椿、帰る~浴衣っこ椿~ ◇
ワイワイと麗音愛の耳に楽しげな声が聞こえてきた。
「おーい!! やばいぞ!! 可愛すぎて!!」
「や、やっぱり私、ジーンズのほうが」
「せっかくなのに、何言ってる」
剣一と、佐伯ヶ原に連れられ縁側にやってくる椿。
雪春との暗い話の空気が一瞬で消えていく。
黄色がベースで赤やオレンジの椿の花が散りばめられた浴衣が
椿の白い肌に生え
伸びた髪も佐伯ヶ原がアイロンで巻いてから薄く透けるリボンでポニーテールに。
鮮やかな浴衣、だけじゃなく、椿が輝いて見える。
「…………椿……」
少し緊張したような、恥ずかしそうな顔をしているので
知らない女の子のようだ。
ドキドキと動きだす心臓。
「じゃーん!! どうだ! せっかく女子高生なんだから
可愛く帯も花文庫結びにしたぞ」
くるっと椿の手をとって、後ろを向かせると可愛らしくリボンのようになっている。
「髪型も、団子や編込みより椿らしさが出るようポニーテールにしてみました!!」
剣一も佐伯ヶ原も、椿を真ん中にして誇らしげだ。
椿は、浴衣姿のまま下を向いてあはは、と照れる
「とてもキレイだね椿さん、素敵だよ」
「あ、あはは……なんだか、動きにくいし……」
チロッと椿が麗音愛を見る。
キラキラの可愛い女子が自分を見てる。
「えっ」
目が合うと、お互い逸らすが、また目が合う。
「えっと……」
ドクンドクンと心臓が高鳴っていたのに、更に急激に激しくなって
なんだか頭が混乱してきた。
「あーー……うん……お祭りっぽいね」
こんな事しか言葉が出ない。
「……うん、お祭りっぽいよね」
椿が、少しシュンとなったのを感じた剣一は
ダッと畳を走り出し、麗音愛に蹴りを入れる。
「お前はこんな時に言うセリフもわからんのかー!!」
「いって!! なんだよ」
「とっても可愛いよ!! って言うんだろうが! このアホ!!」
「なっ!」
「やだやだ!! 剣一さんやめてくださいよー!!
そんな事無理やり、やめてください!」
もちろん本気ではないが、兄弟喧嘩が始まりそうに見えた椿は
慌てて止めた。
「柄じゃないと思うんですけど……2人に沢山手伝ってもらったし。
下駄と巾着とってきます」
パタパタと椿は荷物を置いている大広間へ行ってしまう。
「あ~~……お前、俺の弟かよ。まじで」
「兄さんみたいに、言えるわけないだろ」
そんな恥ずかしい事よく言えると麗音愛は思う。
「可愛かっただろ?」
「それは……まぁ」
「アホか! 行って言ってこい!!」
「えぇ? そんな、おかしいだろ……」
「大広間に取りに行ったんだと思いますよ。サラも支度してきたらどうです」
「俺、車出してやっから、玄関で待ってるな」
佐伯ヶ原に言われ、確かにバッグも何も持っていなかったので大広間に向かう。
「椿」
「あ……どうしたの?」
「俺もカバン取りに来た」
「そっか……」
自分の荷物をガサゴソしている椿。
ふわふわの頭のリボンが揺れる。
「大丈夫?」
「うん……あの箱も巾着に入れていこっかな、じゃ、先に行くね」
「え、待って!! 俺もすぐ行くから」
こんな時先に行くなんて言わないのに、と麗音愛は少し焦る。
うん……と、椿はその場で立ち止まった。
麗音愛も適当に用意してバックバッグを肩にかけて
廊下を椿と歩く。
「やっぱり、浴衣じゃないほうがいいかな?」
「え!? 浴衣でいいよ」
「でも、何かあったら戦えないし……」
「そんなの俺がいる」
「……うん」
椿も自分の格好がなんだか恥ずかしくて、麗音愛の顔がなかなか見られずだった。
麗音愛も、唐突に「カワイイよ」なんて言えるわけがないだろう!! と思いながらも
椿の様子も少し気になる。
「剣一さんに何か言われたの?」
「……いや……あの、椿」
「やだな~~!! 何も言わなくていいんだから!!」
ぱしい!! と巾着で叩かれる。
箱の存在をすっかり忘れてたようで焦ったようだが
すぐにまた笑う。
「お祭り楽しみだよね! 嬉しいな」
「……俺も、嬉しい」
「うん!」
やっぱり、言えない。
でも一緒にお祭りに行けるのは嬉しい。
2人で笑うといつもどおりになった。
和屋敷の方の玄関に行くと、もうエンジンをかけて
剣一と佐伯ヶ原は乗り込んでいて、雪春も何か剣一と話している。
「僕も行こう、剣一くんどうせ飲みたくなろうだろう
帰りは運転するよ」
「まじっすか! ありがとうございます~お、来たな」
剣一の大きな車に乗り込もうとした椿。
浴衣で足が上がらず、戸惑うが
ひょいっと麗音愛が抱き上げて座席に座らせる。
