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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第2章 制服の笑み花の涙

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紫の炎~ほっぺにちゅーしてほしかった?~

 

 夏休み真っ只中

 麗音愛は夏期講習。


 椿は剣五郎とのお昼ご飯に蕎麦を茹でている。

 剣一は出張から帰宅中。麗音愛も帰ってくるのでルンルン沢山茹でる。


 最近は直美も忙しく、家政婦を雇うという話を兄弟にも伝えたが

 2人が拒否した。


 この複雑な家庭に関わって、何か危険が及ぶ事も

 急に見知らぬ他人が家に入るのも嫌だったので

 今まで以上に家事もやると主張した。


 今日も麗音愛が昼食を用意して出ようとしたが

 お蕎麦なら茹でる事ができるから私がやる!と

 椿が申し出てお蕎麦になったのだった。



「ありがとう、椿ちゃん美味しかったよ」


「こんなもので、すみません」


「いやいや、年寄りには十分ご馳走だ

 夏休みどうだい?遊んでいるかい」


「はい」


 競泳水着で麗音愛と市民プールで鍛錬もしたし

 お友達に誘われて、モールでランチもした。


「今週の花火は行かないのかい?」


「人が多いから許可が降りなくて……」


「夏祭りは……」


「ダメでした。夜ですしね」


 あははと頭をかく椿。

 みんなから誘ってもらったので残念ではあったが

 椿には今はもう恵まれすぎていると思っているので

 素直に受け入れている。


「そうか……色々背負わせてしまっているな……」


「おじい様、私は大丈夫です全然気にしてないです!

