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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第2章 制服の笑み花の涙

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雪春の提案

 


「あ、雪春さん!?」


 突然の

 情報調査管理部部長

 絡繰門雪春(からくもん ゆきはる)の来訪に3人は驚き戸惑う。



「ど、どしたんですか、あ、メールもらってました?!」


「いや、椿さんへの話だったので。留守だったのでこっちに来たんだ」


 暑いなか、汗の一つもかかずにスーツ姿の雪春は微笑む。


「わ!! 私!!! すみません電話、全然見てなかった……」


「いいんだよ、突然だったので僕が悪いんだ。いいだろうか? 少し話をしても」


「とりあえず、こちらへ。

 玲央、コーヒーお出しして、俺、約束のキャンセル電話してくる」


「剣一君、いいんだよ、気にせず出掛けて」


 ジッと麗音愛の視線を感じて、剣一はとりあえずキャンセルの電話を掛けて

 リビングに戻ってきた。


「わざわざ、すまないね。今日の話というのは……」


 雪春の話は、桃純家の屋敷に行かないかという事だった。

 重要な資料が埋もれているかもしれないということと

 椿の育った家でもある。


 1度戻ってみてはどうかと……。


 もちろん、椿を虐待していた秋穂名(あきほな)家はもう別の場所に移され

 事情聴取を受けているので、空き家になっている。


 喜ぶかと思ったが

 その話をされて、椿はうつむいていた。


「自分の家に戻りたくはないかい?

 私物とかあっただろうに」


「大事な物は……持ってきたので」


 細剣・緋那鳥(ひなどり)と、母の羽織

 椿の顔は、不安そうな顔。

 嫌な思い出しかないんだろうか……と心配になる。


「僕も、もちろん一緒に行くよ。

 日帰りでは無理だと思うから屋敷で何泊かすることになると思うけど

 身の回りの世話は僕に任せていいから」


 え!! と麗音愛は驚く。今日は椿の周りの男共に驚かされているばかりだ。


「勉強も教えてあげられるし、夏期講習代わりにでも」


 にっこりと微笑む雪春だが、

 独身成人男性と女子高生の2人で人気のない屋敷で数泊?


