初めての海~麗音愛と麗音愛が気になる詩織~
遅れてきた麗音愛と椿だが、みんなが椿をワイワイと迎え
真ん中の席に椿を誘う。
麗音愛も気にせず沢山食べて楽しんでおいで、と背中を押して自分は遠目の端っこに座った。
椿は、少し戸惑ったが
周りのみんなが椿を喜んで囲むので、椿も笑ってその場に馴染むよう努力した。
「焼きそば美味しいです!」
「いい食べっぷりだねぇ! お嬢ちゃん
ほら、ラーメンも! お待たせー!」
「ありがとうございます! カレーも追加していいですか!?」
「かしこまりー!! おじちゃんご馳走しますっっ!!」
「あはははは! おじさん、椿にメロメロすぎー!」
「ねぇねぇバナナボート乗るよね! おじさんやってるんだよ~~」
「おーいいねぇ!!」
みんなが楽しそうに笑う。
その笑い声が遠い場所に麗音愛は座っていたが
いつの間にか麗音愛の横には椿の友達、詩織が座っていた。
「ねぇ玲央くん
すごい泳げるんだね」
「いや、遊びでだけだよ」
焼きそばを食べ終えて、口を拭き、微笑む麗音愛。
「彼女できた?」
詩織はポテトを摘まんでいる。
それだけで足りるのかな? と思うが、特に聞きはしない。
「そんな暇もなくて……あ、いや
暇があってもいないだろうけど、あはは」
「そうなのーー?テスト7位すごかったね、おめでとう」
「ありがとう」
「今度教えてほしいな」
長めのボブカットをまとめて
たらした前髪を、いじりながら詩織が言う。
「じゃあ今度みんなで勉強しようか夏休み」
「みんなで……かぁ」
「?」
ちゅーっとジュースを、きちんと口紅が塗られた唇で吸う詩織。
「つばちんの水着残念だったよね?
私一緒に買ったんだよ」
「そうだったんだね
俺がいうのも変だけど
せっかく選んでもらったのにごめん」
「ううんー! つばちんらしいよ
私の趣味押し付けちゃったかなって
ちょっと気になっちゃって」
「そんな、、大丈夫だよ
はっきり言える奴だし
その時は納得して買ったと思う」
「それなら良かった……
ねぇ玲央くん、私の水着似合ってる?」
似合ってる? と聞かれても
パーカーを羽織っていて
見えるのは胸の谷間
カーキの水着が少し見える。
それだけでも高校生には見えない
大人っぽさが漂う。
見た途端に、ぎゅうっと詩織が胸を寄せた。
「えっあ、うん、うん似合ってると思う」
「えー本当? 嬉しいーっ
ねぇ? 午後からさ、ちょっと2人で抜けない?」
「抜けるって?」
「別に、ずっと、つばちんと一緒にいなくても
いいんでしょ?」
「それは……うん」
チラッと椿を見ると
笑いながらご飯を食べて、午後の予定を立てているようだ。
あそこに入り込むのも無粋な気がした。
「どっか行きたいとこあるの?」
「あっちにね
眺めがいい岩があるって聞いたの
そこ行きた〜い」
「うん、いいよ」
椿の友人を無下にはできない、と麗音愛は頷いた。
実際、女友達なんて美子しかいない麗音愛は女性の扱いなんて
とんでもないことでなければ、言うことを聞く、としかわからない。
それを見ていたみーちゃん。
「詩織が玲央くんに話しかけてるよ〜なんか
いい雰囲気……?」
椿に耳打ちする。
「え?なに?」
「あれあれ」
仲良く2人で話をしている姿が目に入る。
「椿ちゃーん
午後からは俺らと遊ぼうよ!
バナナボート乗ろうね!?」
「え、あ……うん」
「よっしゃ! 俺椿ちゃんの後ろーー!」
バスケ部員の話は、耳に入らず適当に返事をしてしまった。
麗音愛はいつもの優しい笑顔を詩織に向けている。
「詩織、玲央くんの事気になるのかな?」
「え……」
「玲央くん良い人だもんね
優しいし
いいよねーあんな従兄弟いたら
いつも頼っちゃう気持ちわかるよ!」
「うん……」
急にお腹がいっぱいになってしまったけど
せっかくのカレーは残さず食べた。
でもまたズキズキ発作。
舞意杖と一緒に胸をさする。
昼食後、それぞれがあくびをしたり伸びをしながら海の家へ出て
これからの予定を話す。
「椿はバナナボート行くんだよね?
