日課の鍛錬のマラソンもせず自分の家のソファでぼんやりしている。

 一応はご飯も食べるが、いつもの量の3分の1程度。

 同じ年齢の女子でも少なめくらいだ。


 そして椿は大事にしていたボロボロの羽織。

 それを巻かなくなった。


「あれを巻いたら安心してたの。

 でも屋敷に行って母様に 愛されてないと思ってた事にも気付いたの。

 誕生日の日愛されてたんだって事を思い出して嬉しかったけど、今まで憎んでた事にも気付いて……。

 それなのに、どんな気持ちで私はあれを大事に思ってたのか

 わからなくなって……」


 そう椿は言って、もふもふ君を抱き締めるのだった。

 汚れは、結局そのまま。



 ごろごろごろ、と椿はソファからわざとに転げ落ち

 ふぅ……と、ぐっと心が痛む時に止めてしまう息を

 意識して吐き出した。


 ピンポーンと玄関の呼び出しが鳴る。


 椿が心配な麗音愛だが泊まるわけにはいかず

 夏期講習から帰宅すると、すぐ椿の家へ来た。

 帰宅した剣一も一緒にお土産を持ってやってき。


「ほら、時間あったから名物のお菓子買ってきたよ。売店のお姉さんオススメ一位」


「ありがとうございます!!」


 無理して笑う顔が痛々しい。

 コーヒーを淹れると言って台所に行く椿を見て、 剣一も疲れた身体をソファにあずけた。


「雪春さんが、椿ちゃんが桃純家の当主という事を認めるように

 動いているようだ」


「え、あの人……また」


「今回は椿ちゃんのためだろ?雪春さんも

 今回、全部責任負ってくれたしさ」


 雪春を庇うつもりもないのだが、 あまり弟に殺気立ってほしくない。


「でも今?」


「今だからだろ

 このままにしておくわけにもいかない

 秋穂名家も滅んだし、罰姫と呼ばれたままにするより桃純の当主として

 生きていくほうがいいだろ」


「それは、そうだね」


「ただ、お披露目的なことはしないとならないだろうし

 椿ちゃんが落ち着いてからだな。それは雪春さんもわかるだろう」


「その話、まだ椿には」


 エアコンの温度を下げようとする剣一の手から、リモコンを奪い取る。

 あっち~~っと剣一はぼやいた。


「わーってるって、お前、なんかどっか連れてったら?

 騒げるような楽しい思いさせてやれよ」


「と、言っても……うーん」


 カッツー達とメールはしてても

 モール、ゲーセン、カラオケそんな話ばかり。

 椿は、友達からショッピングに誘われていたが断っていた。


「俺が連れてってやりたいけど、激ヤバハードでさ~」


「兄さん身体大丈夫?」


「ダメ、無理。

 母さんがさ、お前と椿ちゃんに任務させるなって話をしてるんだけど」


「え、そうなの」


「お前から復帰するって言って? 俺、管理業務もあんのにさぁ

 もう無理。これから大学行けなくなる」


 剣一が、こんな事を言うのは珍しい。

 多分、本当に無理なんだろう。


「わかった、俺はいつでも。椿は……まだ待って」


「そこは任せる。お前だけでもいい」


「わかった」


 台所から良い珈琲の香りがして

 あ、と気付いて珈琲を運ぶのを手伝うため立つ麗音愛。


「あ、まぁそれはいいから。どっか遊び行け!