 毎日とっても楽しいし」


 剣五郎も、白夜団として椿への罪の意識を感じている。


「これ、ばあさんの若い頃の浴衣なんだが……もらってくれないかい」


 紙袋から出したのは、浴衣と帯を出して椿の目の前に置く。


「浴衣……」


「椿のお花の柄だ。

 椿ちゃんほどとまではいかないが、ばあさんも美人でな

 この浴衣が似合って……はは、若い頃これを着たばあさんと出掛けたもんだ」


「そ、そんな大事なもの、もらえません」


 剣五郎は、懐かしむような遠い目をする。


「孫に女の子がいたら、着てほしかったんだが

 2人ともまぁ見事に男でなぁ

 着てもらったら、ばあさんも喜ぶ」


「おじい様……」


「玲央でも剣一でも誘って、散歩でも食事でもして

 手持ち花火でもしたらいい。

 着付けは剣一ができるから聞いてごらん」


「え!? 剣一さんが?」


「仕事で袴を着る時もあるし

 あいつ、なんでもやりおるから……

 もらっておくれ

 じいちゃんの頼み、聞いておくれ」


 椿の遠慮する気持ちも強かったが、剣五郎の気持ちに応えた方が

 きっと良いのだと思った。


「は、はい……ありがとうございます」


「小物はこれで買いなさい」


「え、いいです!お金は毎月頂いていますしお給料ももらっています」


「孫への小遣い、2人にもやってるから、受け取っておくれ」


「おじい様……」


「今度じいちゃんともお散歩してね」


「はい!!」


「じゃあ、少し仕事ででかけてくるよ……」


「はい、いってらっしゃいませ」


 剣五郎を見送って、1人お茶を飲みながら

 麗音愛と剣一が帰って来るのを待つ椿。

 今日は何しよう?と寂しくはない幸せな時間。



「ただいまーーーー!!」


 夏期講習が終わり、急いで帰ってくる麗音愛。

 椿も玄関へ向かう。


「麗音愛、おかえりなさい!」


「ただいま」


「疲れた? お蕎麦茹でたよ!」


「ありがとう」


「ネギは切ってあったの買ってきちゃった……」


「いいじゃん、嬉しい。今日は何して遊ぶ?」


 ザーッと手洗いうがいをして、すぐリビングに来る麗音愛。

 その後また玄関が開く音がする。


「ただいまー!! おーっす椿ちゃん会いたかったー」


「剣一さん、おかえりなさい! お蕎麦ありますよ」


「お。食べる!! 椿ちゃんありがとー!すげー疲れた」


 ぎゅーっと剣一が椿を抱き締める。


「!!? ちょ!!」


 麗音愛は声にならない。


「俺めっちゃ頑張ったよ~~~~~」


「お、お疲れ様です」


「汚いんだから、さっさとシャワー浴びれよ!」


「へーへー」


 にっこり椿に笑った剣一は、そのまま風呂場へ消えた。


「殴っていいんだよ」


「あ、うん……大丈夫」


 え、と椿の返答に麗音愛は一瞬戸惑うが……。


「お兄ちゃんだって言ってくれるし」


「まぁ、そうだけど……」


「さ、お蕎麦食べて!!」


 麗音愛の後すぐにシャワーから上がった剣一と

 お茶を飲む椿と3人でテーブルを囲む。



「兄さん、同化剥がしはどうなった?」


「ん、うん。話は進んでるみたい。最終的に許可が降りるかは……わからんけど

 異例の儀式だからな。かなり大掛かりだろうし

 幹部のみだとしてもすぐに無理だな……夏休み中には無理かな……」


「私も、舞意杖(まいづえ)との同化頑張らないと」


「その杖、何かに使えるの?」


「色々試しているよ。魔法の杖みたいだよ」


 またTシャツをぐいっと引っ張って舞意杖を出す椿。

 おお! と剣一も反応している。


「椿ちゃんなに、それそんなとこに仕舞ってんの?」


「ずっと持ってなさいって雪春さんが……」


「エロ……」


「兄さん!」


「? 見てて麗音愛、剣一さん」


 舞意杖を、まるで指揮棒のように振るうと沢山の小さな炎が踊る。


「力が増すみたいで楽なんだ、あとね紫の炎が出せるようになったの」


「へぇ、何に使えるの?」


「ちょっと実験してみたんだけど治癒に使えるっぽいの!」


「実験って……まさか、自分で傷を?」


「うん」


「そんな危ない事、1人でするなよ!」


 麗音愛が驚いて声が大きくなる。


「ほんの少しだよ」


「それでもダメだ、もう絶対しないで」


「ごめんなさい……」


「心配だからだよ……またあの時みたいな……絶対嫌だから」


 と、あの日の血まみれの椿の事を思い出してしまう。


「うん……もうしない」


 椿もあの日の朝の事を思い出して

 赤面しそうになり、慌てて冷蔵庫に麦茶を取りに行く。

 言い過ぎたかな、と麗音愛も台所へ向かうとお菓子箱からお菓子を取り出した。

 喜ぶ椿を見てホッとする。


「でも、すごい事だよ。治癒ができるなんて」


「でしょ!! これでね! みんなの怪我が治せるなら!!!」


