初めての海~海と太陽と椿の水着~
みんなが砂浜に来る頃に椿と麗音愛は
サンダルに履き替え合流し
みーちゃんの叔父の海の家にやってきた。
「じゃ着替えてくるねー」
女子達が更衣室へ消えていく。
「ヒューいよいよだな」
「楽しみー」
バスケ部男子達も色めき立ち
サッと着替えを終える。
少しソワソワする麗音愛
この前の椿の話を思い出してしまうからだろうか。
他の男子達も
ワイワイと女子たちの水着話で盛り上がっていた。
「見てイケメン達」
「本当だー若い可愛いー」
バスケ部男子たちは笑顔で手を振ったり
「おねーさんかわいー」と返事をしたりと陽気だ。
麗音愛もチラッとすれ違った水着美人に
にっこり微笑まれてしまう。
ドキッとするより
呪いを見通す能力のある人なのかと思ってしまう自分は
すっかり
普通の男子高校生ではなく、晒首千ノ刀の持ち主
白夜団の一員だ。
「お待たせー」
椿のお友達が続々と
ビキニ姿で出てくる。
「おー! 可愛いーーー!!」
「うお、いいね」
男子が歓声をあげる。
椿のお友達は美人揃い
スラリとして胸もあって
それぞれ自分の似合うビキニを着こなしている。
ワイワイと褒め合い、褒められ
男女でキャッキャが始まる。
入ることもせず、棒立ちの麗音愛。
「椿は……」
少し遅れて
ラッシュガードを着て出てきた。
「椿ちゃーん!! 待ってたよーって
脱いでよーそれー」
男子の1人が突っ込む。
「もー椿ったらさーひどいんだよ」
「せっかく選んでもらったのに
ごめんね!!」
「私はいいんだよ~つばちん」
「椿ちゃん競泳用着てきたってさー」
「えっ」
椿が麗音愛をチラッと見て
えへへと舌を出した。
「だってーあれ着てたら
本気で泳げないもん!
今日は麗音愛と海で競争するんだから!」
そう言って、麗音愛の元にやってきた。
「ね!」
「あ、そうだな!!」
「さー! 泳ぐぞー!! 麗音愛!!」
「おう」
2人でガッツポーズ。
「たはは、君ら小学生かよー」
「でも、椿らしいね。泳ぐの楽しみにしてたんだからいーじゃん」
みんなも行こう! と言う椿に
椿フレンズが首を横に振る。
「私達はそんな泳がないよ~化粧とか落ちちゃうし」
「そうなの?」
「椿と玲央くん、水中メガネも持ってきたの? たっくさん玲央くんと泳いでおいでよ」
「うん!! 行くよー! 麗音愛!!」
「おう!! 椿は泳げるの?」
「もちろん、山に湖があってそこで泳いでたから負けないよ!!」
みんなが水の掛け合いや
ビーチバレーをしたり、砂浜でくっついてお喋りをしたり
してる間
準備運動をして水中メガネをし
いざ海へ!
「わっ! しょっぱ!! 冷たいっ」
「あはは、目も染みるから気をつけて」
「波が! あは! 面白い、見て! 麗音愛! 流されるっ!」
「本当に流されないようにっ!! でかいの来るぞ!!」
「きゃー!! あはは!!」
大はしゃぎで波で遊ぶ椿。頭まですぐ水をかぶって、そのまま泳ぎだす。
波があるのにスイスイ泳ぐ椿の後を、麗音愛も追った。
「椿ちゃんすげーな」
「サラキンも結構あいつ体力あんじゃん?」
「なんで図書部なんかやってんだよ、もったいねーな」
「意外に筋肉あるよね。背も高いよね?」
「バスケ部勧誘してみるかぁ」
「めっちゃ泳ぐね2人」
と、みんなは2人の行動がつい気になってしまう。
しばらく泳いでから
「ちょっと待ってーこれ脱ぐ
泳ぎにくいー」
と海から出て
ラッシュガードを脱ぎ捨てる椿。
競泳用の水着だが
逆にフリルやリボンもなく
引き締まった身体と
背は低くてもすらりとした長い手足が
よく映える。
「これ、目立つかな?」
首元から水着のなかに舞意杖を入れていた椿。
「い、痛くないの?」
「痛くはないの、硬くもないし……力のせいだと思うけど」
胸と胸の間にある舞意杖だが、そこを見ると必然的に……!