 ちらっと椿が麗音愛を見る。


「お、俺も行っていいですか?」


「麗音愛」


 ホッとした顔の椿に、頷く。


「うん? もちろん玲央君も来ると思っていたけど」


「あ、あはは。そうですか、そ、そうですよね」


「よ、良かった」


 なんだ、と2人で笑った。


「兄さんも行こう」


「えっ……あーまぁうん……そうだな

 俺も行きますよ。雪春さん俺の仕事調整してからでいいですか?」


「もちろん、じゃあ剣一君の予定に合わせようか……珈琲いただくね」


 雪春がコーヒーに口をつける。

 釣られて椿もココアを飲んだ。


「麗音愛、夏期講習は?」


「いいんだよ、そんくらい取り戻せるから」


 麗音愛もマグカップのコーヒーを飲む。


「あと、同じ学校の佐伯ヶ原(さえきがはら)君、彼にも来てもらおうと思ってる」


「えぇ!」


「彼の力で屋敷のなにか秘密が見破れることがあるかもしれないと思ってね」


 麗音愛は内心うげーと思い

 椿は麗音愛と剣一が来てくれて良かったと更にホッとする。



「少し2人で話がしたいんだけど、いいかな」


 そう椿に言う雪春。


「あ、俺の部屋使ってください」


「ありがとう、少しお借りするね」


 麗音愛の部屋に2人で行く。


「どうだい? 舞意杖は」


「まだ……です」


「うん、焦らなくていいよ」


 そんな話なら、2人の前でも良かったはずだが…………。


「この前の任務の後は大丈夫だったかい?」


「はい」


「少し、玲央君について聞きたいんだけど」


「麗音愛の?」


「君を傷つける行為をしようとした事とかはない?呪怨の影響で」


 驚きでゾクッとなる。


「えっ……そんな事、一度もないです!」


「そう、彼はよく正気を保っているね」


「麗音愛はそんな状況なんですか?」


「僕たちには計り知れないだろうね……

 休む事なく怨霊達が彼を地獄に堕とそうと襲ってくるのを統制しているわけだから

 咲楽紫千家の者でなければ触れただけでも発狂してしまう刀とも言われている」


 そう、そうなのだ。

 晒首千ノ刀の恐ろしさはわかっている。

 わかっているけど

 普段の麗音愛を見ていたらまるでそんな素振りは見せなくて……。


「だから、もし彼が正気を失うような事があれば」


「そんなこと絶対にありません!! 絶対ないです!!」


「うん、もしそんな時があったリ、兆候が見えたら、教えてほしいっていうだけ」


「は、はい」


「それだけだよ、ごめんね。玲央君の事を見守ってほしいんだ」


「もちろんです……」




 雪春が帰って、なんだか疲れ果てた3人。

 でも剣一は結局出掛けていった。


 チョコレートとポテチを出してサイダーを飲みながら

 なんとなく

 全く白夜団に関係ない話をする2人だったが

 ふいに、じっと麗音愛を見る椿。


「ん?」


 じーっと不安そうに見つめてくる。


「椿?」


「あ、ごめんなさい」


「どうした?」


「ん……」


「雪春さんに何か言われたの?」


 すぐに撃ち抜いてくる麗音愛に椿は少し焦る。

 どうして、こんなに顔に出てしまうんだろう。


「えっと……」


「椿、言いなよ」


「麗音愛が晒首千ノ刀の影響ですごく辛いって……」


「俺が?」


「うん、だから心配になっちゃって」


「俺は平気だよ」


 麗音愛は微笑む。


「でも、もしかしたら無理して、そうやって笑ってくれてるのかなって」


「大丈夫だって、余計な事椿に言って……困る」


「本当に?」


 ぶわぁ……っと呪怨を手のひらに発動させる。

 呪怨はぐじゅぐじゅと麗音愛の手のひらだけに収まっている。


「ほらコントロール間違えた事ある?

 俺が、辛くて苦しかったら椿に話してるに決まってる」


「親友だもんね」


「そうだよ」


 パンッと呪怨が弾けた。



 ふと、椿の携帯電話が鳴った。

 PLINのグループPLINに書き込みがあったようだ。


「えーーー今からファミレスにみんなで集まるんだって、どうしよう」


「行ってきなよ」


「でも……」


「俺とはいつでも遊べるし」


「でも……麗音愛と遊べるのっも楽しみだったし」


「明日遊ぼう、せっかくの学校の友達なんだし俺は逃げないよ」


 麗音愛がそう言うので、わかったと椿も出掛ける準備を始めた。





「だからーもうあいつ死ねばいいよ大嫌い!!」


 強い言葉に椿は驚いて、サイダーのストローを口からポトリと落としてしまう。


「ううううもう、大嫌い!! 別れて良かったわ!! 死んでほしい」


 椿フレンズの1人の加代が、怒り叫んでいる。

 どうやら交際していた男子と別れたようだ。


「最低だよ! あいつまじムカつく」


 烏龍茶を一気飲みしてゴツンとテーブルに置く、加代。


 夏休み前に会った時は、

 大好きなの、愛してるの、といつも言っていたので椿はとてもびっくりしていた。


 大好きな気持ちが死ねばいいまでに変わってしまうなんて……。

 男女交際ってなに?