「それはすげーわ。そんな事できる法具があるとは初めて知ったよ。

 椿ちゃんだからなのか??ねぇここ俺怪我しちゃってさ」


 イテテと剣一がご馳走様をして立ち上がった。


「え! 見せてください」


「また怪我したの?」


「あー少しな」


 リビングのソファに座って

 ぺろっと腹をめくると酷い痣になっている。


「酷い!」


「まぁ、大丈夫だけどさ。この前の打撲の近くだったから後で病院も行こうかと……」


「……試してみても大丈夫ですか?」


「うん」


「でも、自分でしか試していないから、もし……間違いで火傷させちゃったら」


「いいよ」


 剣一はニコリと笑う。

 麗音愛の優しい微笑みとはまた違った力強い太陽の笑顔。


「間違いで火傷してもいいから、やってみな」


「……剣一さん……」


「俺は椿ちゃんを信じてるから……イテ!」


 麗音愛のチョップが入る。


「カッコつけてなくていいから、早くやってもらいなよ」


「麗音愛、剣一さん怪我してるんだから」


「じゃあ、やってあげて」


「うん」


 舞意杖をまた、音楽を奏でるように振ると

 ふっと椿の表情が変わる。


 いつもの無邪気な顔ではない、まるで巫女のように

 瞳が凛としているような、逆になにかに取り憑かれたかのような

 そして瞳が一瞬紫に見えたと思った時

 紫の炎が出現した。


「熱かったら言ってください」


「おう」


 椿は、紫の炎を優しく舞意杖を持ったまま剣一の怪我した部分に触れさせる。


 ふわぁ……と怪我の部分に吸い込まれて

 パァッと剣一の身体を包む。


「うわ……すげぇ……」


 紫の炎はそのまま光になって消えていく……。


「あ……痣が消えました!」


「はは……すげぇ……すごく……気持ち良かったよ、椿ちゃん……」


 ボカっとまた麗音愛が後ろから殴る。


「ポンポン兄貴を殴るんじゃねーよ!!」


「言うことが、キモいんだよ!!」


「あったかくて癒やされたって意味だろー!!

 いやでもすげぇ!! 治った」


「良かったーー!!」


「椿ちゃん、ありがとー!!」


「椿、すごいね」


 抱きつこうとする、剣一より前に

 椿を麗音愛がソファから腕を掴んで立ち上がらせた。


「これで、剣一さんが怪我しても私が治せる!!」


「ん、うん……」


「おおお、なんていい子なんだーーー」


「剣一さん良かったです!!怪我したら言ってくださいね」


 確かに最近の兄の怪我の多さを麗音愛もかなり心配していたので

 椿の治癒能力はとても心強い。

 だが2人でキャッキャしているのを見て

 治す必要のない麗音愛は、1人残された気分。


「ありがと!! 椿ちゃん」


 立ち上がった剣一が

 ちゅっと椿の頬に剣一がキスをしようとした。


「!」


 ガッと間に手のひらを挟む麗音愛。


「うえっ! なんだよ玲央」


「いい加減にしろっ!」


 麗音愛の蹴りをサッと交わして、ハッハー! と笑う剣一。


「ありがとうね。じゃ怪我も治してもらったし、

 俺支度して、でかけてくるわーー!!

 これで思いっきり運動できそう!!」


 自分の部屋に戻る剣一。


 椿は棒立ちしている。


「ごめん、変態兄貴で」


「えぇ!? いいんだよ、ちょっとびっくりしただけなの」


 そう言うと、照れたよう困ったように笑う。


「……もしかして、俺、邪魔した?」


「邪魔? 邪魔って?」


「兄さんに、ほっぺにちゅーしてほしかった……?」


「ほ、ほっぺにちゅー」


 麗音愛の口から出てきたとは思えない

『ほっぺにちゅー』という可愛い言葉の方が椿には衝撃で

 カーっと赤くなってしまう。


「え……」


「そ、そんなわけない! 何言ってるの!? 燃やすよ!」


 バシッと一蹴されて、ホッとする麗音愛。


「あは! 鍛錬なら外でしよう」


「いいよっ! 闘い遊びもしたいし、走りにも行きたい!」


 シュッと出した拳を麗音愛が受け止める。

 いひ! と笑った椿の左手の突きもサッと払った。


「やるね!」


「当然!」


 2人は今格闘ゲームブームなのだ。


「なにやってんの? 俺出掛けるから~~」


 そんな2人をよそに、剣一はまた着替えて出かけようとしたが

 インターフォンが鳴る。


 インターフォンのカメラに映ったのは

 情報調査管理部部長の絡繰門雪春(からくもんゆきはる)だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 剣一の行動で麗音愛が自覚すると良いのになぁ。 と思いつつ、浴衣は良いなぁ。しかもおばあちゃんの物をおじいちゃんから頂くなんてなんて素敵ではないですか! 少なくとも、健一とおじいちゃんはこの二…
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