詩織ちゃん
なんか岩の方見に行きたいんだってさ」
「へぇ……」
「綺麗だったら椿もバナナボート乗った後に行こう」
「うん……」
にっこりと笑う麗音愛。
麗音愛に、詩織から好かれている自覚はないらしい。
椿は、ぎゅっと舞意杖を無意識に掴んでしまう。
麗音愛は麗音愛で、椿の交友関係を円滑にしなければという思いがある。
自分のせいで、ヒビでも入ってしまったら悔やんでも悔やみきれない。
「椿ちゃーん
お腹いっぱい食べたから少し寝転んで休もう!」
背の高いバスケ部員が
椿の肩を掴む。
「サラキンいってら!」
「あ……」
椿は戸惑いながらも、そのまま麗音愛と一緒にいても邪魔になると思い
バスケ部の手をさりげなく解いて、みんなの元へ向かう。
「じゃあね麗音愛」
「あ、あぁ」
お互いがお互いを見守るようにしつつ、離れていく。
「玲央くん、こっち~」
促されるまま、詩織と一緒に砂浜を歩く。
人気のない海だと聞いてたとおり
人もまばらだ。
「海いいね〜」
「そうだね」
そういえば、この子は
椿の転校初日の日に取り憑かれていた子だよな
と思い出す。
干渉されやすいけど少し力が強いタイプかな……。
だから、
自分にも興味が……。
詩織は急にパーカーを脱いで腰に巻く。
「どーう?」
両手を広げてくるくるっと回る。
普通のビキニの上下に一本紐が追加されるだけで
何故こんなにもエロく見えるのか。
可愛らしい詩織の顔と、やけにセクシーな水着と身体の
アンバランスさ。
「玲央くん……どう?」
青少年らしく麗音愛もつい、見つめてしまう。
「うん、似合ってる」
でも、それは写真を眺めるのと
同じような
自分のいる世界から遠い遠い
遠い幻の楽しい日常生活。
綺麗だね、素敵だね、楽しそうだね、
平和で羨ましいな
という世界をその先に見てしまった。
「玲央くんって
寂しそうな顔するね」
「え?」
「つばちん、いないから?」
「寂しそうかな? 俺」
離れた距離が縮んでいく。
「うん……
もっとくっ付いたら
寂しくなくなる?」
「えっ?」
ぎゅっと腕を組まれ
詩織の胸がぎゅっと当たりそうになるが、
それより前に麗音愛にゾクッと妖魔の気配が流れ込む。
「!」
詩織もゾワっと肌の泡立ちを感じて
パッと腕から離れた。
「な! なんか今寒気が……!」
「詩織ちゃん、俺用事ができた。
ごめん!
みんなのところ戻って!」
「え?」
「ごめん!!」
ダッと麗音愛は走り出す。
その瞬間
麗音愛の興味のなくなる呪いにあてられ
パン! と脳味噌を揺さぶられた気がする詩織。
「あれ? 私なにやってんだろ……
玲央くんなんかに……戻ろー」
「今……何か」
「椿ちゃんバナナボート行くよ?」
椿も気配に気付き
探ろうと沈黙していた。
麗音愛達が行った方向か?
「予約時間だよー!」
テクテクと詩織が歩いて、また合流する。
「あれ? 詩織どしたん?1人?」
「玲央くんなんか用事って」
「えー! まじ?」
「うん、でも別にいーの。みんなバナナボート乗るのぉ?いいな」
まるで麗音愛の事など忘れたかのように、みんなを羨ましがる詩織に
椿が駆け寄る。
「詩織ちゃん! 麗音愛どっちいったの!?」
「岩の方走って行ったよ~」
「私の代わりにバナナボート乗って!」
椿は走り出した。