 怖い……


「もうさ、忘れちゃいなよ~ね!? 二学期にほら、パーティーもあるしさ」

「そうそう」


 みんなが加代を慰める。


「みんな、ありがとう~~~~~男はしばらくいらないけど~~~

 あーーもう死ね!!」


「死ねなんて言ったらダメ……」


「なに? 椿」


「う、ううん、なんでもない」


 慌てて口をつぐむ。

 自分も紅夜会の連中には殺すだの言っているのに。

 人にこんな事言う資格はなかった。


 でも、好きだった人にそんな言葉言えちゃうんだ……。


 みんなワイワイと加代の周りで怒ったり笑わせようとしたり

 でも、なんだかんだ楽しそう。


 今を全力で生きてるエネルギー。

 みんなキラキラしてる

 何が起きても自分は死なないと思っている若さの自信。

 絶対に続く未来を見ている。


 でも……

 闘真がこれから暴れると言っていた。


 これから、こんな日常が戦場に変わってしまうのかと思うと

 ゾクリと戦慄してしまう。


「椿は恋人ほしくないの?」


「全然ほしくない」


 好きから嫌いになってしまうような男女交際なんていらない。

 お友達の、親友の麗音愛がいればそれだけでいい。


 みんなパフェやポテトフライを食べるなか

 椿はミックスフライ定食のエビフライを食べる。


「つばちん、でも玲央くんと遊んでばっかで

 玲央くんの恋人つくる機会奪っちゃダメだよ~?」


「えっ?」


「つばちんはそれで良くてもさ~」


「なに、詩織そんな話したの? 海で?」


 横からゆーちゃんが口を挟む。


「彼女作る暇もないとか言ってたよ、高校生男子で彼女いらない男の子なんて

 いないでしょ~」


「まぁね」


「せっかくの夏なんだから」


「麗音愛が……」


 変な汗が出た。

 確かに、詩織の言うとおり。


 麗音愛は花火も夏祭りも行かないと言っていたけど……。

 今回の自分の家に戻るのだって……夏期講習なんかより

 夏休みの大事な数日を使わせてしまう事の方が……問題だったのでは。



「つばちんも、お兄ちゃん離れ、ちょっとしよー? うちらで合コンもしたいしさ」


「あは……そ、そう」


「加代もああ言って今はいらないとか言ってるけど、次の恋で癒やすのが1番なんだから~」


 結局、詩織は麗音愛がどうという話ではなく

 みんなで合コンがしたいようだった。



「はぁ……なんか疲れちゃったな」


 帰り道をとぼとぼ歩く

 みんなはこれからカラオケに行くと言ったが椿は遠慮した。


 見上げた夜空に

 ヒュッと気配を感じる。


「あ」


 電柱の上、飛んでる麗音愛がいる。

 晒首千ノ刀を構えていて、椿に気付いた麗音愛も『あ』と慌てる顔をする。


 そこで待て、とジェスチャーされたので

 了解と返事する。


 一体どうしたんだろうか、

 1人で任務してるのか、気になって5分くらいでも長く感じる。


「よっと」


 麗音愛が舞い降りる。


「椿、早いね、もう帰ってきたの?」


「なにしてたの?ずるい」


「ずるいって……妖魔いたから切ってきただけだよ」


「1人でそんな事してるなんて知らなかった」


「たまたま、コンビニ行こうと思ったら気配がしたから」


「私も一緒に退治したかった……」


 そう言うとハッとなる。

 束縛するような事言っちゃった。


「今度ね」


 自然に2人、家へ向かって歩き出す。


「あ、あのね麗音愛、花火とかお祭り行かないの? 麗音愛だけなら許可とれるんじゃないの?」


「ん? 行かないよ」


「な、なんで?」


「なんかぶつかりそうだし、花火とお祭りの日と椿の家に行く日」


「え!!」


 言いたくないけど、言った方がいいのかなと、迷う椿。


「あの……本当に私と一緒に家に来てもいいの? 花火もお祭りも行けなくなって……」


 麗音愛が、もし行くなら……誰と行くんだろう。


「椿は、俺が行かない方がいいの……? 雪春さんと佐伯ヶ原と三人の方が

 良かった?」


「そ、そんなわけないよ! 違うよ

 行きたかったんじゃないのかなって、花火とか、ほら高校生だしさ!

 今しかないって……みんな言ってて……」


「別に……あぁいう場所は1人で行ったって虚しくてつまらないんだよ。

 俺、人混み苦手だし」


「そうなの」


「1人じゃないなら行ったけど」


 椿と一緒なら行ったけど、とは言わなかった。

 でもあの大きな打ち上げ花火は見せてやりたかったなと麗音愛は思う。


「カッツー君とかは」


「じ、冗談じゃないよ」


 確かに同性同士で行くこともあり得るんだろうが、

 麗音愛のいつものメンバーで行こうなんて話になるどころか

 花火大会というカップルイベントは皆、暗黙の了解で一切口に出さない。


「よ、美子ちゃんとか……」


「行かないよ」


 麗音愛は苦笑いする。

 ホッとしてしまった椿。


「ねぇ麗音愛」


「うん」


 私と無理して一緒にいなくていいからねって言うべきなのか

 そんなセリフを考えただけで

 ズキズキまた心が痛む。


「ううん、なんでもない」


「一緒にコンビニ行く?」


「うん!」


 言えない、そんな事……。


 少し陰った笑顔。

 何かまた気にしてるのかな、と麗音愛は思った。


「椿」


「はい」


「まだまだ夏、楽しもうね」


「うん!!」


 そんな一言で、椿はパーッと笑顔になった。


 麗音愛もその笑顔を見れば

 何千、何万もの怨霊が足元、背後から彼を襲おうとしても

 一瞥だけで飛散させられる。


 夏の夜はまた一層暑さを増した。




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― 新着の感想 ―
[一言] なぜ二人とも素直にならない?!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ でも、椿は今までの事があるから遠慮しながら生きているし、麗音愛は気を抜くと呪怨に引きづられそうになるのを押さえてるし、悔し…
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