バッと目を逸らす。
「あっ」
と椿も気付いて赤面する。
「あがったらあれ着なよ。泳いでたら誰もわかんないし」
「うん」
「行こう」
「うん!!」
飛び跳ねて、靭やかな身体でまた海に入っていく。
「麗音愛ーー!! こっちー!」
輝く太陽の下、水着で笑う椿。
見惚れてしまった。
自分に喝をいれるように
麗音愛は頬を叩き椿を追いかけた。
「あれは、あれでいいな……」
「競泳水着に目覚めそう」
と遠くから眺めていたバスケ部員は口々に言った。
しばらく遠泳をして2人で息切れして
砂浜に寝転がる。
「あああああああ、さすがに疲れた」
「はぁ、はぁ、もうダメ……」
遠くから、ゆーちゃんの声がする。
「椿、玲央くん~そろそろおひるにしよー!」
「はーい! もうちょっと待って!! う、動けないのー!
先に食べててねごめんねー」
「オッケー!!!」
ゆーちゃんは手を振ると海の家へ消えていった。
「飛ばしすぎたな……ぜぇはぁ」
さすがの麗音愛と椿も、息を整えるのに時間がかかる。
「うん……」
砂浜に寝っ転がって、はぁーっと呼吸をただ繰り返していた。
「この水着、変じゃない?」
呟くように、椿が言った。
「……似合ってる……」
「あ、ありがと」
競泳水着を少しからかわれるかと思っていた椿は
頬を染めて微笑む。
「友達と買ったやつは?返したの?」
「ううん……あるよ
今日は着なかったけど……」
泳ぎ過ぎの心臓がまだバクバクと動いている。
使いすぎた全身の筋肉が
ふーっと緩んで、眠くなる麗音愛。
「今日は着なかったけど……」
「うん……」
会話が途切れた少しの間に、波の音が聴こえる。
カモメの鳴き声……
あぁ……まどろみ……
「麗音愛と2人で海に来た時に着たい」
「……うん……」
「ホント?」
「うん……」
言葉だけ疲れた耳に入ってきて
なんとなく、うんうんと頷いた。
自分と海に来た時に、今日着なかった水着を着るって……うんうん
と頭の中で何度か繰り返す。
椿の声がこだまする。
麗音愛と2人で海来た時に着たい
と脳に響いて認識される。
ん? 2人で海?
一気に飛ぶ眠気。
ハッ!! と
横にいる椿の顔を見ると、じっと麗音愛を見ていた。
2人の瞳が合う。
海から上がったばかりなのに、紅潮した頬と恥ずかしそうな顔。
「あ……」
ドキドキと心臓が加速する。
「じ、じゃあ、また海来ようね」
「あ、あぁ」
ドキドキと心臓が跳ね上がる。
椿の髪の毛から、雫が首を伝って胸元の水着に吸い込まれていくのが見えた。
「絶対だよ……2人……で」
「わかった……約束する……」
「うん!」
今度はとても眩しい笑顔で微笑む椿
椿はそのまま、ころんと逆側を向いた。
まだバクバク心臓が動いている。
でも、違う。泳いだからじゃなくて
なんだ、なんだ。
それは椿も同じで
2人で心臓がいつまでも落ち着かない。
ドキドキドキドキ
なんだ、なにが起きた。
太陽に照らされはぁっと熱い息を2人吐く。
ドキドキする。
遊びに行く約束なんて、いつもの事なのに
ドキドキする。
「ほらー! 椿ー玲央くんー! 早くー!」
「やばい、行くぞ! 起きれる?」
「も、もちろん」
麗音愛が差し出した手を、握って立ち上がり
ラッシュガードを羽織った。
「えへへ、お腹空いたーーー!!」
いつものように元気に笑う椿。
いつもの親友。
そして、またいつもの2人に戻る。
「焼きそば食べようーっと」
「うん、焼きそば俺も食べよ」
「あとラーメンとカレー」
「腹出るよ」
「チョップ!」
「当たるか!」
みんなが手を振る海の家まで2人で競争し走っていく。
楽しくてたまらない。