「ありがと……」
「うん」
夕暮れ、空き地に大勢の人が集まり祭ばやしが聞こえる。
降りる時も、椿を抱き上げて降ろす麗音愛。
「出店たくさんあるじゃん!! 椿ちゃんいっぱい食えよ!!」
「はい!」
初めてのお祭り。
椿は、母もこのお祭りに来た事があるのかな、と思い
また切なくなるが、ワイワイと盛り上がる皆を見るとワクワクしてくる気持ちも
抑えきれない。
哀しい事があっても、そこで止まっていたらダメになってしまう事を
小さい頃からわかっていた。
何があっても笑ってやる、そう生きてきた。
「お前、チョコバナナ食ったことあるか?」
「えーなにそれ!?」
佐伯ヶ原とワイワイ歩きだす椿。
カラコロと下駄の音がする。
その後ろをついていく咲楽紫千兄弟。
「言ったのか?」
「兄さんのせいで逆に言いにくくなった」
「お前って変わってるよな。さっきの車でのエスコートの方が
恥ずかしくてできないけどな普通」
「それは……慣れというか」
「じゃあ今から褒めるのも慣れとけよ」
「なんでそんな……」
「剣一さーーん!! 小夏さん達がいましたよー!」
「おお! 小夏ちゃーん!!」
話の途中で放り出し、昼間の2人に駆け寄っていく剣一。
また雪春と2人になる! と麗音愛も剣一を追いかける。
「うわ! 小夏ちゃんも浴衣じゃん! 可愛い! ってかキレイだね」
女たらしめ、と麗音愛は思うが
小夏も嬉しそうに剣一に笑いかけている。
その隣に昼間と変わらない格好のおばさんもいた。
「ねぇねぇ椿ちゃん、あなたが桃純のお嬢さんだって事は
もちろん秘密にするから、どうか神社のほうで福火の炎灯をやってくれないかい」
「ほのおともし?」
「昼間に話した、篝様が福火に使う火を用意してくれたって作業。
もうずーーーっと此処も嫌な事続きで、ゲン担ぎに。ライターで点けてもらうだけでいいから。ね!」
「その火をお祭りの最後にみんなで分けて、提灯でもって帰るの
昔はかまどの火なんかに使ってたみたいだけどね」
確かに、まわりの出店では提灯が売られており
まだ火の点いていない提灯を振り回して遊ぶ子どももいる。
「でも、私、何も儀式とかの知識はないんです……」
「いいのいいの! もう毎年、神主さんがライターで点けた火でやっているんだから!!
あっははは!! すぐ終わるわよ、この出店の先の階段を登っていけば神社だから」
「じゃあ……行きます!」
石畳の神社に沢山の出店。
田舎ではあるが、そこに住む人全員が来ているのではないかと思える人出。
「ヒダって言ってたけど、緋色に那由多の緋那で緋那鳥と同じ……」
「本当だ」
これは、偶然なんだろうか。
今回の帰省の日程。
たまたまこの神社の祭りの日とかぶっただけなんだろうか。
「椿さんが少しでも、楽しめるお祭りがあって良かったよ」
そう言って、雪春は微笑んでいる。
出店の中を歩いていくと、ザワザワ……と皆が椿を見た。
立ち止まる老人もいる。
「あれ、なんだろう。あ、いい匂い」
「円盤焼きだって」
用事ができたので
食べ物一時お預けになってしまった椿だが、出店に目を輝かせていて
注目されていることには気付いてない様子。
「ねぇ、あれなに!?」
「綿あめだよ」
出店の最終地点に、神社へ続く石階段が現れる。
「ねぇお母さん、下駄で痛いから下で待ってていい?」
「もう、小夏ったら、仕方ないね!」
「結構な段数あるな……」
かなり急で、手すりもない。
しかし参拝客は沢山登っていき降りてくる。
「あの、私1人で行ってきますよ。みんなで行かなくても……」
「んじゃ! 俺も小夏ちゃんと待っていようかな!! ね! 雪春さんも
椿ちゃんと玲央に任せて!! 亜門も」
「あ、はいそうですね」
チラッと剣一は雪春を見た。
麗音愛と同じく剣一も雪春の考えを見ていた。
「そうしようか」
と雪春は、にっこり言う。
椿が神社に行くのに着いていくというかと思ったがそうは言わなかった。
「玲央君、椿さんを頼むよ」
「もちろんです」
きっぱり言い放つ。
そう言うと、おばさんの後ろを着いて2人で階段を登っていく。
「弟さんが、椿ちゃんの彼氏なんだ」
小夏が、椿の後ろを登っていく麗音愛を見て言った。
「彼氏ではないようだよ」
「え? そうなんだ。じゃあやっぱり剣一君が彼氏?」
「俺は彼女作らない主義なの
じゃ小夏ちゃんビールでも飲もっ」
「なにそれ~」
「イェーイ!! 夏楽しもうぜ~~~ぃ」
剣一もサッと小夏をエスコートして4人は出店の人混みにまぎれていった。




