初めての海~2人で海の妖魔退治~
妖魔の気配を感じた麗音愛は砂浜を走る。
「おいおい……椿の
初めての海水浴なんだから
お前ら邪魔すんなよ……」
1人で追う事ができて
麗音愛は連れ出してくれた詩織に感謝した。
岩場の方へ行くと
立ち入り禁止のロープが貼られた
海から続く洞窟があり、そこから妖魔の強い気が漏れ出してくる。
魚もなにもいない、死の臭いがする。
どこまで続いているのか
真っ暗だ。
暗いところでも見えはするが
さすがに少し不安が過る。
「だけど椿の初海水浴
俺1人でやらないと……」
「麗音愛!」
「え」
波消しブロックに立つ麗音愛の横に、シュタッと降り立つ椿。
「な、なんで」
「詩織ちゃんから聞いたの」
「いいよ。これくらい
俺1人でできるよ。遊んでて」
「別にいい」
「せっかくなのに」
「大丈夫」
「なんで」
「海ならまた来るでしょ?」
さっきの約束……。
ジッと椿に見つめられたかと思うと
ニカっと笑った。
「そう……だね」
麗音愛も同じように笑って答えてみせる。
「みんなバナナボート乗るって言ってたから
海から見られたら困る! 早く穴に入ろう!」
「あぁ!」
椿は緋那鳥と炎を出現させ
晒首千ノ刀を構えた麗音愛と共に穴に入った。
洞窟内は、妖魔の残った妖気がビリビリと感じる。
「これは
派手にやってそうだな」
「そういえば、行方不明者が出てて
それでお客さんがあんまり来なくなったって
おじさん言ってた。
なんで白夜団は気付かなかったんだろう」
「全国的に処理が追いついてないのかもな
椿、足元気を付けて」
「うん」
暗い洞窟は続いていく、
この中での戦闘は不利になるが……飛び出してくれば
その場で討たなければ。
「呪怨の結界を張っていく!
炎で照らしてくれないか」
「了解」
ビシビシと刺のある結界を洞窟内に
張り巡らす
妖魔もたまらず出てくる筈だ。
しかし歩き進んでも
妖魔は出てこない……。
バラバラと骨が散らばっている。
「骨か……人間ではないな」
「犬も行方不明がいるって……」
「あぁ、それっぽいな」
「わかるの?」
「魂のかけらが見える。まだ浄化できそうだから、後で供養してやろう」
ぐちゃぐちゃになった網や木片もそこらにあるが
この場所にも妖魔はいない。
「なんか変……」
「うん……風も吹いている。ということは」
「出口があるのか」
2人が走り出すと
やはりまた海に繋がった。
「逃げられた?」
「気配を追う!椿は戻れ」
「えっ海に行くの?」
「うん、行くよ」
「私も行くよ!」
「でも、危険かもしれない」
「守ってなんて言わないから、戦う時は一緒だよ!親友でしょ!!」
拳を出される。
「……わかった」
コツンと返す。
麗音愛は呪怨で羽をまとうと
椿を脇に抱え、海に飛び込んだ。
2人で少し顔を出しながら泳がずとも
進んでいく。
「息できてる?」
「うん。わ、これ、すごい
呪怨ってチート……」
「海っていう場所もあって……
力が……流れてくる……」
「大丈夫??」
「早めに終わらせたい」
結果的に椿が来てくれて
良かったと思う。
沢山の冷たい呪いや無念の怨念が流れ込んできて
正気を失いそうになる。
今はこの椿の温もりが
まだ人としての心を繋ぎ留めてくれる気がした。
「麗音愛!! 私頑張るから」
「あぁ……どこだ……」
「あ! 2時の方向! あれ! みんなだ!」
引っ張られるバナナボートに乗り
笑う友達が見える。
その後ろを喰らい付こうと人魚のような妖魔が二匹
海の中から襲い掛かろうとしていた!!
「行くぞっ!! 潜る!! 捕まってろ!」
「はい!」
一気にスピードをあげ、妖魔に晒首千ノ刀を突き刺す。
しかし、妖魔も泳ぎに長け、素早く二匹ともすり抜けていく。
呪怨を網状に巡らせ、とりあえず
一匹はバナナボートからの距離は離した。
が、一匹はまだバナナボートを追いかける。
「椿?!」
麗音愛からわざと離れた
椿が海の中で
炎を発生させる。
「燃えろ!!」
水の中で
爆発したような炎が妖魔の行手を阻み、
先の一匹が
椿に襲い掛かろうと牙を向くが
それを見逃すはずもなく
麗音愛が切り捨てた。
海に広がる汚い血。
濁る海中のなか、呼吸のため水面に戻る。
「少しだけ待ってろ!」
そう言うとすぐに海中に戻る麗音愛。
濁って見えない海中だが、妖魔の気配を感じる。
まだ逃げずにこちらの周りをまわって泳いでいる……。
人を殺しているな……。
人を殺した奴を自分が見逃すわけはない。
叫びが聴こえる。
その憎しみ、恨み、哀しみが染み込んでいく。
亡者の痛みが自分を導く。
「そこだ!!」
ギッと見据え、晒首千ノ刀を呪怨と共に振り下ろす。
海中でも斬撃の波動は衰えず妖魔は、その場で砕けた。
砕けた妖魔にも呪怨が無数の棘で突き刺し続ける。
亡者の叫びは憎しみは、妖魔を粉々にしていった……。
すぐに椿を抱えに海面に戻る。
「麗音愛」
「終わったよ」
「やった!!」
呪怨を伸ばして、椿の手をとって
抱き寄せた。
冷え切った身体と心に椿と太陽の温かさがじんわり染みる。
「酸素がなくてもお構いなし
椿の炎もチートだな」
「うん!!