 金はあるだろ」


「どこか……あ……」


 今度2人で海へ……。

 その約束を思い出す。


 でも兄の前では言いたくないなと思う。


「俺、すぐ行くから。夕飯もいらね」


 どうして悟られるのか。

 言ったとおり剣一は、珈琲を飲むと出て行った。


 椿も明るい剣一と話して、少し元気になったようで

 麗音愛が勉強を教えたあとに久々にゆっくりな町作りゲームもした。


 夏なのに何もせず、ぼんやりともう夕方になってしまう。

 今度は麗音愛が珈琲と椿にはココアを淹れた。


「あのさ、海行かない?」


「海?」


「うん、気晴らしにさ」


「……みんなと?」


「いや……2人でさ」


 椿は見ず携帯電話を見ながら言う。


 天気を調べているだけなんです。


「……あ、……行きたい!!」


 はにかむような、久々の明るい笑顔。

 麗音愛もホッとして笑った。

 でも、ひゅっと笑顔はすぐ消えてしまう。


 天気を調べ、3日後に行くことにした。

 許可をとりたいが、今日は雄剣も早めに帰ると言ってたので、 そこで話そうと決めた。


「夕飯うちで食べないの?」


「うん、今日は大丈夫」


 椿は椿で、ずっと麗音愛に一緒にいてもらってることが、迷惑なんじゃないかと気になっていた。

 海に行ける楽しみがあれば、我慢できそうだと思ったのだ。


「そっか」


 麗音愛もそう言われれば、わかったと帰る。

 簡単な夕飯の支度をして父の帰りを待っていたが、帰宅は22時を過ぎていた。


「なんだ、待っててくれたのか」


「父さん、食べてきた?」


「いや、玲央が作るって言ってたから食べずに帰ってきたよ」


「用意する」


 17歳で、気配りのできすぎる息子。

 雄剣は着替えテーブルについた。


「……椿ちゃんと海に?」


「うん、許可してほしい。少しでも気晴らしに」


「……そうだな。よし、電話をしてくる」


 戻ってきた雄剣は、許可が下りたと言ったが

 下りたというよりは下ろさせたようだ。


 直美が、麗音愛の屋敷での戦いを見た事を聞いた。

 学園で紅夜から逃れてきた姿を見た時、息子が奪われたと思った。


 呪い刀に。


 あれはもう、誰も継承することのできない

 ただ、そこにある強いチカラ。

 使われることのない強いチカラなだけだったはずなのに

 曽祖父も祖父も父も自分も、そして息子も

 あるだけのチカラを見守るだけ、なはずだった。


 でも息子は晒首千ノ刀を継承、した。


「ありがとう」


 喜ぶ顔は、いつもの息子・玲央の笑顔だ。

 喜ぶ時も静かな咲楽紫千家の次男の玲央だ。


「……お前は、椿ちゃんが……大切なんだな」


「な、なに急に。大事な友達だよ」


「友達、か」


「桃純家の当主だから、軽々しく遊ぶなって?」


「そんな事は言わないよ。ただ年頃の……お前は男で

 椿ちゃんは女の子なわけだから」


 静かに、微笑む父。

 その仕草は、麗音愛によく似ていた。


「父さん、俺はさ。いつも晒首千ノ刀の億万の呪怨に呪いを叫ばれて

 殺そうとしてくる奴らと一緒にいるんだ」


「……玲央」


「油断すれば、殺される」


「すまない、辛い思いを」


 心臓がえぐられる、息子の言葉。


「そういう話じゃないよ。それは俺が選んだことだから。

 それでもそんな時でも、友達の椿といたら楽しくなれる」


「……あぁ、そうだな。父さんが余計なことを言ったな」


「大体が、椿のやつお祭りでだって

 彼氏じゃない、絶対違う!! って言い張って」


「なんだ、そうか。それは言われたな」


「はは、そうです親友ですって何回も」


 アハハと父親と笑いながら、どこかで何かキリリと軋む音が 心臓で響く。

 それを笑いながら律する、自分に父に呪いの手が伸びないように。

 そうすると、軋みも消える、熱さも冷たさに変わる。


「まぁ友達同士でも、お前がしっかり守ってやるんだぞ

 何があってもだ」


「わかってる。電話してくるよ、許可とれたって。食器さげといて」


「あぁ、ありがとう。またしばらく帰ってこれなさそうだ」


「うん、身体に気を付けて」


 部屋に戻って電話をかけると、椿はすぐに出た。

 許可がとれた事を伝えると喜びの声が聞こえた。


「眠れそう?」


『うん、大丈夫。ねぇ天気で決めちゃったけど夏期講習は?』


「あぁ、休み」


 嘘をついてしまう麗音愛。

 まぁ、嘘も方便。


『あのね』


「うん」


『あの……私……』


 口ごもる椿に、麗音愛も不安になる。


『笑ってもいいのかな』


「え?」


『私……笑ってもいいのかな』


「当たり前だよ、どうしてそんなこと」


『あんな事になっちゃって……大変な事件起こして』


 すぐ302号室に向かいたくなる。

 本当は麗音愛は電話が苦手だ。

 言葉に詰まってしまうから、うまい事が言えないから。


「椿は何も悪くない、被害者なんだから。

 明日も楽しむために行くんだよ。

 少しでも元気だしてほしいから」


『ありがとう、うん』


「無理はしなくていいから、笑いたい時笑おう」


 それでも精一杯、気持ちを伝えたい。


「せっかくの海なんだから」


『海に行ったら、楽しくなっちゃう』


「いいじゃん」


『いいかな』


「俺も楽しみだよすっごく。たくさん遊ぼうって思ってる」


『楽しみって思いたい』


「楽しみって思って」


『うん!!海とっても楽しみ!!たくさん遊びたい!!』


 元気な声が聞けた。

 静かな幸せがそこにある。


 元気にさせたい、そんな気持ちだったのに

 自分が幸せになる。




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― 新着の感想 ―
[一言] いろんな事に、いろんな人に気を使って生きる椿は、麗音愛といるときだけは楽しいんだなと思うといじらしくなる。 そしてそれは麗音愛も同じ事で、椿といるときは呪怨に引きずられる事はない。不安を感じ…
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