みんなを驚かせちゃったかな?」
「大丈夫、波が荒れたけど
気付いてないで戻っていくよ
俺らも戻ろう、怪我はない?」
「うん!!大丈夫……だよね」
椿が自分の肩を見る。
麗音愛も抱き寄せているまま見るが
そういえば、水着だった! と思い出す。
ぎゅうぅと椿の体が触れて心臓が鳴る。
「飛ばすから背中の方に回って!」
「う、うん! わかった!」
椿がおんぶで、ぎゅーっと抱きついてくる。
は、早く戻らねばと急いだが、波で跳ねると
「きゃっ! すごい!!」
と椿が声を上げた。
「あっごめんね!!……そんな場合じゃないのに」
「もう終わったんだし、いいよ!!」
さっきまでは、死霊たちに引きずられそうだったのに
椿の笑い声を聞いたら、
なんだかいつもの自分に戻れて、調子に乗って帰るまで
何度か水面を飛んであげた。
「きゃはっ!! あはは! きゃー!」
「よっと!!」
最後は抱きかかえてスピンして
また元の洞窟に戻る。
「楽しかった!! あはは」
「俺も」
そっと、椿を降ろす。
洞窟内も随分と妖魔によって
汚されてしまっている。
「椿、頼める?」
「はい」
炎に浄化の力を乗せた
青い炎が場を清めていく。
「魂も
清らかに昇っていった。良かった……。
さすがだね、ありがとう」
「麗音愛こそ、さすがだったね」
ハイタッチする2人。
「ふふっ」
「戻ろうか、ジュースでも飲もう」
「うん!」
遠目から、みんなが見える。
バナナボート第2回メンバーも終わっていて
椿を探しているようだった。
「あー! 2人ともどこ行ってたのー?」
それを見て走って戻る2人。
「あ、あー、あっちの方
魚がいてね! ごめんなさい」
「そうなんだ
玲央くんと2人で?」
「うん、泳いで見てたの」
「バナナボートめっちゃ楽しかったよ〜
椿ちゃんと乗りたかったよぉ
すげ! 揺れてさ」
ずっと椿を気に入っている1人がまた何気に、椿の肩に手を添えた。
あはは、ごめんなさいと、椿はみーちゃんのところへ行く。
「急にすごい波が来て
おじさんもちょっと焦ってたよね〜」
「椿、もうダメだよ〜ちょっと心配したよ」
「ごめんね急にいなくなっちゃって、、
あ、あの! 麗音愛がさ
一人で特訓してたからズルイと思って!」
「はっ!?
あ、そうそう、特訓してるとこ
見つかってさ〜あはははは」
海で1人で特訓とかなんだよ、と思いながらも合わせる。
「サラくん
意外に体育会系なんだね
バスケ部ちょっと見学きてくれよ」
「あぁ……ありがとう、今度行くよ」
「楽しかったねー!そ ろそろ帰らなきゃ」
「玲央くん……」
詩織が玲央に話しかける。
「あ、詩織ちゃん
ごめんね」
「ううん! 私こそなんか誘っちゃってごめんね。
全然! なんで誘ったとか考えなくていいからじゃ!」
そう言うとさっさととみんなのところへ行く詩織。
一体なんだったのか? 女性の心はわからない。
帰りの電車では
今日1日の海で仲良くなって
いちゃいちゃしだす男女もいるなか
ウトウトした椿が麗音愛の肩に寄り掛かる。
それに特に反応せず
麗音愛は今日の報告を剣一にメールでしていた。
「サラキン
あいつ全然動じてない」
「彼氏? とか思ってたけど
海での見てたら
ありゃ
男女の仲ではないな」
「煩悩ねぇな……坊さんかな」
とバスケ部面々の話は
仏のサラキンとあだ名を付けた。
だけど
麗音愛も眠気を抑えながら
今日の海の出来事を思い出していた。
椿とは
男同士みたいで気楽な親友だけど
今日のあの時……。
「また一緒に海……か……」
ドキドキしてしまったけど
きっと今日みたいに、ただ楽しく泳いでワイワイするんだろうな。
自分は相変わらずブレているけど、グループに送ってもらった
2人で海ではしゃぐ写真。
それを眺めながら帰路に就いた。




